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俺達は……お兄ちゃんだからな!

 はい! 見えました! 会議室!


 廊下を全力疾走で駆け抜けている私の視界に、会議室の扉が見えました。扉の前には、ヒビキさんというメイド人形さんが立っています。

 こちらの姿を確認すると、ギョっとした顔をして、私に向かって両腕を突きだしました。拒否のポーズです。


「わわわっ!? だ、誰ですか!? 今は会議中ですよ! お静かに……」


 ネカマは()せなさいな!


 人形さんが可愛らしく止めようとしていますが、私には関係ありません。

 その制止を無視して、扉に突っ込みます。


 そして、メレーナさんに向かって攻撃を……。


 仕掛けようとしましたが、会議室の扉を蹴破った私の前に現れたのは、先程まで居た大講堂の景色でした。


 何が起きたのか訳もわからず辺りをキョロキョロと見回しますが、他のクランメンバー達も急に現れた私の事を不思議そうな顔で見ています。


『なんだい。せっかく活きの良いのが来たと思ったのに……門前払いとは酷いんじゃないかい? ねぇ、チップちゃぁん?』


 大講堂のウィンドウの中で、妖精さんが笑っています。


『二つ名は『戦闘狂』だって? ……結構なことじゃないか。この間のクラン戦でも活躍していたそうだし、良い部下を見つけたねぇ?』


 どうやら私の情報は筒抜けらしいですね。まったく、いったい誰が教えたのやら。


 それよりも、さっきの瞬間移動。あれは恐らくチップちゃんの能力でしょう。

 きっと私が会議室を襲撃するのを察していたのだと思います。


 ちょうどチャットも飛んできたようですし。


『チップ 会議が終わるまでは大人しくしてて。クランで問題を起こしたのはこっちで問い詰めるから』


 ……むぅ。


 チップちゃんに迷惑をかけることは本意ではありません。会議をメチャクチャにするつもりもありませんでしたし。


 ちょっとメレーナさんの首を切り捨てて帰ろうとしたですし。


 仕方ないので、私は大人しくその場に座って成り行きを見守ることにしました。また突撃してもチップちゃんに移動させられるだけですしね。


 さて、ウィンドウの中では、チップちゃんがメレーナさんに対し、今の出来事について問いただしているようです。


『メレーナ。アタシの能力で何が起きてたかは把握できた。……お前、いつの間にウチの黒子に手を出していたんだ?』


『いつから、って聞かれると困るねぇ。別に仲間って訳ではないんだけど、強いて言うなら協力者ってところさ。アンタの所の黒子は情報収集に向いているから、何度かお願いして使っていたのさぁ』


 お願い……。


 嫌な言い方です。ニタニタとした笑みからその言葉が出てくると、まったく違う意味に感じられます。


『人ってのは弱味の一つや二つあるもんだからねぇ。良く働いてくれたよ。……ま、今回の襲撃でストレットの奴は開放してやるって約束だ。安心しなよぅ』


 やっぱ殺しにいきましょう。あの妖精さん、思っていた以上にクズみたいです。


 ピンで固定して標本にしてやりますよぉ……。


 そう思って立ち上がりますが、自称お兄ちゃんが止めに入りました。


「落ち着くんだ、ポロラ。今行ってもさっきの二の舞だぞ」


「ほら、イラつきを解消したいなら任せてくれ。俺はお兄ちゃんだからな。サンドバッグにでもなれる……」


「熱くなるのは構わないが、ここは冷静にいこう。チャンスは必ずくる!」


「ああ、弟の仇も取らねぇといけねぇしな」


「お兄ちゃん達はポロラの味方だぜ?」


 そして、死んだ方々も生き返って来たようです。私の周りに変態さん達が群がりました。……おや? 黒子くんはどうしたのですか?


 私は辺りを見回してみますが、彼の姿は見えませんでした。


 と、思っているとちらりと視界の端に黒子衣装が映ります。……あ、気まずいからって能力使って逃げてるのですね。怒ってないと言っているのに、まったく。


 まぁ、良いでしょう。

 ここは貴方達の意見を聞いて大人しくしておきます。周りもも黙ってはいないようですし。


 自称お兄ちゃん達が私を説得している間に、メレーナさんへ向かって声が上がります。


『メレーナ! 公共の施設及び他者のクランでの戦闘は御法度だろう! 何を考えているのだ!』


 チャイムさんが怒気を含んだ声で叫びました。……あ、そうじゃないですか。そのルールがありました。これは言い逃れできませんねぇ。


 これで言い分はこちらにあります。流石に最低限のルールは守っていただかないと困りますよ。当たり前です。


『そうだけど? そんな事言ったらさっきのアイツも国営ギルドで数人を血祭りにしたそうじゃないか。厳罰は与えたらしいけど』


 ギクッ。


 た、確かにそんな事もしてましたね……。


「あったなー」


「長が制裁を加えたから、チャラになったものだと思っていたんだけどなー」


 自称お兄ちゃんがそんな事を呟きました。……皆さん覚えているのですね。


『しかも、やりあったのは仲間内じゃないか、私達のクランには関係のない話だねぇ。アンタら『ノラ』のイザコザなんて』


 あくまでも、今の戦闘は内輪揉めであると言いたいそうです。なめてますね。


『ふむ……メレーナちゃん、何が起きたかは判断できないが、相手を刺激するのは良くない事だ。それに、こんな時に争いの火種を撒くのも感心しないな。……なにか、目的が?』


 キーレスさんが落ち着いた様にそう質問しました。

 その態度は自分が中立の立場であることを示すためでしょう。他のソールドアウトの方々ではどちらかに肩入れしていると思われても仕方がありません。

 彼は彼なりに、この場を納めようとしているみたいです。


『目的ねぇ……。あえて言うのなら、一つは『戦闘狂』が狙われるような事をしていたのを、他のクランメンバーに知らしめるためさ。結構な数のプレイヤーがコイツに殺されているからねぇ。容赦なくやられたのがムカツクってさ』


 なるほど。

 私の今までの行いをクランメンバーに知らしめて、居場所を奪おうと言うわけですか。ですが、そんな事は無駄なんですよ……。


 なぜなら、私は無実だからです。


 ちょっと裏路地を歩いている方に切りかかったり、失礼な方の頭を潰したり、特定のプレイヤーさんを殺すために試行錯誤したりしていますが、それはこのゲームのプレイヤーなら常識の範囲内です。強くなる為の努力というやつです。


 だから、私に何一つ恥ずかしいところなどありません……!


 しかしながら、自称お兄ちゃん達はやれやれと言うように口を開きます。


「まぁ、ポロラだし……仕方のないところあるよね」


「基本的に反省とかしないもんな!」


「それでも、俺達はお前のお兄ちゃんだよ……」


 ええい! 貴方達はどっちの味方ですか! 怒りますよ!


 くぅ……、まさか身内にも敵が居たとは……。

 斯くなる上は、この場でおもいっきり能力を解放してしまいましょうか。この場にいる全員ミンチに……。


「でも知り合いには甘いとこあるよな」


「俺達がふざけても付き合ってくれるとことかさ……好きだよ」


 ……な!?


 近くにいたモブ虫さんがいきなりそんな事を言い始めます。び……。



 びょおおおおおおおお!! う、ぅ、うるさいですよ! 黙ってウィンドウの様子でも見てなさいな! 褒められても嬉しくないですから!



 いきなり、良い意味で、手のひらを返され恥ずかしくなった私は、思いっきり叫びまました。別に優しくないですー。ちょっと殺すのが遅れただけですー。


 と、私がひねくれていると、ウィンドウの中で動きがありました。


『後、ついさっきできた目的なんだけどねぇ。……ギフトカードの収集。新しい要素って言うのは、興味があるから』


 メレーナさんはニタァと笑みを浮かべると、2枚のカードを取り出しました。その身体と同じ位の大きさのカードを両手に一枚づつ持っていま……ん?


 あれ……。なんで彼女がギフトカードを?

 というか、あのカード、さっき私が回収した物と同じ物では?


「なっ……ポロラ! お前、アイテムボックスを確認しろ! さっきのギフトカード、ちゃんと持ってるか!?」


 先程、最後まで生き残った自称お兄ちゃんが私に向かって叫びます。……え? 何を言っているのです。当たり前じゃ…………、な、無い!? なんで!?


 アイテムボックスをウィンドウに表示して、一覧を確かめていきますが、ギフトカードという名前のアイテムはどこにもありません。


 スキルには『強盗』というアイテムを盗むスキルがあります。これを使われたと思うのが自然ですが、このスキルはすぐ近くのプレイヤーにしか使えません。それこそ、自分の手の届く範囲内です。


 だから、私は気づきました。


 これが、あの妖精の『プレゼント』だということに。


 遠隔で他人から物を盗む効果。

 それこそが、メレーナさんの『プレゼント』なのでしょう。実際の効果を食らったというのは、対抗策を考える上でとても役に立ちます。


 盗まれた物はしょうがありません。……が、得た物は有効に使わせてもらいますよ?


『……って、これ『暴食』と『傲慢』のギフトじゃないか。ぶっちゃけ、この二つは要らないから返却するよ。チップ、後であの狐に返しておいておくれ』


 って、要らないんですか!?


『え? あ、うん。……なぁ、メレーナ。お前はさ、アタシ達とクラン戦がしたいって訳じゃないんだよな?』


 チップちゃんが眉間に皺を寄せながらそう言いました。彼女は手元にウィンドウを表示しているようです。


 『プレゼント』で周囲の様子を確認しているのでしょう。


『あ? 当たり前だろ、私のクランは精鋭揃いだけど数が少なくてねぇ。真っ正面からアンタらと当たるのは御断りさ。……あくまでも、私達の目的はポロラっていうプレイヤーを殺し続けて追い詰める事。だから、クラン戦になる様な事はしないよぅ?』


 つまり、私だけが狙いであり、他のプレイヤーやクランには迷惑をかけるつもりは無い、ということですか。


 それならば、私がすることは一つです。


「……ポロラ? どうしたんだよ? さっきも言ったけど、会議室に特攻しても結果は変わらないぞ?」


 立ち上がった私に、自称お兄ちゃんが声をかけます。……わかっていますよ、そんな事。


 私もクランに迷惑をかけるつもりはありません。だから……今日限りでクランを脱隊します。


 その発言に、周りの皆さんが驚いた顔をしました。


 ……当たり前でしょう? 既に迷惑をかけているのです。これ以上は申し訳ありません。

 ですので、この騒動が収まるまでは『ノラ』とは縁を切りたいと思う次第です。


 ということで、私は姿を消します。お世話になりました。


 そう言って、ペコリと頭を下げると、周りの自称お兄ちゃんと黒子くんは、どっと笑い声を上げます。


 な、なんですか!?


「なに言ってんだ、ポロラ! お兄ちゃんも付き合うぜ!」


「妹の心配をするのも……お兄ちゃんの仕事だからな」


「水くさいことを言うな! 俺とポロラの仲だろうが!」


「もっと踏んでくれ」


「一人にできないさ。もっとお兄ちゃんを頼ってくていいんだよ?」


「お、オレだって! ねぇちゃんの役にたちたいし! 頑張るし!」


 貴方達っていう変態は……。


 私は、彼等の優しさに頭を抱えました。


 けれども、そう言われて断るのも失礼でしょう。ちょっと嬉しいですし。


 ……それならば、全員私の為に働いてもらいますよ! 『紳士隊』を打ち倒すまで、戦いは終わりません!


 やってやりましょう!


 私が皆さんを鼓舞すると、応っ!! という力強い答えが帰ってきました。どうやら、皆さん殺るきは満ちているそうです。


 ……が。


『なんかさ、『紳士隊』所属のワッペって奴が、勝手にクランの大講堂に向かっているんだけど……どういう事?』


 ウィンドウを見ていたチップちゃんは、不思議そうな顔をしていました。

 メレーナさんも、はいっ? みたいな顔をしています。


『は? ワッペ? うっそ……。そ、そんな事、たまたまクランに用事があっただけだろ? 今回のポロラ暗殺とは関係ないねぇ……。え……と……マジだよ?』


 めっちゃ動揺していますが?


 私達が不思議に思っていると、いきなり大講堂のドアが勢いよく開かれました。


 そこには見知った、戦士風の見た目のゴツい路地裏ウジ虫……ワッペさんが立っています。


「ポロラぁ……。お前を、『紳士隊』の命令で殺しに来たぜ! 正々堂々、惨たらしくぶっ殺すのが俺の流儀だぁ! 覚悟しなぁ!」


 ……。


 完全に、メレーナさんの予想を裏切る形で、『紳士隊』からの強襲がありました。


 クランにまで攻め混んできて、そんな発言をするというのは、私達全員に喧嘩を売ることと同義です。うーん、お馬鹿さんなのですかね?



 と、いうことで『ノラ』と『紳士隊』の戦いが、始まってしまうのでした……。


 とりあえず、ワッペさんは殺しておきましょうか。


・強盗

 指定したプレイヤー、NPCの所持アイテムを奪うスキル。スキルを使用すると、相手の装備している物の性能も確認できるので、敵の『プレゼント』の能力を確認することによく使われている。盗みがバレた際は、すぐに独房に送られるので注意。

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