表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/172

クラン『オーダーメイド』

「という訳で、クラン『オーダーメイド』にようこそ。今日は楽しんでいただけると、幸いです」


 喫茶店へと案内された私と子猫先輩は、ヒビキさんが淹れたお茶をいただいていました。……ど、どうも、御親切に……。


 さも自分は常識人だと言いたいような笑顔をしているヒビキさんを、私は信用できずにいました。


 さっきの、興奮する、っていう言葉を私は忘れていませんからね。その辺りどうお考えです? 子猫先輩?


 私は子猫先輩にこそっと耳打ちしました。


「まぁ……どっちかと言うと変態なとこはあるね。けど、女の子には酷いことをしないって言ってたよ? 僕もモフられた事くらいしかないし」


 本当ですか~?


 やっぱり信用できません。子猫先輩には圧倒的な実力がありますので、驚異を排除することは難しくないでしょう。ですが、私は違うのです。


 ヒビキさんは強く、私は勝つことができないのは明白でした。


 ……こうなれば、ささっと用事を済ませて帰ることを優先するべきでしょう。早速取引と参りましょうか。


「今日は盗難防止の装備を探しにきたのですよね? まずは防具から御覧になっていきますか?」


 ひぇ。


 なんで知ってるんですかねぇ……。まだ、私も子猫先輩も、何をしに来たとか言っていないのですけど。


 そういえば、さっきの出迎えもまるで私達が来ることを予め知っていた様でした。


 目の前のメイドさんはとても綺麗な顔立ちをしていらっしゃいます。しかし、その笑顔からは未知に対する恐怖しか感じることができません。


 なるほど、ワカバさんとロリコンさん達が逃げしたのは、私達がこの人のお店に行くということがわかったからなのでしょう。関わりたくなかったからなのか、街中でも襲われませんでしたし。


 このメイドさんはどれ程の危険人物なんですかねぇ……。


「ヒビキくん、大体の事情はわかっていると思うから説明しないけど、できるだけいい装備持ってきてほしいな。あと、面白そうなのがあったら見せてよ」


「かしこまりました」


 ヒビキさんはそう言って目を閉じると、動かなくなってしまいました。……子猫先輩、ヒビキさんどうしてしまったのですか? なんか急に静かになったのですが。


「ん? ……あ、そっか、知らないとちょっと驚いちゃうよね。ヒビキくんは自分で作った人形に意識を移すことできるんだよ。だから、今目の前にいるのは他の人形と同じNPCだね」


 つまり、ここにいる全てのメイド人形はヒビキさんの入れ物にあたるということですか。……恐ろしい能力ですね。


 ざっと見ただけでも、2、30体は居ましたよね。それを個人戦力として保有しているというのも恐ろしいのですが……。

 きっと、その気になれば死ぬ前に違う人形に意識を移して生き延びるとかも出きるのでしょうね。


「そうだね。しかも各街に何体か配置しているから、情報収集にも使えるっていうから凄いよねぇ」


 ああ、だから私達がここに来ること知っていたのですか。


 そういえば、前にチャイムさんが監視カメラの様な能力を持っているプレイヤーが居た、みたいな事を言っていました。きっとヒビキさんの事だったのでしょう。

 こんな能力だとは思いもしませんでしたがね……。


「……お待たせしました。商品の方をウィンドウに表示しますので御覧ください」


 目の前のメイド人形は目を開けると、先程と同じように話だしました。どうやらヒビキさんが戻って来たそうです。


 そして、私達の目の前にウィンドウが現れます。


 そこに表示されていたのは、様々な防具や装飾品でした。……おお~、選り取り見取りですねぇ~。


 このゲーム、防具については守備力よりも性能が求められる仕様となっております。なぜならば、防具がいくら強くてもプレイヤーキャラのスキルレベルが低いと意味が無いからです。


 盾で攻撃を受け止めても、盾のスキルレベルが低いと普通にHPは減りますし、属性ダメージは防具についている耐性でしか軽減できないので、守備力は関係ありません。


 という訳で、防具は属性耐性と特殊な効果がついている物のみを選ぶのが基本なのです。


 ちなみに、魔物の姿をしたプレイヤーの方々は、防具を多く付けれない代わりに、レベルが上がると耐性も一緒に上がる仕様となっております。守備力も。


 後はプレイスタイルによって軽い装備か重い装備かを選ぶ感じですね。


 ですので、私はウィンドウを操作しながら、自分自身にあった装備を探していきました。


「どうだい? いい装備はあったかな?」


 そう言いながら、子猫先輩はひょこっとウィンドウを覗き込んできます。


 いやぁ、いい装備はいっぱいあるのですよ。それこそ、殺してでも奪い取りたいって位のがたくさん。……あ、別に奪い取ろうと思っている訳じゃ無いのですがね?


 冗談混じりにそう言うと、ヒビキさんはニッコリと笑いました。


「あ、別に盗んだり殺したりして持っていってもらっても構いませんよ? その時は……全力で抵抗しますが」


 あ、はい。ごめんなさい。もう二度とそんなこと言いません。


 私は光の速さで頭を下げました。……やベーですよ。殺気が凄いんですけど? この人形さん。下手なこと言ったらホントに殺されるんじゃないですかね?


「ふふふ、冗談ですよ? それで、商品で気に入った物はありましたか? 今の装備と一度合わせてみたいのなら試着も大丈夫ですが?」


 う~ん……、それは嬉しいのですけどちょっと問題がありまして……。


 お金が……全然足らないのですぅ……。


「あー……やっぱり?」


 子猫先輩先輩目線を逸らしながらひきつった様に笑ってそういいました。……はい、ということでして。


 私が気に入った装備は結構多く、全身の装備を入れ換える位あります……が!


 一番安いブーツでさえ、私の全財産をなげうっても足りません。高過ぎます。

 これ欲しい! と、思った指輪に関しては、一つだけでお城を買えるくらいの値段です。


 そりゃ良いものですからねぇ……。いい値段するのは当然ですよねぇ……。


「ぽ、ポロラ! 僕に任せてよ! ……ヒビキくん! 僕からのお願いだ、ポロラが買える値段まで、値下げしてくれない? ちょっとなら僕もお金出すからさ?」


 ありがとうございますぅ……子猫せんぱ~い……。


 私は美少女モードの子猫先輩に泣きすがりました。

 道中、倫理観が吹き飛んだ発言をしたり、喜んで人肉を貪っている姿を見て心配になっていましたが、彼女はしっかりと約束を覚えていてくれていたのです。


 流石です。



 ……が。



「あ、駄目ですね。みーさんでもそのお願いは聞けません。出すものは出してください」


 ヒビキさんは真顔で首を横にふりました。……そ、そんな~。


「えーっ!? なんでさ! いいじゃんか! 『ペットショップ』にいたとき、きみのクレーム処理してあげてたじゃん! その時の恩返しだと思ってさぁ! いいじゃんかぁ~!」


 断られるのを予想していなかったのか、子猫先輩は慌てた様子を見せました。机をバシバシ叩いているのが可愛らしいです。


「そんな可愛い事をしても、駄目な物は駄目ですね。ちゃんとお金は出してください」


 ヒビキさんも同じ考えの様でしたが、頑として首を縦にふってくれません。……子猫先輩、子猫先輩。今お金どのくらい持ってます? あの指輪だけでも欲しいので、お金貸してくれません?


 私はこそこそと子猫先輩にそう言いました。


「うう~……、ごめん。実は僕もそんなに持ってないんだよぉ……。この間新しい家を建てるのにお金使っちゃったんだ……。このブーツ位なら買えるけど……」


 うぁ~……全然足りませんね……。


 せっかく来たのにこのままでは手ぶらで帰ることになりそうです。


 私は指輪の性能をウィンドウに表示しました。……盗難防止に追加行動、速度アップに各種属性耐性まで付いています。いくつかの状態異常を無効にする効果も付いているので、絶対に欲しいんですけどねぇ……。


 そうやって眺めていると、ヒビキさんはニコリと笑顔を見せました。


「けれど、ここまで来てもらって満足できないで帰らせるというのは、ボクも望んではいません。……ですので、取引をしませんか?」


 取引……と、言いますと?


 私は恐る恐る聞き返しました。

 内容はわかりませんが、防具を買うことができたのなら万々歳です。私は更に強くなることができるでしょう。


 ですので、その取引には乗る価値があります。多少痛い目を見ても構いません……!


 そう覚悟を決めた私に、ヒビキさんは爽やかな顔をして、こう言ったのでした。



「尻尾を……モフらせてください」



 ……子猫先輩、帰りましょう。


 私は立ち上がって、お店の出口に向かいました。変態に付き合う趣味は無いのです。


「ま、まってください! ちょっとだけ! ちょっとだけですから! モフモフさせてくださいよぉ!」


 ヒビキさんは帰る私の足にしがみついて来ました。……ええい! 離しなさいな! ホントに変態だとは思いませんでしたよ! 私、男の人に触らせるの嫌なんです~!


 振りほどこうと足掻きますが、中々離れてくれません。しつこい!


「ほ、欲しいもの全部タダでいいです。ですからモフらせてください。狐さんの尻尾を触りたいんですよ、ボクは……! モフモフ成分を摂取させてくださいよ……!」


 くぅ……!


 全部タダと言われるとちょっと心が揺らぎます……しかし! 私はそんなに安いモフモフでは無いのです!


 でも、全部かぁ……。


「ポロラ! 騙されちゃダメだよ! ヒビキくんはイヤらしい触り方してくるからね!」


「ふっ……。みーさん、誤解です。ボクは猫の喜ぶ場所をトントンしただけです。決して変な事を考えていた訳では……」


「でも、猫吸いもしたよね? かなり引いたよ? あれは。だから僕、君の前では子猫の姿にならないって……わかってる?」


 ぴゅ~。


 ヒビキさんは両手で耳を塞ぎながら、口笛を吹きました。露骨に何も聞こえないふりをしているようです。


 どうやらこの変態メイドさんは相当やらかしている方のようでした。

 しかし、ちょっと我慢すれば、あの素晴らしい装備が手にはいると思うと、私にも思うところがあったのです。


 ……ヒビキさん。そんなに私の尻尾を堪能したいのですか?


 そう質問すると、彼はすぐに首を縦にふりました。


 ふぅ……わかりました。しかし、条件があります。


 今から貴方をもふもふ地獄に招待しますが、決して自分から動いては行けません。おさわりも無しです。私に全て任せてください。


 ……いいですね?


「もちろんです。あ、みーさんにしたように3本でモフらせてくれたら、更にオマケします」


 子猫先輩にモフモフしたの見ていたのですか?

 ……まぁ、よいでしょう。大した問題ではありませんからね。そんな事よりも……さぁ、いきますよ?


 私はそう言って『妖狐の黒籠手』を起動させました。尻尾が3本に増え、獲物を求めて蠢きます。


 ……モフモフに、溺れるのですよぉーーー!!



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 おぉ~! 結構いい感じじゃないですかぁ!


 装備を整えて、更に着せ替えの洋服も貰った私は、鏡の前ではしゃいでいました。


 ……ま、まぁ、3分ほどヒビキさんを尻尾で撫でまわしましたが……気にしてはいけません。


 この完璧な狐娘さんを作れたのですからねぇ……!


 今の私は、上半身はおしゃれな感じのシャツに、腰には大きめのベルトを巻いています。ベルトにはポーションやスクロールがすぐに使えるように装備されていました。


 下半身はホットパンツに黒いタイツを合わせた感じです。後、ブーツ。


 とても動きやすく戦いやすい格好です。3分間もふられただけの価値はあるでしょう!


「とても似合ってますよ? どこからどう見ても、健康的な狐さんです。興奮します」


 ヒビキさんはスッキリした顔をしながらそう言いました。……ははは、なに言ってるんです? セクハラとして訴えますよ?


「残念だけど、これゲームの中では合法なんだよ……。にしても、いい感じになったね! これでクラン戦もバッチリだよ!」


 ふふっ、子猫先輩、そんな事……当たり前じゃないですか?


 けれども、これだけでは不安ですし、違うアイテムも見ていきますかね? ヒビキさん、いいですか?


「ん? あ、いいよいいよ。どんどん見ていって構わないさ。もう知らない仲じゃないしね。それと、ボクには敬語とかいらないから。今後ともよろしく」


 この変態め! でも、よろしくお願いします! ウィンドウを表示してくださいな!


 私は便利アイテムを見せるように要求しました。


「ポロラって、結構調子に乗るとこあるよね? 見ていて面白いけど、ほどほどにした方がいいよ?」


 子猫先輩は若干呆れているご様子です。……まぁまぁ、見返りが大きかったのですから、問題はありませんよ。


 それより、もっと見て回りましょうよ。もしかしたら、とんでもないお宝が……。っと、出た出た。


 ウィンドウが表示されたので、私はそこに目を落としました。……さぁて、どんなアイテムがありますかねー?





『プレイヤー『ワカバ』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迎撃に当たってください。邪神の力が復活します』





 ……は?


 私は表示された予想外の文章に、大きく目を見開きました。……え、この文章って、アレ……ですよね?


『測定中……』


『判明』


『種族『アマゾネス』。職業『グラップラー』。Lv3978……怠惰の《ワカバ》』


『クエストを開始します』


 私達は思わず声を失ってしまいました。……なぜこのタイミングでこんな事が起きるのですか?


 どうしてギフトを暴走させてしまったのか。

 ターゲットである私はここにいるはずなのに、そこまでして戦う理由があったのでしょうか。……私にはわかりません。


 しかし、倒すべき敵はわかりました。


 邪神だというのなら、倒しに行くしかありません。


 生まれ変わった私を……見せて差し上げますよ!


 私はそう叫び、地表に向かって駆け出したのでした……。



・アマゾネス

 金髪碧眼が特徴の、高い戦闘能力と美しい外観を兼ね備えた少女しかいない種族。プレイヤーにも人気が高く、街を見渡せば一人は見かける事が出きるだろう。ロリコン御用達の種族であることは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ