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調子にのってすいませんでした byポロラ

 綺麗な水……ですよね?


 独房にぶちこまれた私は、じっと、洋式トイレに貯まっている水を見つめていました。

 視界の隅には『飢餓』という状態異常を示すアイコンが出ています。ちなみに手元に食料や水分はありません。


 この水を飲むしか私が生き残る術はありません。いや、今からでも脱獄できれば……。


 ちらりと、独房を監視しているメイド人形さんに目を向けました。彼女は私の視線に気付いた様で、じろっと見返してきます。


「……また暴れたら、今度は容赦しませんからね。マスターに言いつけますから」


 くっ……!


 私は悔しさで顔を歪めました。


 独房に入ってすぐに脱獄したのですが、私はメイド人形さんによって取り押さえられてしまったのです。


 中身はヒビキさんでは無く、ただのNPCだと油断していたのですが、まぁ、強いのなんの。

 さっき戦っていた『怠惰』の邪神より強いんじゃないかって程でした。攻撃が当たらなかったです。全部見切られていました。


 勝てないとわかったので、独房の中でじっとしていたのですが……もうお腹がペコペコで死にそうです。

 今はまだ『飢餓』で済んでいますが、これを放っておくと餓死してしまいます。治すためには何かを口にしなくてはいけないのですが……。


 やはり……トイレの水を飲むしか無いのですか?


 邪神から街を救った私に対しこの仕打ち……どうなっているのですか! もうちょっと英雄扱いして頂いても構わないのですよ!?


 私の要求にメイド人形さんは無表情で言いました。


「ただいま貴女には裏切り者容疑がかかっています。ですので、これからの方針が決まるまでお待ち下さい」


 誤解ですぅ!


 何を見ればそんな疑惑がかかるのですか! どこからどう見ても無害な狐さんです! 証拠を持ってきなさい、証拠を! あと弁護士!


 私が檻にしがみつきながら吠えると、メイド人形さんはスカートの中から一枚の写真を取り出します。


 それをこちらに見せるように突きだしました。……おや? 凄く悪い顔をした方が写っていますね。夢に出てきそうな笑顔ですよ、これ。


「貴女がモンスターに攻撃をしていた時の写真ですよ? 証拠としては充分だと思いますが? こんな顔をする方が味方だとは思えません」


 ふふっ、可愛らしい狐娘さんですね。笑顔が眩しいです。


 私はその眩しさに目がくらみ、顔を逸らしてしまいました。決して現実から目を背けたわけではありません。決して。


 しかし不味いですね。

 やり過ぎた感があります。もう手の施し用のないところまで来てませんか? 裏切り者容疑とか言われてましたし。


 この写真が広まっていた場合、最早私のイメージを覆すことは不可能と言って良いでしょう。

 『戦闘狂』という不名誉な称号もずっと変わらないままです。


 ……こうなったら、タビノスケさんの力を借りてアイドル稼業に手を出すしか……。


 いや、それは最後の手段です。

 取り敢えず今は生き残る事を考えましょう。……メイドさん、もう暴れないので助けてください。もうお腹がペコペコで死んじゃいます。


 私は頭を下げて食料を懇願しました。


 すると、彼女はハッとした顔をして手を叩きます。


「あ、そういえばマスターからご飯をあげるよう言われていました。お~い、囚人さんにご飯持ってきて~!」


 意外に話のわかるメイドさんでした。


 彼女が声をかけると、体長10センチ位のデフォルメされた人形達がやって来て、食事の準備を始めました。

 統率された動きで私の元に料理の乗ったお皿と、フォークとナイフを届けてくれます。


 今日の献立は美味しそうなステーキです。まぁ、見た目は良いですn……。




『市民のステーキ』




 念のためウィンドウを表示し、どんなアイテムか確認しました。どう考えて人肉ですね。


 その事実のせいで食指は動きませんでしたが、私のお腹はもう限界でした。

 つまりは目の前の人肉を食べるか、トイレの水を飲まなければ死んでしまうということです。こんな選択肢を迫られるって、私何かしましたっけ?


 あ、もうHP減りはじめてますし!?


 くっ……どうするべきか……。


 プライドを捨てて便器の水をすするか。


 倫理を忘れて人肉にかじりつくか。


 それらを守るために命を犠牲にするかの3択です。



 ……。



 仕方がありません。これは緊急事態です。なりふり構っていられません。


 うう……、絶対に食べないって決めてたのに~……。


 私は覚悟を決め、ナイフとフォークを手に取ったのでした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 あ、案外いけるかも……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 独房から連れ出された私は、ビギニスートの教会に案内されました。

 正しくは、そこの地下にあるクラン『紳士隊』の拠点の一室に、ですが。


 部屋には私の身柄を引き取りに来たチップちゃんと、美少女モードの子猫先輩が待っていたのでした。私は土下座しました。


 ごめいわくおかけしましたぁ……。


「ポロラ、調子にのっちゃたんだね……」


「みー先輩が一緒だから大丈夫だと思ってたけど……どうしてこうなったんだよぅ……」


 顔を上げてお二人を見てみると、呆れているというか、残念そうというか、そんな感じの表情をしていたのでした……。こゃ~ん……。





 私は、お二人から事の顛末を話してもらいました。


 私があの邪神を倒したのは周囲のモブ虫さん達が見ており、その活躍は周知の事となりました。ですので、それなりの報酬があると私は思っていたのですが……。


 どうやら、あの神父さんも『強欲』のギフトを持っていたようで、私がギフト使った時には大分弱体化されていた、との事でした。デバフが2段階かかっていたそうです。


 なので、私が邪神に快勝できたのは彼のおかげということになったそうで。……少し納得いきませんが、良いでしょう。勝ったのは私です。


 次にワカバさんへの取り調べについて。


 何故、ギフトを暴走させ、邪神化してしまったのか。その質問に対し、彼は『強欲』のギフトを使われたと答えたそうです。


 声をかけられたと思ったら、すぐに強制ログアウトされてしまった、姿を確認することもできなかった……という話でした。


 そこで問題になったのが、いったい誰がギフトを使ったのかという問題です。


 『強欲』のギフトの存在を大々的に公表したのも束の間の出来事ですから、考えられるのは……。


 その存在を知っていたプレイヤーが他にもいたか……我々の中に裏切り者がいるかという話になったそうで。



 そこで現れたのが『強欲』のギフトを使う狐娘さん。



 私はいつの間にか、ワカバさんを邪神化した容疑者となっていたそうです。……あー、それであんなに長く拘束されてたんですね。疑惑が晴れて良かったですよ。


「いや、晴れてないよ?」


 首を横に振りながら、子猫先輩はそう言いました。


「話しかけて来たのは男の人だったらしいけど、姿が見えなかったそうなんだよね。ワカバくんはポロラじゃないって言っていたよ? でも、疑っている人もまだいるみたいだ」


 うえぇ……。少しは人を信じる心を持ちましょうよ……。


 私は他人を信じる事ができないウジ虫さん達を不憫に思いました。……仕方がありません。話し合いをしてわかってもらいましょう。


 私はこっそりと黒籠手を発動して、席を立ちました。


「ポロラ、尻尾。尻尾増えてるから。なにする気か目に見えてるから、座って座って」


 しかし、チップちゃんに止められて、再び椅子に座らせられてしまいます。


 むぅ、チップちゃんに迷惑をかけたくは無いので大人しくしていましょう。話し合いはまたの機会ということで。


 ……そういえば、なんで私は檻から出してもらえたのですか? まだ疑いが晴れていなないのなら、拘束されていてもおかしくないと思うんですけど……。


 私がそう質問すると、二人はそっぽを向きました。……え。なんですかその反応。私が知らないうちに何があったんですか?


「あー、うん……ちょっと、ね?」


「口は災いの元とは良く言ったものだよ……いや、言ったのは僕なんだけどさ……」


 まって、ホントに待って。


 何があったんです? なんか私の知らないところで取り返しのつかないことが起きている気がするのですが!?


「いや……そういう訳じゃないんだ……。なんというかチャイムとメレーナが話し合って平和的な解決を目指してたんだけど……」


「あまりにも話し合いに進展がないからさ、つい言っちゃったんだよね……。戦って決めれば?って……」


 子猫先輩ぃ~……。


 二人の話をまとめますと、『紳士隊』と『ノラ』のクラン戦なのですが……このような問題が起きてしまった為、もうそれどころでは無い、という話になったそうです。


 そりゃそうでしょう。


 今回みたいにゲリラ的に邪神化されたら対応しきれません。これから先、更に大きな被害をもたらす案件であるのは間違いないですからね。


 早急に対処する必要があります。


 けれども、クラン戦の契約を反故にした場合、お互いのクランメンバーに軋轢が生まれてしまう可能性がありました。メレーナさんに殺られて復讐したがっている方もいるでしょうし。


 ケジメをつけるというのは大事な事なのです。


 しかし、戦って決めろと言うのは少し横暴では? 負けたら相手の言うことを決めなければならないのでしょう?


 あっちの要求は人員の差し出しでしたよね?


「あー……その事なんだけど……メレーナがさぁ……」


 はい、メレーナさんが?




「勝ったら、ポロラを『紳士隊』に寄越せって言い始めたんだけど……ホントに何したんだよ……」




 ……あちゃ~。


 私は、今更ながら調子に乗ったことを深く反省しました。軽い気持ちでもふらせた結果がこれですよ。


 要するに、私は景品として釈放されたって事なのですか……。拒否権って……ありませんよね?


 私が力無く質問すると、言うと二人はコクコクと頷きました。


 いやです~……ロリコンの多いクランには入りたくないですよ~……。


 私は頭を抱えて静かに涙を流したのでした……。



 ちなみに、対戦カードはメレーナさんVSチャイムさんだそうです。まさかの人選でした。



 ん~……。


 チェンジで。


 あ、ダメですか。はい……。



・メイド人形

 いつの間にか街に溶け込んでいた人形達。住民との中は良好である。今回は住民の保護に動いており邪神と戦うことは無かったが、一体一体が破格の戦闘能力を有している。


・トイレ

 プレイヤーは排泄をしないので基本的には綺麗。普通に飲める水である。病気になったりはしない。


・ステーキ

 本当に食べてしまったの……?

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