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『いたずらティターニア』

「暗殺だって言ったじゃないか! このお馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!」


「いてっ!」


 私達によって縛られたワッペさんは、メレーナさんのドロップキックをもろにくらい、蚊に刺された様な声を上げました。……まぁ、種族『妖精』は近接戦闘しない種族ですからね。攻撃されてもどうということは無いでしょう。


 ワッペさんが大講堂に乗り込んで来た後、クランメンバー達は一斉にワッペさんに襲い掛かり、その身柄を拘束しました。


 その様子を確認し、チップちゃんがメレーナさんに教えたときの反応と言ったら……。


 見ものでしたねぇ。


 なんでいうこと聞いてくれないの~! と言いながらテーブルの上で転げ回る妖精さんの姿は滑稽を極め、余裕そうな表情がガラガラと崩れているのを見るのは実に楽しいものでした。


 と、まぁ、そんな様子のメレーナさんでしたが、流石に自分のクランメンバーを放っておくことはできなかったようで、他の皆様達と一緒に大講堂にやって来ました。


 一斉に揃うトッププレイヤーの方々を前に、私達『ノラ』のクランメンバーにも動揺が……。


「やっぱり会議ぐだぐだになったなぁ」


「いつもの事じゃん」


「毎回誰かが暴走して終わるからな……」


 あ、走ってないですね~これ。いつも通りです、気が抜けております。


 にしても、トッププレイヤーの皆様方、隙が一切無いのがおっかないですね。今挑んでも速攻で返り討ちにあう未来が見えるようです。


 目をつけられても怖いので、すみっこで大人しくしておきま……こゃん!?


 この場を移動しようとした私は、とある視線に気付き身体を硬直させました。


 まるで、獲物を見定めるような、目標を見つけた悦びを含んだような、そんなゾクリとする飢えた獣の視線を感じたのです。


 まさか……新手ですか!


 私は構えを取って、黒籠手を起動しました。そして、視線を感じた方に向き直ったのですが……。


「狐さんだぁ……」


 そこには、ガチレズと言われていた、『銀眼』のエルフ、ケルティさんが目をキラキラさせていたのでした。……ひぇ。


「尻尾が3本もある……。ちょっと強気だけど、チョロそう……。でも凄い警戒してる……。嫌いじゃないなー……しかも、モフモフぅ……」


 私、狙われてる!?


 や、やばいですよ!?

 私にそんな趣味はありません。普通に異性にしかそういった恋愛感情は抱きませんからね?

 同性に抱くのは友情くらいです!


 しかもケルティさんの目は普通じゃ無いです! 性的にこちらを見ていますよ! まるで舐め回すようです! 怖いんですけど!?


 逃げなければ!


 そう思い立ち、回れ右をした私の目の前に、超スピードでケルティさんが回り込みます。……速すぎ!?


「ねね! アナタがポロラちゃん? 噂通り尻尾凄いね~、ちょっとお姉さんとお話ししない?」


 エルフさんに両手を挟み込む感じに掴まれて、私は逃げれなくなってしまいました。どうやらチップちゃんとは違う意味で食べられちゃうみたいです。悲しい……。


 い……いえ、狙われている身の上ですので……一緒にいますとご迷惑をかけますから、失礼させていただきます。


 私は、ケルティさんは話せばわかってくれる方だと信じてそう言いました。


「んー……そうなの? 無理矢理っていうのはケルティちゃんの流儀に反するし、仕方ないかぁ……」


 本当にわかってくれた!?


 予想外の常識さに、私は驚いてしまいました。言葉って偉大ですね。


「じゃあさ、後で私のお店に来てよ! これサービス券だから! それじゃ!」


 そう言い残し、ケルティさんは目にも止まらぬスピードで去って行きました。……?


 どうしたんですかね? いきなり慌てちゃって?


「……ポロラ、何か変な事されなかったか?」


 不思議に思っていると、こちらに向かってチップちゃんが歩いてきました。なるほど、彼女を見て逃げ出したのですね……。


 あ、大丈夫ですよ? 話せばわかる人でしたし。強いて言うのなら、お店のサービス券とやらを貰ったくらいです。


「それならいいけど……気を付けてな、アタシ前ケルティに睡眠薬を盛られそうになったことがあったから」


 それを聞いたとたん、私の背中に寒気の様な物がぞぞぞっと走りました。……サービス券を貰ったのはいいですが、そんな人が経営している場所に行ったら、どんな事をされるかわかりませんってば。というか絶対エッチなお店ですよね? ここ?


 行かなかったら行かなかったで、何をされるかわかりませんし……。


 もしもの時は助けてくださいね……チップちゃん……。


「あ、うん。何とかする……」


 そういえばチップちゃんも狙われていたのでした。我々はレズエルフの魔の手から逃げることはできないのでしょうか……。こゃ~ん……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「……さて、待たせちまったね」


 ウィンドウの前には、未だに縛られたままのワッペさんと、お説教が終わり平静を取り戻した様子のメレーナさんがいました。


 私達はお二人を囲むようにして、彼女の次の言葉を待っています。……私の暗殺は無かった事になったりしませんかね?


「まず、せっかくの会議を途中でぐだぐだにしたことを侘びるよ。……悪かったねぇ、そんなつもりは微塵も無かったんだ。許しておくれ」


 そう言いながら、メレーナさんはペコリと頭を下げました。


 真摯な姿勢に驚いたのか、周りにいた方々も驚いた様で、ざわざわと動揺しているようです。


「あ、今回はよ、俺の暴走だから姉御は関係ねぇぜ! 姉御は今日の会議めっちゃ楽しみにしてたからな! 傍目からもウキウキしてたのがわかる位だったわ!」


 縛られているワッペさんが、ぎゃははははは、と笑いながら要らない事を言いました。……相変わらずお馬鹿さんですね、


 すると、メレーナさんは鬼の様な表情をして彼に振り返り、その細い腕を伸ばしました。


「ちょ!? なんでだよ!? 死にたくな」


 ワッペさんの叫びは、まるで動画の停止ボタンを押した様にピタリと止まりました。

 そして、メレーナさんの手元にピンク色の何かが現れ、落下してグシャリと潰れます。……な、なんですか、あれ? モザイク処理がかかっていたのですが……。


 後、ついでにワッペさんも弾けてミンチになりましたけど。え? 死んだんです?


 私が困惑していると、隣にいた自称お兄ちゃんの一人が、私の目の前に立ちました。


「ポロラ……今の、見たか?」


 い、いえ。

 何故かモザイク処理が掛かっていたので……。


「そうか。……落ちて潰れたのはワッペとかいう奴の脳ミソだ。相手の臓器をアイテムとして盗む……それが奴の能力だ。奴の視界に入るな……相当キレてやがる……」


 ボソボソと、自称お兄ちゃんは私に向かいメレーナさんの能力を説明してくれました。


 目に移った相手をアイテムとして盗む事ができる……?


 そんなの、反則ですよ。


 誰だって、何だって、殺すことができてしまうじゃないですか。脳ミソや心臓を盗まれて、生きていられる生物なんて存在しません。


 どうやって……勝てばいいと言うのですか……!


「あー……、見苦しいものを見せちまったよぉ。重ね重ね悪いねぇ。……さぁて、それで、これからの話をしようじゃないか」


 メレーナさんは、私に両手を向けてニヤリとした笑みを浮かべます。


「クランへの襲撃、コイツは許される事じゃないねぇ。これじゃあ、クラン対クランの話になっちまう。……けど、依頼を受けた以上、目標への攻撃は止められないねぇ」


 私はその言葉を聞いて、自称お兄ちゃんを押し退けて、前に出ました。……はっ、そうですか。なら殺せば良いでしょう。私は逃げも隠れもしません。


 さぁ、殺し合いましょう。これは私と貴方達の問題です。他の方々は関係ありません。



 掛かって……きなさいなぁ!!



 私は叫びながら、黒籠手を起動状態にし、いつでも妖精さんの首を刈り取る準備をします。


 そんな様子を見て、メレーナさんは……。


「へぇ……思っていた以上に、悪くないねぇ。いいよ、アンタ。気に入ったよぅ」


 まったく、危機感というものを持っていないようで、とても楽しそうな顔を見せました。


 私はそれを見て、迷いなく彼女に襲い掛かります。もう我慢の限界です。



 けれども、そう上手くいく筈もなく。



 私は、第三者の目線で妖精さんに襲いかかる、私自身の姿を見ていました。


 メレーナさんの手元に、新しい血塗れの何かが現れると、私の身体はすぐに崩れてしまいます。

 その後、自称お兄ちゃんと黒子くんが動きますが……語るまでもありません。


 全員、心臓を盗みとられて死んでしまいました。なにしてんですか! もぅー!


「メレーナ……それは……!」


 あわててチップちゃんが駆け寄ると、メレーナさんは先程とは裏腹に楽しそうに笑いだしました。


「カカかっ!! これは私からの宣戦布告さ……! いいじゃないか、クラン戦! やってやるよぅ!!」


 メレーナさんに残っているクランメンバーが襲い掛かりますが、次々とミンチになって死んでいきます。


「もし『紳士隊』が勝ったときには、そっちの優秀な奴ら貰うよ! 精々頑張るんだねぇ!」


 ……調子に乗るんじゃ無いんですよう!! 頑張ってチップちゃん!


 そんな感じで、応援を送りますが……頼りのチップちゃんも、いきなり膝をついてその場に倒れました。その手には銃が握られていましたが、引き金は引かれることなく彼女はミンチになってしまいます。


 気がつけば、メレーナさんの手には、赤黒い臓器がありまして━━━━。


 私達ははなにもできずミンチになってしまったのです。

 圧倒的な力に、私は茫然としてしまいました。高笑いする妖精さんの声が耳に残る様に響きます。


 ……え? この人に勝てる方法ってあるんです?


 私は、そんな疑問と共に、ログアウトせざるを得ないのでした……。

・『いたずらティターニア』

 プレイヤー『メレーナ』の『プレゼント』。黙視した対象のアイテムを距離関係無く強奪できる。相手の身体もアイテムとして認識できれば盗む事ができるが、重すぎる物、構造が理解できない物は盗めない。しかしながら、直接触れる事ができれば、確実に命を奪う事ができる。……が、致命的な弱点が存在する。その説明はまたの機会に。

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