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新人教育

 さて、いきなりですが私達が遊んでいるこのゲーム『Blessing of Lilia』、通称『リリア』の舞台について説明しましょう。


 この『リセニング』という世界のとある国、『アミレイド』が私達が冒険している舞台となっております。


 そして、私の減罪の為に受けた今回の任務の目的は、『アミレイド』の『ビギニスート』という街まで、NPCの商人さんと新米のプレイヤー達を護衛する、というもので。


 運が良ければ何も起こらない楽なクエストです。NPCの盗賊さん達にも、お休みは必要という事ですね。


 なので、私の主たる任務は……。


 馬車の中ではしゃいでいる新米ウジ虫達の調教という事になりますねぇ……!


 ニコり。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 護衛対象の商人さんのご好意で用意してもらった馬車から、ウジ虫さん達を引きずり下ろし、私達は目的地に向け街道をゆっくりと歩いていました。


 辺りは見通しが良い草原が広がっており、何かが襲って来たのなら嫌でも気付くでしょう。……おや。

 軽くなった馬車を引くお馬さんが眠そうな顔をしていて、とても癒されますねぇ。平和です。


「な、なんだよ!? なんでぼく達を馬車から下ろしたんだ! アンタがぼく達を護衛してくれるんじゃないのかよ!」


 新米ウジ虫三名の内の一人が吠えました。


 振り返って確認してみると、どうやらエルフの男性が騒いでいたようですね。魔法使いみたいです。長い耳とやたらと美形な顔をしております。


 他の二人は金髪と可愛らしい見た目が特徴のアマゾネスの戦士ちゃんと、ゴツい猪頭のオークさんですね。……オークさん点数高いなぁ。将来が楽しみです。


 と、私がオークさんの出来の良さに感心していると、再びエルフ君が怒鳴りました。


「お前『ノラ』から派遣されたんだよな!? ネットには便利な傭兵集団って書いてたのに……クソ、騙された!」


 ハァ? サボってたくせに何を言っているのですか? 貴方は?


 私は生意気なエルフ虫さんの首根っこを掴んで持ち上げました。レベルとステータスの差があるからできる芸当ですね。強くなった気がします。


「な、なんだよ……! やる気か……!?」


 なにかイキっているようですが、私には関係ありません。そのまま街道を歩くことにしましょう。……すいませんね商人さん。この子達まだ新米でして。


 ペコリと頭を下げると、商人さんは馬の手綱を持ちながら笑っていました。


「いやいや、若いもんはそのぐらいが丁度良いと思いますがのう。少し生意気なくらいが可愛いもんですじゃ……」


 なんとお優しい。


 ホラ、耳長ウジ虫、今の言葉を聞きましたか? 私の護衛対象ははした金も持っていない貴方達かもしれませんが、貴方達が守らなければならないのはこの商人のご老人です。


 立場をわきまえなさいっての。


「う、ウジ虫ぃ!? お、おい! シードン! 何とかしてくれ! コイツ頭おかしいぞ!」


 情けない声そう叫ぶと、オークさんが私の隣に並びました。……ほぉ、やる気ですかね? 味方の危機にどう立ち回るのか見せてもらいましょうか。


 私がそんな事を考えていると、オークさんはゆっくりと口を開きました。


「コルシェを離してはくれませんか……? 怠けていた事についての謝罪はこちらからいたします。自分達が護衛される側だと勘違いしておりました。申し訳ありません」


 ……いいオークだ。


 コルシェ……もとい、耳長ウジ虫さんの事を心配しつつ、私に謝罪をしてくる真摯な姿勢は評価に値します。


 わかりました。オークさんに免じて今は目を瞑ってあげましょう。キリキリ働くのですよ。……っと、言いたいところですが。


 今回、私は貴方達の教育係……というよりも、仕事としてこのゲームについて説明することになっているのですが……何か聞いていましたか?


 私の質問に、首を捕まれたままのウジ虫さんが答えます。


「そ、そうだ! それだよ! 初心者だって言ったら『教育者として最適な人材を送る』って言われたんだ! なのに……話が違う!」


 あー、それはその通りですねぇ。話が違います。

 厳密に言えば、私は貴方達の教育係ではありません。あくまでも、協力者という立ち位置です。貴方達の言う事を聞くようには言われていません。


 なので、何の代償も無しに親切にしてもらえるとか、そんな甘ったるいお話はありませんよ? 出すものを出すとか、そちらの態度を改めてもらわないと……。特にお金とか……。


「え、で、でも『ノラ』のコボルトさんは初心者講習分のお金はサービスだって……」


 私の要求に対し、金髪ちゃんが困った様子でそう言いました。……そういえば、私しばらくタダ働きってお話でしたね。しっかりしてますねぇ、チャイムさんは。


 私は耳長ウジ虫をオークさんに引き渡すと、くるりと三人に振り返りました。


 っち……それでは、仕事なので仕方なく、貴方達に教育をしていくことににしましょう。


 私がそう言うと、耳長ウジ虫さんは訝しげな顔をしました。何かが言いたいことがあるようです。


「ほ……本気で嫌そうだ……」


 気のせいです。


 言いがかりを否定した私は、街道を進みながら教育を始めました。


 まず自己紹介。私の名前は『ポロラ』と言います。さて、念のため確認しておきますが……皆さん、ストーリーモードはクリアしましたか?


「?」


 わりと大事な質問だったのですが、三人は不思議そうな顔をしています。……あーはいはい。そうですよね、結構面倒ですから普通はやろうと思いませんよね。


「ああ……そういえば、国営ギルドにて昔のクエストを受けることができると聞いたことがあります。それの事ですか?」


 良いですね、オークさん。


 今の『リリア』は、第2部、と言われています。

 先輩プレイヤーさん達は戦争を乗り越えて、第1部と言われていた、当時の世界のユニークモンスター達を根絶やしにしました。

 運営が用意した6体の邪神達を打ち倒し、一度はこの世界に平穏をもたらしたのです。


 かの有名な『魔王軍』のお話ですね。


 そんな彼らが駆け抜けた第1部を追体験できるのが、国営ギルドに設置してある『夢見の扉』です。


 その世界のプレイヤーは一緒に入った人数だけになります。つまり、誰にも邪魔されずに安定したレベル上げとスキル強化が仲間と協力してできるのです。


 このゲームはMMOですので、先駆者が強いのは当然です。しかし、彼等が経験したイベントやクエストを追体験することで、貴方達も今よりは強くなることができるでしょう。


 そして、最も重要な事は……邪神達と戦うことができるということです。


「はい、ポロラさん。質問があります」


 後ろを振り向くと金髪ちゃんが手を上げて自己主張をしていました。


「先程から仰っている『邪神』とはなんの事ですか? 女神様の事は知っていますが、邪神っていうワードは初めてききました」


 あ、そこからですか?


 ……まぁ、深くは考えなくとも問題はありませんよ。この世界に点在していたユニークモンスターとでも思っていてください。


 しかしながら、我々プレイヤーは邪神を打ち倒す事により、彼等の能力の一端を扱うことができるようになりますので、とても重要な話です。倒すだけで強くなれるのですから。


 もらえる力は『ギフト』と呼ばれる強力な力を持ったスキルです。これを持っているかいないかでは、全く戦い方が変わってきます。……これについては知っていますか?


 そう確認すると、耳長ウジ虫さんが声を張り上げました。


「知ってるよそんぐらい! 『プレゼント』に追加されるスキルの事だろ! 教育者だっていうのならもっとまともな情報を……」


 ウジ虫ぃ!


 私は生意気な口を聞いた耳長ウジ虫さんの肩口を狙って、生成した短槍を投擲しました。もちろん急所は外してあるので、ご心配なさらず。


「ぎゃああああ!? な、何すんだよぅ!?」


 短槍が肩を貫通して、耳長ウジ虫さんは驚いているようです。


 追加で良いことを教えましょう……。口の聞き方には気をつけなさい。


 これはオンラインゲームです。NPCさん達のAIが優秀で、実は皆NPCなのではと思うこともあるでしょうが、プレイヤーの中には必ず中の人がいるのです。


 礼儀をわきまえなさい。……殺しますよ?


 ニコり。


 三人に見えるように笑顔を作ると、彼等の顔が蒼白にそまります。


 ……ちなみに、この笑顔もスキルの一つでして。今まで殺してきたプレイヤーの数に比例して、対象に強力な恐怖状態を付与する事ができるのです。


「え……それってどういう……」


 私は金髪ちゃんの言葉をスルーして向き直ると、再び街道を進み始めました。


 ……幸い、今から貴方達が向かうビギニスートにも国営ギルドはあります。街についたのなら、夢見の扉を使い鍛えるといいでしょう。


 そう伝えた後、『子狐の黒手袋』の能力を解除し元の手袋の状態に戻しました。能力を解除するだけなら遠隔操作ができるのが、私の『プレゼント』の強みです。私の手に黒い手袋が装備されます。


 ……さて、ここで少し止まりましょうか。


 私はあることに気付き、馬車を止めさせました。耳長ウジ虫さんの治療もしなければならないので、丁度いいタイミングです。


「どうしたのですか?」


 治療をしているオークさんが不思議そうな声で私に尋ねました。


 いえ、貴方達が何をしなければならないかは先程教えましたので、今度はこのゲームのPLについて教育して上げようかと思います。


 私は再び『子狐の黒手袋』を発動させ、1丁の狙撃銃を作り出しました。そして、街道の先から走ってくる一団を睨み付けます。


 ターゲット機能を使い確認すると、馬に乗った5名のPLのようです。……狙撃銃のスコープで確認したところ、手には武器を携えているのがわかりました。


「む。襲撃ですかな? それでは冒険者さん方、よろしくお願いします……」


 そう言い残し、商人の老人は馬車の中に引っ込みました。絶対彼等よりは強いはずなのですがね……。一緒に戦ってくはくれませんか。


「は? なんでプレイヤーがクエスト中のぼく達を狙うんだよ!? 普通、MMOとかってプレイヤーキルは禁止されているんじゃ……」


 あ、このゲームにそんなルールはありませんよ。


 肩を辛そうに押さえている耳長ウジ虫さんに、私は現実を突きつけます。


 弱ければ誰かが助けてくれる、プレイヤーキラーも見逃してくれる、運営が対策してくれる……そんな不自由はこのゲームに存在しません。


 弱ければ搾取される。当然の話ではないですか。


 私は狙撃銃を構えると、先頭を走っている敵ウジ虫さんに狙いを定め……引き金を引きました。


 耳をつんざくような炸裂音が響いた後、弾丸は狙った通りに飛んでいき、馬上のウジ虫さんの頭蓋を吹き飛ばします。……後4人。


 仲間の一人が死んだことに気付き、一瞬、周りのウジ虫さん達の動きが止まります。

 あからさまな隙を作ってくれたことに感謝しながら、弾丸を再装填。


 空になった薬莢を銃身から排出し、それが地面に落ちる前に、再び引き金に指をかけ炸裂音を響かせます。


 二人目の脳漿が撒き散らされた事により、彼等は自分達の状況に気づいたようで。


 先程よりも激しく砂埃を巻き上げながら、残った3名はこちらに向かって馬を走らせてきました。


「っく! シーラ、コルシェは頼んだ!」


 両手に小斧を持ち、オークさんが私の隣に立ちました。私的に槍やこん棒の方が似合っていると思ったのですが……良いですね、両手に斧。蛮族って感じが。


 ですが……。


 オークさん。貴方も下がりなさい。そしてしっかりとこの戦闘を見ているのです。レベル差を考えなさい。


「……わかりました。しかしながら支援はさせていただきます……!」


 そういいながらオークさんは一歩下がり構えを取りました。覚悟は決まっているようです。


 良いでしょう、『プレゼント』を使いなさい。それなら奴等にも、一撃ぐらいは、良いのをいれることができるかもしれません。


 私の指示にオークさんはコクりと頷きました。



 さて、お仕事ですからね、仕方がありません。可愛らしい狐娘さんとしては戦闘なんてしたくなかったのですが……。


 ウジ虫さんが湧いたのなら、処理しなければなりませんねぇ……!

・ギフト

 夢見の扉で邪神を倒すことにより得ることができる特殊なスキル。強力な効果を持っており、使いこなすことができれば更なる高みを目指すことができるだろう。

 尚、現在夢見の扉で取得できるギフトは以下の6つ。

『憤怒』

『怠惰』

『暴食』

『傲慢』

『嫉妬』

『色欲』

 これらの中から一つだけギフトを得ることができるが、どのギフトに適正があるかは邪神を倒すまではわからない。性格やプレゼントの効果によって適正が決まるという話もあるが細部不明。

 希にこの6つのギフトに適正の無い者もいる。

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[気になる点] 何で主人公は「」無しの地の文で会話してるの? 意味わからん。
2020/07/16 19:23 退会済み
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