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『七神失落』

 『怠惰』の邪神は私を倒したあと、真っ直ぐに教会へと向かっていました。


 聞いたところによると、さすがに不味いと思った宴会中のウジ虫さん達が、重い腰を上げて邪神に立ち向かったそうです。


 しかし、結果は散々な物で、録な成果も上げずに全員のされてしまったのだとか。……それは大変。


 教会に奴を入れるのは、非常に危険です。


 何故ならば、そこにはリリア様がいらっしゃいます。……あ、別にリリア様が酷い事をされるかもしれない、という話ではありません。


 彼女は外敵に襲われると発動する『神殿崩壊』というカウンタースキルを持っています。

 その能力は、リリア様を中心に破壊のエネルギーが周辺を吹き飛ばすというものでして。


 ビギニスートくらいの大きさの街でも、余裕で吹き飛ばすほどの広範囲の即死攻撃だというお話です。



 つまり、街のNPCも、プレイヤーも、クランやギルドまで、全てが消滅してしまう危機が、すぐそこまで迫っていたということでした。



 現在、それを阻止するために二人のプレイヤーが邪神に立ち向かっていました。


 一人は、神父のような白い法衣を身に纏った老人。もう一人は良く見知った戦士風の男性……ワッペさんでした。


 モブ虫さん達が邪神を逃がさない様に周囲で肉壁になっている中、二人は勇猛果敢に邪神に攻撃を仕掛けます。


「だはははは!! なんだコイツ!? ツエー! 死ぬ! 死ぬ! しn……」


 下品な笑い声を上げながら戦っていたワッペさんは、邪神の爪に反応できず上半身と下半身がおさらばしていました。


 あまりにも呆気無かったからなのか、邪神の動きに一瞬隙が生まれました。そこに神父さんが懐に潜り込み、拳を打ち出します。


「セィヤアァ!」


 相当鍛えている方なのでしょう。


 邪神はその拳擊の勢いで、後方へと後ずさりました。……が。


「防がれましたか……。今のに反応できるとは、中々楽しませてくれますな」


 母体を盾にしたことで、あまりダメージは入っていないようでした。邪神は何事も無かったかのように盾を構え、神父さんの次の動きに備えています。


 それを見た神父さんはクックッと笑いを漏らしていました。……いや、本当に何者ですかね? 強者感すごいんですけど?


復活(ふっかぁつ)! シバルのじーさん! どうだ、倒せそうか!?」


 自らの能力により、地面に描かれた魔方陣からワッペさんが復活してきました。確か『再起動者』でしたっけ? 便利な能力ですねぇ。


「ええ、もちろん。しかし、あまり攻撃が通じている様子がありません、持久戦は免れないでしょう」


「あの左手に刺さってんのがメチャかてぇみたいだぜぇ? さっき狐が殺された時に確認できた。……作戦通り、俺が囮になって隙を作る、まとめて殺してもらって構わねぇ」


 神父さんがコクりと頷くと、二人は邪神に向かい構えました。


 邪神も二人が何をするのか察した様で、ジリジリと距離を詰めていきます。僅かでも隙を見せれば、その爪で切りかかるつもりなのでしょう。


 しかし、それはお互いに言えることです。

 ワッペさんはともかく、神父さんの攻撃をまともに受けたらただではすまない、そう思いました。彼からは、そのくらいの自信と闘志が感じられます。


 強大な力を持ったプレイヤーと邪神の激突。その戦いを、周囲のモブ虫さんも息を飲んで見守っていたのでした。




 ……はい、ちょっと通りますね~。




 しかし、私にはそんな熱い展開は関係ありません。しれっとモブ虫さんの間を通り、軽いノリで戦いの場に参戦したのでした。


「おや? 貴女は……」


「ぁん!? 誰だよ……って、ポロラ!? さっき死んだはずだろっ!?」


 いきなり現れた私に、二人は少し驚いたような顔を見せました。邪神の方も私の顔を覚えていたのか、こちらに振り向いてニヤリと口元を歪ませます。


 前に殺した相手を覚えているとは、お利口さんですね。リベンジにきましたよ。今度こそ刻んで差し上げましょう。


 私は両手に短槍を装備し、大爪を展開しました。


「おいコラ! 俺達の獲物だぞ! 横取りすんなや!」


 そんな狐娘さんを見て、邪神を挟んでワッペさんが声をかけてきました。……はん、うるさいですねぇ。


 私は唇を尖らせました。


 協力すれば良いでしょうが。別に報酬を横取りするつもりはありませんよ。

 私はそいつを殺したいだけです。決して邪魔はいたしません。そもそも、私の獲物ですしぃ~。


 どうです? よろしければ、ご一緒にコイツを血祭りにあげませんか?


 私が提案すると、神父さんは間を置かずに口を開きました。


「……貴女には見覚えがあります。同じリリア教徒として断る理由はありませんな。『神技』は、使えますか?」


 神技。


 聞きなれない言葉でした。しかし、ついさっきその言葉を見たばかりです。……ええ。先程、リリア様からいただきました。足を引っ張るような真似は致しませんよ?


 私がそう答えると、神父さんはニヤッと笑みを浮かべます。


「そうですか。……それでは、ここはおまかせしましょう。リリアたまが認めた貴女には興味があります。そもそも、こちらが横取りした様ですしな。下がりましょう、ワッペ君」


 そう言いながら、彼は構えを解きました。ワッペさんも何か言いたそうでしたが、神父さんが戦う気が無いことを示すと、武器を下ろします。……何かおかしかった気がしますが、聞かなかった事にしましょう。


 さて……これで、殺された復讐ができます。


 邪神も戻ってきた私を完全に敵として認識している様で、見せつけるように爪を構えていました。


「Aaaaaa……! AAaaaaaaa……!」


 神父さんと立ち会っていた時とは違い、その様子からは余裕を感じられます。


 まったく、なめられたものです。


 けれども、ちょうど良い実験体なのですよ、貴方は。私が手に入れたこの力、試させていただきましょう。


 発動なさい、『強欲』のギフト……。



 『七神失落』!



 私が手を突き出してギフトを発動させると、邪神の身体が光の鎖によって拘束されます。

 それはすぐに砕けて消えてしまいますが、ギフトを食らってしまった邪神は肩で息をし始め、何かしらの不調が現れているようにみえました。


 ……これが『強欲』のギフトの一つ、スキル『七神失落』です。


 『強欲』のギフトは簡単に言ってしまえば、邪神の力をコントロールする能力でした。邪神に対して与えるダメージが多くなる、というパッシブスキルも付いています。


 今使った『七神失落』は、邪神にデバフを付与したり、ギフトの力を抑制する効果があるそうでした。



 ……しかし、限度はあったみたいですね。



 スキルを使われた邪神は、怒り狂ったかのように雄叫びを上げました。広場で戦った時よりも速度は落ちていますが、凄まじい速さで私に襲いかかってきます。


 大爪を操作し多方向から強襲を仕掛けますが、その手から伸びた爪で次々と迎撃されます。……本当に弱体化されているのか、疑問に思うほどキレの良さです。


 邪神はあっという間に、私を攻撃の間合いに納めます。しかし、それはこちらの攻撃も届くということでもありました。


 ふふっ、簡単には、やらせませんよ……!


 私は迎え撃つべく、手にもった槍を振るいました。


 突きだした槍と邪神の爪が交差し、火花が上がります。


 お互いに守ることは一切考えていなかった様で、それぞれの攻撃は真っ直ぐに直撃しました。


 そして。




 ぼとり、と。




 切り落とされた腕が、地面に転がったのです。



 切り裂かれた断面からは血液が吹き出し、周囲を赤く染め上げます。



 それが信じられないかの様に、地面に落ちた自分自身の腕に、顔を向け……。



 絶望の叫びを上げました。




 ……まったく。

 まるで人間の様な反応をするのですね、『怠惰』の化け物というのは。


 ただ自分の腕が切り落とされただけでしょうに。ふふふ……。


 ほら? どうしたのですか? 貴方の腕を切り落としたのは私ですよ? 悔しいならかかってきなさい。


 今度は貴方が復讐する番ですが?


 先程の攻撃を無傷で受けた私は、満面の笑顔を作り、邪神に問いかけました。


「ga……Aaaaaaaaaaaa!!!」


 自棄になったのか、邪神は爪に刺さっていた母体を引き抜き、地面に投げ捨てます。

 そして、使える様になった爪を大きく振りかぶり、私を切りつけました。


 しかし、その爪は私に届くことは無く、何かに阻まれる様に止まっていたのでした。……これが完全防御のスキル、神技『リリアの祝福』です。


 リリア様からギフトと共に頂いたのが、このスキルでした。時間制限があり、連発はできないそうでしたが、その効果は強力です。


 現に邪神が狂ったように切りかかって来ても、こちらには一つも傷を付けることができていないのですから。……こうなると、可愛らしいものですねぇ。あまりにも無様で。


 私は向かってくる腕に、落ち着いて攻撃を繰り出します。


 『七神失落』の効果が効いていたのでしょう。その身体は、見た目ではわかりませんでしたが、かなり脆くなっていたらしく……。


 簡単に切り落とすことができました。


 上半身のバランスを失い、よたよたと邪神はふらつきながら後退します。……あれ? どうしたのですか? 反撃してこないのですか?


 早く来なさいよ。


 貴方には私に復讐する権利があります。


 腕が取れた程度で戦意を失くすなんて事は、絶対に許しません。戦いなさいな。


 ほら、わかったら……さっさと殺しあうんですよぉ!! このウジ虫がぁ!!


 私はこれでもかというくらいに口角を持ち上げて、ニヤリと笑いました。周囲からはモブ虫さん達の小さい悲鳴が聞こえてきます。


 そして、目の前の邪神は恐ろしいものを見たかのように、急いで逃げだそうと駆け出しました。しかし……。



 母体と繋がったままのへその緒が、それを許しませんでした。



 邪神はへその緒に引っ張られ、地面に倒れてしまいます。私はそこに近より、短槍を構えながら彼を見下ろしました。


 すると、命の危機を感じたのか、首を横に振りながら地面を後ずさります。その姿はまるで、命乞いをしている様でした。


 はぁ……もう……そんなことされても、困るんですよ……ねぇ!


 私は邪神の太ももに槍を振り下ろし、地面に串刺しにしました。苦悶の声が街に響きます。良い声です。


 気分が良くなったので、今度は肩に突き刺しました。同じように地面に固定するように深々とぶっ刺します。


 それでも死ぬことができないようで、邪神は苦しむように足をばたつかせ、首を振っていました。


「Aaaaaaaaaa!? Aaaaaaaaaaaaaa!?」


 その姿はなにも知らない赤ん坊のようです……が。


 私を殺したという前歴がありますので、見逃してあげるということはできないのですよ。私にできることは……。



 少しでも、延命してあげることだけです。



 私は新たに短槍を作りだし、急所を避けるように突き刺していきます。突き刺す度に邪神は泣き声を上げていました。


 何本も、何本も、何本も……。


 声が徐々にか細くなっていくのも関係なしで、どんどん突き刺していきました。


 そして、大量の槍が突き刺さり、ハリネズミの様な姿になった頃には、もう泣き声をあげることも無く……。



 その身体は静かに灰になり、風にふかれて消えていきました。



 残された私は地面に突き刺さった槍の山を見て、えも言えない爽快感に包まれていたのです。……あぁ、スッキリしたぁ……。


 復讐を成し遂げるというのは……良いものですねぇ……。『死神』さんを殺したら、同じような気持ちになれるでしょうか……?



 ああ、早く殺してあげたいです……。



 そう言ってから顔を上げると、顔を真っ青に染めた皆さんが私を見つめていました。

 神父さんは笑いながらパチパチと手を叩いていましたが、ワッペさんはあんぐりと大口を開けています。


 そして、誰かが叫びました。



「か……確保ーーーーーー!!!」



 え、ちょ。なんなんですかぁーーーー!?


 せっかく私が邪神を倒したというのに、周囲のモブ虫さん達は一斉に私にかけよってきました。


 そして、私の事をあっという間に拘束してしまいます。いつの間にか『リリアの祝福』の効果も切れていました。抵抗も考えましたが……まぁ、数には勝てませんよね。


 その後、ロープでがんじがらめされ、私は危険人物として独房へと運ばれてしまうのでした……。


 こゃ~ん……。

・神技

 女神から敬虔な信徒に与えられる特別なスキル。これを使えるプレイヤーと使えないプレイヤーには、圧倒的な力の差がある。


・七神失落

 旧時代の神々の力を抑えつけるスキル。ギフトの力を制御することもできる。プレイヤーに使えば、邪神化を防止することができるだろう。


・その頃、リリア様……

 

「人選、間違えましたかね? でも、手作りお菓子の魅力には抗えませんし……、仕方がないですよね……?」


 お菓子目当てに力を与えたらしい。なお与えられた方は、臭い飯を食べる事になった模様。

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