表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/172

『  』のギフト

「ぽ、ポロラねぇちゃん……。もう無理ぃ……」


 大講堂で修行をしていた私達ですが、たった数時間で黒子くんが音を上げました。……何を言っているのです。まだ始まったばかりではありませんか。


 さぁ、武器を構えるのです。まだ時間は有り余っています。武器だって切ってもダメージが入らない特別ななまくらです。本当に楽しくなってくるのはここからですよ?


 ですのでぇ……もっと、もーっと……。


 頑張りましょう?


 そう言ってニコりと笑いかけると、黒子くんは地面に大の字になってしまいました。もう疲れはててしまったようです。疲労状態ですね。


「なんか……ねぇちゃんが『戦闘狂』って呼ばれてる理由がわかった気がした……。なんでそんなに戦うの好きなのさ……絶対おかしいよ……」


 ふふっ、黒子くん。それはスポーツやっている人に、なんで体を動かすのが好きなのか質問するのと同じですよ?

 やりたいから、やっているのです。

 私、ゲーム好きですし。


 このゲーム、プレイヤーによってジャンルがガラリと変わると言われています。クランのリーダーをやっている人は、これは軍事SRPGだと、割りきった事を言う方もいますし、スローライフゲームだといってひたすら農業に打ち込む方もいます。


 私にとっては、ジャンルが格ゲーだったというだけの話です。


 なので、相手がいなくなってしまうと楽しくないのです。……しょうがないですねぇ。今日はここまでにしましょうか。約束通り、お菓子を作ってあげましょう。


「え~……動けな~い……」


 黒子くんはワガママを言いました。仕方ないですねぇ、ホント。


 私は黒子くんの両足を脇に挟みました。このまま引きずって行くことにします。……貴方、『暴食』持ちでしょう? お菓子食べれば元気出るでしょ。それまで我慢してくださいね。


「そう言えば、腹も減った~。……そういえばさ、ポロラねぇちゃんの『ギフト』って何? さっき一回も使ってなかったよね?」


 ギクリ。


 その質問に私はついつい足を止めてしまいました。

 『ギフト』は『プレゼント』に並ぶプレイヤーにとって重要な能力です。元は邪神の力らしいのですが、使いこなす事ができれば戦闘を有利にする事ができるでしょう。


 ちなみに、黒子くんも食料を食べながら戦闘をしており、定期的に自分に強化を付与していました。


 『ギフト』は使えば使うほど強くなるらしいので、修行中にも発動させるべきなのですが……。


「『怠惰』はプレゼントの能力が仲間に関係する能力っていうのが条件だし、『暴食』の人はチョロい性格らしいし……。『憤怒』持ちは普段は優しい人だから……これも違うよねー。『嫉妬』ってほど執着心も無さそうだし……、『傲慢』のプレイヤーは人の上に立ちたがる人だから、これも違う……。『色欲』持ちはエッチな人達しかいないから……」


 ちょ、ちょっとお待ちなさいな。


 何ですか、人の能力を探るような真似をして。私の『ギフト』を探ってなんになるというのです。

 そして、何ですかその『ギフト』診断みたいなのは? 貴方、実はヒ◯カだったんです? ガムとキャンディがお好きなんですか?


 私は某少年漫画の性格分析を思い出しました。


「違うし。というか、知らないの? 『ギフト』を手に入れたプレイヤーに取材して、取得した人の性格とか傾向をざっくりとまとめたん結果だよ。で、これが意外に当たるから、現在のプレイヤーは『ギフト』を楽に手に入れれる様になったんだよねー」


 へー、そうなんですねー。


 私は黒子くんの話を聞きながら、調理室へと向かうことにしました。ずりずりと黒子くんを引きずりながら前進します。


「でも、これのどれにもポロラねぇちゃんは当てはまらない気がするんだよ。『憤怒』や『嫉妬』って感じもするけど、使ってなかったって事は、それは無さそうだし……」


 そ、無いんですよ。


「……え?」


 私は、正直に自分の『ギフト』について話すことにしました。


 なーんでか、わからないんですけどね。

 『夢見の扉』の邪神討伐クエストを何度もやっているのですが、どの『ギフト』も私に身に付く事はなかったのです。


 イベント限定の『色欲』の邪神には挑んでいないので、もしかしたらと思いましたが……それは自分でも絶対ないとわかっています。私はエッチではありませんし。


 なので、私は『ギフト』を持っていません。今まで聞かれた事が無かったので誰かに言ったことはありませんでしたが、別に隠す事でもないですからね。


 ……邪神を倒しても『ギフト』を得る事のできないプレイヤーは、滅多にいないそうです。

 私は参加し損ねましたが、『色欲』のイベントが終わった時点で『ギフト』を持っていないのは初心者のみになった、という話も聞いたことがあります。


 つまり、私には『ギフト』を使えないというハンディキャップがあるということです。悔しいですね。


「適合するギフトがなかったってこと? へー……」


 まぁ、そういうことです。


 それじゃ、このまま調理室に行きますよ?

 多めに作るのでチップ様にも持っていってあげてください。


 ……。


 あれ? どうしました?


 いつもなら、黒子くんはすぐに返事をするのですが、このときだけは少し待っても返事をすることはありませんでした。


「……いいや! なんでもないよ! ポロラねぇちゃんのお菓子楽しみぃ~!」


 ?


 なんでしょう? おかしな感じがしたのですが気のせいだったのでしょうか?


 ……気にしても仕方がありませんね。

 明日には戦争が始まりますし、私個人で用意するものもあります。


 今日はお菓子を作った後は、火炎瓶作りに励むことにしましょうか……。


 私はそんなことを考えながら、調理室に急ぐのでした……。



 明日の戦場が楽しみですねぇ。

PL(プレイヤー)チャイム クランロビーにて


 俺は十字架に磔にされ、散々辱しめを受けた。……いきなり優しくしてくれたんだから、もしかして脈があるのではと思うのは、男の悲しい(さが)というものじゃないのか……。畜生……。


 しかもアイツらこのまま放置していきやがって……。


 あー、もう許さん。こうなったら職権濫用して明日の戦場ではアイツら全員前線で突撃させてやる。タビノスケの触手の餌食になってしまえ。勝利への礎だ。


 ……しかし、身動きが取れんとどうしようもないな。仕方がない、ログアウトを……。


 そう思っていると、俺の手足を拘束していた荒縄が急に緩くなった。……いや、緩くなったのではない。


 誰かが縄を切ったのだ。


「参謀長、お話があり参上しました。どうしても耳に入れたい情報があります」


 拘束をほどき、その声に振り替えると、そこにはポロラを姉と慕っている黒子がいた。公私を混合しない優秀な黒子だ。


 ……お前か。どうした、話せ。


「はい。プレイヤー『ポロラ』についてです。……彼女の証言が真実ならば、彼女は我々が探していた能力を保有しております。すぐにでも長の耳にいれるべきかと」


 !!


 俺は驚きのあまり、身体中の毛が逆立つのを感じた。


 そうか。そうだったか。惹かれるものがあると思っていたのはそういう事か。

 チップちゃ……えふんえふん……長が気にかける訳だ。


 まさかポロラがそうだったとは思わなかったが……行幸というやつだな。


 すぐに長の元に向かえ。……それと、作戦の変更と再作成しなければならなくなった事を伝えてくれ。忙しくなる。


「承知しました」


 その言葉を言い残し、黒子は俺の目の前から消えた。


 ……ようやく、俺達の一つ目の目的が達成された。


 強力なプレイヤーを育成するためには、どうしてもあの能力が必要だったのだ。

 あの『死神』と呼ばれた彼と同じ『ギフト』。



 知られざる7番目の邪神……『強欲』、その能力が。



 遂に……見つけたぞ!

 

 胸の高鳴りを感じながら、俺は先程やられた事も忘れ、作戦室へと急いだのだった。





 後、途中でポロラとすれ違った時に、パウンドケーキを切り分けたものを貰った。ついさっき作ったものらしく、「今日は大変でしたね。強く生きてください……」だそうだ。憐れみの目をしていた。


 ……やっぱりアイツ、俺に気があるのでは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ