ドキドキクラン会議~先ずは自己紹介から……~
『リリア』におけるトッププレイヤー達が集まった会議は、とりあえず自己紹介から始まる事になりました。……初っぱなからのぐだぐだ展開です。まともに終わる未来が見えません。
そんな私の心配をよそに、ウィンドウの中でチップちゃんの肩の上に乗った子猫先輩が声をあげます。
『じゃあ僕からね! 皆、久しぶり! 僕が……『魔王』だ! 今日は雑談も交えて色んな話をしていくよ! よろしくぅ! ……はい、次はチップの番ねー』
『え? アタシですか?』
さらっと自己紹介を終えた子猫先輩は、今度はチップちゃんが自己紹介をするように促します。
『時間も無いから僕から指名していくよ。所属クランと二つ名、名前くらいは言ってね』
『了解です、みー先輩。あー……クラン『ノラ』のリーダー『ガン・ドッグ』のチップだ。今回はウチのクランが遭遇した事案について話したい。よろしく頼む』
わーい、チップちゃ~ん。
少しかっこつけてキリッとした顔をしたチップちゃんに、私は一人盛り上がっていました。後で弄っちゃおうっと。
ところで、チップちゃんも自己紹介する必要あります?
「ポロラねぇちゃん、この放送はここだけじゃなく、色んなクランで見られてるんだ。だから、リーダーを知っている人だけが見ている訳じゃないんだよね」
私の疑問に、すぐ側で待機していた黒子くんが答えてくれました。……なるほど、そうだったのですね、ありがとうございます。
私はとても良い子な自称弟くんの頭をまた撫でてあげました。喜びに震えると良いでしょう。
「いいなぁ……」
その様子を見ていた自称お兄ちゃんの椅子が羨ましそうな声を出します。貴方はもう少し座り心地をよくしなさいな。
私は、椅子のお尻をスパーンと叩きました。すると、良い声を出して椅子の方は息が荒くなります。……なんか、楽しくなってきましたね。
さて、新しい扉が開くのを感じていると、ウィンドウの中では次の方が自己紹介を始めていました。
ツインテールと陶器の様に白い肌が特徴的なメイドさんですね。中性的な顔立ちの美人な方です……あれ?
よく見ると、変ですね。首の辺りに違和感を覚えます。
『種族ドール、商業クラン『オーダーメイド』の店主、ヒビキです。皆さんにとっては『ドールズ・メイド』という方が馴染みがあるかもしれませんね。今日はよろしくお願いいたします』
ああ、なるほど。
精巧に作られたお人形さんですか。首もとの違和感は間接部品のせいですね。……おや?
私がウィンドウに映されたヒビキさんについて考察を巡らせていると、周りから辛そうと言うか、苦しそうな声が聞こえてきました。どうしたのでしょう?
「彼は皆のトラウマだからな……。ポロラ、彼と関わりを持つな。絶対に。お兄ちゃん達との約束だ……頼む……」
え? あ、はい。
椅子の方がいきなり理性を取り戻したことに私は驚きつつ、そう返事をしました。というか、彼? 彼女では?
「ヒビキさんはネカマだよ、ねぇちゃん」
隠さないタイプのネカマですか……。
既にキャラが濃いのですが……、まだ私が知らない人の紹介は一人目ですよ? これ絶対自己紹介だけで胸焼けするレベルでしょ……。
しかしながら、次に映ったのはファンタジーで勇者のお供をしていそうな可憐な妖精さんです。
燃えるように赤い髪が特徴的ですね。おかしなところは見受けられません。
いいですよね。この可愛らしい姿を視ていると、子供の時の純粋な気持ちが擽られるようです。
妖精さんと一緒に楽しい冒険に出発するという、子供の夢が叶えられると思うと、少し思うものが……。
『よぉ……アンタ達、元気にやってたかい? クラン『紳士隊』のリーダー『裏切り者』のメレーナ様だぁ。忘れたとはいわせないよぉ?』
ニタリとした笑顔を張り付かせ、メレーナと名乗った妖精さんは威圧感たっぷりな自己紹介をしてくれました。……あ、思うものはなにも無いです。すいません。
にしても、この妖精さんガラ悪いですね。しかも、よりによってあの『紳士隊』のリーダーとか……。
「メレーナさんは前の『紳士隊』リーダーを引きずりおろして、その座を勝ち取ったんだって。その時に、クランの方向性がPKクランになったらしいよ」
黒子くんが私に教えてくれました。
そう、『紳士隊』はアサシン集団として有名なクランです。しかも、組織の名前だけ有名で、所属している人員は闇に包まれているという物騒なところだそうで。
そこのリーダーさんが、あの妖精さんなのですか……。関わりたくないですねぇ……。
私がため息を吐くと、またウィンドウが切り替わります。今度は軽戦士の装備を身につけたエルフの女性です。
長い髪と綺麗に輝く目が印象的で、どちらも綺麗な銀色をしておりました。……あ、流石にこの人は知ってます。有名な方です。
『銀眼』や『姫騎士』という二つ名を持ち、大剣による高速戦闘を得意とするプレイヤー……ケルティさんです。
私も、一度だけ彼女が街のNPCと戦っている姿を見たことがあります。
目にも止まらない剣技と、縦横無尽に飛び回って戦うその姿は、美しい見た目も相まって、思わず見とれてしまうものでした。
なるほど、あの方もソールドアウトの一人だったのですね。納得d……。
『やっほー! 『クラブ・ケルティ』のオーナー、ケルティちゃんだよー! 女の子限定のマッサージ屋さんをしているから、皆来てねー! あ、私と個人的に仲良くなりたい女の子は、会議が終わったらたくさん楽しもうね! 一夜の夢を見せてあげる!』
……。
え? 剣士じゃない? クラブのオーナー? え? どういうことです?
二つ名からは想像できない明るい挨拶をするケルティさんを見て、私は一瞬呆然してしまいました。
「あれ? ポロラねぇちゃん知らないの? ケルティさんはレズだよ。しかも見境なしの。多分、ポロラねぇちゃんも性的な意味で狙われてるから気をつけてね」
ええー……なにそれー……。
今まで紹介してきた人達全員ヤバイのしか居ないじゃないですか……。まともな思考回路を持っている方はいらっしゃらないのですか?
そして、私が知らない方で残っているのは、ダンディな見た目のオジサンサイボーグの方だけです。
この際、思考回路が生物じゃないことは置いておきましょう。
お願いします……! どうか、どうかマトモな方であって……!
『クラン『シリウス』リーダー、『侵略兵器』のキーレスだ。今日は招待してくれてありがとう、有意義な話し合いにしよう』
やりました。真人間です。
落ち着いた雰囲気に、短くまとめられた自己紹介。『侵略兵器』という二つ名は気になりますが……おそらく誇張されている呼ばれかたでしょう。
いやぁ、安心しましたよ。今までの感じだと『ペットショップ』の元幹部の方達はヤバイ人達しか居ないとしか思えませんでしたからね。
ちゃんとした方もいらっしゃったのですね~。
いやぁ、よかったよかった。
「おっと、それは違うぞ? キーレスは『ペットショップ』と同盟を結んでいたクランのリーダーだ。今回は客人として会議に参加してもらっているらしい」
待機していた自称お兄ちゃんが私の僅かな希望を全て吹き飛ばしてしまいました。……つまり、ソールドアウトの幹部達は皆さんアレな感じということなんですね。
まさか、全員危険人物とはまったく考えてもいませんでした。
だって、昔は全員同じクランにいたのでしょう? それだったら、最低限の協調性や他人を思いやる心みたいなのはあるはずじゃないですか。
なのに、いるのはトラウマメーカーやら殺し屋やらレズエルフやら……、問題児だらけです。
『あ、そこの犬と触手の自己紹介はいらないよねぇ? 厳密には元幹部とかクランのリーダーって訳じゃないし』
『いや、俺達も自己紹介したい……』
『相変わらず横暴でござぁ……』
早速、理不尽な発言をしたメレーナさんはタビノスケさんとチャイムさんから非難の目を向けられています。一触即発の空気が流れました。
『あぁ? 何だい、アンタら? お前らなんて犬のチャイムとキモ触手ぐらいの説明で事足りるだろ? これ以上いるかい? 死ぬか?』
反抗的な態度が気に食わなかったのか、メレーナさんはふんぞり返って手をぱきぽきと鳴らします。……やめて! 可愛い妖精さんの見た目でそんなことしないで!
私がメレーナさんの様子を嘆いていると、はいはい静かにー、と子猫先輩がその場を納めす。
『喧嘩しちゃダメだよ? あんまり好き勝手したら僕だって怒るからね?』
可愛く言っていますが、子猫先輩が言っている時点でただの脅しです。メレーナさんもそれを理解しているのか、舌打ちをしてぷいっと顔を背けました。
なるほど。
恐怖政治によって前のクランは成り立っていたのですね。そういえば、前にチップちゃんもそんなこと言ってましたし。
主に『死神』さんが頑張っていたそうですが。
『まぁ、いい加減本題に入りたいから、二人の自己紹介はカットするつもりだったんだけど』
『『!?』』
チャイムさんとタビノスケさんは、目がこぼれ落ちるのではないかと思うほどに驚いた表情で子猫先輩に振り返ります。よっぽど自己紹介がしたいようです。
『時間の都合上駄目です。……さて、それじゃあ早速本題に入っていこう』
しかし、子猫先輩は強行しました。お二人は残念そうにしています。ドンマイですねぇ。
『今回の邪神の力が復活する、というメッセージがウィンドウに表示された件について。これについて話し合いたい。……のだけれども、実のところ僕には心辺りがあるんだ』
おや、どうやら子猫先輩には今回の件について何か知っているみたいですね。
『そもそも、『ギフト』は『プレゼント』に封印した邪神の力を解放して使用しているスキルだ』
へー、そういう設定だったんですね。
私、ギフト使えないのであんまり調べた事なかったんですよ。
まぁ、邪神の力ということは知っていましたが……。
『そこでだ、君達は不思議に思ったことはないかい? ……ギフトは使えば使うほど、効果が強力になっていく。その力は、確かに封印されているにも関わらず、だ。この現象に疑問を持ったことは?』
子猫先輩の問いかけに、ウィンドウの中で一部の方はハッとしたような顔をしました。
『……ここにいる皆は知っていると思うけど、邪神は不滅の存在だ。魂まで殺すことは出来ない。『プレゼント』に封じ込めるしかない。そして、ギフトの力が強くなるという事はそういう事なんだろうと思う』
封じ込めている力が強くなる……それは……つまり……。
『ギフトを使えば使うほど、封印された邪神は力を取り戻していく。そして、最後には僕達の身体を使い復活する。それが、ギフトの真実だ』
なんと……。
つまり、ギフト持ちのプレイヤーは、邪神の依代だったということですか……。
子猫先輩の発表に、会場がざわつきました。
今まで使ってきた能力にそんな真実が隠されていたのですから、それは当然です。……しかし、それだと説明できない事もあります。
『みーさん。質問が……』
同じ事を思っていた様で、メイド人形さんが片腕を上げて口を開きます。
『プレイヤーが初めて手にしたギフトは『暴食』のはずです。使用頻度が多いか少ないかの違いはあると思いますが、説明が正しいのならば一番最初に目覚めるべき邪神は『暴食』なのでは?』
そう。そこなのです。
今回目覚めたのは『憤怒』のギフトでした。
タビノスケさんは良くギフトを使用している様なので、邪神の力が復活するのが早かったのかも知れませんが……。
それだったらチップちゃんもしょっちゅう『暴食』のギフトで何かしらをモグモグしています。
なのに、邪神の力が目覚めていないということは、どういう事なのでしょうか?
『ヒビキくん、君の言うとおりだ。今言った説明だけじゃ、ちょっとおかしいよね』
メイド人形さんの質問に対し、子猫先輩は待ってましたと言いたそうに目を細めました。
『なんで邪神の力の解放に差があるのか……、答えは簡単さ。力を更に封じ込める方法があるからだ。それは、『プレゼント』を作り出した存在、この世界を統べる最後の邪神の力……』
最後の邪神!?
私はその言葉に飛び付きました。……やっぱり7人目がいたのですね! 殺しに行かないと!
おかしいと思ったんですよねー、七つの大罪をなぞっているのに一つだけ足りないなんて……。
……って、え?
子猫先輩、なんて言いました?
『プレゼント』を作った? この世界を統べる?
いや、そんなのあの子しかいないんですけど……。でも、それは流石に……。
私が戸惑っていると、子猫先輩はハッキリと驚きの真実を言いました。
『『強欲』のギフト。『聖母のリリア』の……いや、《強欲のリリア》の力を持っていることだ』
子猫先輩が口にした最後の邪神の名前はあまりにも聞き覚えのある……。
私が信仰している女神様の名前なのでした……。
・《強欲のリリア》
過去に起きた神々の戦いを生き抜いた女神。後に女神と呼ばれる配下の少女達と共に、他の邪神を討ち滅ぼし、これを封印した。現在は信徒から『聖母のリリア』と呼ばれている。お菓子大好き。




