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クラン『ノラ』

「お、食料2号か……。素直にクランに現れるとは思わなかったぞ……?」


 時間を開けてログインしてクランに復活すると、目の前に疲れた顔をしたコボルトさんがいたので、武器を持って襲いかかりました。誰が食料か、失礼な。


 使いやすい短槍の二刀流を選択し、喉元を狙いつつ心臓を狙います。しかし、私の攻撃は易々と防がれてしまい、逆にチャイムさんの小刀の切っ先が私の喉元に突きつけられました。……っく、殺せ!


「いや、お前……女騎士って感じのキャラでは無いだろう。あれは人を殺したこともないような無力な女騎士が言うから価値があってな。『戦闘狂』がそれ言っても、よし殺そうとしか思わんぞ?」


 むっ、このコボルトさん、どうやら私に一切の興味が無いみたいですね。噂ではケモナー疑惑があるらしいですし、もしかしてその見た目も趣味なのでしょうか? 変態かな?


 ……なるほど。ケモノ成分が耳と尻尾だけなので、私は性癖の範囲外ということですか。大したものです『参謀長』、貴方は想像の上を行く……。これが軍師というものなのですね。


「俺が軍師ポジションなのは流れでそうなっただけなのだが……。って、それ軍師関係ないだろ。いい加減にしてくれ……ハァ……」


 そう言ってげんなりするコボルトさんを見ていたら、なんだか悪い気がしてきました。 少しイジメすぎてしまいましたかね? 謝っておきましょう。


 あー、サーセンしゃー。

 ……ところで、なんでそんなに疲れてるんですか? なにか嫌なことでもありました?


 私がそう聞くと、チャイムさんは少し驚いた様な顔をした後に、


「お、お前がその原因の一つだと気づいていない事が……まず一つだな。今増えた……」


 武器をしまいながら、失礼な事を言ってきました。……心配して損しましたよ。けっ。


 私は悪態をつきました。


「言っておくがな~、メンバーが余所のクランに迷惑をかけた場合、その不平不満は全て俺が処理しているのだぞ? 頭を下げに行ったり、その埋め合わせの調整をするのも俺の仕事なんだぞ……? お前らが大人しくしてれば、俺の仕事が減るのに……」


 あ、完全に私のせいですね。


 聞いた感じだと、私のウジ虫処理の皺寄せが目の前のコボルトさんの心労を増加させているようで。


 でも、聞いてくださいよ。私だって好きで殺している訳じゃないんですよ? チャイムさんだって心当たりがあるでしょ、殺したくなる奴。


「……ああ。お前は狐の獣人だったな。……もふ魔族達か」


 説明しましょう……『セクハラもふ魔族』とは!


 獣人さんやコボルトさん等、もふもふの毛皮を持ったプレイヤーさんをつけ狙う、変態達の俗称の事です。

 初代『セクハラもふ魔族』さんは常に動物の毛皮の中に身を潜り込ませていたとかいないとか……。どっちにしろ、とんでもないケモナーさんだったようです。


 そして、そんな変態達は一人や二人では無く、多くの変態達がその欲望を満たさんとしていました。モフ欲です。


 一時期は動物の特徴を持ったプレイヤーさん達は逃げ惑う日々を送り、『セクハラもふ魔族』はかなりの問題になっていたのです。

 トッププレイヤーの皆さん達が動いてくれなかったら事態はもっと深刻になっていたことでしょう。


 かく言う私も逃げ惑っていたプレイヤーの一人な訳で……。


 あの時の、『近づく奴は殺せ!』っていう癖が残っているんですよ。なので、こうなってしまった原因は彼等にあります。……チャイムさんも苦労したのでは?


 私がそう問いかけると、チャイムさんは顔を背け犬耳を畳みました。なにかやましい事があるようです。


「俺の毛並みはゴワゴワしていると不評でな……。あと、正直言うと、俺もモフらせてもらうのは好きだし……って、そもそもお前の思想が危険すぎるのだが……」


 こゃん……。


 私は身の危険を感じて近くの柱の影に隠れました。獅子心中の虫とは良く言ったものです。……貴方、リーダーも獣人なのに良くそんな事言えますね。変態。スケベ。エッチぃ。


「実は、そのリーダーもこちら側だぞ……?」


 こゃ~ん……。


 最早、私に逃げ場など無かったようです。


 そう言われるとこのクラン、『ノラ』にはケモノ系のプレイヤーが多いんですよね。獣人が人気種族だからってのもあるとは思いますが……。


 まさか、積極的に集めていたとは……。


「まぁ、昔の話だ。今はそんな礼節を欠くような事をする奴は滅多に居ない。……っと、そうだ」


 いや、そうだじゃないんですよ、そうだじゃ。

 今でこそ、こんな感じですけれど当時のピュアな私にとってはかなりきつかったんですからね!?

 返して! まだ誰も殺していなかった、純情な狐娘さんを返してよぉ!


 私は叫びました。


「わかったわかった。……それで、お前に仕事を取ってきた。この仕事をこなしてくれれば今回のPK案件は無かった事にしてやる」


 うわ。このコボルトさん、めんどくさい事手慣れてますよ。スルーされた。


 私の言葉を右から左に聞き流したチャイムさんはウィンドウを表示し、スラスラと指を動かしました。すると、私の目の前にもウィンドウが現れます。どうやら、NPCがギルドに依頼したクエストのようです。


『護衛依頼

 ビギニスートへ向かいたいのじゃが、盗賊達の襲撃が怖くて夜も眠れないのじゃ。ここは手練れの冒険者様達の手を貸していただきたいのじゃがのう?』


 ……このゲームのクエストの依頼文章なのですが、若干イラッとするんですよね。けど、依頼人は殺しちゃいけないのです……。それは犯罪なのです……。


「隣街への護衛任務……、簡単な仕事だが、新米クランから協力の打診があってな。どうしてもクリアしたいからとのことだ。金が欲しいと言っていた」


 クラン『ノラ』の主なお仕事は、プレイヤー向けの傭兵派遣です。

 PvPの代役だったり、今回みたいなクエストへの協力、レベル上げの修行同行等、戦闘が仕事のクランとなっております。


 決闘の代役で顔を出したら、決闘相手も『ノラ』だったという話を聞くぐらいには、人気があるそうで。


 普段の私は裏路地で悪いことをしそうなウジ虫さんを駆除したり、クラン戦の雑兵として戦場を駆け回るお仕事をしていたので、他のクランのお手伝いをするのは初めての事でした。


「新米のプレイヤーに、お前みたいなネジが飛んでいる奴もいることを知ってもらうのは良いことだ。ついでに、このゲームについての教育もしておいてくれ」


 え~、めんどくさいです~。


 私はウィンドウを操作しながら答えました。内容を詳しく見たところ、荷物を傷つけたら罰金とか、護衛対象が怪我をしたら罰金とか、倒した魔物の素材はタダで寄越せとか……注文が多い多い。


 これに新人の教育もやれって? 割に合わないに決まっているでしょうが。


「むっ。そこまで言うのならしかたない。もう一つの仕事をお願いしよう」


 私が嫌そうな態度をとると、チャイムさんは再びウィンドウを操作して新しい仕事を私のウィンドウに表示させます。


 なんだ、以外に話が解るじゃないですか。なんだかんだ言っても組織のナンバー2っていう肩書きは伊達じゃないですね。先程の対応も苦労人って感じでしたし? みてみましょうか?


 ……どれどれ?


『三度の食事 byチップ』


 ち、チップさまぁ……。


 たったこれだけの言葉で、どんな目に遭うのかがわかってしまいました。そして、出会い頭に言われた『食料2号』という不名誉な呼ばれ方……。え、マジなんです?


「三回死んで、死体を残すだけの簡単なお仕事だ。もしかしたら、明日からの分も要求されるかも知れないが……やってくれないか?」


 目がマジだ。


 これマジで食料にされる流れだ……ハっ!?


 気がつくと、私の周りには黒子さん達が私を逃がさないように取り囲んでいました。


「お前に恨みはないが……久々に長が気に入った食料だ。逃がさんぞ……?」


「本当はオレだって食われたいのに……! なんでお前だけ……! ずるい……!」


「ごめんなさいね、狐ちゃん。これも仕事なのよぅ」


 くっ……。


 この……このウジ虫どもめ~!




 こうして、私は後輩達のお手伝いをすることになったのでした。


 もしもクエスト中に死んだ場合は速やかに回収され、チップ様の元に届けられるそうです。


 世知辛いですね。

・セクハラもふ魔族

 至高の癒しを求める変態達。彼等は最高のもふもふの可能性を自分と同じプレイヤーに見いだした。自分よりも大きなケモノの毛皮に包まれたいと、彼らの性欲は暴走したのだ。『魔王軍』が解体され歯止めが効かなくなった彼等を、元幹部達は粛正の名目のもと拘束、及び処刑した。しかし、その程度では、いくらでも死ぬことができるプレイヤーである彼等を完全に止めることは不可能。被害者達は自分達が強くなり、自衛するしかないということを知るのだった……。

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