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みっともなく足掻いて……

 何かのゲームを遊んでいる際、初めて戦うモンスターとの戦闘で手も足も出なかったという記憶はないでしょうか?


 私はどちらかと言うとライトなゲーマー……というより、ただのゲーム好きですので、難しいアクションとかは一周すれば満足する傾向にあります。


 裏ボスとか時間や労力を使わせる敵は、面倒であまりやりたくないです。格ゲーも友人同士でやるのが一番楽しく、動きの予測とかも相当集中しないと絶対無理です。


 そして、目の前のバケモノ、自我を失ったタビノスケさんは間違いなく、そう言った私が嫌うタイプの敵でした……。





『両腕が咲いた! 爪が来るぞ!』


 人型に変化した《タビノスケ》の両腕が開くようにほどけ、数十本の触手に戻りました。一本一本の先端は、鋭いナイフの様な爪が生えております。


 そして、四方八方にその触手を撃ち出しました。……今、それ来るんです!?


 チップ様の警告から少し遅れて、私は黒籠手から枝を生やし、周囲に刃の防護壁を作り上げます。


 複雑に折り重ねた刃が衝撃を吸収し、私本体には影響はありませんでしたが、防護壁は数回攻撃を食らって崩壊しました。


 持久戦になれば、防御しきれずに攻撃を食らう事は時間の問題でしょう。しかしながら……。



 狙い通りですねぇ!



 私は逃げながら先程襲いかかってきた触手に目を向けます。そこにはくだけ散った刃の破片が刺さったままになっておりました。


 タビノスケさんが自我を失い、確認できるキャラネームが《タビノスケ》に変化して数分。

 私は既に彼がNPCに変化したと判断し、バケモノがどのような動きをするのか観察に徹していたのです。


 それでわかった事が一つ……。


 攻撃する暇ないですね! これ! クソゲーレベルです!


 ですので、攻略法を探す必要がありました。……その一つが、突き刺さった破片です。


 発動しなさい! 『妖狐の黒籠手』ぇ!!


 私が叫ぶと、破片は植物の様に成長していき、触手を侵食するように刃を広げていきます。


 攻撃する暇が無いのなら、無理矢理割り込めば良いのですよ……!


 刃は触手を喰らい尽くすが如く成長し、体表を覆っていきます。

 先端から触手をミンチにしていき、もう少しで刃が胴体に届きそうで……嘘でしょ!?


「Aaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 攻撃に割り込むという作戦が上手くいったと思っていた私が見たものは、苦しそうな咆哮を上げ、破片が付着した触手を切り落とすという《タビノスケ》の行動でした。


 理性が無さそうな見た目でなに頭使った行動してるんですか!? もぅ~!


『思ったより機転が利くのか……離脱しろ、ポロラ! 火力で押しきる!』


 私は踵を返し、後方へと駆け出しました。

 すると、遠くで屈んだ姿勢をしているアーマーズの姿が見えます。


 何をするのかと思っていると、その背中からミサイルが数発飛び出したのを確認しました。

 確実に葬り去るつもりらしいです。


 迫り来る驚異を排除するために、触手が伸びますが、ミサイルは生きているように動き、それを回避しました。

 チップ様の必中能力が発動しているのです。


 私が範囲外に逃げたのとほぼ同時に、ミサイルが《タビノスケ》に着弾、爆炎を吹き上げました。


 先程タビノスケさんに致命傷を与えた一撃です。これがまともに入れば、無事ではすまないはず……。


 しかし、そう思ったのも束の間、巻き上がった砂煙の中から《タビノスケ》の姿が現れました。

 損傷は受けていますが、致命傷には程遠い様子です。……仕方ないですね、もう一度やってやります! チップ様、準備を……!?


『わかった! 本当は使いたくはなかったんだけどな。やってや……なんだと!?』


 こちらが迎撃に移る前に、《タビノスケ》は全身の触手を解放し、全ての触手をアーマーズに向けて放ちました。


 しかし、チップ様には無敵の瞬間移動があります。それを使えば、触手の攻撃を逃れることなんて……。


 そう考えて、私はハッとしました。


 今まで、ミサイルや火炎瓶を使い辺りを火の海にしていたので、気づくのが遅れましたが……。


 既に夕日は沈み、夜の帳が下りていました。


 チップ様の能力は、昼間限定の能力。少なくとも、周囲が明るくなければ機能しません。

 先程のミサイルでできた炎の明かりだけでは、おそらく能力は機能しないでしょう。……間に合えぇ!


 私は咄嗟に能力を発動し、触手が向かう先に刃の壁を作り上げました。防ぎきれなくても、少しでもチップ様を守ることができれば、我々にも勝機が……。



 あるはず……でした。



 触手は防壁に当たる瞬間にグニャリと曲がり、私を無視してアーマーズへと伸びていったのです。



 ━━そんな。うそ。


 思わず口に出てしまった私の驚きの声は、アーマーズが粉砕される音で儚く消えました。

 刃を伸ばし、攻撃を止めようとする前に、触手がアーマーズを串刺しにしていきます。


 アーマーズのどこに、チップ様が乗り込んでいたのかはわかりません。……けれど。


 両足と両腕、頭部に胸部。


 それぞれが破壊された機体は、完全に機能を停止したようにしか見えませんでした。



 つまり……私は、チップ様を━━━━。



 大事な友人を助ける事が、できなかったのです。



 あああああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 私は《タビノスケ》に振り返り、思いっきり咆哮を上げました。

 その衝撃属性の攻撃が当たると、化物の目がギロリとこちらに向くのが確認できました。


 来なさいな! 私が相手をしてやります!


 楽に死ねるなんて思わないことですねぇ!


 私は大爪をできる限りの数を作り上げ、身体の周囲に展開します。それと同時に、《タビノスケ》も触手を私に向けて打ち出してきました。


 あちらの方がレベルが上なのは知っています。


 こちらのステータスが劣っていることも理解しています。


 けれども。


 譲れない気持ちというものは、確かに存在するのです。


 触手と大爪がぶつかりました。

 圧倒的な物量で、弾くことはできても、当たった瞬間に大爪は砕け散ります。


 しかし、砕けた破片を使い、先程と同じ方法で、触手を使えないようにすることはできました。

 大爪は作り直せばいくらでも替えが効きます。持久戦に持ち込んで、削り取ってやるのです。


 しかし……。


 これは、あまりにも、考えが足りない作戦でした。


 私が大爪を作り直すと同時に、《タビノスケ》も新しい触手を生やしてきたのです。


 それを見て、一瞬決意が揺らぎましたが、それでも私は大爪を振るいました。ここまで来て、諦めることなんてできないのです……!


 そう重いながら振るった大爪は、向かいくる触手とぶつかり、同士討ちの形で砕け散ります。


 向こうも、私がこれ以上の事を出来ないことを悟ったのか、私が対処できる数でしか、触手での攻撃をしてきません。


 完全に遊ばれていました。


 大爪が数を減らしていくなか、ライブを止めにいったクランメンバーや、事態を理解した対抗クランの残存兵力も戦いに駆け付けますが……直ぐに触手の攻撃で吹き飛んでいます。


 戦争に決着が付くタイミングで、このような事態になってしまったのが痛いです。


 ……このままでは、私達は全滅です。


 せっかく、ここまで戦えたのに。


 チャイムさんや、チップ様。クランメンバーが繋いでくれて、私はこうやって戦えていたのに……。


 こんな、よく分からないバケモノに蹂躙されてお仕舞いなのですか?


 やがて、大爪が全て砕け散り、私を守るものは全て無くなります。

 すぐに新しい大爪を作り出しますが、《タビノスケ》は飽きてしまったかのように、大量の触手を私に向けました。


 ここで決めるつもりのようです。……やれるものなら、やってみなさいな。


 思えば……タビノスケさんに立ち向かおうとした際、既に覚悟は決まっていたのです。

 私はきっとトッププレイヤーの方々には敵いません。それは仕方のないこと。……だから。


 みっともなく足掻いて!


 美しく散るんですよ!


 私は迫り来る触手目掛けて、大爪を振るいました。

 それは真っ直ぐに、敵の攻撃に突っ込んで行き━━━━。



 全ての触手を、バラバラに引き裂いたのです。



 いきなりの出来事に、私の動きが止ま……りませんでした。

 意識していないのに、勝手に身体が動いて、新しく向かってきた追撃を、かすりもせずに避けきったのです。


 そして、頭の中に声が響きました。


『ポロラ! ぼさっとするな! 俺が力を貸してやってるんだ! 死ぬことは許さんぞ!』


 ちゃ……。


 チャイムさん!? そんな! 死んだはずでは!


『死んでいない! 後方に下がったから、『怠惰』での支援に切り替えただけだ! 俺のステータスを全てお前に貸してやる! 死ぬな!』


 『怠惰』の能力は、自らの行動を制限して、味方のステータスを上げる事……。私の攻撃が通用したのは、それが理由だったのでしょう。


 けれど! まだ全然足りませんよ!?

 ようやく足元にしがみつけた程度です!


 迫り来る触手を切り刻みながら、私は頭の中のチャイムさんに叫びました。

 抵抗できるだけでは、勝つことはできません。


 なにか、突破口を……!


『それについては……既に準備中だろう? ……彼女が死んだとでも思ったか?』


 え……?


 チャイムさんからそう言われた瞬間。


 《タビノスケ》の身体の半分が消滅しました。……まるでそれは、空間ごと削り取られた様で。



 それは『暴食』の攻撃と、全く同じものでした。



「ああ……美味しくない! ぜんっぜん美味しくない!」


 振り返ると、そこにはボロボロになった姿のチップ様がいました。

 左腕が消滅し、右目は潰れていましたが、確かに生きてくれていたのです。……チップ様!


 フラりと倒れそうになった彼女を、私は脇から支えます。


「悪い……、油断しちまったよ……」


 チップ様は申し訳なさそうにそう言いました。……良いのです! 貴女が生きているのなら、目の前の化物も勝てますよ!


 私は大爪を操作して攻撃を防ぎながら声をかけます。


「当たり前だろ? ……ポロラ、後1分時間を稼いでくれ」


 チップ様は《タビノスケ》に向かってショットガンを構えました。すると、銃口の先に光が集まっていき、銃身が光輝き始めます。……それは?


「神器『キキョウの殲滅銃(レールガン)』、アタシの奥の手……女神から受け取った武器だ。これならアイツを仕留めれる。けど……」


 エネルギーが充填されるまで時間がかかるのですね……?


 私がそう聞くと!チップ様はコクりと頷きました。……わかりました! 今度こそ、絶対に守りきります! ですから……。



 一緒に、目の前のバケモノをやっつけるのです!



 私はチップ様を支えながら、《タビノスケ》を睨み付けました。

 さぁ……反撃のお時間です!


・キキョウの殲滅銃

 軍神『無双のキキョウ』が使っている、オーバーテクノロジーを駆使して作られた散弾銃。弾丸は使用者のHP及びMPを使用しており、エネルギーをチャージすることで規格外の威力を放つ事ができる。最大までチャージできれば、街はおろか、国を消滅させることも難しい事ではないだろう。

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