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来なかった宿敵と招かれた災厄

 そういえば、どこで会議するのか聞いてませんでした。


 クランの一室に引きこもり、薬物を調合していた私はその事に気付いてハッとしました。暗殺するにしても、場所を知らないと計画の立てようがありません。うっかりうっかり。


 まぁ、室内でしょうから毒物を散布するのはかなり効果的だと思いますし、今調合しているものは無駄にはならないはずなので大丈夫です。


 フラスコの中に入った液体が変色するを見ながら、私はニコりと笑顔を浮かべました。


 とは言え、暗殺する為に色々と確認して置くのは大事でしょう。私はチップちゃんにチャットを送ることにしました。


『ポロラ チップちゃん、チップちゃん。ソールドアウトの幹部が集まって会議するって聞きました。死神さんを殺したいのでご協力をお願いします。場所と時間を教えてくれません?』


 はい送信。


 ……はや!? もう返信帰ってきた!?


『チップ 会議は夜にうちのクランに集まってやるよ! いつもの会議室ね! でも、ツキトは来ないみたいな事聞いたな~』


 チャットでは素の対応をしてくれるみたいです。なんか、いきなりデレてくれたみたいで嬉しいですね。……って、え? 来ないのですか?


 『ツキト』というのは、確か『死神』さんのプレイヤーネームです。


 てっきり幹部達全員が集まるものだと思っていたのですが、当てが外れたようです。……どうしましょう、この毒薬。


 うーん……。


『ポロラ そうですかぁ……、残念です。ところで、使わない毒薬が出来上がったのですが、誰か買い手になってくれそうな人っていますかね?』


『チップ 何をしようとしてたの!? 私は良いけど、他の厄介な人に目をつけられたら大変だからね!?』


 怒られてしまいました……。


『ポロラ 誤解ですよー? そんな皆さんが居るとこで振り撒く訳ないじゃないですかー。一人きりになった所で苦しませながら殺すつもりだったんですよー』


『チップ ええ~? 本当に~? あまり目の付く行動をされると、私達も庇いきれないから気をつけてね? あと、毒薬欲しがっている人に心当たりは無いなぁ』


 そうですかぁ。わかりました、ありがとうございます……っと。


 チャットでのやり取りを終え、私は、んー……と唸りながら思考を巡らせました。


 どうしましょうかねー、信用できる方じゃないと変な使い方されそうで困りますし……。作ったのが私だと言い回されても困るんですよねぇ。


 耐性減少効果に加えて、毒、麻痺、眠りと三拍子揃った万能な薬です。


 この間、火炎瓶を大量に作っていたらスキル『錬金術』が成長して、作れる様になったんですよね。


 強そうなので、実際に試してみるか、試させて全ての罪を擦り付けようとしたかったのですが……。


 ……んー。


 害虫駆除にでも使ってみましょうか……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 コルクテッド、路地裏。


 ぶつぶつと文句を言いながら、推定犯罪者のウジ虫さんが歩いていました。


「くっそ……依頼ミスっただけで犯罪者落ちさせんじゃねぇよ……。あー……腹立つ」


 その方は、全身が緑色の鱗に覆われており、鋭い牙がその口から覗いていました。


 いわゆる『リザードマン』という種族の方ですね。トカゲさんです。


 さて、そんな緑色ウジ虫さんですが、どうやら目的地は国営ギルドのようです。複雑な作りの路地裏をすいすいと進んでいました。……どうやら馴れている方のようですね。


 まるで自分の庭と言わんばかりに闊歩するその姿には、警戒心というものを微塵も感じられません。


 しかし、すいすいと進んでいた緑色ウジ虫さんでしたが、曲がり角を曲がった瞬間にピタリと足を止めました。


「ああ? なんでここに壁があんだよ? ……あー、誰かが魔法で塞いたのか。めんっどくせぇなぁ」


 彼の目の前には壁があったのです。

 本来ならば通路になっている場所が通れない、マップと違う、というのはこのゲームでは良くあることで。

 大体は他のプレイヤーのイタズラですね。


 彼もそう考えた様で、鶴嘴をアイテムボックスから取り出して構えました。進めない道は掘って進む。このゲームのプレイヤーには常識です。


 しかし、振り下ろされた鶴嘴は壁に刺さることなく弾かれてしまいました。


「は!? なに!? 頑丈なタイプかよ! マジメンドクセェ! 仕方ねぇ、違う道から……は?」


 自分の思った通りに事が進まなかった緑色ウジ虫さんは不機嫌そうに振り返りました。……が。


 そこには先程通った道はなく、ただの壁があるだけでした。


 どういうことなのか、全く理解できていない様子で 緑色ウジ虫さんは壁に手を当てています。

 そんな彼の足元から、なにかが割れる音が聞こえました。


「な、なんだ? ……うっ、が 、これ、は……うぇが!?」


 苦しそうに喉を抑えながら、緑色ウジ虫さんは泡を吹いて白眼を剥き、その場に倒れてしまいました。


 そして、時間にして数分後……。


 彼の体はいきなりはじけてミンチになりました。……ふむ、効果は強いですが時間がかかりすぎですね。実戦に使うのは難しいでしょう。


 建物の屋根の上から、一連の状況を眺めていた私はため息をつきながら立ち上がりました。

 そして、壁に変化していた『妖狐の黒籠手』を解除しまします。


 毒が失くなった頃を見計らい、私は路地裏に降りました。……良いもの落としていないですね。死体とお金だけとはしけています。


 けれど、毒の効力が知れただけでもいいでしょう。


 しかし……私には合わないですね。ただじっくり待っているのは、私の性に合いません。

 毒薬、上手く使える気がするんですがねぇ……。


「おお~凄いじゃんか~。壁で毒から逃げれないように、毒の効果が広まらない様にしたんだね。それと、さっきの壁は『プレゼント』かな。やるじゃないか」


 ええ、もちろんです。


 まぁ、便利な能力ですy……誰です?


 私は声の聞こえた方に振り返ります。しかし、そこには誰もいませんでした。


 けれども、何かの気配を察知して、私は大爪を展開しました。……数本ですが、狭い路地裏で戦うのなら充分です。どこに隠れたのですか?


「わっ! そんな事もできるの! 凄いね! もっと見せてよ! ちょっと興味あるな!」


 ……それなら、姿を見せることですね。

 そうやって隠れていてはよく見えないでしょう。


 私は声の主に呼び掛けます。

 聞こえる方向は変わらないのにも関わらず、声の主は姿を表しません。

 一体、何が目的だと言うのですか……?


「え? なに言ってんの? ……ここだよ。こーこ! ちょっと視線を落として見てー!」


 どこ?


 私は言われた通りに視線を落とします。


 すると、足元に一匹の黒い子猫がいました。

 目をキラキラと輝かせながら、私の事をじっと見つめていたのです。純粋な瞳ですね……。


「やぁ! やっと気付いてくれたね! こんにちわ!」


 え……と、こんにちわ。子猫さん。


 私はペコリと頭を下げました。子猫さんもそれに合わせて頭を下げます。


 ……なんでしょう。何故かこの子猫さんを見た瞬間、戦う気が消えてしまいます。

 今まで色んな方と出会ってきましたが、初めてのタイプだと、私は感じました。


「邪魔しちゃってごめんね? 久々にこの街にきたんだけど迷っちゃったんだ。そしたら君と、君が狙っていた彼を見つけてね、面白そうだったからついていったんだけど……楽しかったよ! 良いもの見せてくれて、どうもありがとう!」


 それはどうも。


 私は軽い感じでお礼を述べた後、言葉を選びながら次の言葉を紡ぎます。


 ……えっと、子猫さん。私は先程の実験が終わったのでクランに帰ろうと思っています。遊び相手になって差し上げることはできません。


 けれども、私はこの街の住人、知らない場所はありません。迷っているというのなら、案内して差し上げますよ。どこに行きたいのですか?


 私はそう言いながら、子猫さんを両手で優しく抱き上げました。……ふふっ、ふわふわで可愛いですね。無害そうな方ですし、少し付き合ってあげてもいいでしょう。


「ホントっ!? ありがとう! 実は『ノラ』っていうクランに行きたいんだ! ちょっと用事があるんだよ! ……あ、肩に乗せてもらっても良いかな? ええっと……」


 ポロラといいます、子猫さん。


 ちょうど私の行き先も同じ所です。奇遇ですね。あ、そういえば聞くのを忘れていました。……あなたのお名前は?


 私が質問すると、子猫さんは楽しそうに答えました。


「んー、そんな名乗る程の名前じゃ無いんだよね……うん。そうだなぁ、仲のいい人からは『先輩』って呼ばれてるよ?」


 先輩……なるほど、子猫先輩ですね。


 私は名前を確認したあと、子猫先輩を肩に乗せました。子猫のもふもふが頬に触れて気持ちいいです。


「うん! それでいいよ、ポロラ! それじゃあ悪いけど『ノラ』までよろしく頼むよ! れっつご~!」


 れっつご~!


 私と子猫先輩は元気に路地裏を後にしました。たまには人助けも良いですよね?




 けれど……。


 子猫に先輩……。


 何か忘れているような……。


 ま、いいでしょ。忘れるって事はその程度の事って事ですからね。


 今を楽しんでいきましょう~。こゃ~ん。

・ゲーム内の時間経過

 ゲームの中では、リアルの3倍の早さで時間が流れていく。なので、決して朝にログインすればゲームの中も朝だということはない。プレイヤーが何日後~をする、と言ったらゲームの中での計算か、リアルでの計算かを確認するといいだろう。意見の食い違いで約束を破ってしまうかもしれない。

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