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狐さんの修行旅!~幼女誘拐事件~

 クラン『ノラ』大講堂。


 今日も今日とてプレイヤー達が更なる高みを目指すべく、武器をふるって自己の修練をしておりました。


「うおぉらぁ! 死ねぇ!」


「うるせぇ! お前が死ね!」


 ……一見殺し合いをしている様に見えますが、その武器は特殊な能力によって加工されており、攻撃した相手を傷付ける事が無いという特別品です。


 どれだけ見た目が悪くても、修行しているだけなのです。どう見ても喧嘩しているだけですが、気にしてはいけません。


 そんなわけで、私も適当に声をかけて、修行に励んでいたのですが……。




 全っ然、スキルレベルが上がらない……!




 何故……!? ホワイ……! この間までガンガン上がっていたというのに……! 無駄にプレイヤーキャラのレベルだけ上がっていく……! 大して強くなっていない……!


 私はウィンドウとにらめっこしながら、頭を抱えました。


 いえ、原因はわかっているんですよ。


 このゲームの仕様のせいです。


 スキルはプレイヤーが何か行動をとると経験値が溜まり、一定量溜まるとレベルアップします。中には歩いているだけでレベルが上がる物もある位です。


 つまり、同じ行動をを繰り返していると、同じスキルのレベルに経験値が溜まり続けるということです。


 そうするとどうなるのか。


 高くなりすぎたスキルの成長はかなり遅くなり、最初は数分で上がったレベルも、数日かけて一つ上がるくらいになってしまいます。


 スキル一つ一つには成長率というステータスがあります。レベルアップの度にそれが下がることにより、成長が遅くなるというシステムです。


 ありがたいことに、私はそこまで成長が遅くなっていませんが……早急に手を打たなければなりません。


 成長率を回復する一番簡単な方法はログアウトすることです。1日プレイを我慢すれば、それなりにレベルが上がるようになります。


 次点で回復アイテムを使うことなのですが……。


 この成長率を回復させるためのアイテムが『疲労回復のポーション』というものなのですが、全くと言って良いほどに市場に出ないし、作ることも困難な代物です。


 私もそれを作る為にスキル『錬金術』を鍛えたりしていますが、レベルアップで覚えるレシピは毒薬や硫酸等、物騒なものばかり……まだ道は長そうです。


 う~ん……。別にレベルアップしていないわけではないんですよねぇ。凄まじく効率が悪いってだけで。


 仕方ないので地道にやっていきますか。尻尾も使って戦えば、その攻撃の分も経験値が入って他の人よりも効率はいいわけですし。……うん、そうですね。


 さぁて、そう決まったら路地裏にいきましょう。


 数名のウジ虫さんを捕獲し、尻尾の中で痛め付けるのです。回復のポーションも用意しておけば、延々と攻撃を与える事ができます。


 さぁ待っていてください、私のホームグラウンド。


 何時ものように、ウジ虫さんの血で染め上げてあげますよぉ……。


 私がそう思って大講堂を後にしようとすると、3名の黒子さんが現れて私を取り囲みました。前に私を捕まえようとした黒子さんと同じ面子です。


 ……えぇ~、なんですか、もぅ~。邪魔なんですけど~。


「急ですまないが、私達と一緒に来てもらう。先に言っておくが、お前に断る権利は無い」


 私の目の前に立った黒子さんが、感情の感じられない声でそう言いました。……どうしました? まだ悪いことなんて何もしていませんよ? ただ修行しに出掛けようと思っただけです。


 それを邪魔しようなんて……もしかして貴方達が遊んでくれるのですか?


 私はニコリと笑顔を浮かべて『妖狐の黒籠手』を発動させました。


 周囲に金属の爪が展開し、いつでも射出できると言いたいかのように、ガギガギと音が鳴っています。


 その様子を確認した彼等は舌打ちをしながら後方へと後ずさりました。


「噂通り……異常な成長スピードだ。長や参謀長に気に入られたせいで、誰も何も言わないが……私は違う」


 目の前の黒子さんが苦無を構えました。どうやら遊んでくれるそうです。


「お前は危険だ。この場で殺し自分の立場というものを教えてやる」


 いぃですねぇ……! そう来なくっちゃ!


 私達二人はノリノリで戦おうとしました。


 しかし……。


「……何をするんだ?」


 他の二人は目の前の彼を取り押さえてしまいました。両側から二人掛かりで拘束しています。


「ごめんなさいねぇ。この人、前貴方に殺されたの根に持ってるみたいなのよぅ。許してあげてねぇ?」


「ダメですよ。長から構って貰えないからって面倒なことしないでください。……あ、悪いんだけどさ、出掛ける前にロビーに顔出してよ。お客さんが来てるから」


 お客さん? 私にですか?


 これは意外です。

 心当たりなんて怒られる事しかありませんでしたから、まさか普通の用事だとは思いませんでした。


 これは失礼しました……。


 私は能力を解除し大爪を手袋に戻します。


「ば……バカな。対話ができる……だと!?」


 拘束された黒子さんが驚愕しながら戯言を抜かしました。……私の事をなんだと思ってるんですか。ぶっ殺しますよ。


「ホントにごめんなさいねぇ~。後でこっちが責任持って殺しておくから……」


「一部を除いてさほど評判悪くないから、気を落とさないでね? ……アンタは後で説教だ。問題を起こそうとすんなよ」


 黒子さん達は不届き者を拘束しながら去って行きました。どうやら私にお客さんが来たことを伝えに来ただけの様です。


 ……まったく、私は常識人ですよ? 失礼な方でしたね。


 おっと、お客さんが来てるということは、今待っているって事じゃないですか。

 退屈させるのも悪いので、早くいかなければ。


 私はそう考え、早足気味にロビーへと向かうのでした……。



 ところで、私を訪ねてくるって……いったい誰なんですかね?



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「よぉ、狐。あん時は迷惑かけたな」


 ね、ネカマロリコン……。


 ロビーに到着した私を待っていたのは、この間倒した邪神の宿主……『紳士隊』リーダー、ワカバさんでした。


 可愛らしいロリっ子の姿で私に手を振っています。


 私は逃げ出しました。


 ……な、なんであんな闇のロリコンが私を訪ねて来るのですか!? おかしいでしょ!? というか、あの黒子さん達、関わりたく無くて姿を隠しましたね!?


 知っていたら来なかったのに! 私だって変態と仲良くしたかないんですよ! こぉーん!


「おぉ、獣の反応だな……『紅糸』、発動しろ」


 ぎょわ。


 いきなり全身が固まってしまった様に硬直し、口から変な声が出ました。


 私の身体は、まるで映像を一時停止したかの様にその場で固定されています。……こ、これはまさか、ワカバさんの『プレゼント』では?


「へぇ……覚えていてくれたのか。嬉しいじゃんか。今日はお前と遊びに来たんだ……。じゃ、先ずはロリになりにいこうか……っと」


 驚いている私の後ろから、ワカバさんの楽しそうな声が聞こえました。すると、彼は私の身体をそのまま担ぎ上げます。おや、見た目によらずパワータイプ……ではなくて……。



 だ、誰か助けてぇ~!!


 このままじゃロリに……狐耳幼女に改造されてしまいますぅ~!! 誰かぁ~!



 私はそう叫んで助けを求めますが、ロビーにいたクランメンバーは揃って顔を背けました。……はい! 顔覚えましたからね! 貴方と貴方と貴方! 首洗って待ってなさいな! びょおおおおおおおお!!


「けけっ、威勢がいいな。……じゃあな、『ノラ』のメンバーさん達よ。ちょっと狐のこと借りてくわ」


 そう言うと、ワカバさんは私を抱えたままクランの外に行ってしまいました。白昼堂々の誘拐に周りの方々は何も言えません。


 ああ……。これからどこに連れ去られてしまうのでしょうか……。というか、マジで幼女にされるんです?


 私は流れ行く街の風景を見ながら、これから襲いかかる理不尽に絶望し、力無く鳴くのでした……。こゃ~ん……。



・幼女誘拐事件

 幼女がプレイヤーを誘拐する事案。主にネカマに騙されたプレイヤーが被害者。容姿で人気の無いところに誘い込み、待ち伏せていた仲間(ようじょ)と協力し誘拐、金品を奪った後サンドバッグにする。帰って来たプレイヤーは性癖が歪むとかなんとか……。

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