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愛されし者

 私が『暴食』の遠隔食事を発動させようとしたとき、ツキトさんの後方には椅子に座っていた子猫先輩の姿がありました。

 鉄杭を降らせて二人の位置を調整していたのです。


 『暴食』での攻撃はわかる人が見れば一目でわかる予備動作です。それこそ、あんなにわかりやすくやれば尚更。


 そして、ツキトさんはあの攻撃に対して若干の苦手意識がある筈だと思っていました。対処法も知っているだろうとも。全てはチップちゃんのおかげです。


 だからこそ、彼は咄嗟に回避行動を取ることができたのでしょう。


 けれども、私の様子を見て自分に攻撃が向いていない事に気づいたツキトさんは慌てて時を止めたのです。


 愛しの子猫先輩を見殺しにできるような方でないことはわかっていましたから。必ず助けると思っていましたよ。


 とっておきの神技を使わなければ助けることができない状況を作り出したという事ですね。


 更に私が『祝福』を使用していたために切り殺して止める事もできなかったツキトさんは、同じように『祝福』を使用して子猫先輩の盾になったのです。


 もちろん、関係の無い子猫先輩に攻撃を仕掛けるなんて許される事ではありません。ツキトさんも怒髪天を衝く思いでしょう。状況を察した観客席からもヤジが飛んでいます。


 ……いやぁ、心地の良い声ですねぇ。思わず顔がニヤけてしまいますよ。


 そう思いませんか? ツ・キ・ト・さん?


「ぐ……ぁ……テメェェェェェェェ!」


 私はそうネットリと言いながら、地面に倒れているツキトさんの頭をグリグリと踏みつけました。最高の気分です。


 しかしながら、その時間も僅かでした。


 ツキトさんはすぐに私の足を払いのけ、体制を取り直して大鎌を構えます。相変わらず恐ろしい形相をしておりますね。


 私に対して悪態の一つでも言うかと思いましたが、彼は何も言わずに切り込んできました。


 独特なステップを踏みながら繰り出される大鎌の攻撃、普段の私なら良くて反応できる位の一撃ですが……今の私なら避けることなんて容易いんですよねぇ!


 迫りくる刃をくぐり抜け、私は手に持った槍を振るいました。突き刺すのではなく、大きく振り回して思いっきりぶつけます。


 それをツキトさんは大鎌の柄で防ぎますが、そんな事は関係ありません。パワーで押し切ります。……ぶっ飛べぇ!


 ツキトさんの身体が浮き、後方へと飛ばされました。


 しかしながら、彼は身体を黒い霧に変えてしまいます。追撃を仕掛けようと大爪を作っていたのですが不発に終わりましたね。


 ……正直言って、ツキトさんの大鎌での攻撃は避けるの簡単なんですよね。数パターンの型を覚えておけば大体はその通り斬りかかってきますし。


 大鎌という本来は武器ではない物を使う為に自己流で編み出した技なのでしょう。実戦で使えるレベルなのは驚きですが、所詮は素人の動き方です。どうしても粗が出ます。


 四六時中動きを研究しましたからね。攻略はできたと言っても過言ではありません。


 次に姿を現した瞬間に大爪を全弾ぶちこんであげますよ。余裕ぶっていた事を後悔させてあげましょう。


 そう思いながら、続々と大爪を作り出していきますが、中々ツキトさんはその姿を表してはくれません。


 その代わりに黒霧が通った場所に魔法陣が展開されていきました。『グレーシーの追約』、一度に大量の魔法を使う事ができる神技です。


 このタイミングでそれを使うという事は相当焦っているようです。こんなところで大量にMPを使う理由なんてないですからね。


 さて、問題はなんの魔法が飛んでくるかなのですが……何が来ても問題はありません。全て大爪で防ぎきってしまえばいいのですから。


 私に対して魔法で攻撃をしようとする事自体が間違いなのです。使われた時のイメージトレーニングをしていない訳が無いでしょう。


 コストパフォーマンスを考えたらアロー系の魔法を使うのでしょうが、火力を考えるならレーザー系の魔法を使ってくると思われます。広範囲魔法は燃費が悪いので使わないでしょう。


 どれが来ても大丈夫です。全て受けきって後、黒霧から姿を変えた瞬間に殺します。


 さぁ来なさい。その行為がどれだけ浅はかな行動だったのかを教えてあげましょう。


 私は周囲に更に大爪を展開してくるであろう攻撃に備えます。


 そんな中、魔法陣がは次々と発動を始め━━。




 白い糸を吹き出したのです。




 攻撃じゃない!?


 ツキトさんが使ったのは、拘束に使用する事ができる『スパイダーネット』という魔法です。


 闘技場全体に出現した魔法陣が延々と粘着性の蜘蛛の糸を吐き出して、辺りを白く染めていきます。……こんな時に戦闘用じゃない魔法だなんて、ナメられたものです。


 この程度の糸くらい、大爪で……!?


 私は驚きを隠すことができませんでした。


 大量に展開した大爪は蜘蛛の糸で絡み取られており、全てが繋がった状態になっていました。


 そこから動かそうと意識を向けてみたのですが、絡め取られた大爪はまったく動くことはありませんでした。信じられない耐久力です。


 しかも防御しようと周囲に展開していたせいで、私も身動きができません。蜘蛛の糸で動けないわけではありませんが、これは厄介な事になりました。


 攻撃がどこから来るかわからないのです。


 いえ、こうなったらどこからではなく、どうやって攻撃をしてくるかが問題になってきます。


 ツキトさんの強さは手札の多さ。大鎌の攻撃だけではなく、魔法攻撃やアイテムでの攻め方もしてくるはずです。


 そして、身動きが取れないこの状態、彼が使用できる神技を考えて…………こきゃ!?


 必死に考えを巡らせていると、私の視界は光に包まれてしまいました。その後視界が変わったので死んでしまったみたいですね。


 どうやら上空から『キキョウの進軍』を撃たれたみたいで、闘技場はほぼ壊滅状態になっていました。展開していた大爪も蜘蛛の糸も全て吹き飛んでしまっています。


 しかしながら、私の能力で作り上げた柱は残っていたので、先程と同じようにそこから出てきた刃によって私の身体は元通りに再構築されます。そう簡単には死にませーん。


「……これで三回目か。脆くて助かる」


 復活した私の前には拳銃を持ったツキトさんが立っていました。どうやらあれで殺されたみたいですね。……そうですね、もう三回も死んでしまいました。


 で、次は何を見せてくれるんです?


 私は笑顔を作って挑発します。


 これで神技は全て使わせました。


 大鎌による攻撃も対処できます。


 その他の攻撃なら倒される気はしません。


 残っているのはギフトの力ですが、それは本人が使えないと明言していました。使えるのは『強欲』の力のみです。


 けれど、覚醒はあくまでも『プレゼント』の能力を追加したり強化したりするもの、刃でできた腕輪が付いている限り驚異には成り得ません。


 このまま戦えば私の勝ちは決まった様なものですが……。


「次ねぇ……実は何も用意してねぇんだわ。神技を使い切る前には勝てると思ってたからさ。思いっきり油断した」


 ツキトさんはそう言ってため息を吐きました。それとほぼ同時に『カルリラの契約』の効果が終了し、ツキトさんの姿はいつものものに変わります。


「黒霧になればこの腕輪も取れると思ったんだけどな。そんなにうまい話はなかったらしいし。もしかして、これって装備判定なのか? 厄介すぎる」


 ええ、そのとおりです。


 ちゃんと事前に調査はしてきましてね。ケモモナ達には随分とお世話になりました。お礼に随分とモフられてしまいましたがね。


 けれども、おかげでここまで貴方を追い詰める事ができましたよ。どうですか? 格下に追い詰められるという気分は?


 是非とも感想を聞かせて欲しいんですがねぇ?


 私がそう言うと、ツキトさんは拳銃から大鎌に装備を変えました。そして一言。




「あー……最っ高だな」




 !?


 どこかスッキリとした表情を見せるツキトさんの思考はまったく読めません。先程はあんなに怒っていたのに、今はそんな様子は微塵もありませんでした。


「プレイヤーに追い詰められるのは久々だ。やっぱ対人戦っておもしれぇよ、焦燥感がヒリヒリと伝わって来るのが堪らねぇ」


 彼は手にしていた大鎌を振るいました。


 すると不思議な事に、彼の両椀は肘の辺りから切断されてしまい、大鎌ごと地面に落下しました。


 もちろん腕輪ごとです。


「忘れてたよ。プレイヤーってのは何してくるかわからないから、なにかされる前に殺すのが定石だ。立ち会ったら本気を出さないなんてあり得ねぇんだ。だから……」


 私は黙って彼の話を聞いていました。


 別に慢心したとかそういう話ではありません。ただ見たかったんです。




「俺も全てを出し切ってやるよぉ! 『覚醒……降臨』!!」




 最強のプレイヤーの、命を賭けた全力というものを。


 目の前にツキトさんの覚醒を告げるウィンドウが現れました。


 記載されていたレベルは私の倍近く、それ以外は特に他の方と変わりません。しかしながら異常なのは出現したウィンドウの種類です。


 私の目の前はウィンドウで埋まってしまいました。六女神全員分のウィンドウが出ているのです。


 女神について記載がされたウィンドウが一斉に消えると、『覚醒終了』のウィンドウが現れます。


『Lv20000 愛されし者 『ツキト』 もう縛られるものは何もない。その力をもって、世界を変えろ』


 最後のウィンドウが消えると、ツキトさんを取り囲むように六つの魔法陣が出現しました。


 それらが一斉に光り輝くと、それぞれの魔法陣の上に人影が出現します。……なるほど、これは凄い。


「ぅんニャー!! 祭りのジカンニャー!」


「おや? そこまで追い詰められたのかい、『浮気者』? 手伝ってあげるよ」


「ふっふっふ……妾も来たぞ! 倒されるなんてゆるさんからな! 頑張るのじゃ!」


「我々がでなければいけない程の相手か……楽しみだ!」


「もう、別に普段から呼んでも良いんですよ? もっと頼ってくれて良いのに……」


「カルカル、彼にも都合があるんだから仕方ないよ。……今日は大丈夫みたいだけどね」


 召喚されたのは『聖母のリリア』を始めとした六女神でした。全員が普段見る装いとは違っていて、気合が入っている様に見えます。


 『死神』は全ての女神をパーティメンバーにしている……そういう話もありましたね。


「卑怯とは言わせないぜ……? 見せてやるよ、女神の力を手に入れたプレイヤーの実力ってやつをなぁ!」


 ツキトさんがそう吠えると、失われた両腕を再生させました。


 続けて大鎌をアイテムボックスに戻し、新たにレイピアを取り出して構えます。……戦闘スタイルを変えてきましたか、なるほど。


 きっとこれからの戦闘はさっきとはまったく違うものになるでしょう。ここから先は一切の油断は許されません。


 けれど……負ける気はしませんねぇ。女神様が相手でも負ける未来が見えませんよ。ふふふ……。


 ツキトさんに対抗し、私も槍を構えて周囲に大爪を展開しました。……さぁ、次に隙を見せた時が貴方の最後です。




 私の『奥の手』を、見せて差し上げましょう。





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