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どうか、彼等にこの世界の祝福があらんことを

 真っ白な教会。


 窓から美しい光が差し込む幻想的な光景の中、『聖母のリリア』と『輪廻のカルリラ』が向かい合って話をしていました。


『リリア……貴女は甘すぎる。一度はこの世界を滅ぼそうとした存在を、貴女は救うと言うのですか?』


 真っ黒な外套を纏い、死神の姿をしたカルリラは険しい顔をしています。口調も、女神の長であるリリア様に対して使うには些か乱暴にも思えました。


 そんなカルリラに対して、リリア様は穏やかな表情で答えます。


『……駄目? 大昔、皆で決めたじゃない。カルリラの手が死にゆく魂に届くのなら、何度でもチャンスをあげる……それがこの世界の理だって』


 リリア様も普段とは違ってくだけた喋り方をしています。まるで昔からの友人と話をしているようですね。


 私はこの二人の関係性をよく知りません。ですので、どうしてこんな感じの話し方をしているのかはわかりませんが……まぁリリア様は頑張って女神っぽく振る舞っているところありますし、これが素なのかもしれません。


『それはこの世界で生まれた者に限った話です! 貴女は昔からそうですね! 妙に頑固で話を聞いているようで全く聞いていないんですから! どうせ私が魂を消滅させてもどうにかして復活させるんでしょう!? なんで私を呼んだのですか!? どうせ勝手にやるでしょ貴女!』


 カルリラが怒りました。

 もぉー!、と叫びながら地団駄を踏んでいます。どこか諦めたような顔をしていますね。きっとリリア様が無茶を言うのはこれが始めてではないのでしょう。


 カルリラは死神さんらしく、この世界の生命を管理しているそうです。


 普段は村娘の姿をしているにも関わらず、お仕事モードになると冷徹な死神の姿になるギャップが人気だそうです。ガチの死神モードの画像を見ましたけれど、結構怖かったですね。


 そういえば、生命の管理が仕事という事は相当なブラックですね。この世界一日の間に何人死ぬんですか。よく過労死しませんね、この女神様……。


『よくわかりましたね。私は『強欲』ですから、救える命は救います。生きたいという叫びを無視したくはありません』


 そんなリリア様の言葉と共に、彼女の周囲に七つの光の球体が現れました。……邪神とディリヴァの魂……なのでしょうか? え、復活させちゃうんです?


 確か邪神も元はディリヴァに吸収された世界の管理者だったんですよね? それを復活させるって……なんかとんでもない事になりそうなんですけれど? この世界どうなっちゃうんですかね?


『ほらぁ! やっぱりもう復活させてた! 用事があるからってわざわざ来たのに! あーあーあー! もう私は知りませんからね! これでまた世界を奪い合う戦いが始まっても、絶対に協力しませんから!』


 激おこですねー。


 そんなカルリラをリリア様は気にもしません。むふー、というような小生意気な幼女の顔をしています。


『知ってるもんねー、そう言いながら協力してくれるって。……大丈夫、この子達は元の力を失っている、ただ生まれ変わるだけだよ。ほら、今日からは私の世界で精一杯生きて……』


 リリア様がそう言うと、光球はゆっくりと動き出し、どこかに行ってしまいました。この世界で生きていこう、そう思わせる強い動きです。




 その場に残った、二つの光球を除いての話ですが。




 一つはその場に留まり、もう一つはカルリラの前に移動します。


 目の前にやってきたそれを目にして、カルリラは驚いた表情を見せた後、どこか悲しそうな顔をしました


『どうして……どうして今更……。考えを改めたとでも? 貴方がディリヴァに反逆したのは知っています。それでも、私は貴方を許す事はしません。絶対に』


 そう言って彼女は顔を逸らしますが、光球はその場から動く様子を見せません。


 まるで、何かを待っているかのようです。


『……良いのですか? この世界を貴方の物にするチャンスなのですよ? 貴方がここに留まるというのなら、私は貴方の力を取り込み、真の力を得るでしょう。そうなれば、貴方の存在は消え去ります。それでも……その顔を、私の前に晒し続けると言うのですか?』


 カルリラは大鎌の刃を静かに光球に当てました。

 少しでも手を動かせば、すぐにでもその刃は光球を切り裂くでしょう。


 魂を消滅させられる……そうなった場合、どうなるかはわかりませんが、いい結果にならないことはわかります。


 にも関わらず、やはり光球はそこから動こうとはしませんでした。


『それが……貴方の答えですか?』


 諦めた様にそう口にして、カルリラは大鎌を下げました。そして、今度は光球に対して腕を伸ばします。


 すると光球はカルリラの手に向かって動き、まるで彼女と同化するように消えていってしまいました。


『本当に……本当に馬鹿な人……』


 カルリラは胸に手を当てながら、静かに涙を流します。


 取り込んだ邪神は、きっと『嫉妬』の邪神でしょう。


 このイベント中でも私達に協力的な姿勢を見せていましたし、カルリラと関係があるという話も聞いていました。


 その様子から、普通の関係では無かった事が伺えますが……変に考えるのは無粋でしょう。


 さて、その場に残り、リリア様の前でプカプカと浮かんでいる光球ですが、未だになんのアクションもしていません。これには、リリア様も困り顔です。


『どうしました? もう貴女は自由なんですよ? 自らの世界に囚われる事無く、自由に生きて……』


 そうやってニコリとリリア様が微笑むと、光球は急に動き出しました。

 ポカッとリリア様の頭にぶつかり、強く光ったと思ったら人の姿に変化します。悔しそうな顔をしたクソガキですね。


『い、いつか覚えてろ! 絶対にギャフンと言わせてやるからなー!』


 今まで被ってきたものを全て投げ捨てて、ディリヴァは捨て台詞をはきました。情けないことこの上ありません。


 しかも、そのまま窓を突き破って逃げ出しましたからね。落ちるとこまで落ちた感じがしました。まさにゴミ。


 そんなディリヴァの様子に、リリア様は最初は呆然としていましたが、すぐににこやかな表情に戻って両手を合わせました。お祈りのポーズです。


『ふふふっ……ああ、どうか、彼等にこの世界の祝福があらんことを……。心の底から、楽しいと思ってくれますように……』


 優しげな顔のリリア様と、頬に涙の跡を残したカルリラの姿を映した後、スタッフロールが流れ始めました。第二部完、という事らしいです。


 《ワールドイーター》を倒した後、『クエストを達成しました。街に戻ります』という表示が流れた後にこの動画が流れました。ウィンドウではなく、第三者視点で。


 多分ですけれど、これって最高難易度じゃないと見れないやつじゃないですか? なんか得した気分です。


 さて、エンディングが終わったのなら私は死んでしまった皆さんの元に向かうことにしましょう。特に金髪ちゃんは許せません。


 私の許しも無く、勝手に死んだんですからね。


 貴女のお陰で勝つ事ができたと褒め殺してやるのです! 先輩思いの後輩め! モフり倒してあげましょう!


 待ってなさいな! こゃーん!


 私はサアリドの街に戻ってきた後、金髪ちゃんに連絡をとって速攻で会いに行ったのでした……。












 そして。


 イベントが終わったと言う事は、この世界の危機も去ったということ。何も気を使わくても良いということです。


 ようやく。


 ようやくこの時がやってきました。


 初心者の私を斬り殺し、あまつさえウジムシ呼ばわりした恨み……絶対に後悔させてあげますからね!




 『死神』ぃ……!



・『輪廻のカルリラ』

 冥府の世界の管理者に見初められた村娘。自身が『嫉妬』に利用されていると気付き、『嫉妬』を殺してその神性を奪い取った。本来ならば、死神としての能力は『嫉妬』の能力であるのだが、それを知るものは全くと言っていい程にいない。

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