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セクハラもふ魔族

 状況を整理しましょう。


 敵ウジ虫さん達の総員は5名と騎乗している馬5匹。


 そのうち2名は狙撃によりミンチになって地面を彩っております。乗っていた馬も、どこかに逃げてしまったようです。


 奇襲に気づいた残りの3名は、私とオークさんに向かって馬を走らせています。

 どうやら狙撃を意識しているようで、それぞれが左右に走る軸を変えつつ走っているので、正確に眉間を撃ち抜くことは難しいでしょう。


 しかし、無理にその走りを止めようとは思いません。距離もまだ100メートル以上離れています。……なので、焦る必要はありませんよ?


「わかりました、ポロラさん。……それで、これをタイミング通りに投げればいいのですね?」


 オークさんは私が渡した液体入りの酒瓶を疑わしい目で見つめています。


 ……ええ、その通りです。

 あちらは3名、こちらは2名。不利なのはこちらなのですから、頭を使って立ち回らなければなりません。

 そして、先ずしなければいけないことは、相手の意表を突き少しでも損害を与える事です。


 私はアイテムボックスからとあるアイテムを取り出しました。

 それも液体入りの酒瓶だったのですが、しっかりと密閉されているオークさんのものとは少し違っています。


 今、私の手元にあるものは布で栓がされてあり、その先っぽには火が付いています。……さて、始めましょうか。


 オークさん、今です。


「了解! ふんっ……!」


 大きな体を反らして、オークさんは全力で瓶をウジ虫さん達に向かって投げました。


 それは大きな放物線を描いて、迫り来るウジ虫さん達の……遥か手前で街道に落ち、瓶が割れて中身を撒き散らしました。


 そんな傍目から見たら怪しい様子を見ても、彼等は私達に向け歩みを止めません。……所詮はウジ虫ですか。鈍いですね。


 私も続けて、撒き散らした液体に向かい火炎瓶を投擲します。


 ……え? 火炎瓶ですよ。火炎瓶。


 あの瓶が割れると中身に引火して爆発する奴です。


 魔法が使えない私でも、スキルの一つである『錬金術』で薬品は扱う事ができます。一応『魔法戦士』ですから魔法系統のスキルは使えますからね。


 ちなみに最初に投げたのは、ガソリンみたいな揮発性の高い液体です。火が付くと爆発するように燃え上がります。


 私の投げた火炎瓶は先程と殆ど同じ放物線を描き━━地面に落ちて、爆炎を作り出しました。

 そこに丁度良く通りかかったウジ虫さんとお馬さんが爆発に巻き込まれます。やったね。


 数十メートル離れたこの位置まで衝撃が伝わって来たので、直撃した彼等はタダではすまないでしょう。……というか、威力強すぎますね。ちゃんと遠距離で使ってよかった。


 さ、オークさん。ここからは一方的な虐殺です。行きますよ? 殺される前に殺すのです。


「承知!」


 オークさんは意気揚々に小斧を両手に構えると、勇ましく返事をしました。良いですね。ノリがいいのは好きですよ?


 私は爆発によって吹き飛ばされたウジ虫さんの一人に、ダッシュで接近しました。

 どうやらまだ息があるようで、ピクピクと痙攣しています。


 まだ生きているようなので、片手の『子狐の黒手袋』を鎖鎌に変化させ、その刃を使い首をかっ切りました。

 ミンチになって飛び散ったウジ虫さんを確認した後に、逃げ出そうとしているお馬さんに向かって鎖の先に付いている分銅を投げつけます。


 分銅の勢いによって伸びた鎖がジャララという音を立てながらお馬さんの足に巻き付き、鎖がピンと緊張しました。

 私は確実に捕らえた事を確信し、思いっきり鎖を引っ張り地面に引きずり倒します。……オークさん、そのお馬さんにトドメを!


「はっ!」


 掛け声と共に遅れてきたオークさんの小斧がお馬さんの首に振り下ろされました。

 移動手段を潰すのは……当然ですよね?


 トドメ刺される可哀想なお馬さんにを尻目に、次の獲物を探して辺りを見渡します。すると、恨めしそうな顔をしながら弓を引き絞り、こちらに矢じりを向けているウジ虫さんがいるのが見えました。


 それを確認した上で、私は彼に向かって突っ込みます。……ウジ虫ぃ!


 予想外だったのか、目の前の彼は慌てた様子で矢を放ちました。


 体制を崩していたのにも関わらず、正確に眉間を捕らえて飛んできた矢を切り落とし、私は敵の懐に潜り込みます。……遺言は?


「くっ……! 『戦闘狂』め……!」


 その名前で呼ぶんじゃねーですよぉ!


 私は左手をウジ虫さんのお腹に当てて、『子狐の黒手袋』を無理矢理発動させました。手袋は形を変化させながら体を貫通し、一振りの剣に姿を変えます。


 その柄の部分を握りしめ、私は横凪ぎに剣を振り抜きました。


 ぱっくりと開いたお腹から臓物が零れ落ちます。ウジ虫さんはそれでもこちらに手を伸ばしますが、私はお腹を蹴り上げてその行動を許しません。触んなや。


 と、死にかけのウジ虫さんの相手をしている隙を狙ったのか、背後から地面を蹴る音が聞こえました。

 どうやらこのウジ虫さんは囮だった様です。


「ポロラさん! ぐっ……」


 それに気がついたお馬さんの処理が終わったオークさんが盾となり、後方から迫っていた盗賊風なウジ虫さんの攻撃を受け止めました。ナイス判断です。


 ……しかし、悲しいかな。


 オークさんの実力ではウジ虫さんの攻撃を受け止め切れず、深々とナイフが突き刺さった肩の傷口から痛々しい血が吹き出しました。


 それでも、ミンチにならないのは称賛に値するでしょう。


 ナイフを引き抜き、次の攻撃に備えようとしているウジ虫さんに向かって、私は剣を振り下ろしました。


 対するウジ虫さんはナイフでその攻撃を受け止めます。どうやらそれなりには戦えるようです。


 まったく……実力があるなら正攻法で稼げば良いでしょう。なんで初心者狩りなんてみみっちい事をしているのですか?


 そう質問すると、ウジ虫さんはナイフで剣をいなし私から距離をとりました。私自身もオークさんを巻き込まないよう距離を取ります。


 ウジ虫さんはニタリと笑い口を開きました。


「はっ、別に初心者狩りをしたかった訳じゃねぇ。……俺達は待っていたんだぜぇ? お前が『ノラ』から……あの街から離れるのをよぅ」


 ……へぇ、狙いは私だったというのですか? 人気者は辛いですよ。


 そう言って意気がってみましたが……心当たりが多過ぎて、狙われる理由が絞れません。とりあえず、目の前に居る方を殺した記憶は無いのですが……。


 私が最近処理したウジ虫さんの顔を思い出していると、目の前の男がククッと笑います。



「そんな考えてもお前は俺の事を知らないはずだぜ? 俺はずっと隠れてお前の事を見ていたのだからなぁ……!」


 !?


 ぅ、あ……ま、まさか。


 私の直感がその言葉にピンと来てしまいました。同時に頭の中の警報が鳴り響きます。


 わかりました。わかっちゃいましたよ。


 コイツの正体は……。



「外套の下でモフモフ揺れるお前の尻尾を、フードの中でピコピコ動く耳を、俺は……俺達はずっと見てきたんだ! その毛皮に顔を埋めさせてくれ! 臭いを嗅がせろ! 尻尾で俺を絞め殺せぇ! モフモフぅ!」



 うわぁ……きしょいよぅ……。


 予想道理、目の前で恍惚とした顔をするコイツは、セクハラもふ魔族だったようです。というか、私ストーカーされてたんですね。まったく気付きませんでした。


「ぽ、ポロラさん……コイツは一体何を言っているのですか?」


 オークさんは傷口を抑えながら、片手で小斧を構えています。困惑しながらも戦うつもりなのでしょう。


 あ、あ……逃げてください。目の前のもふ魔族には……この異常者には貴方は敵いません。欲望の捌け口にされる前に逃げるのです。


 私がそう言うと、もふ魔族の目がギョロりと動き、オークさんを見つめます。続けてニタァと笑う顔に、思わず怯んでしまいました。


「よく見たら、お前も中々の毛並みじゃないか……。少し野性味があって固そうだが……それはそれで良いものだぁ~……ゴワゴワぁ!」


 じゅるりと舌舐めずりをすると、もふ魔族はオークさんに飛びかかります。……こ、こんにゃろー!


 私は剣と鎖鎌を拳銃に変えると、もふ魔族に向かって発砲しました。

 しかし、飛び出した銃弾を彼は空中で体をひねり華麗に避けてしまいます。欲望のなせる技です。


 って、まずっ……。オークさん!!


「な、なんだお前は……! 離せぇぇぇ! うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


「ぅあ"あ"あ"~!! 臭い! 臭いぞ! 獣臭がずる~! オスの獣の臭いだ! だまらん! ……おおっと動くな! まだ毛並みを堪能していない! もっと奥深くに……」


 お、オークさ~ん!!


 もふ魔族はオークさんを押し倒すと露出している毛皮に顔を突っ込みました。そしてまるで舐め回すかの様に顔を動かしています。どうやら男でも一向に構わない様です。……イヤァァァァァァァァァァァァァァ!??


 私は絶叫しながら両手の拳銃をゴルフクラブに変形させました。あまりの気持ち悪さに目から涙が溢れだします。


 その感情を押し殺しつつ、覆い被さっている男の頭に目掛けて、思いっきりゴルフクラブを振り下ろしつけました。


 すると、ベコリと嫌な感触が手に伝わってきます。

 私の攻撃は確実に男の頭を陥没させていました。にもかかわらず、まだ変態は動こうとしています。……こゃっん!?


 私は、何度も、もふ魔族が動かなくなるまでゴルフクラブを振り下ろしました。肉を叩きつける音が辺りに響きます。


 しねっ、しねっ、しねっ、しねっ、しねっ、しねっ、しねっ、しねっ、死ねぇっ! ……はぁ、はぁ、はぁ……あ。


 自分でも何回打撃を加えたのかわからなくなった頃。


 気がつけば。


 そこに残っていたのは虚ろな目をしたオークさんと、彼を自らの体液で自分色に染め上げた動かない変態。そして真っ赤に染まったゴルフクラブを握った狐娘さん……。


 ……あ、あれ?

 この状況、どう見ても殺人現場では?


 そして犯人は……。


「な……何を……しているんですか?」


 はっ。


 そんな消え入りそうな声に気付き振り向くと、そこには金髪ちゃんが恐ろしいものを見た様な顔をして立っていました。


 まぁ、この状況だけ見たらどう考えても私が殺したようにしか見えませんからね。その反応も致し方なし。


 私は彼女と手元のゴルフクラブを交互に見た後に、すべてを諦め小さく笑いました。

 そして、静かに地面に頭を擦り付けます。



 ……誤解なんですよ?

・ゴルフクラブ

 とりあえず鈍器、と考えた結果できあがった武器。握りがよく、振り回しやすい。ちなみに、『子狐の黒手袋』は武器と思われる物なら大体の物を再現できる。

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