表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/172

ドキドキクラン会議~偏食はいけない~

 6人の女神を統べる、この世界の主神『聖母のリリア』。


 見た目ゆるふわ系幼女の彼女が《強欲のリリア》と呼ばれている 最後の邪神であったという真実に、私は驚きを隠す事ができませんでした。


 しかも、私は彼女の敬虔なる信者です。……可愛いという理由で入信したのですが。


 動機はともかく、私にとって彼女に餌付けすることは、このゲームの楽しみの一つであり、強くなる為だけに殺すということはやりたくありません。


 というか、殺せません。流石に女神様は強すぎます。プレイヤーが何百人集まって、数日間戦い続けて倒せなかった、みたいな話もありますし。


 『強欲』のギフト……どんな効果だったのかは気になりますが、手に入れる事は諦めた方が良いですね……。


 ウィンドウに映る会議室は、子猫先輩の発表により荒れていました。


『ムチャゲー! なんで重要な部分を最高難易度にするんでござるか!? 女神様は無理ぃ!』


『あちゃあ、リリアちゃんと戦わなきゃ駄目かー。ベッドの中でなら勝てると思うんだけどナー……』


『全力を出せば……いや、幼女に手を出すのはボクのプライドが許さない……!』


『はっ、そりゃ無理だねぇ! やるだけ時間の無駄ってもんさ! 私は諦めることにするよぉ』


『ん!? リリア様が邪神だった事には全員スルーかい? 衝撃の真実にオジサンは驚いているのだけど!?』


 三者三様の反応を見せる中、何故かチップちゃんとチャイムさんのお二人は何も言わずに、黙っています。驚いている様子もありません。


『はいはい、皆の気持ちはわかるけれども、一回落ち着こうか。それに、『強欲』のギフトは特殊でね。別に邪神を討伐する事が取得条件じゃないよ?』


 子猫先輩の言葉に、ピタリと会議室の騒ぎが収まりました。


『というよりも、持っている人は既に持っている、って言った方がいい。……後の説明お願いしてもいいかな? チップ』


『……はい、大丈夫です』


 コクリと、チップちゃんは頷きました。……やはり、『強欲』のギフトについて何かを知っているようです。それはおそらくチャイムさんもなのでしょう。


『最初におかしいと思ったのは、ギフトを持っていない、取得する事のできないプレイヤーが居たことだった。……と、言ってもごく少数だったから、誰も気にして無かったんだけどな』


 ギフトを持っていないプレイヤーですか……。


 私もギフトを持っていません。

 正直言うと、さっきの話を聞いた後だと欲しいとも思いませんが……。


『そして、ギフトを持っていないプレイヤーは、『プレゼント』が強力……もしくはユニークな能力を持っている奴が多かったんだ。それこそ、ギフトなんていらないくらいに』


 ……もしかして、私のギフトは『強欲』なのでしょうか?

 強力と言えば傲慢かも知れませんが、他の人の能力と比べればユニークなものだと自負しています。


 しかし、この段階ではまだハッキリとは言えません。というか、遠回しにギフトいらないでしょ? みたいな事になってますね。


『そんなプレイヤーの一人の証言を記録した映像を流す。……きっと、コイツが一番真実を知っているんだろうけれど、今日は来てないからな。ウィンドウを切り替えるぞ』


 ……!


 今日来ていない人物といえば……。


 まさか……!?


 大講堂に表示されたウィンドウが一瞬乱れ、まったく違う様子が映し出されました。


 どこかの建物内部のようで、誰かの……おそらくチップちゃんの目線で映された映像みたいです。


 チップちゃんは階段を駆け上がっているらしく、目の前には上へと続く階段と……彼女から逃げる何かの影がありました。


『なんで!? なんで俺追われてんの!? なんかしましたっけぇ!?』


 追われている方は悲痛な叫びをあげますが、チップちゃんは何も言わずに彼を追い詰めて行きます。……声からして男性ですね。聞き覚えがある声です。


 階段を上りきると、目の前を走っていた彼は、くっ……、っと小さく声を漏らし。諦めたようにこちらに振り返りました。


 真っ黒な外套に、鋭い目付き、そして、忘れもしないその顔……。


 私の宿敵、『死神』のツキトさんでした。


『チップ……なんでだ、なんで俺をそこまで執拗に追い回す……。俺とお前は仲間だろうが……!』


 しかしながら、その表情には余裕がありません。顔は青ざめており、まるでチップちゃんを恐れているようです。


『今さら何言ってるんだよ? わかってるくせに……アタシとお前の仲じゃないか。そんな顔するなよ? まぁ、わからないっていうなら教えてやる……』


 ふふっ、と彼女が笑いました。


 ……。


 あ、この流れ私知っているかも……。



『あのさ、アタシ……お腹空いたんだ。だから……ツキトのこと、食べてもいい……よね?』



 やはり腹ペコでしたか……。

 どうやら、私の前はツキトさんが主な食料だったようです。少し気の毒ですね。少しですが。


 ツキトさんは食べられたく無いようで、必死に説得を試みます。


『だぁかぁらぁ! 俺を食う前になんか食えっつーの! 食堂とか行ってこいよ! お小遣いあげるから!』


『もうツキトじゃないとアタシの身体は満足できないんだよ! お前が最初に餌付けしたのが悪いんだからな! 飼い主として責任もってお世話しろよ! ご飯ちょーだい!』


『飼い主じゃねーし! じゃあ今から料理してやるからちょっと待ってろ、スキル使えば一瞬で……』


『もう限界なんだよ! とりあえず摘まみ食いさせて! ちょっとでいいから!』


 なんとなく知ってはいましたが、お二人は仲が良かったみたいですね。未だにお互いに武器を手にしない辺り、これがただの戯れということがわかります。


『わ、わかった! 満足できればいいんだな!? だったら、俺と同じぐらい美味しいプレイヤーの探し方を教えてやる! だから見逃してくれ!』


 げ、自分の命欲しさに他人に被害を押し付けようとしてますよ、この人。本当に最強なんですかね?


『……3分だけなら話聞いてやる』


 しかも、ツキトさんの命はインスタントラーメンと同程度らしいです。これからの説明で彼の評価が上がるかどうかが決まります。高級麺レベルになれれば良いですね。


『……そもそも、なんでお前が俺の事を補食したり、俺の手料理を食べたがったりする理由はわかるか?』


『いや、まったく』


 きゅるるるるー。


 お腹の虫が鳴いた音が聞こえました。ツキトさんにも聞こえた様で、彼の顔に汗が浮かびます。


『り、理由は俺が『強欲』のギフトを持っているからだ。少し前に、『プレゼント』は邪神の力を封じる機能があるって聞いたろ? ……あれだ』


 さっきの、邪神を封印するという話の事ですか。それが『強欲』の能力ということなのでしょう。しかし……。


『ああ、あったな。けれど、それはプレイヤー全員が最初から使えるって話だろ? 『強欲』のギフトはないって……』


 邪神を『プレゼント』に封印して、ギフトを得るという行為は、全てのプレイヤーに許されているはずです。

 それが『強欲』のギフトだと言うのは……ちょっと頂けません……。


 そんな風に考えていると、ツキトさんは馬鹿にするようにニヤリとした笑いを顔に浮かべました。


『そう、厳密にはギフトじゃねぇ。俺みたいなギフトが無いプレイヤーは、その『プレゼント』に備わっている『邪神の力を制御する機能』が強いんだ。つまり、ギフトを強化又は弱体化させる事ができる。しかも、リリア様にお願いすれば『プレゼント』にギフトの様な能力も付けてもらえるんだ』


 なるほど。

 彼はその機能こそ『強欲』のギフトだと言いたいそうです。


『……じゃあ、ツキトが美味しそうに見える理由は?』


『言っただろ? 俺のギフトは『ギフトを強化又は弱体化』できる。つまり、『暴食』もちのプレイヤーが『強欲』持ちのプレイヤーを食べた場合、普段以上の効果を出しつつ、ギフトの暴走を抑える事ができるんだ。つまり俺達はお前にとって最高の食材って事だな』


 つまり私も最高の食材なのですね……こゃ~ん……。


『リリア様に聞けば『強欲』持ちはすぐに見つかるはずだ! 俺だけが美味しい訳じゃない……! 偏食はいけないんだぞ……!』


 ちょっ!?


 事もあろうに、ツキトさんは他の『強欲』持ちのプレイヤーを食べるように促し始めました。……お前かぁ! 私が美味しそうな目で見られる理由は、貴方の仕業だったのですね! また殺す理由が増えましたよ!


 私は新たな因縁ができたことに憤慨しました。しかし、次のチップちゃんの一言で、その気も失せます。


『そうだったのかぁ。……で、ツキト。3分経ったんだけど?』


『……え? 食うの?』


『食べるよ?』


 ツキトさんはバッと身を翻し逃げようとします。しかし、チップちゃんは能力を使い、彼の目の前に瞬間移動しました。

 ウィンドウには、絶望の表情を浮かべたツキトさんが映っています……。



『じゃあ……いただきます』



 その映像の最後は、ツキトさんの絶叫で終わります。最後まで映ってはいませんでしたが……そういう事でしょう。


 ツキトさんも美味しく頂かれてしまったのです……。流石に同情してしまいます……。


 お互いに……強く生きましょうね……。


 そう考えながら手を合わせていると、ウィンドウが元の会議室の様子に戻りました。

 彼等も先程の様子を見ていた様で、皆さん顔がひきつっています。


 そんな中、チップちゃんは口を開きました。


『……まとめると、『強欲』持ちのプレイヤーは最初から無自覚にその能力を持っている。けれど、それをスキルとして使うためには、リリア様に強化して貰うよう頼むしかない……ということだな。強化しなくても、その場にいるだけで周りのプレイヤーに影響があるそうだ』


 いるだけで効果がある……ということは、『強欲』のギフトがあれば、他のギフトの暴走を止めることができるのでしょうか?

 それならば、プレイヤーにとってその能力は必要不可欠な物なのでは……?


『あー、チップちゃん。質問いいかね?』


 私が考えを巡らせていると、キーレスと名乗ったサイボーグさんが真面目な顔をして手を上げました。


 何を質問する気なのでしょうか? 聞きたいことは沢山あるのはわかります。

 しかし私としては、先ずはチップちゃんの話を最後まで聞くのが先決だと……。


『この会議、結構時間が経ってるけど、お腹減っていないかい……?』


 あ、それは大事ですね。とても大事。

 こんなところで、お腹が空いたなんて言い始めたら、どんな悲劇が起きるかわかりませんからね。


『はっ。キーレスさん、何言ってるんだよ? アタシもそこまで馬鹿じゃないさ。自分のコントロール位できる』


 笑いながらチップちゃんはそういいました。……そりゃそうですよね。大事な会議ですもの、ちゃんと準備してくるに決まっています。


 うちのリーダーを舐めないで欲しいですね。昔はさっきの映像の様に見境は無かったかも知れませんが、今のチップちゃんは違うのです!



『あ、ところで……、キーレスさん今日は美味しそうに見えるね。装備でも変えた?』



 チップちゃ~ん……。


 悲しいかな。

 彼女の口の端からは、キラキラと光る液体が漏れていたのです。それを見たキーレスさんは逃げ出しました。


 ……その後、子猫先輩が食事休憩を宣言し、現場は事なきを得ました。……仕方ありません。



 ここは……私の出番ですかね?



 私は覚悟を決め、チップちゃんのもとに急ぐのでした……。

・『暴食』持ちの好み

 別にプレイヤー毎に味が違う訳じゃない。気分の問題である。しかし『強欲』持ちは別。さらに言うと別腹。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ