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猫ぱんちと猫アロー

「まったく! 失礼だよね! まるで僕が悪魔か何かみたいじゃないか! どうやったら僕が見境無く人殺しするような子猫に見えるのさ!」


 私の頭の上で『魔王』こと子猫先輩は憤慨しておりました。チャイムさんの対応がお気に召さなかったようです。


 なお、そのチャイムさんですが、子猫先輩による制裁の猫ぱんちにより空高く打ち上げられ、空中で暴発四散しました。一撃です……。


 ところで、あのコボルトさん、最近良いところありませんね。

 そのせいで、子猫先輩が強すぎるのか、チャイムさんが弱いのかハッキリしません。もっとマトモな比較対象を用意してくださいな。


 あっ、そうだ。本気モードタビノスケさんなら結構いい勝負できそうな気がしそうです。

 煽動して戦ってもらいましょうか。なんか、子猫先輩よりも強くなってやるでござるー、みたいな事言ってましたし。


 触手vs子猫……異色すぎる対戦カードですが面白そうですね。


 と、私の悪巧みは置いときまして……。


 子猫先輩、お怒りのところ失礼しますが、クランに到着しました。きっとチップちゃんも首を長くしてお待ちのはずですよ?


 私はそう言いながら、子猫先輩を胸に抱いてクランの扉を開きます。


「案内ありがとう! 『ノラ』の本部に来るのは初めてなんだよねー、さて、どんなのか……な……」


 傭兵クランで軍事基地みたいな感じで……無いですね……。


 何時もなら、簡素な作りのクランロビーがドアをくぐると同時に現れるのですが、今日は違っていました。


 まるで今からパーティーでもやるのではないかと言うように、ロビーはきらびやかに飾り付けられており、壁には『ノラにようこそ!』という張り紙が貼っていました。


 そして、壁紙の前にはコボルトさんと、彼を触手で絡めとり、声を荒げている珍妙な生物がおりました。

 チャイムさんとタビノスケさんですね。


「まぁたお主って子は! お使い一つ出来ないでござるか!? お仕置きでござる、触手に縛られて不様な彫像になるでござぁ!」


「俺がミーさんの攻撃を防げるわけ無いだろうが! あと、どんな縛りかたをしとるんだお前は! まじで恥ずかしい縛り方をするんじゃない! 誰かに見られたら……って、ポロラぁ!? や、やめろぅ! 見ないでくれぇ! みっともなく縛られた俺を見ないでくれぇ!」


「ほぅー? そういう感じでござるかぁ? ……ポロラ殿ぉ、良く見てあげるでござるよ! この駄犬の恥ずかしいところを、じっくり見てあげるでござる! こう見えて、コイツ実は嬉しがって…………あ、ミー殿おひさー……」


「え? しまった……」


 ふざけあっていたお二方は子猫先輩の姿を確認すると、人が変わった様に大人しくなりました。触手の拘束も外れ、困った様に二人は顔を見合わせます。

 少しして、彼等はガシッと肩と触手を組み交わしました。仲良しアピールのようです。


「君達さぁ……変わらないよね……」


 私の腕の中で子猫先輩がため息混じりに呟くと、私の目の前に直径2メートル程の魔方陣が現れました。


 魔法攻撃の兆候です。


 見ると子猫先輩はお二人に向かって前足をぴょこっと伸ばしていました。どうやら葬り去るおつもりですね。


 それを察したのか、お二人は一斉に口を開きました。


「ミー殿……今のはちょっとしたおふざけでござるよ? 仲間同士で殺しあっていたとかそんなのじゃないでござる。ちょっと万年発情期の犬っころにお仕置きをしてたとこでござぁ……」


「ミーさん……これは男同士のコミュニケーションというやつでして。お互いに馬鹿にしあうのも友情を確かめるためです。決して汚いものを見せようと思った訳では無くてですね? それと、タビノスケ、お前は後で殺す」


 い、言い訳が苦しすぎる……。


 正直に、変なものを見せてすいませんでしたと謝ればいいのに……、なんでそれが出来ないんですかね。彼等は。


「遺言はそれでオッケー? ……じゃ、タビくんから、『マジック・アロー』」


 子猫先輩が詠唱をすると、魔方陣から巨大な光の弾が飛び出しました。

 それはタビノスケさんに直撃し、体積の半分を吹き飛ばしてしまいます。そして残った触手はミンチになって弾け飛びました。……え? 一撃とかマジですか?


 ちなみに、『マジック・アロー』は初心者が始めに覚えるのをオススメされている、超初級魔法です。魔方陣から魔力の矢が飛び出る攻撃魔法で、それほど威力が無いはずなのですが……。


 『魔王』様には常識が通用しないようですね。猫アローです。


「た、タビノスケぇ! お前も一撃かぁ!?」


 隣で弾けた触手のお友達の姿を見てチャイムさんが叫びました。そして、再び魔方陣が展開されます。


 それを見てチャイムさんは逃げ出しますが……悲しいかな。このゲームの魔法は威力が弱い代わりに、必中かつ状態異常が強い仕様になっております。

 ですので、逃げてもまったく意味が無いということですね。


「はい『マジック・アロー』」


 子猫先輩の無慈悲な詠唱の元、チャイムさんは藻屑となって散りました。本日2回目の死亡、お疲れ様です……。



 ……。



 遺品の回収はアリですか?


「あ、全然アリだよ? というか基本だよね。わかってるぅ~!」


 流石は子猫先輩です。

 このゲームの醍醐味をよくわかっておられます。


 私はその言葉を聞いて安心しながらお二人の遺品をアイテムボックスに格納しました。


 トッププレイヤーの残骸……いいお金になりそうですねぇ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 お二人がドロップしたアイテムのヤバさにビビりながら、私は子猫先輩をチップちゃんの元まで送り届けた後、私はクランの大講堂へと足を運んでいました。


 なんか会議の様子を上映するらしいですよ? 大事なお知らせもあるので、できればクランの全員が見るようにとのお達しでした。


 私は変な方々に絡まれない場所を探して腰を下ろします。……椅子でも持ってくればよかったですかね?


 私はボソリと呟きました。


 別に体育座りでもいいんですけど、長い間座っていると尻尾が邪魔なのですよね。足を伸ばして座ると他の方の邪魔ですし……。


「ポロラ……お兄ちゃんが椅子になってやろうか? 妹の為ならなんにだって成れるのがお兄ちゃんだ」


 口は災いの元とはよく言ったものです。


 私の周りには既に自称お兄ちゃん達が集まっていました。少しお菓子をあげたくらいの関係なのですが、なんでこんな事になってしまったんですかね。


 ……いえ、体育座りで充分です。なので私の目の前で四つん這いになるのはやめてくださいな。


 私は奇行に走る自称お兄ちゃんを諌めました。こちらを奇異の目で見つめてくる一般のクランメンバーからの目が痛いのです……。


 自称お兄ちゃんは、そんな私の気持ちを理解してくれたのか、少し悲しそうな顔をして口を開きます。


「そうか……わかったよ。でも椅子になることをやめる代わりにお願いがある。一度で良いから、俺達の事をお兄ちゃんと呼んでくれないか……?」


 駄目ですね、まったく理解してくれてませんでした。


 私は椅子になることをやめさせるか、彼等をお兄ちゃんと呼ぶかで頭を抱えます。どちらを選んでも、彼等の奇行は止まらないでしょう。

 辛いです。


 なので、私は四つん這いになった自称お兄ちゃんの上に座ることにしました。……座り心地が悪いですね。じっとしていなさいな。


 私は思ったより快適じゃなかった事にイラっとして、椅子の頭を指でぴんっと弾きました。


「はい! ありがとうございます!」


 すると、椅子のお兄ちゃんはイキイキとした声で返事をします。なんか違う変態にランクアップしていません?


 まぁ、それはともかくとして……。


 来なさい。黒子くん。


「はい! ポロラねぇちゃん!」


 私が黒子くんを呼びながら手をぱんっぱんっと叩くと、いきなり目に前に一人の黒子が現れました。自称弟くんです。

 基本的にどこかに潜伏しているので、呼べば直ぐ来てくれることに最近気づきました。ストーカーでは無いことを祈ります。


 ……よく来てくれましたね。少し気になることがあるので質問がしたいのですがいいでしょうか?


 そう聞くと、黒子くんは少し困った様子を見せます。


「それは構わないけど……これどういう状況? ちょっと理解に苦しむ点がありすぎて目が回りそうなんだけど?」


 何も苦しむ点なんて無いですよ? 変態さん達がこれ以上おかしな事をしないための措置です。仕方の無いことということですね。


 ……で、そんな事はどうでもいいのですよ。

 会議の様子を上映するから集まるようにと言われましたが、いったい何について上映するのですか?

 というよりも、会議ってなんです?


「ああ、それはね……」


「それについては、俺が説明しよう!」


 黒子くんが説明しようとするのを遮って、周りで待機していた自称お兄ちゃんが私の前に立ちました。


「クラン『ペットショップ』では、定期的に幹部による会議が行われていたんだ。主な内容はイベントの告知やクランの運営状況の報告、攻略情報の共有等だな。今回の内容はわからないが、見ておいて損は無いだろう! きっとこれからの冒険の役に立つぞ!」


 へー、そうですか、ありがとうございます。


 私がお礼を言うと、少し暑苦しい感じの自称お兄ちゃんは元の位置に戻りました。


「……説明しようと思ったのに」


 そして、自分の出番を奪われた黒子くんが拗ねていました。……はいはい、そんな事でへそ曲げてどうするのですか。会議中にわからない事があったら質問しますから、期限を治してくださいよ。


 私は彼を自分の近くに座らせて、頭を撫でてあげました。よしよし……。


「……! わかったよ! ポロラねぇちゃん! 待機してるね!」


 黒子くんは明るく返事をしました。機嫌を治してくれたようです。


 さて、こんな私達のやり取りを見ていたクランメンバー達は、こちらを見ながらヒソヒソと何かを話しているようでした。


「やべぇよ……どんなプレイだよ……」


「あれだ、妲己だ。男を洗脳しているんだ……」


「テロ行為の次は洗脳か……ここまでくると、次はなにするか楽しみだな……」


 ……どうやら、殺害予定リストがまた増えてしまったようですね。びょおお……。


 私が不届き者達へと威嚇をしていると、講堂に巨大なウィンドウが現れました。会議が始まるようです。


 ウィンドウに映し出されたのは、大きな円卓を囲むプレイヤー達の姿でした。


 陶器の様な白い肌をした、中性的な顔立ちのメイドさん。


 将軍の様な軍服を着た、立派な身体の厳ついサイボーグの男性。


 可憐な姿と赤い髪が特徴的な、小さい妖精さん。


 銀色の髪と目が美しい、エルフの女性剣士。


 あ、ついでにチャイムさんとタビノスケさんもちゃっかり居ました。カメラ目線で良い顔をしています。


 彼等の姿が映された後、我らがリーダー、チップちゃんの姿がアップで映されました。


 その肩には子猫先輩が乗っています。


『さて、皆、久しぶり。こうやって会うことができてとても嬉しい……と、言いたいところだけれども……緊急事態だ』


 子猫先輩はとても楽しそうにそう言いました。


『先日のタビくんの件……あれは今まで観測されていなかった出来事だ。クランのリーダーをしている君達には、これについてしっかりと理解してもらわないといけない』


 ……いえ、実際に楽しいのでしょう。

 久々の仲間達との再会や、未知への驚異に対し思う存分語り合うということは。


『さぁ……会議を始めよう』


 子猫先輩がそう告げると、ウィンドウの中の方々に緊張が走るのを感じました。……トッププレイヤーの方々が会するこの会議、いったいどんなものになるのでしょうか……。


 画面の向こうから伝わってくる緊張に、私はゴクリと息を飲むのでした……。







『あ、とりあえず皆の自己紹介からいこうか。僕達の事知らない人もいるみたいだし』


『む、確かに』


『そうだねぇ。新規の奴等も多いし……やっとくかい?』


『ええ、ボクもそれで構いません』


『お、やりたいやりたーい!』


 ……結構気楽な会議になるみたいですね。

・飾り付け

 

タビノスケ「皆が集まるのに、何もしないのは性に合わないでござるなぁ……そうだ!」


タビ「この殺風景なクランを綺麗にしておくでござる! 拙者のおもてなしを見せてやるでござるよ~!」


 ノリノリで作業をしていたときにチャイムが死に戻り。お使いも出来ないワンコを見世物にしようとした模様。

 そして二人のミンチで汚れた飾りつけを見て、会議出席者は、変わらないなぁ、と懐かしい気持ちになったという……。

 

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