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さぁ、調子に乗っていこう

「俺やタビノスケの戦い方は農場長……ツキトさん仕込みでな、どちらかと言うと少し卑怯な戦法が多いのだ」


 私は会場の片付けをしながらチャイムさんとお話ししていました。鶴橋を振るい、自然消滅しない大きい瓦礫を砕いておりました。……ツキトさんというと、『死神』さんの事ですか?


 最強っていう肩書きの割には、随分と慎重な戦い方をご教授されたんですね。イマイチイメージができないのですけど?


 ゲームを始めたばかりに殺された私としては、圧倒的な力を振るう姿が印象的でした。


 なので、さっきの戦いのように搦め手を使い、自分が有利になるように戦いをする方と言われてもしっくり来ません。


「そうだな。使っている武器も大鎌という目立つものだし、大技を繰り出して周囲を吹き飛ばすような事もしていたが……、そういうのは大抵ブラフだったな。近接、遠距離、魔法にスキル……様々な方法で相手を追い詰めるのが、彼のプレイスタイルだ」


 はぁ……。


 何て言うか、メタゲームが得意な感じですね。壁生成で視線を切ったのもそういう発想からでしょうし。


 魔法での攻撃は必中ではありますが、視界内にいなければ当たらないという欠点があります。ですので、壁を作ってそこに隠れるというのは、相手の攻めかたを制限するという意味でも有用な作戦でしょう。


 そして、その教えを実戦に組み込み、勝利を掴みとったチャイムさんも称賛に値します。流石、『参謀長』と言われているだけの事はありますね。


「ま、メレーナと一騎討ちして唯一勝ったのが彼だからな。その戦術をそのまま真似させてもらったというわけだ」


 って、パクっただけですかーい。


 私は手を止めずにツッコミを入れました。


 最後までかっこつけていればよかったのに。なんで気を抜いてしまうんですかね?


 ……そういえば、『ペットショップ』ではツキトさんがそういう戦術指南をなさっていたんですね。


 そう質問すると、チャイムさんはちらりと私の尻尾に目を向けました。ただいま、3本もっふもふ状態です。……急になんですか、話すときには人の顔を見て話してくださいよ。変態。


「い、いや、尻尾が増えていたのが気になってな。……まぁ、いいか」


 手が止まっていたチャイムさんは作業に戻りながら口を開きます。


「『ペットショップ』でプレイヤーを教育していたのはメレーナだ。皆、彼女には世話になっていた」


 え、メレーナさんが?


 私は意外に思い、チャイムさんに振り向きました。


「ああ。彼女は知識量が凄くてな。ミーさんの次にこのゲームに詳しかったのがメレーナだった。口が悪いし厳しいで『教官』なんて二つ名まで付いたくらいだ」


 へー、そうなんですねぇ~……。


 前に聞いた『裏切り者』っていう二つ名とは違いますけど、それにも何か理由が?


「ん? ああ、それはクランを移って『ペットショップ』に加入したからだな。正式加入するまではスパイとして加入していたんだと」


 あ、ちょっと格好良いかもです。スパイって響きだけで少し憧れますよね。


 私の返答に、チャイムさんは愉快そうに目を細めて笑いました。


「くくくっ、そうだな。……俺が思うにな、メレーナはリーダーには向いていない。誰かの下につくべきだ」


 彼は手を止める事なく続けます。


「周りは優しさを知らない悲しい女とか言っているが……それは誤解だ。真面目過ぎて力の抜きどころを知らないだけだと俺は思っている。だからこそ、やる気のないワカバと組めば調度良いと考えていたんだがなぁ……」


 見事にリーダーの座を奪い取ってましたねぇ。……そう思ってたの本人だけみたいでしたけど。


 メレーナさんが敗れた後、『紳士隊』の数名が我々に襲いかかって来ようとしました。


 彼等はどちらかと言うと武闘派だったらしく、試合の結果に納得出来なかったそうです。もちろん、こちらも立ち向かおうとしたのですが……。


 会場に現れたワカバさんが暴れようとしたプレイヤー全員を拘束、クランの敗北を宣言し、『紳士隊』が保有しているアーティファクトを差し出すことを約束しました。


 彼が現れてからは早かったですね。


 最初に出会った時の姿からは想像できない位テキパキと指示を出し、歯向かう方は能力で行動不能にしておりました。


 暇なら手伝えと言われたので、私達も瓦礫の撤去していた次第であります。


 他の方々も彼の言うことを聞いていたので、実質的なリーダーは変わっていなかったのでしょう。


 そして、ワカバさんは最後に、



「オメェらよ、あんまりメレーナのこと虐めてやるなよ。可哀想だろうが? ……けけっ」



 と、笑顔で言い残し、去って行きました。


 私達はドン引きしてましたよ、ええ。

 まさか最後に爆弾を投下して、メレーナさんのプライドをズタボロに破壊するとは。

 人の心を持っているのか、疑いたくなるくらいでした。


 闇のロリコンは……一味違うのですね……。


「ワカバはなぁ……悪い奴だからなぁ……。一度有利に立ったと思ったら、相手が泣いて許しをこうまで虐めぬくからな。メレーナも悩んでいたのなら相談の一つ位してくれれば良かったんだが……」


 それはプライドが許さないでしょうね。


 でもチャイムさん的には、一方的に勝利できてスカッとしているんじゃないですか? 会議の時には散々言われてましたし。


 今までの鬱憤も溜まっていたでしょうし、再評価されて周りから尊敬の目を向けられた事は気分が良かったに違いありません。


 ……その辺り、どうなんですかね?


 そう質問すると、チャイムさんは手を止めて、そうだなぁ……、と考える仕草をしました。


 そして、納得したように頷ずいて口を開きます。



「別に……なんとも? そもそも、そこまで頭にきてないしな。むしろ、久々に会った友人と戦えて楽しかった位だ」



 ……そうですか。


 ところで、チャイムさん。

 なんか、情報の独占は許されないという事で『怠惰』持ちのプレイヤーが探しているようですよ?


 逃げた方がいいのでは?


「マジか……。あー、すまんポロラ、ちょっと俺は逃げる。後はよろしく頼んだ……!」


 チャイムさんはは顔色を変えて、闘技場を飛び出して行きました。廊下からは「居たぞ!」「追え! 逃がすな!」「殺してもかまわん!」「仕留めろ!」という声が聞こえてきます。


 相変わらず、楽しい方々ですねぇ……。


 ……さて、もう居なくなりましたよ。メレーナさん。出てきても大丈夫です。


「ふん……」


 私の3本の尻尾から、妖精さんの姿が現れました。


 精神的に参ってしまったメレーナさんはまた私の所に来て、もふもふに癒されに来ていたのです。


 そこにチャイムさんがやって来たので、少しお話をしていたのでした。


 メレーナさんはゆっくりと飛び上がり、私の目の前に浮かびます。……良かったですね。嫌われてなかったみたいですよ?


「うるさいよ! ……当たり前に決まってるじゃないか……仲間なんだからさ」


 そう言いながら、メレーナさんは顔を背けます。


 しかし、ちらりと見えたその顔は、赤く染まっていたように見えたのでした。


 素直じゃないんですから……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 さ、地上につきましたよ、メレーナさん。……メレーナさん?


 作業が終わり、私はビギニスートの街まで戻って来ました。


 ツンデレ妖精さんは、しばらくクランから離れるそうです。

 チャイムさんに負けてしまい、自分の実力不足を痛感したらしく、修行の旅に出るのだとか。


 しかし、正直にそう言ってクランを抜けるのはプライドが許さなかったみたいですね。


 私の尻尾の中に隠れて、誰にも見送られずにメレーナさんは旅立つ事にしたようです。


 地上まで移動したら、いつの間にかいなくなっていました。……おや?


 ふと足元に視線を落とすと、そこには4枚のギフトカードが落ちていました。


 拾ってからウィンドウで確かめると全てが違う種類の物のようです。


 怠惰に暴食、傲慢に嫉妬……。


 この内の2枚は私が盗まれた物でしょう。チップちゃんに渡そうとしていたみたいですが、そんな暇はなかったですし。


 もう2枚は……ワカバさんを倒した時にドロップした物だと思います。まさか私の知らないところで邪神を討伐していたなんて事はないでしょうし。


 運賃にしては少し高すぎる気もしますが、ありがたくもらっておきましょうか。……にしても。


 短い期間で色々ありましたねぇ。


 子猫先輩の修行に、装備の新調、更にはギフトの取得まで。


 最近の私の成長は留まるところを知りません。ふふふ……。


 こうなってしまうとつい調子に乗ってしまいそうです。むしろ、この波に乗るしかないのでは?


 このままPK(しゅぎょう)にでも、行っちゃいますかねぇ……!




「あ、また調子にのってるね? 駄目だって言ったじゃないか、もう」




 あ、子猫先輩……ご機嫌麗しゅう……。


 調子の乗ってニコニコと笑顔を浮かべていた私の側に、兎を抱き締めた子猫先輩が立っていました。美少女モードです。


「また痛い目に合いたいの? 少しは懲りないとチップが残念がるよ?」


 ご、誤解ですって~。子猫先輩~。


 少し修行に行こうとしただけですよ~、悪いことをしようなんて思ってませんって~。


 私は嘘をつきました。


「うん。悪いことをする人はみんなそう言うんだよね。知ってる」


 そして、微笑みながら見破られました。す、するどい……。


 こ、子猫先輩! そんなことよりも、何で兎さんなんて抱いているんですか? 可愛いですね! 撫でてもいいですか!?


 私は無理やり話を変えました。かなり苦しいです。


 しかし、意外にも動揺したように両腕で兎さんを抱き締めて慌てて口を回します。


「絶対駄目。……いいかいポロラ、この兎さんはね、悪い兎さんなんだ。可愛い女の子がいるとすぐに色目を使う悪い兎さんなんだよ。『浮気者』って奴だね。だから僕がこうして捕まえておいてあげなきゃいけないんだ。ちょっと力を入れすぎて、骨をなん本かやっちゃったけど気にしちゃ駄目だよ? その位しないと、僕の気持ちは伝わらないみたいだしね……」


 あ、はい。


 これは触れちゃ駄目な奴ですね……。私は被害に合っている兎さんに申し訳なく思いながら、そう呟きました。


「って、そんな事を言いに来たんじゃなかった!」


 子猫先輩はハッとしていつもの感じに戻ります。


「ポロラ、君はツキトくんを倒したいんだって? ……良いじゃん。君みたいなプレイヤーを僕は見たかったんだよ」


 と、言いますと?


 そう聞き終わる前に子猫先輩は続いて口を開きます。


「次の世代が育っている時点で満足って話さ。僕達を討伐対象としか見ていない君達は僕らにとって最高の娯楽なんだよ……」


 完全にブラックでしたが、私は気にしないことにしました。


「だから……早く僕を殺しに来てよ。そのときは本気で遊んであげる。その時は、ツキトくんもいっしょさ。……新しい世界を見せてくれ。期待しているよ? 僕達より……強くなるんだ!」


 そう言い残して、子猫先輩は消えてしまいました。……最高の労いの言葉です。殺る気がもりもり沸いてきます。


 私はプレイヤーキラー、影の住人。


 それで良いのです。実に楽しそうじゃありませんか。復讐を考える人間に録な奴はいないのですから。


 私はそうやってリベンジを決めながら、心に決めたことがありました。


 絶対に、私が勝って、この世に勝利を知らしめてやる……と。


 そう考えながら、私はニヤリと笑うのでした。

・反省タイム


「で、言い訳は?」


「すいませんでした……色目を使ったつもりじゃなかったんです……ちょっとリリア様を褒めただけなのです……」


 ……素晴らしい姿勢の土下座をみた。プライドなんて全て捨てきっていた。


 惨め~。

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