全力の一撃
「ハァ!? お金賭けれないとかどう言うことニャ! しかも、向こうの方がオッズ高いのニャ! ふざけんニャ!」
「とりあえずわたしビールね! あ、応援してるから頑張ってー、死んだら駄目だよー」
「妾はワインをいただこう。……お、お主が負けるとは思えんからな! さっさと勝負を決めてくるのじゃぞ!」
「さぁ殺しあえ! 存分に血肉を撒き散らすと良い!」
「ファイトで〜す! 修行の成果を発揮できれば大丈夫ですよ〜! 信じてまーす!」
「仲良くケンカしてね! 友達を無くすような事をしちゃ駄目だから!」
「ようやくツキトくんも本気を出して来たからね、ここからが面白くなるよ! かっこいい姿見せてね!」
…………。
え、女神様は闘わないんですか?
ツキトさんの能力によって召喚された女神様達なのですが、すぐに子猫先輩の周りに集まって寛ぎ始めました。皆さんお酒を注文して観戦するみたいです。
ちなみに観客の半数は攻撃の余波でミンチになっておりました。ヤジもだいぶ減ってます。
にしても、女神様とも戦うと思っていましたので、私としてはまたナメられている感じがしないでもないのですが……。
「……女神様達が俺の言うことを聞いてくれるとでも?」
凄まじい説得力です。
どことなく悲しい表情を見せるツキトさんの言葉には、そう思わせる力がありました。確かに前に見た様子だと良いようにやられていたみたいですし。
しかしながら、ただ女神様を召喚するだけの能力だとは思えません。それにツキトさんが手にしているレイピア……。
私の目が確かならあれはチャイムさんが持っている物と同じものです。更に言うのなら……観客席で美味しそうにビールを飲んでいるパスファ様も同じ物を持っています。
間違いなく、ただの武器ではないはずです。
「応援はしてくれるからいいんだけどね。……こうなったら負けるわけにはいかなくなった。容赦なくいくぞ」
レイピアの切っ先をこちらに向け、ツキトさんは軽く腰を落とした様に構えました。
先程まで劣勢だったくせに言うじゃないですか。そこまで言うのなら見せてもらいましょう、か……?
「四回目だ」
ツキトさんの身体は私のすぐ側にありました。そして、レイピアの刃は正確に私の心臓を穿いています。うご、動きがみえな……。
視点が変わり、柱から刃が吹き出します。まーた、死にましたね。
これ前に見たチャイムさんと同じ動きじゃないですか。一瞬時を止めるか瞬間移動しているかって感じですね。100%あのレイピアの効果でしょ。
厄介な話です、あれをどうにかしなければまた同じ事が繰り返されます……ので、封じちゃいましょうか。
「……増えんの?」
増えますが?
私の新しい身体は出来上がりましたが、先程死んだ身体は崩れないままそこにありました。元は刃の集合体ですし、私が操れない道理はありませんね。
中身の無い人形を操り、突き刺さっているレイピアを掴み取りました。そして、その表皮に刃を纏わせていきます。使い物にならなくしてあげましょう。
それを察したのかツキトさんは武器を放棄して人形から離れました。もしかしたら人形を武器に変化させるという考えを読まれたのかもしれませんが、どちらにしてもオッケーです。
私は追撃をかけるために、大爪を生成します……が、出来上がった瞬間にそれらは砕かれてしまいました。
見ると、ツキトさんは肩に担ぐようにして大剣を構えていました。今度は軍神キキョウの大剣みたいです、どんだけいい物使っているんだか。
「観客には先に謝っとくわ! あばよ!」
そう言ってツキトさんが大剣を振り回すと、刃から衝撃波が飛び出して会場を襲いました。どうやら自分の女達以外はどうでも良いようです。
理不尽とも言える暴力の嵐が私を襲いますが……悪いですけれど防御の方が得意なんですよねぇ!
私は防御壁を展開しながらツキトさんに肉薄します。
ボロボロに崩れていきながらも確実に攻撃を大爪は無効化していきました。もう少しで彼の喉笛に槍の切っ先を突き刺すことができます。
それは大剣の刀身がこちらにも届くということなのですが……こっちの攻撃が届けばもらいもんですよ!
もらったぁ!
「もらったぁ!」
私が用意した防護壁を砕きながら大剣が迫ります。しかし、既に私の攻撃もツキトさんに届いていました。
致命傷……にはなりませんでしたが、彼の左肩に血が滲みます。
突き刺さったならこっちのものなんですよ! 『真理の聖槍』を味わいなさいな!
攻撃が通った場合、『真理の聖槍』は追加効果を発揮します。
穂先から神聖属性の拡散する属性攻撃が通常の一撃とは別に発生するのです。更に、この武器自体に対神性の特性がついています。
覚醒状態は女神の力を貸してもらっている状態、当然プレイヤーにも神性が乗っています。……くらえぇ!
穂先が眩い光を発し、一気に拡散してツキトさんの肩を左腕ごと吹き飛ばしました。これですぐには両手を使った攻撃をする事はできないでしょう。
「五か……いめぇ!」
私の胴体も両断されてしまいましたけどね。
けれども、まだ大丈夫です。
まだ私の残機は残っております。こうやって一撃を与えることができ、追撃を仕掛けやすくなりました。
身体の再構築が終了次第、もう一回攻撃を……こゃっん!?
「言ったはずだ、容赦はしねぇ」
ツキトさんは大剣から杖にへと装備を持ち替えており、彼の周囲には多数の魔法陣が展開されておりました。
あの状態は既に魔法のターゲットが決まっている状態です。そして、魔法陣の向きから察するに、全て私とは別の方向へと向けられていることがわかります。……やっぱり気づきましたか。
再生される私になんて目もくれず、魔法陣から多量の魔法の槍が飛び出しました。
それらは私の能力が作り上げた柱に突き刺さり、あっという間に崩壊させてしまいます。
もっと耐えると思ったんですけどね……多分あの魔法も特別製でしょう。槍の形の魔法なんて聞いたことありません。
「……これであと何回復活できる? 10回とか言われたらこっちの手札も尽きるんだけどな」
そう言う彼が杖の次に取り出したのは、見覚えのある散弾銃でした。『キキョウの殲滅銃』、チップちゃんが持っている物と同じ武器です。
……残念ながら、あれを壊されると刃になることはできないんですよねぇ。ですのでこの辺で決めにいこうと思います。恨まないでくれると嬉しいですね。
私がそう言うと、ツキトさんは残った右腕でこちらに銃口を向けました。
「奇遇じゃん、俺もそう思ってたんだよ。というかこれ以上長引くのは嫌な予感がする。マジで身の危険を感じる」
おや、流石に勘が良い。
悪いですけれどそれで防げたらいいですねー? 私だってここにちゃんと準備してから立っているんですよぉ。
神技を使えない貴方が、これを防ぐことができますか?
私はニヤリと笑って右手を前に突き出しました。
すると、尻尾から光球が溢れ出してきました。それは徐々に私の右腕の先に集まっていき、凄まじいエネルギーへと変換されていきます。
「なっ……『ソウル・オーバー』!? ふざけんなよ!? それの取得条件はヤバいだろ! 満たせる相手いたの!?」
どういう意味ですかそれは?
言っときますが……速攻で満たさせてもらいましたよ!
なんせ私の尻尾は九本もありますからね! モフ魔族達を満足させてやったら一日で貯まりましたよ! プライドも捨てましたー!
もうここまで来たら止まりません!
貴方は意地でも止めなければいけませんがねぇ!
今のツキトさんの後方には、最初と同じように子猫先輩の姿と女神様達の姿がありました。
さっきと同じ、絶対に避けることができない状態です。
「ああ……そういう感じか。やってやるよ真っ向勝負、消し飛ばしてやる」
構えたツキトさんの銃口にエネルギーが集約していきます。
それはチップちゃんのものよりも凄まじい速度でチャージされていき、あっという間に発射準備が整ったようです。
さぁ、泣いても笑ってもこれが最後の一撃、私が今できる最高の攻撃がこれになります。防がれてしまったら勝つことはできません。
私の全力をこの一撃にかけます。
『ソウル・オーバー』のチャージが終わった瞬間に、私は集約したエネルギーを解き放ちました。
それに合わせるようにツキトさんも『殲滅銃』の引き金を引きます。
お互いが放った高エネルギーは轟音を立ててぶつかり合い、あたりに拡散していきました。
どちらも同じくらいの出力と威力です。差なんて僅かにしか無いように感じます。
しかしながら、徐々に片方のエネルギーは押されていきました。それは最後まで足掻くように放出を続けていましたが飲み込まれてしまいます。
そして、最後に残ったのは……。




