決着
※今回はツキト視点でお楽しみください。
正直に言おう、俺は完全に舐めきってこの戦いに挑んでいた。
前々から殺害予告は受けていたので、先輩経由で戦うことになったという話を聞いたときには、随分と回りくどいやり方をするものだと思った位だ。
『ペットショップ』をやっていた時期は日常的に因縁を付けられていたし、覚えてもいない恨みで命を狙われるなんて日常茶飯事だったのである。
だから、闘技場で戦う事に決まったときには茶番だとも思った。せいぜい宴会前のお楽しみ程度のものだろうと、みんなかわいい女の子が虐められるのが好きなんだなぁと。
とりあえず盛り上げるために安い挑発をしてみたのだが……。
目の前のイカレ狐はギフトカードを全種類使用、更に『覚醒降臨』を重ねるという暴挙に出やがった。それやったら暴走するってディリヴァがやってたじゃん、マジで何してんだよ。
この人がいる所で邪神化……もしくは《ワールド・イーター》のようになってもらっても困る。
そう思って見せ場とかは関係なく速攻で首を切り落とした。俺は早く酒が飲みたかった。先輩に飲ませたかった。
邪神化なんてしたら宴会の時間が押すんだよ! 巻きだ巻き! 酔っ払ってフニャフニャになった先輩を見たかったんだよ!
ということで首を落としてやった……わけなんだが、流石に弾けて刃になった時はビビった、軽くホラーだったからな。その後、やたらエロい身体のポロラさんが現れたのは眼福だったが。
しかし、だ。
その時点でかなり焦りを感じていた。殺しても死なないという事実に冷や汗が流れたくらいだ。
さっきあんなにイキった姿を見せといて覚醒させてくださいなんて言えるわけがないし、このまま戦わなければならない。そう考えていた。
とにかく神技を使って畳み掛けてみたが、たとえ斬り殺しても簡単に復活してくる。焦るなと言われても無理だ。
しかもどこかで練習してきたのか、完璧にギフトを使いこなしているし。『怠惰』の能力使うのかなり難しいって聞いてたのに、一歩も動けなくなっちまたった。
無理矢理動こうと足掻いてみたけれども流石に無理だった。やっぱスキルには抗えねぇわ。
そのせいで『七神失落』も使ったちまったし、一刻も早く仕留めなければいけないと思った。
だからこそ、仕掛けようとしたときに『祝福』を使われたのは痛かった。いいタイミングで『密約』を使おうとしていたし。
けれども、『祝福』を使われたのはチャンスだと思った。それを使ったという事は一気に攻めて来るという証拠だ、今まで相手にしてきた奴は大抵そうだった。
センスがある奴は『密約』に合わせて使って来るがそんな変態はまず居ない。シバルさんとヒビキ位だ、変態しかいねぇ。
しかも、『祝福』中に『暴食』とかいう大技を繰り出してきたから勝ったと確信した。コイツはここで勝負を決めに来ていると。
こっちが『祝福』を使っているのは気づいていないはず。少し逃げ回って相手の『祝福』が終了するまで逃げまわればいい。
攻撃を受け止めた後、『密約』を使って出来上がった柱共々全部ぶっ壊してやる。
そう思いながら狐さんの様子を見て、俺の頭は真っ白になった。
顔自体が俺に向いていない。
さっきから狙いが変わっていなかった。それで何をしようとしていたのがわかったんだ。
狙っていたのは俺じゃなく……先輩だった。
だから咄嗟に叫んだし、時間を止めた。そうじゃなきゃ間に合わなかった。
口が閉じられて、スキルが発動する前に、『暴食』の攻撃を止めなければいけなかった。
攻撃をしても殺す事はできないからこそ、俺は自分の身体を使って攻撃を防いだ。『祝福』を使っていたからこそできた芸当だ。
その時には完全にブチギレていて、殺すことしか考えていなかった。『契約』を発動させて確実に殺しにいった。
にも関わらず、俺の一撃は簡単に避けられた。
そのおかげで一気に冷静になった。
スキルとかステータスで避けたのではないのはハッキリとわかったからだ。完全に足並みを合わされて避けられてしまった。
しかも脚を救われてこかされた挙げ句、顔を踏まれた。チャイナドレスのスリットが眩しい。この狐さんエッロ。
そんな中、俺が劣勢になった事にイラッとした馬鹿共が文句を言ってきた。そんな中、狐さんは満足げな笑顔を浮かべていたいたのだ。
「いやぁ、心地の良い声ですねぇ。思わず顔がニヤけてしまいますよ。そう思いませんか? ツ・キ・ト・さん?」
あ、ちょっと見えた。
……じゃねぇ、このままじゃ先輩から誤解される、俺は喜んでなどいない! 必死に戦闘をしている! というかマジでこのままじゃ負けるわ! コイツ『ペットショップ』の初期メンレベルでつえぇぞ!? おかしいだろうが! 戦うことしか知らないタイプですかぁ!?
俺はごまかす事も含めて怒声を上げながら戦いに復帰した。さっさと殺さなければ。
しかしながら、いとも簡単にぶっ飛ばされた。あれは本当に終わったと思った。大鎌の近接攻撃が絶対に通じないという事がわかったからだ。
仕方ねぇ、どんな手を使ってを使ってでもこの場を切り抜けてやる。
にしてもコイツ普通に魔法使っても簡単に切り抜けて来るだろうしな……黒霧状態になった俺を見る目がヤバイ。
とすれば、使うのは妨害を目的とした魔法だ。『スパイダー・ネット』一択だ、動けなくなった後に殺してやらぁ!
そうやって白いベタベタで真っ白にしてやったぜ。動きを止める以外の意図はない。
その証拠に魔法を使ったあとは『進軍』を使って全部吹き飛ばしてやった。一応銃火器のスキルは人並み以上に育てている、会場全部を吹き飛ばす事も……できねぇか。
会場に設置された柱は破壊することはできず、結局は再生を許してしまった。しかもこっちの手札である神技も全て使われた状態で。
もうここまで来たら楽しみの方が勝ってしまっていた。
コイツはどこまでコッチの本気についてくることができるのか。それが気になって仕方がなかったんだ。
だからこそ、誰にも見せたことのなかった覚醒状態を見せてやった。
女神全員強制召喚し、その力を借りることができるのが俺の覚醒だ。各女神からもらった神器も女神と同じように使うこともできる。
だからこそ、簡単に追い詰める事ができた。
それでも、狐は必死に食らいついてくる。
心臓を突き刺して殺しても、胴体を切断したとしても、その身体を再生して俺の手札を捨てさせることにより追い詰めてくる。
いくら殺しても一切戦意が失われていないのがいい。喉元に喰らい付かれているようだ。
現に俺は今女神様と先輩を人質にとられている。
最強のギフトを目の前にして、俺は絶対に動けない状況に追い詰められていたのだ。
「プライドも捨てましたー! もうここまで来たら止まれません! 貴方は意地でも止めなければなりませんがねぇ! 消し飛びなさい! ……『ソウル・オーバー』ァァァァァァァァァ!!!」
彼女のスキルが発動した瞬間に、俺は『殲滅銃』の引き金を引いた。
己のHPとMPを消費しながら打ち出されるレーザーは、他者の生命力を使ったエネルギー砲を徐々にではあるが侵食していく。
ほんの僅かであるが、俺の攻撃が上回っていた。
攻撃の余波によって闘技場が消し飛んでいく。無事なのは俺の後方だけだ。
それでも彼女は諦めない。
自分に声援を送っていた仲間達が消し飛んだとしても、最後まで諦めずにスキルを使い続けた。出力も下がっていき、レーザーが『色欲』のスキルを消し飛ばしていく。
俺のHPとMPも危険域に達し、攻撃をし続けようか躊躇する考えもあった。けれど……。
そんな一生懸命なやつの前で、手を抜くような事はしたくない。
だから……コイツで終わりだ。残っている生命力をありったけ使って打ち勝ってやるよぉ!
俺が更にHPとMPを捧げると、一気にレーザーはギフトを包み込み、そのままポロラさんを消し飛ばした。
『殲滅銃』の攻撃が収まると、俺の目の間にあったのは何もない会場だった。闘技場も観客席も何もない空間。
それが俺の勝利を物語っていた。
……認めざるを得ない。さっき戦った狐さんは今まで戦ってきたプレイヤーの中でもトップクラスに強かった。圧倒的なレベルの差があるのにこれと……まったく笑えないぜ。
そんな強敵を下した俺は、ゆっくりと振り返る。
そこには女神様達と、とても楽しそうな先輩がいた。……どうですか? すこしは良いところ見せられましたかね?
俺はそうやって先輩に話しかけた。すると、彼女は満面の笑みを浮かべてこう口を開いたのだった。
「惜しかったね、油断しただろ?」
その言葉を聞いた瞬間。
俺の胸から槍の穂先が生えてきた。視界が変わり、後ろから襲った襲撃者の姿が浮かびださせる。
ポロラさんだ。
「……残念でしたね! あれ程度では死なないことくらいは知っていんですよぉ!」
な、なんで……クソっ、間に合え……!
俺はポロラさんの突き刺した槍から放出される属性攻撃で、上半身を吹き飛ばされてしまった。
俺の身体が崩壊し、辺りにミンチを撒き散らす。
残っている観客達も何が起きたのかわからないという事は、どうやらギフトの能力は隅々まで行きわたってはいないようであった。
しかし、能力をちゃんと覚えていない人間に、自らが入っているなんて事も恥ずかしい。
俺は彼女の予告どおり、惨めに殺されてしまった、という話なのだろう。
……やられたな。
そう思い、俺は深くため息をついたのだった。




