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もふもふ大選挙! 栄えある一位は?

 映像の中で、巨大化した触手の怪物が街を破壊しながら暴れていました。


 潜入した黒子さんは抵抗しましたが、拘束されてしまい、残虐行為の様子をただただ見せられています。


『やめなさい! こんな事をしても、ツキトさんも、魔王ちゃんも……誰も喜ばないわ! 今度は貴方達が狙われるだけよ! 同じ事を繰り返して何になるの!?』


 それでも黒子さんは、タビノスケさんを止めようと声を張り上げました。悲痛な叫びです。


 それを聞いて、何か思うことがあったのかはわかりませんが、タビノスケさんは黒子さんを自分の真っ正面に移動させ向き合いました。


 その一つ目からは激しい怒気を感じます。


『……みー殿の言葉を忘れたでござるか? あの方は自分を越える強いプレイヤーを求めていたでござる。そして、拙者達にそれを育成しろと言ったで候う……だから』


 タビノスケさんの目がまるで笑っているように細くなりました。そしてニタァ、と大きな口を歪ませます。


『拙者がなってやるでござる! 一から初心者を鍛えるより、強い奴を更に強くした方が早いでござるからなぁ!』


 そう言ってケタケタとタビノスケさんは笑います。……ああ、この触手さんもソールドアウトなのですね。


 自分の居場所が大事で大事で仕方なかった、『ペットショップ』メンバーの一人なのでしょう。

 だから、あくまでもこの事件を起こした理由は、私達『ノラ』の存在理由と同じなのです。


 全ては、魔王様の願いを叶えてあげるためなのです。


『それは……それは違うわ! 魔王ちゃんが言いたかったのはそういうことじゃ……』


『じゃあなんで、お主は拙者に負けているんでござるか?』


 黒子さんは必死に説得を(こころ)みますが、タビノスケさんに届いている様子はありません。


『くっ……』


『これが現実でござる。拙者達がバラバラになって、もう一年以上たったでござる。それなのにこの体たらくとは……一体、何をして遊んでいたのでござるか?』


 そこまで言うと、タビノスケさんはゆっくりとした動作で黒子さんを地面に下ろし、彼女の身体に巻き付かせていた触手を解きました。


『……チップ殿に伝えるでござる。一週間後、りんりんライブをコルクテッドで実施するで候う。当然、拙者達も応援に参るでござる。どういう事かは……言わなくてもわかるでござるな?』


 !!


 これは……どう考えても、宣戦布告です。


 私達のクランがあるコルクテッドを、サアリドと同じ状態にしたくなかったら、力ずくで止めてみろ。


 そういう事だと、私は理解しました。


『さて……まだ遊び足りないでござるが、ライブが佳境でござるのでこれにて失礼。……うおぅー!! り~んり~ん!! 今行くでござるよぉ~!』


 タビノスケさんは数多の触手に長いサイリウムを装備して、ライブ会場にうねり去って行きました。


 あとに残されたのは、瓦礫と血肉にまみれた街の残骸だけ……。


『……撮影を終わるわ。私は……』


 黒子さんの無念が伝わる様な呟きと共に、映像が終わりました。


 それを見届けたチップ様は大きく息を吸い込み叫びます。


「これが現在のサアリドの現状だ! 住民はシステムによって復活しているが、未だに狂気に囚われていて街は機能していない! 事実上の滅亡状態が続いている!」


 市民NPCは死んだとしてもゲームシステムによって復活します。なので、死んだとしても問題は無いはずなのですが……。


 このゲームはMMO。色んな方がログインしており、楽しんでいるゲームです。

 少しの間なら、多少は支障がでるでしょうが、街の施設が使えなくとも大丈夫でしょう。


 しかし、この状態がずっと続き、同じ状況の街が増えるのならば……話は別です。


 このままでは、このゲームの世界が滅茶苦茶になってしまいます。


「次の目標はこのコルクテッドだ! アタシ達はこの街のプレイヤーとして……アイツと同じソールドアウトの仲間として! タビノスケを止めなくてはならない! そして、ああやってコケにされて、アタシは黙っているつもりは無い!」


 迫り来る驚異に対して、声の激しさが増します。


「戦争だ! 『ノラ』の力を見せてやるぞ! アタシ達こそが、最強のクランだと教えてやれ!」


 チップ様は両手を腰を当てて、高らかに宣戦布告を受け取った事を宣言しました。


 それに対し私達クランメンバーは、一斉に声を上げて答えます。


 他人のクラン戦を、仕事として手伝ったことは何回もありました。しかしながら、『ノラ』自体が他のクランと戦うという事は、今まで無かったはずです。


 つまり、これが初めての『ノラ』における総戦力の発揮、真の実力の御披露目となるということとなります。


 腕がなりますねぇ……ふふふ……。


 私がワクワクしていると、今度はチャイムさんが叫びました。


「お前達! 士気が高まるのは嬉しいが、まだ話は終わっていない! 今回の敵はタビノスケ率いる『りんりん親衛隊』だけでは無い! 奴等は人数を補うため、違うクランとも手を組んだ! そして! そのクランも我々との因縁がある!」


 違うクラン?


 もしや、他のソールドアウトのクランと手を組んだのでしょうか? ……それは不味い。

 あの触手さん一人でも相当な強さのはずです。『ペットショップ』の幹部クラスの人員が一人でもいたら、私達の勝機は……。


 っていうか、『りんりん親衛隊』って。

 それクランの名前なんです? え、キモ~い。


「そのクランの名前は『ケダモノダイスキ』! 全員もふ魔族の変態集団だ! 俺達の毛皮を狙うカスどもだ! 詳しくは長から説明してもらう!」


 もっとキモ~い!!?


 え? なんなんですか?

 シリアスな、真面目な雰囲気が続くものと私は信じていましたよ!?


 それなのに……なんでおかしな展開になっているんですか、もぉ~! しかももふ魔族とか、ろくな事にならないでしょう。


「あー……。ここからはネタとして聞いて欲しい。……なんかさー、タビノスケと手を組んで調子に乗ったみたいでさ、この戦いで負けた場合、好きなだけモフらせてほしい、って要求が来たんだよ。モフりたいプレイヤー一覧も一緒に来たから……一応発表しておく。覚悟してくれ」


 チップ様はそう言って、ポケットから一枚の紙を取り出しました。


「なんかランキング形式にまとめられているんだけど……上位3名がピックアップされている。ちなみに、3位はアタシだ。屈するとこが見たいってよ」


 っしゃあ! ぶっ殺す!


 私がそう思った瞬間、クランメンバーが同じような事を叫び、気持ちが一つになった事がわかりました。流石トップクランです。


 しかし、3位がチップ様というのは納得生きませんね。私の方がもふもふなのに。私はちょっと悔しくなりました。私、狐さんですよ?


「そして2位がポロラだ! 目をつけられたみたいだな!」


 そう思っていたら逃げられないみたいでした。こゃ~ん……。


 マジですか……と、いうかこの順位、確実に私が殺したあのもふ魔族ですよ。もう二度と出会いたく無かったのに……。


 ……あれ?


 じゃあ1位は誰ですか?


 おそらく、獣人の多い『ノラ』だからこそそんな要求をしてきたはずです。

 3位チップ様、2位私と来たら……。


「そして、1位だけど……チャイムだな。なんか、ゴワギワの体毛を楽しみたいって書いてるけど……。ちなみに、このクラン男しかいないんだが、何か心当たりある?」


「      」


 チャイムさんが絶句して、チップ様に振り返りました。


 あ~、これ間違いないですね。私には絡んできたあのもふ魔族です。アイツらが目をつけてきたみたいです。


 この結果について、クランメンバーも一言あるみたいです。聞いてみましょう。


「長を墜としたい……わからないことはないな、くっ殺は良い文化だ」


「ポロラは俺達が守る。……お兄ちゃんは妹を守るものだからな」


「取り敢えず殺せばいいんだな? 分かりやすくて助かる」


「参謀長を差し出せば良いんでない? 長とポロラは女の子で、男を間に挟んだらいけない間柄だからダメだけど、参謀長ならいいだろ。コラテラルダメージってやつだ。生け贄だ」


「そうだな。男に弄ばれてもらおう。大丈夫だって、天井のシミ数えていれば終わってるからさ……」


「え? は? お前ら何を言って……ちょ、ま、やめ、やめてぇ!? やめろぅ!?」


 チャイムさんが勇士によって運ばれて行きました。おそらくセクハラもふ魔族に捧げられてしまうのでしょう。


 ああ、さらばチャイムさん……。


 貴方の事は忘れません……。





 と、いうことで。


 戦争が、始まりまるようですよ?

・コラテラルダメージ

 しょうがない犠牲。この場合、ただの生け贄。

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