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後は……

「ポロラさん! 早く私のところに来てください! 急いで!」


 私の下方で金髪ちゃんが腕を振りながらそう叫んでいます。彼女の右手には自身の『プレゼント』である『バッテン』が握られていました。


 何故彼女がこの猛攻の中、全くの無傷でそこに立っているのか。私はその姿を見てピンと来たのです。……チップちゃん! 行きましょう!


 必要最低限の防護壁だけを残し、私は金髪ちゃんの元に向かって降下しました。


「ちょ、ちょっと待って!」


 それに続いてチップちゃんも高度を下げていきます。


 私達が金髪ちゃんに近づいて行くにつれて、多少ではありますがこちらに向かって飛んでくる魔法弾の数が減少していきました。


 「攻撃の手が緩んだ……? いや、これは……」


 チップちゃんはいきなり自身に当たる魔法弾が減少したことで、不思議そうに辺りを見渡しています。


 不思議なのは仕方がありません。金髪ちゃんの『プレゼント』の能力を知っているのは私のパーティ位なものですからね。


 私とチップちゃんが金髪ちゃんの元まで辿り着いた時には、こちらに向かって来る魔法弾はあっても数発、大爪と相殺して防げる程度まで減少していました。


 なお、金髪ちゃんに向かって来るものは一発もありません。


「気づいてくれてよかった! 私の能力が役に立つだろうってシードンに言われてやってきました! 好きに使ってください!」


 若干焦り気味に金髪ちゃんはそう言いました。……いえ、好きに使えと言われましても。


「能力……ターゲット操作か! それでここだけがセーフゾーンみたいに……」


 チップちゃんは姿勢を低くして頭スレスレを飛んでいく魔法弾から身を守っていました。


 金髪ちゃんの『バッテン』は自分以外の味方にターゲットを集中させるという能力です。


 ターゲットにされないということは、ターゲットをしなければ使えない魔法攻撃をされる事はないということです。


 そのせいで、金髪ちゃんの周辺には全く魔法弾が飛んでいませんでした。


 多少私とチップちゃんに向かって飛んできたりはしますが、それでもかなり数が減っています。金髪ちゃんがいる射線上からは飛んでこないようです。


 もしかしたら、金髪ちゃんの近くにいればターゲットから外れるという可能性もあるかもしれません。

 この様な状況ではとてもありがたい能力です。


 ……金髪ちゃん、私の後ろに乗ってください。


 こうなったら直接ディリヴァを狙いにいきます。ずっと耐えていれば勝てるかもしれませんがそれは性にあいません。


 このまま乗り込んでやりましょう、無理矢理ぶっ殺してやります。


「は、はい! わかりましたよろしくお願いしま……まふぅ!?」


 私が座っている大爪にちょこんと座った金髪ちゃんを、私は尻尾で包み込みました。バランスを崩して落ちたなんて冗談じゃありませんから。


 そういえば金髪ちゃんは私の尻尾を触った事がないですね。もふもふに包まれるのは始めてなようで、どうやら戸惑っているみたいです。モジモジしています。


 申し訳ありませんが、これについてはなれてもらうしかありません。……しっかりと捕まっていてくださいね!


 私は金髪ちゃんを乗せて、《ワールドイーター》の胸の高さまで一気に浮上しました。


 このまま真っ直ぐに飛んでいけば、ディリヴァがいる位置まで飛んでいけることでしょう。


「魔法弾が全然飛んで来ない……このまま行こう! ポロラ! 《ワールドイーター》のHPももう少しだ!」


 わかりました。……それじゃ、全速力で行きますよ!


 ウィンドウを見ながら叫ぶチップちゃんに返事をしたあと、私は乗っている大爪を操作しました。


 その場から一気に飛び出した私は、大爪を防護壁にしながらひたすらに突き進みます。こちらに飛んでくる魔法弾が減ったからこそできる芸当です。


 私に続くようにチップちゃんも付いて来ました。その手には、必殺の超兵器『キキョウの殲滅銃』がありました。その一撃を加えれば《ワールドイーター》でもひとたまりもないない筈でしょう。……どうです? もう撃っちゃてもいいんじゃないですか?


 そう言うと、チップちゃんはクスリと笑います。


「前線にでている人達ごと? 後で怒られるから駄目かな」


 駄目ですかね? それは残念。


 いい案かと思いましたが、どうやらチップちゃん的にはそうでも無かったみたいです。ついでにツキトさんも吹き飛ばせて一石二鳥かと思ったのですが。


「ぷ、ぷはっ! 残念って何をするさせるつもりだったんですか!? 駄目ですよ!」


 尻尾の中から金髪ちゃんが顔をだしてツッコミを入れてくれます。一般的にも駄目みたいですね。


 まぁ、そんな事は置いときまして。


 もう《ワールドイーター》の攻撃範囲に入りました。奴が腕を伸ばせばこちらにも届くでしょう。


 本来ならばその腕によって攻撃されるのでしょうが、今でも戦っている方々に対処するので精一杯のようです。


 しかしながら、戦い続けているのはツキトさんやシバルさん、ヒビキさん位なものです。その三人が絶えず攻撃を繰り出していました。


 他の方々は魔法を使って延命しているか、そのまま地面の染みになってしまっています。

 ケルティさんのパーティメンバーは壊滅して……いませんね。


 ケルティさんが背中に作り出した翼で皆さんを守っているようです。意外に死んでしまった方は少ないようでした。


 ちなみにワッペさんは魔法陣が展開したらすぐに死んでしまったみたいです。『傲慢』のギフトが発動してステータスが上がったのですぐにわかりましたよ。


 早々に死ぬとは思ってましたが……せめて彼の犠牲を無駄にしないように頑張りましょうか。(ステータスアップ美味しいです)


 もうディリヴァは目と鼻の先です。


 このまま真っ直ぐに進んで仕留め……れたら嬉しかったんですけれどね。


 もう少しで確実にディリヴァを仕留めてられるという位置に辿り着いた瞬間、私達を挟むように両椀が動きました。そう簡単にはいってくれないみたいです。


 けれど……そんな事は百も承知なんですよねぇ!


 私はその場に静止して、新たな大爪を作り出すことのみに集中しました。その間にチップちゃんは殲滅銃を構え、トドメの一撃を放つ準備をします。


「ポロラ! 後数秒で撃てる! それまで頼んだ!」


 当然!


 私は迫り来る巨大な腕に向かって大爪を飛ばしました。


 あんな物、一発でもマトモにくらえばお終いです。防護壁なんて作ってもなんの意味もないでしょう。


 ですので、一気に攻撃を加えて、その軌道を変えてやるのです。


 大量に射出された大爪は、前腕部分に真上から突き刺さっていきました。


 そして、一度に何本もの大爪に突き刺された腕は、その衝撃によって叩き落とされます。……まだまだぁ! このまま貼り付けにしてあげますよ!


 だらりと腕が垂れた一瞬を狙い、更に大爪を突き刺していきます。今度は長めの奴ですね。


 これ以上この腕に邪魔されたくはありません。もう二度と動かなくしてしまいましょう。


 腕を身体に固定するが如く、私は大爪を作り、飛ばし、ぶっ刺していきました。


 その間にも、結構な数の魔法弾をくらってHPも結構減っていましたが……ここまできたらもう関係のない話です。




 やっちゃってください! チップちゃん!




 私の前に、チップちゃんが銃を構えて飛び出しました。


 その手に持っている『キキョウの殲滅銃』は強く光り輝いていて、完全にエネルギーの充填が終わったことを物語っています。


「エネルギー最大……これで最後だ! 吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 この戦闘を終わらせる一撃が放たれました。


 殲滅銃は轟音を立ててエネルギーの奔流がが射出され、《ワールドイーター》の胸元に埋め込まれていたディリヴァに向かって飛んでいきました。


 撃ち出されたエネルギーは胸部全体を包み込む程に広範囲に広がり、その身を焼いていきます。


 上半身は苦しむ様に悶え、その苦しみから逃れようと必死に動いていました。


 しかし、そんな事をしても無駄な事です。


 神器『キキョウの殲滅銃』はこれまでどんなに強い敵も屠ってきたチップちゃんの最強装備です。


 暴走した邪神も一撃で倒せていましたし、残りHPが少なくなっている《ワールドイーター》なら、例えどれだけレベルが高くても倒すことができるでしょう。


 そう、大丈夫。


 チップちゃんは強いんです。


 私達のクランリーダーで、どんな敵でも倒してきた頼れる友人なのです。だから、こんな奴も倒せるはず。




 なのに、なんで。




「う、そ。攻撃が……効いていない……?」


 銃身から流れ出る光が弱まり始めたとき、動揺仕切ったチップちゃんの声が聞こえてきました。


 殲滅銃の一撃を耐えきった《ワールドイーター》は大爪による拘束を椀力で振り切り、放心状態のチップちゃんに向かって片腕で攻撃を仕掛けます。……させるか!


 もう攻撃をしても間に合いません。


 私はチップちゃんに対して大爪を振るい、後方へと弾き出しました。少し手荒ですけれど、死ぬよりはマシなはずです。


 続けて魔法弾を防ぐ為の防護壁を展開しました。なんとか体制を立て直さなくては……。


 しかし、《ワールドイーター》の攻撃の手は緩まりません。


 もう片方の腕が拘束を振りほどき、今度は私に向かってきました。金髪ちゃんのターゲット操作が効いていない……!?


 防護壁を貼る前に逃げ出せばすれば良かったのでしょうが……判断を間違えましたか。


 仕方ありません、こうなったら気合で耐えて……。


 そう覚悟を決めた瞬間に、《ワールドイーター》の動きがピタリと止まりまあう。


 何事かと思い、ディリヴァのいる場所に目を向けると、そこにはボロボロの布切れを身に纏った、死にかけの触手爬虫類の姿がありました。……ケ、ケモモナ!?


「ははっ、どうやらディリヴァに近い敵を狙うらしいな……俺はここまでだ! 後で九尾をモフらせr」


 アホな事を言いながら、ケモモナが両手に挟まれて潰されてしまいました。驚異的な強さを持っていたあの身体でも、あの攻撃には耐えられないでしょう。


 そして、私のステータスが更に強化されます。あの状態であそこにいた時点で囮になって死ぬつもりだったのでしょう。


 全く、つまらないことをしたものですね……!


 今度は私に対して攻撃が向きますが『傲慢』のステータスアップは他のギフトのバフとは比べものにならないレベルです。


 今ならば、防護壁を展開しつつ攻撃を捌ききることもできるでしょう。


「……ポロラさん、ちょっとだけ耳を貸してください」


 迫る攻撃を防ごうと刃を展開していると、金髪ちゃんが尻尾から上半身を出してこちらを見ていました。

 その手には、まだ『バッテン』が握られています。


「もしも……もしも、もう少し強くなれれば、このまま《ワールドイーター》に攻撃できますか?」


 そう聞いてくる彼女の顔は、とても真剣なものでした。


 できるかもしれませんが……今は守りに徹します! どちらかというと守りに向いた能力ですからね! 金髪ちゃんは安心して尻尾に隠れてくださ━━━━。


 私がそう言って金髪ちゃんから目線を逸したその時。






 苦しそうな声が聞こえ、その後、私の尻尾が何かの液体で濡れたのです。






 まさかと思い、視線を彼女に戻します。


 そこには、胸から大量の血を溢れさせ、血塗れになった剣を持った金髪ちゃんの姿がありました。


「ワッペさんから……聞きました……パーティメンバーが命を捧げた時……『傲慢』の能力は……真の力を発揮できる……って……」


 口から吐血しながら、金髪ちゃんは続けます。


「私には……これしか……できません……後は……」


 最後まで、言い切ること無く、金髪ちゃんは私の尻尾の中でミンチになって弾けました。……誰かに勝利を託して死ぬなんて……馬鹿じゃないんですか?


 前に同じような事をした事を思い出しながら、私はディリヴァに目を向けました。


 その間にも、《ワールドイーター》は防護壁を壊そうと攻撃をしてきますが、皆さんの力をもらった私の刃を壊すことはできません。


 私は乗っていた大爪の上に立ち、槍を手に持ちました。


 そして、新たに生成した大爪達を並べて、ディリヴァまでの道を作ります。……もう守るなんて選択肢は消滅しました。


 ここまで期待されて、頼まれて……。


 怖気づいてなんて……いられませんよ!


 貼っていた防護壁を全て解除して、私は飛び出しました。


 それと同時に、魔法弾と《ワールドイーター》の腕が迫ります。


 大爪を足場にして跳ね飛びながら前進し、巨腕の腕からの攻撃を回避。向かってくる魔法弾はもう効きません。死ななきゃダメージなんてないのと同じです。


 皆がここまで連れてきてくれたんですから。


 その程度の事で、もう迷う必要なんてないのです! とぅおおおおおおおりゃあああああああああああああああああ!!!


 最後の足場から、私は大きくジャンプしました。


 槍のリーチを考えれば、十分に届く距離です。


 しかし、目の前に今まで攻撃を加えていたはずの腕が急に現れました。このままではそれに阻まれて攻撃は不発に終わるでしょう。




 だから、私は空を蹴って更に跳躍しました。




 空中での跳躍を可能にするブーツ、ヒビキさんからもらったものです。腕が飛び越えてようやく間合いに届く事ができました。


 そして、最後に……。




 これは貴女からもらったものです。




 お返しして……差し上げますよぉ!




 私は力の限り叫びながら『真理の聖槍』をディリヴァに突き刺しました。


 正確に、深く、その胸を貫きます。


 ガラスを打ち割るような音を立てて私達を囲うように発生していた魔法陣が砕け散っていきました。


 響く絶叫。崩壊していく巨体。宙に浮く私の身体。


 下の方で誰かが叫んでいたような気がしましたが、今の私には何を言っているのかわかりません。


 落ちていく感覚を味わいながら、私はゆっくりと目を閉じます。




 ━━ああ、勝ったんだ。




 そして、どこか虚しさを感じながら、私はボソリと呟いたのでした。


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