表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/172

願いの使い方

 さて、プレイヤーは《ワールド・イーター》の討伐に成功しましたが、まだイベント期間は終わっていなかったようです。


 複数のパーティを集めれば、国営ギルドに設置している『夢見の扉』から《ワールド・イーター》に挑むことができるのだとか。


 なので、倒されてしまっても再挑戦できますし、もう少し難しい難易度に挑むこともできるそうですね。……というよりも、皆さんの最高難易度に挑むしか選択肢はなかったそうです。


 このイベント、考えた方が相当性格が悪かったらしく、最高難易度以外でクリアしてもマトモな報酬は貰えなかったのだとか。


 目玉である『願望の杖』も貰えるには貰えたそうですが、複数のパーティが参加しているにも関わらず、貰えたのはタッタ一本だけだったとか。私達は全員一本づつもらえたので問題はなかったのですが。


 ですので低難易度に参加した方々のパーティでは『願望の杖』を巡って戦争が起きていました。裏ボスは味方って皆さん言っていました。


 もちろん全員分の杖を手に入れる為に最高難易度に挑む方々もいるのですが……散々たる結果だそうで。


 『でかいヒトデからでかいキモいのが生えた』『俺のディリヴァちゃんを返して』『回避不能の即死攻撃が来た、クソゲー』『というか《ワールド・イーター》ってなに?』『攻略情報を出せ』等々……皆様の愉快な声が掲示板に轟いていました


 子猫先輩を始めとした『ソールドアウト』の皆様が繰り返し挑み、攻略方法をさがしているそうなのでこう言った不満はすぐに解消されるでしょう……。




 と、思っていたんですがそんな事はありませんでした。




 攻略法として上げられたのが『触手を倒さずに本体部分のみに攻撃をする』『全員覚醒状態で挑む』というものです。


 触手を倒さないと《ワールド・イーター》はギフトの能力を使うことができないそうで、戦闘がグッと楽になるのだとか。


 更に、今回のイベントで戦った邪神達とも『夢見の扉』で同じ様に戦えるので、ギフトカードを使って覚醒状態になることは簡単です。


 しかしながら、『そもそもその段階まで行くことができない』『ギフトカード使うの勿体無い』『触手以外の場所に攻撃しても通用している感じがしない』『ラスト無茶ゲー始まって草』という事で。


 いやぁ、こういう書き込みを見る度に自然と笑顔が浮かびますねぇ。優越感という奴です。


 金髪ちゃんも一日かけてみっちりと可愛がりましたし、もう思い残すことはありませんね。


 ということで、ツキトさんを倒す準備を致しましょう。


 イベントの期間が終了したら、また皆さんで宴会をすると言っていましたし、戦いを挑むのならそこですね。


 さ、忙しくなりますよー!




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「それで俺の所に来たと? 悪いが期待には答えられないな、忙しいのだよ。もちろん、その尻尾の香りを嗅がせてくれるというのなら話は別だがね」


 ははは、死んでくださいな。


 私は決戦に向けての準備の為、ケモモナのクランに訪れていました。いきなりセクハラ発言が飛んでくるとは思いませんでしたがね。


 『黄衣の王』の姿から元の神官風の姿に戻ったケモモナは、ゆったりとした姿勢で椅子に座っております。ここは奴の自室ですし、忙しそうには見えません。


 しかし、その顔には疲労が溜まっており、何かをしていたのだろうと言う事はわかりました。


「厳しいなぁ、ポロラちゃんは。ついこの間まで仲間だったのに、少しくらいサービスしてくれよ。そのもふもふをキメればこの疲れだってぶっ飛ぶはずだからさ。10分だけでいい、尻尾も一本でいいから、ほんとお願い」


 言っておきますが尻尾は嗅ぐ物ではありませんし、ましてやキメる物でもありません。というか疲れているなら寝なさいな、ゲーム内で寝れば疲れも飛ぶでしょうに。


 私がそう言うと、ケモモナは力の無い笑い声を漏らしました。え、どうしたんです?


「休めるものなら休みたいよ……けれどやらなきゃならない事が……」


 と、そんな時です。


 廊下から誰かが走ってくる音が聞こえました。何事かと思って扉の方に振り返ると、ケモモナの仲間達がなだれ込んできます。その手にはギフトカードが握られていました。


「マスター! 『強欲』のギフトカードです! 邪神を倒してゲットしてきました! これでまた《ワールド・イーター》に挑めま……ワァオ! モフモフだぁ!」


 もちろん皆さんモフモフが大好きなので私の尻尾に飛付こうとします。……ウジ虫どもがぁ!


 もちろんそんなに簡単には触らせてあげません。


 私は刃で壁を作り上げました。そして、そのまま壁を使って皆様を部屋の外へと押し出します。結構な人数がいましたからね。十人位で迫られたら流石の私も困ってしまいます。


「た、助かった……これでもう少し休める……」


 押し出されてしまった仲間達を見て、ケモモナは安心したように机に突っ伏します。


 貴方、また《ワールド・イーター》と戦っているんですか? もう杖は手に入れたでしょう? 何がしたいんです?


 確かに、勝つ度に杖以外のアイテムは貰えるらしいですけれど、そんなにいいアイテムは貰えなかった筈です、大量のお金とエナドリがもらえるとか。杖を貰えるのは一回だけだそうです。


 ですので、クリア済みのケモモナが《ワールド・イーター》を倒すメリットはあまりないのですが……。


「それが俺以外のメンバーは『願望の杖』を手に入れられなかったみたいでな。手に入れる為に俺も連れ出されているんだ、ずっと出ずっぱりでね……」


 それはお気の毒に。


 まぁ元気そうで何よりです、《ワールド・イーター》との戦いが終わったら、ちょっと顔をだしてすぐに帰ってしまうんですもの。


 ワッペさんも残念がっていましたしね。


「へぇ……彼がね。それじゃあこっちの手伝いでもしてくれと言っておいてくれ」


 ケモモナはフラフラと椅子から立ち上がり、部屋の外へと出ていこうとしています。


 ……ちょっと、私の話が終わっていないでしょうが。とりあえず聞くだけ聞きなさいよ。悪い話じゃありませんから。


「負けてきたらね。仲間が待っているんだ、壁をどかしてもらって構わないかい?」


 あーもー、負ける前提で行くんだったら私の話を聞いてからでいいでしょ? ……ほら、これ欲しいんじゃないんですか?


 そう言って私が『願望の杖』を取り出すと、ケモモナは驚いて目を丸くしました。やっぱり目当てはこれのようですね。


「な……!? た、確かに欲しいが、それは君の物だろう? それに、そこまでほしいという訳じゃないさ、まだイベントが終わるまで時間もあるしゆっくりとやって……」


 はぁ……まどろっこしいですねぇ。




 貴方の杖だけじゃ足りなかったのでしょう? 汚された女の子と殺された男の子……二人を救うには二本必要なはずですからね。




 私がそう言うと、ケモモナは気まずそうな顔をして、眉間にシワを寄せました。


 足りないと気付いたから今になって焦って戦い始めたのでしょう? けれど、あの戦場にいた貴方にはそれがいかに無理な話なのかはわかっていると思っていたのですが?


「……わかっているとも。俺達の力だけじゃ

倒すのはほぼ不可能だ。どうやっても最後の魔法攻撃を防ぐ事はできない。……けれど、これは俺達のクランの問題だ。他人に頼りっきりという訳にはいk、痛い痛い痛い!?」


 私は手に持っていた杖をケモモナの顔に押し付けました。柄の部分でグリグリと痛めつけます。


 いいから貰えって言ってるんですよ! それにこれは私のじゃありません! 


 ワッペさんが貴方に持ってけって言ってたんですよ! ありがたく受け取りなさいな!


「ワッペが……? なぜ……」


 ケモモナは困惑したような顔をしながら杖を受け取ります。……さぁ? あの人NPC好きだからじゃないですか? ああ見えてジェンマにはかなりキレていたみたいですし?


 それに……私達は他人ではなく仲間じゃないですか、助け合うのは当然でしょう?


 少しの間ではありましたが、私達は確かに仲間でした。

 《ワールド・イーター》との戦いでは、囮になったりしてくれましたし、私だってケモモナに感謝しているところはあります。


 仲間だったら、助け合うのは当然でしょう?


「……そうだな。俺達は仲間だったな。それなら本当にもらってしまっても構わないかい?」


 私が笑った顔を見せると、ケモモナはどこか嬉しそうな顔をしながら杖を懐にしまいます。


 実のところ、ワッペさんからは私のものだと言って渡せと言われていたんですけれどね。そんな命令を聞くほど私素直じゃないです。


 大人しく感謝されるといいんですよ。一体何を恥ずかしがっているのやら。


 ……で、これならもう戦いに行く理由は無いでしょう? 私の話を聞いてくれる気になりましたか?


「ああ、もちろんだとも。暇になったからね。……よかった、これでまたあの子達の笑顔を見る事ができる」


 そういう事を言われるとやり辛いんですけれど……まぁいいです。


 貴方にお願いしたい事は簡単な事です。ツキトさんを倒すためのお手伝いをしてもらいます。


 まぁ貴方達にとっても美味しい話ですから、落ち着いて私の話を聞いてくださいね?


 私は前置きを述べてからケモモナに説明を始めました。


 説明を聞いていたケモモナは戸惑ったり驚いたりと忙しく表情を変えていましたね。最終的にはニッコニコとした顔になっていました。


 途中からはお仲間も一緒に話を聞いていましたね。皆さんも乗り気になってくれたみたいです。


「……いいだろう。その話乗った。我々、クラン『ケダモノダイスキ』は君の勝利の為に全力で協力する!」


 そう言って、ケモモナはニヤリとした笑みを浮かべ、私に手を差し出したのでした。



 さぁ、これでとっておきの武器が増えましたね。跡形もなく、彼を吹き飛ばすことができるでしょう。



 宴会の日……ツキトさんとの決戦の日が楽しみですねぇ。


 こゃ〜ん。









 ……ああ、そうだ。ケモモナ、悪いんですけれど、ついでにもう一つお願い良いですか?


「ん? なんだい? なんでも言ってくれよ、どんなお願いでも聞いてやるさ」


 おや? なんでもとは大きく出ましたね。それでは……。




 このクランで預かって欲しい子供がいるんですが……構いませんね?




 私はそう言って『願望の杖』を取り出し、私が殺してしまった子供の再生を願ったのでした……。

・『願望の杖』

 基本的にはなんでも叶えることができるが、ステータスをいくらでも上げたり、レベルを最大にしたりする事はできない。しかしながら、アイテムなら限度無く貰うことができる。できてしまうので欲張って『疲労回復のポーション5兆個欲しい!』等と言ってしまったプレイヤーは空から降ってきたポーションに潰されて死ぬことになる。アホだなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ