お茶会と信仰語り
ビギニスートの邪神騒動から数日後。
私はクラン拠点に戻っていました。
は~い、クッキーが焼き上がりましたよ~。どうぞ、お食べくださいな~。
「ポロラが優しい……こんなに嬉しいことはない……」
「不断の努力が報われたって奴だな。俺達は幸せ者だぜ!」
「たまに来る優しさ……良い……」
「俺、信じてたよ。ポロラは優しい子だってさ。俺はお兄ちゃんだからな」
「これが妹のいる生活……夢みてぇだ……グスっ……」
「今日はありがとう、ポロラねぇちゃん。まさか、ねぇちゃんの方から呼んでくれるとは思わなかったよ」
今日は調理室に自称お兄ちゃん'sと黒子くんを呼んで、お茶会を開いていました。クラン会議の時は色々と大変でしたからね。今日は彼等にもいい思いをしてもらいましょう。
今日はお菓子を食べてゆっくりしてくださいな。あ、おかわりも良いですよ?
ニコリ。
私は満点の笑顔を見せました。
その瞬間に、目の前の彼等の顔からは笑顔が消えてしまいます。
「ちょ、ちょっとタンマ。……全員集合」
何かを察したのか、自称お兄ちゃん'sと黒子くんは部屋の隅に行って作戦会議を始めます。……まぁ全部聞こえているんですけど。
2、3分位あーでもない、こーでもないと話し合った結果、彼等は私の目の前に整列しました。
そして、その場に全員正座します。……もう、そんな所に座ったらお菓子を食べられませんよ? さ、椅子に座ってくださいな。
「な、なぁ妹ちゃん。お兄ちゃん達何かしたっけ? 最近は大人しくしてたつもりなんd……」
座りなさい。
「……はい」
私の言葉を素直に聞き入れ、彼等は元の席に戻りました。
……さて、皆さん察しが良いので言ってしまいますが、今日集まってもらったのは理由があります。
聞きたいことがあるのですが……よろしいですね?
「その聞き方、拒否権ないじゃないか。つまり逃げても無駄みたいだな……クッキーは食べてもいいかい?」
もちろんです。そのために準備したのですから。
「なんだ、お菓子食っていいなら別にいいか。食べちゃ駄目なレベルで嫌われたんじゃないのなら、お兄ちゃん大丈夫……むぐむぐ」
別に嫌いになんてなりませんよー?
お茶も用意してましから遠慮無くどうぞ。
「お仕置きは……無しか。まぁ、こうやって呼んでくれただけでも嬉しいな」
ふふふ、そこまでいうのなら後で踏んであげましょう。ヒィヒィ言わせてあげます。
とまぁ、一時は張り付めた空気になりましたが、私達はお茶会を楽しむ流れになったのです。皆さんお菓子を摘まみながら楽しそうに談笑しています。
……2名を除き。
「遂に断罪の時がやって来たか……」
「あぁ……、忘れてると思ったのに……」
自称お兄ちゃんの一人と、黒子くんですね。
……ホントに察しが良いのですねぇ。私が読んだ理由を知っているとは。
じゃあ、説明してもらってもいいですか?
盗撮疑惑の事なんですけど……?
私がそう質問すると、皆さんのお菓子を食べる手が止まりました。そして、息を合わせた様に顔をさっと背けます。
…………はい? なんですか? その反応。
もしかして……全員やってたんですか!?
驚愕の事実発覚に、私は思わず叫んでしまいました。
たまたま黒子くんの盗撮容疑の話を知って、いつかは聞かなければならないと思っていました。そんな間違えた道を進ませるわけにはいけません。
もちろん、自称お兄ちゃん'sもです。
しっかりと、その腐った性癖を強制してあげなければ……。今日は厳しめにいきますね……。
「ご、誤解だ、ポロラ。俺達は私利私欲の為に写真やスクリーンショットを撮っていた訳じゃないんだ」
「そうなんだよ! 女神様に高評価を貰うために仕方なく……!」
うそおっしゃい!
もう完全に犯罪者じゃないですかー! 騙されるとこでしたよ! どこの世界に盗撮写真を貰って喜ぶ女神様がいるんですか! 言ってみなさい!
まぁ、言えるわけが無いでしょうけどね! 言い訳にしても、もっとまともな事を言いなさ……。
「ん? パスファ様だが?」
「パスファ様なんだよなぁ……」
「パスファ信者からの依頼で結構あるよ? 盗撮の仕事」
「被写体が幼いほど喜ぶ変態だからなぁ、パスファ様」
「名誉リリア教徒だしね。パスファ様」
「一番人気のある女神様だよ? ポロラねぇちゃん知らなかった?」
……あれぇ? 本当にいるんです?
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話を聞いたところ、盗撮というのはあくまでも許可無くプレイヤーやNPCの写真をとる事の話だそうで、別に変な物を撮影していた訳では無いのだとか。……いや、充分アウトですけどね。
そして、盗撮をしていた理由については……。
「俺と弟くんはパスファ信者なんだ。だから捧げ物として写真を用意しなきゃいけないんだが……」
「何でか可愛い女の子の写真を送ると評価が高いみたいで……、それで勝手にスクリーンショットを使って撮っていたんだ……」
女神の一人、『自由のパスファ』。
見た目は大きな妖精さんで、旅人の様な服と腰に付けたレイピアが印象的な女神様です。明るい性格と、とある部分がとても大きいということで、男性プレイヤーに大人気なんですよね。
確か旅や商業を司る女神様だったはずです。
二人がパスファ信者という話を聞いて、私はため息をつきました。……なんで男の方というのは大きいのがいいんですかね。幻滅しましたよ。
「うっ……すごい軽蔑の目で見られてる……」
「違うんだ……神技が強力だから俺たちも使いたくて……」
「ポロラ、そういう目をするときは、俺のこともチラッと見てくれると嬉しいな」
お黙りなさい。
私は吐き捨てるように言いました。……しかし、神技の話は気になりますね。
聞いたところによると、女神様を信仰してもらえる神技は、各女神に2つづつ存在しているのだとか。
どれも強力なスキルだそうです。
しかし、私も『リリアの祝福』を使えるようになりましたし、これからは神技の事も考えながら戦わなければならないでしょう。……ちなみに、二人はどんな神技を使いたかったんですか?
「えっと……この前チャイムさんが使った『パスファの密約』を修得したかったんだよ。あの時間止めるやつ」
ああ、あれですか。
なるほど。あのスキルが使えるようになるのなら、盗撮でも何でもやってしまいそうです。時間を止めるとか、絶対に強いですし。
私も使ってみたいなー、とは思う位です。……わかりました。強くなりたいのは仕方ないですもんね。けれど、これからはちゃんと許可を貰って撮影してくださいね?
そう言うと、黒子くんと盗撮さんはコクコクと頷きました。
本当に大丈夫ですかねぇ……。
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そう言えば、皆さんは信仰先は誰ですか? リリア様以外を信仰したこと無いのでどんなのか気になるんですよね。
盗撮の話が終わってからは、私が用意したクッキーを食べながら、ぐだぐだとお話をしていました。
「お、気になる? お兄ちゃんはフェルシー信者だな。こう見えてめっちゃラッキーなんだぜ? 女神様のお陰で」
『天運のフェルシー』。
幸運の女神様です。見た目は猫の獣人に白い天使の様な翼が生えている感じなのですが……。
何故かバニーガールのスーツを着ているんですよね……。
スタイルはハリウッド女優みたいな感じで、身長も高い美人さんなのに、格好や言動がおかしくて、一部のプレイヤーからはアホ女神と呼ばれています。
あと、街の一つを占拠して、自分の王国を築いているとかなんとか……。
「俺はキキョウ信者だ! 戦闘職なら彼女一択だな! 神技の全体攻撃と武器製造が便利だぞ! 戦闘スキルに恩恵もあるしな!」
『無双のキキョウ』。
翼が生えた女騎士の様な姿をしており、凛々しい顔に大きな傷が付いているのが特徴の女神様です。
軍神であり、大剣と散弾銃を使って戦うのだとか。
……そう言えば、チップちゃんがキキョウの名前が付いた武器を使ってましたね。なんなんでしょう? あれ。
「俺はグレーシー信者だよ。妹ちゃんはわかる? グレーシー様」
グレーシー……?
え、そんな女神様居ましたっけ?
私はその名前を聞いて、全くピンと来ませんでした。
「あ、うん。信者の数が一番少ないからね……仕方ないね……。えっと、『魔神のグレーシー』、魔法を司る女神様。銀髪と青肌の魔神でスッゴい美人な方だよ? 見た目は普通だね」
あ、いましたね。
なんか一人だけ普通に神様っぽい感じの女神様が。
あんまり特徴無かったので忘れてましたよ。
「結構本人気にしてるから、覚えてあげてね? ……さて、最後はお前だな、ドMの。ポロラに教えてやれよ」
私達は床に正座したドMさんに目を落としました。貴方の椅子はありません、と言ったら喜んで床に座ってました。強い。
「俺? ……こう見えて、実は農民でな。カルリラ様を信仰している」
『輪廻のカルリラ』。
見た目は可愛らしい村娘の様ですが、司るは輪廻転生……いわゆる、この世界の死神に当たるの存在がこの女神様です。
清楚な雰囲気が売りのキャラなのですが、持っている武器が大鎌で、凄まじい戦闘能力を持っているというギャップが人気だそうで。
また、農業等の生活を司る女神でもあるので、生産職にも人気なんだとか。……なんか、プレイヤーの方の『死神』さんと被ってますね。
もしかして、彼も農民だったのでしょうか?
……と、これで全員ですか。意外とバラけてますね。
それで、この中で神技を使える方はどのくらいいるんですか? 結構頑張らないと取得できないって聞きましたけど……。
私がそう質問すると、黒子くんと盗撮さん以外の方はニヤっと笑って手を上げました。え!? 皆さん使えるんですか!?
「まぁな。最近物騒になって来たからよ、ちょっと鍛えたんだよな」
「この6人で捧げ物を集めていたのだ! それで、残るは二人だったんだが……」
視線を向けられて、黒子くんは深くため息を吐きました。
「あと、もうちょっとだと思うんだけどなぁ。なにかインパクトのある写真があればいける気がするんだけど……」
「手持ちにそんな写真はないからな……。ビギニスートまで行ってリリア様に撮影許可を貰うしかないか?」
……お二人の様子から察するに、相当苦労しているのでしょう。周りに置いてかれたという思いもあるのかもしれません。
強くなりたいという気持ちはよくわかりますし、何か強力してあげたいものですが……そうだ!
私はアイテムボックスからとある写真を取り出して、テーブルの上に置きました。……これ使えませんかね? この間撮らせてもらったんですけど。
「お、スクリーンショットの印刷写真か! どれどれ……!?」
「パスファ様厳しいからなぁ。お眼鏡にかなうか……って、まじ?」
その写真に写っていたのは……兎さんを抱き締めている子猫先輩でした。
真っ白な兎さんと黒髪のドレスを着た少女、なんとなく不思議の国のアリスを思わせる組み合わせに感動して、スクリーンショットを撮らせてもらったんですよー。
どうです? 可愛くないですか?
私はそう言ってはしゃいでましたが、他の方々は信じられないと言いたげな顔で私の顔を見ています。……え、何ですか?
「ポロラ……、お前、この兎何か知らないのか?」
……兎さんですか?
子猫先輩は悪い兎さんだって言ってましたよ? 確か、『浮気者』だとかなんとか……。
「あ、あのさ。落ち着いて聞いてくれよ? この兎はとあるプレイヤーが変化した姿なんだ。『魔王』様が子猫から女の子になる感じのやつ」
「つまりさ……この兎の本当の姿は全くの別物でさ……」
「周りから『死神』ってよばれてるんだよね、この兎……」
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そう言われて、私は固まってしまいました。
あんなにも、にっくい宿敵が。
手負いの状態で。
身動きもできず。
意識もない状態でいたのに。
私は笑顔で写真撮影をしていたと……。
何やってんですか……私は……。
「ちょ!? ポロラねぇちゃん!?」
「あぶねっ!? しっかりしろ!」
私はあまりのショックに気絶してしまったらしく、気がついたら目の前が真っ暗になっていました。視界の端の『気絶中』のアイコンが点滅しております。
ほうって置けば勝手になおるのですが……。
今日はもういいですかね。明日から頑張ることにします。
心が折れてしまった私は、大人しくログアウトしたのでした……。
・スクリーンショット
いわゆるSS。プレイヤー見ている景色をデータとして残すことができ、ウィンドウの機能でゲーム内に印刷することもできる。動画も撮れる。
・信仰
捧げ物をすると頑張りに応じて、女神からスキルやステータスに恩恵を貰うことができる。個々に好きなものが違うので、最適な物を祭壇に捧げなければならない。




