復讐の時、来る
クラン戦から数日後、クラン『ノラ』にて。
私は怒っていました。ブチキレです。
「お、ポロラ! 今日はなにして……ひっ……」
通りすがりのウジ虫さんが、私の姿を見て小さく悲鳴を上げました。……私が……何です? 私の第一印象を言ってみなさい。
私の『プレゼント』である『妖狐の黒籠手』は発動状態にあり、私の尻尾は3つに別れていました。それに加えて、細かい刃を重ねて合わせて作り上げた6本の尻尾が生えており、今の私の見た目は中々仰々しい物になっています。
マジカル☆九尾の狐さん状態です。
そんな姿を見て、ウジ虫さんは驚きつつも私の質問に答えてくれました。
「し、尻尾多くね……?」
ほう……セーフです。見逃してあげましょう。
「ど、どうも……」
ウジ虫さんは恐怖の表情を浮かべながら去って行きました。
少しでも、私の琴線に触れたら殺すつもりだったのですがね……、運の良い方です。
私はこの間の『プレゼント』を開封した瞬間に言われた、あの評判を気にしていたのです。
『白◯の者……』
『誰かー! 獣◯槍持ってきてー!』
……私、これが何か分からなかったんですよ。てっきり、狐にまつわる褒め言葉かと思っていました。白面金毛九尻の狐って言いますし。
それで……私は喫茶店でバイトしてるのですが……常連さんに聞いてみたのですよ。これって何の事ですか? って。
私の父がジ◯ンプ派でしたので、サ◯デーの作品はよくわからなかったという事ですね。
それで、あれやこれやと説明してもらった事を、簡潔にまとめると……。
邪悪の化身らしいですね……。
おもいっきり罵倒されていたみたいじゃないですか……! というか、狐ですら無いらしいですし! 調べてみたらおっかない顔の化物が出てきましたよ!?
……ということで、きっと彼らは命が惜しく無かったのでしょう。
ですので、そんな世迷い言を口走った輩は遠慮なく殺して差し上げるのです……。
「今日も1日頑張るぞー……って白めn」
ウジ虫ぃ……。
早速おかしな事を口にしたウジ虫さんがいました。そして居なくなりました。
尻尾の一本が瞬時に伸び、ウジ虫さんの喉笛をかっ切ったからです。これで、また少し『ノラ』は平和なクランに近づきました。
私は散らばった残骸を回収し、次の不届き者を探しににいきます。……確か3人位いたんですよね、私の事を馬鹿にしたウジ虫さん達。
全員探しだしてやりますよぉ……。びょおおお……(威嚇)。
「おや? 誰か死んだでござるか?」
聞き覚えのある口調が聞こえたので振り替えると、ウジ虫さんの血溜まりの側に何かがいました。
それは多量の蠢く触手の塊。
『危険指定生物』という、畏怖を込められた二つ名持ち。狂気振り撒く異形のプレイヤー。
ソールドアウトの一人、タビノスケさんでした。
「あ、ポロラ殿、こんにちはでござる。……って、戦闘形態になっている気がするのは、拙者の気のせいでござるか? 凄い事になっているでござるね」
彼は私の姿を見ると、気さくな感じに挨拶をしてきました。……気のせいじゃないでござるです。
ちなみに、その血溜まりは私が作ったものです。今ちょっと怒ってるんですよ。
カクカクシカジカァ……。
私が怒っている原因をフムフムと聞いていたタビノスケさんは、なるほどと言いながら、頷くような動作をしました。
「とりあえず、拙者が言えることは一つでござるな。……あんまり暴力に頼るのはよくないでござるよ? もふもふ尻尾という持ち味を活かして、今までの悪いイメージを払拭すると良いでござろう」
えー……、凄いまともなこと言ってる……。
街ひとつ滅ぼした人に言われても、納得できないという点に目を瞑ればですが……。
そんな私の発言に、タビノスケさんは否定するように触手をふりふりと振りました。
「あれはほら、仲間がいないことを確認して、全員殺して良いと判断してからの行動だったでござるし? ポロラ殿の仲間殺しはちょっと強引過ぎるし、周りも馴れてきてるから、殺して反省させるということは難しいでござる」
っむ。
ちょっと納得できる意見です。確かにウジ虫さん達は自分の命がかかっていたとしても全力でふざけるし、知恵を凝らして煽ってきます。
それに、殺されるのも馴れているようで、殺したと思ったらすぐに視界の端に映り込んでくるようなウザい方々です。デスペナでステータスが下がっても気にしてないんでしょうね。
……ではどうしろと言うのです? 私のこのイライラは誰にぶつければ?
「ふむ……ストレスを無くすためには、その原因を取り除くか、体を動かしたり、楽しい事をして気を紛らわせるのがいいでござる。ポロラ殿は、皆からあまり良いイメージを持たれていないみたいでござるから、新しいイメージを植え付けて、暴力に頼らずに原因を取り除いてみては如何でござるか?」
つまり、今の私ではそもそもの原因を取り除く事ができないから、違うアプローチを試してみたほうがいいと?
「そうでござる。……そして、拙者にいい案があるで候う」
ほぅ……それはなんでござるか?
タビノスケさんは触手をうねらせながら、アイテムボックスから何かを取り出しました。やたら明るい色をしている包みです。
触手をにゅっと動かして、それを私に渡してきました。
「ふっふっふ……戦場で見掛けた時から、才能があると思っていたでござる。そして、今のノリ……嫌いじゃないでござるよ。むしろ好き。だからこそ、ポロラ殿にこれを受け取って欲しいのでござァ……」
才能?
一応は褒められているみたいです。
タビノスケさんは見る目がありますね。見た目はアレですが、中身はとてもマトモな方のようですし、きっとおかしな事は考えていないでしょう。……えっと、この包み開けて見ても?
「どうぞどうぞ」
では失礼しまして……。
私は包みを開けて、中身を広げました。
すると、瞬時にアイテムボックスへと格納されてしまいます。どうやら、所有権が私に移ったみたいですね。
「中身のアイテムを取得したみたいでござるな。ウィンドウを表示して確認して欲しいでござるよ!」
はいはい。……にしても、中身はいったいなんだったのですかね?
私は少し期待しながら、ウィンドウを開き、アイテムの一覧を表示させます。さーて、さっき手に入れたアイテムは……。
『アイドル衣装・白 (獣人用)』
……。
え、あー……、うーん……。
……ナニコレ。
「ポロラ殿……アイドルになるでござる。君の尻尾と、狐さんらしいちょっとキツイ性格は、嵌まる者がいるに違いないでござるよ。このタビノスケPが保証するでござる」
……。
そうでした。忘れてました。
この触手さん、アイドルライブをするために『ノラ』に戦争を仕掛けたんでしたっけ。根っからのドルオタらしいです。
「サイズは勝手に変化するでござるから、早速着てみてでござるよ! 清楚な純白の衣装は、慎ましい体つきのポロラ殿にピッタリで候う! アイドルとしてこのゲームの人気者になるで……ござぁ!?」
私は黙って、刃の尻尾を伸ばしました。
タビノスケさんに対し、全面から刃を向かわせましたが、彼は数多の触手を操作して全ての攻撃を捌ききりました。……っち、不意討ちが効かないとは、流石ですね。
「ちょ!? 危ないでござる! 拙者が悪かったでござるよ! あ、あと! やりたくないのならそう言ってくれれば良いのでござるよ! 無理矢理やらせても良いものはできないでござるからな!」
せっかくマトモな方だと思ったのですがねぇ……。やはりソールドアウトには一癖も二癖もある方しかいないようです。
にしてもアイドルですか……。
恥ずかしいので却下ですね。却下。
私はそう考えながら、タビノスケさんに追撃を仕掛けました。……そうだ、良いことを思い付きました。
このままタビノスケさんにはサンドバッグになってもらいましょう。
体を動かすのもストレス解消にはいいらしいですし……ね?
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ところで、タビノスケさんはどうして『ノラ』に来ているんですか? クランの拠点に帰らないんです?
修行が終わったタビノスケさんと私は、クランの食堂に訪れていました。疲労が溜まってきたので、それを回復させるためにですね。
「ズズズ……。あー、拙者達は街から街に移動して回るクランなのでござる。いつもライブツアーをしているので候う。拠点はあって無いようなものでござるよ」
タビノスケさんはお茶を啜りながら答えました。……触手の塊が、湯呑みでお茶を飲んでいる姿は中々シュールですねぇ。
「それと、結構大きな事をやらかしたので、暫くは『ノラ』の監視下に置くと、チップ殿とチャイム殿に怒られたでござる。……お世話になるでござるよ~」
それはそうですよねぇ。流石に怒られますよねぇ。
それならこれからも修行に付き合ってくれませんか? タビノスケさんの多重攻撃、凄い経験値効率いいんで。
防御方面のスキルが上がる上がる……。
「よく言われるでござる~。もちろん、ただウネウネしてるのも暇でござるし、修行は付き合うでござる。けど、今日はもう無理でござるな。時間がないで候う」
?
何か御用事が?
私がおせんべいにかじりつきながら質問すると、タビノスケさんは楽しそうに目を細めます。
「拙者が暴走した件について、緊急会議を開くことになったでござるよ! 久々に皆に会えるからちょっと楽しみでござる!」
へー、やっぱり無視できない内容だったんですねぇ……って。
みんな!?
「わっ、どうしたのでござる?」
私は驚いてしまい、ついつい立ち上がってしまいました。
タビノスケさんが言う、皆というのは、おそらくソールドアウトの実力者達。
かつて最強と言われたクラン『ペットショップ』の元幹部達の事でしょう。そんな方々が集まって来るということは……。
あの『死神』さんも来るということです。
ふふ……。
ふふふふふふふ。
待っていましたよ……この時を!
タビノスケさん! 申し訳ありませんが、私はここで失礼します! ちょっと用事ができてしまいました!
「え、そうなのでござる? いきなりでござるね」
はい! いきなりなのです!
私は大慌てで食堂を後にしました。
今の実力では、『死神』さんに真っ正面から行っても、また首を刈られるだけです。……ですのでしっかりと準備をして、誰にも悟られないように暗殺しなければなりません。
幸い、『殀狐の黒籠手』はそういうこともできる代物ですしねぇ。
目にもの見せて差し上げますよぉ……びょおおお……。
私は来る復讐の時に思わず胸を高鳴らせていたのでした……。
・アイドル衣装
プレイヤーが作成した洋服アイテム。装備品を装備したままでも外見が変わるので、おしゃれをしたいプレイヤーに人気。その辺の装備品よりも高価で、市場に出回る物は莫大な値が付いている。




