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勝ち筋

 色欲の邪神が使う広範囲攻撃、『ソウル・オーバー』。


 その問答無用で全てを吹き飛ばすエネルギーの爆発をマトモに食らってしまった場合、とてもではありませんが耐える事はできないでしょう。


 そう思い《ワールドイーター》の指先に集まっていくエネルギーを散らそうとその身体に攻撃していくのですが、エネルギーのチャージは止まる様子はありません。


 あれを防ぐことができなければ最悪全滅もあり得ます。……なにか、なにか手はありませんか!?


 私は攻撃を加えながらアイテムウィンドウに目を通しますが、この場をなんとかできるようなアイテムは持ち合わせていませんでした。


 そうしているうちに、エネルギーの充填が終了します。


 こうなったら仕方がありません、少しでも犠牲者を出さないように動かなければなりません。


 私は攻撃を中断して、防護壁を作りあげるための準備を始めます。


 その時です。


「全員下がって! ボクが止める!」


 ヒビキさんはそう叫び、《ワールドイーター》の指先の前に立ちました。その身を盾にして『ソウル・オーバー』の攻撃を防ぐつもりなのでしょう。


 巨大人形のヒビキさんは人型になった《ワールドイーター》よりも小さいですが、


 その言葉に従い、私は彼の後ろへと移動します。他の方々も同じ様に避難していました。


 全員が後方へと移動した後、『ソウル・オーバー』は放たれました。


 ヒビキさんに向かって轟音を立てながら凄まじいエネルギーの塊がぶつけられます。


 その身体では全てのエネルギーを受け止める事はできませんでしたが、最低限のセーフゾーンは確保されていました。

 後方にも攻撃は届いていないみたいです。


 攻撃が直撃しているヒビキさんも思ったよりも耐えているようで、一撃で倒されるということはありませんでした。……もしかして、ヒビキさんは『リリアの祝福』を使っているのでしょうか?


 私と同じ発想です。自身に絶対防御の神技を使って盾となる、この攻撃を防ぐのならばこれが一番いいでしょう。


 しかしながら、ヒビキさんの体表には徐々に亀裂が走っていきました。


「くっ……舐めるなよ……! この程度……!」


 攻撃を受け、苦しそうな声を漏らすヒビキさん。明らかにダメージが入っています。


 やがて『ソウル・オーバー』による攻撃が終わると同時に、ヒビキさんはその場に倒れてしまいます。


 それを確認したのか、《ワールドイーター》は大きく腕を振り上げました。……危ない!


 私は振り下ろされる腕に向かって、大爪を飛ばします。


 突き刺さるたびに新しい刃を作り出し攻撃を加えましたが、その勢いを止めることは出来ませんでした。

 攻撃は地面に倒れていたヒビキさんに容赦なく直撃し、その頭部は大きな音を立てて粉々になってしまいます。


 それと同時に、身体も風化したように崩れてしまいました。……最初の犠牲者はヒビキさんですか。


 前線で戦える方が倒れてしまったのは大きな痛手です。後方で待機している方達で前線で戦える方はいますが、そうなると彼らの守りが薄くなります。


 特に、子猫先輩とオークさんが死なせるわけにはいきません。


 現れた人型の《ワールドイーター》がこれから何をしてくるかはわかりませんが、とにかく今まで道理攻撃を続けるべきでしょう。一人がやられた位で戸惑っている暇はないのです。


 そう判断して私は、大爪による攻撃を再開しました。


 先程攻撃を加えていた腕に、更に大爪を突き刺していき、肉を削ぎ落としていきました。


 そこに銀色に輝く何かが飛んできて、ボロボロになった腕を切り落とします。


「イイよ! そのままもう一本もやっちゃおうか! 切り落とすのは任せてね!」


 目で追いきれない程のスピードで飛んでいたケルティさんが、一瞬の間に私の近くにやってきてそう叫びます。


 今のケルティさんは背中から銀色の翼を生やしており、大剣は右腕と同化していました。戦闘モードです。


「それと、後方で準備していた子達も前に出させるから! 攻撃を当てないように気を付けてね!」


 準備?


 そう聞いて、私は後方に目をやりました。


 気がつけばそこに残っているのは数名で、子猫先輩にオークさん。それを守るように太い触手を伸ばし、壁にしているタビノスケさん位でした。多分見えないところに金髪ちゃんもいますね。


 前に見たときにはケルティさんのパーティメンバーや、チップちゃんにメレーナさん、ケモモナが待機していたのを私は確認していました。


「実はね、ミラアの能力を皆に付与してたんだ。攻撃を当てられないようにしたの」


 ミラアさんの能力は指定した座標への移動です。他人を自分が指定した場所へと移動させる事ができるというもののはずでした。


 それを全員に付与したという事は……。


「ワープして直接人型の怪物に攻撃を仕掛けるつもりだね? 確かにアイツの側にいればさっきの攻撃もしてこないかもしれない」


 そういうことですか、説明ありがとうございます、ヒビキさん。


 彼の説明により、何をしようとしていたのかを私はすんなりと理解する事ができまし…………はい?


 私は声のした方に振り返りますが、そこには立派な尻尾があるだけです。


 怪しいと思いながらジッと見ていると、手乗りサイズのヒビキさんがピョコンと顔を覗かせました。何やってんですか貴方は。


「んー、念の為残機を隠していたんだよ。もしかしたら神技を無効化されて倒される可能性もあったからね。実際されたけれど」


 ヒビキさんはやれやれと言うような雰囲気を出しながら首を振りました。


 いえ、貴方はモフりたかっただけです。後で何かしら請求しますから覚悟していてください、いいですね?


「アンタなにしてんの? うらやま……じゃなくて真面目にやってよね、セクハラしている場合じゃないでしょ?」


 そう言って眉間にシワを寄せながらケルティさんは私の尻尾をモフモフします。無意識なセクハラです。怖いのですが?


 ええい! 離れなさい! アホな事していたらもう戦闘始まっているじゃないですか!


 私は九本の尻尾を振り回し、ケルティさんとヒビキさん吹き飛ばしました。散れっ! 散れぇっ!


「わー、おちるー」


「もふぅ! 尻尾ビンタ、ありがとうございます!」


 もうこの二人は無視しましょう。ペースが狂います。


 《ワールドイーター》に目を向けると、その巨体の周りには先程まで待機していた方々の姿がありました。


 あまりにも攻撃対象が大きすぎるので、剣のような武器はあまり効いていないような印象を受けますが、ダメージはダメージです。確実に積み上げる事によって追い詰める事ができるでしょう。


 もちろん、反撃として《ワールドイーター》の残った腕が彼等を叩き潰そうとします。しかし、攻撃が当たる瞬間に彼等の姿は消え、少し離れた場所にいるミラアさんの近くに現れました。


 ミラアさんの能力を使ったヒット&アウェイ戦法。


 これならば近接職の皆さんでも安全に戦えます。能力を酷使し続けるミラアさんの負担が大きいと思いますが、重労働とかあのドエムにとってはご褒美でしょう。問題はありません。


 そこに魔法による追撃が加わります。


 後方から子猫先輩が、前線ではケモモナが途切れることなく魔法を打ち続けていました。子猫先輩の魔法は特に強力で、ドンドン《ワールドイーター》の肉体を吹き飛ばしていました。


 さて、私も黙ってはいられませんね。


 戦闘に参加するべく、私は大爪に乗ったままベストポジションに移動しました。


 皆さんが戦闘をしていない、且つ、的確に弱点を狙える場所、《ワールドイーター》の後方に回り込みます。


 ……おそらくですがアイツの弱点は胸元に埋め込まれていたディリヴァでしょう。あれを仕留めれば殺せると思います。


 全面からの攻撃は防がれてしまうでしょうが……人型になったのが失敗でしたね。後ろからの攻撃は防げないでしょう。


 もちろん、背中からディリヴァを貫くのは難しい話です。ですので、一撃で吹き飛ばします。


 私は先程アイテムボックスを漁っていたときに見つけた手榴弾を手にしました。師匠に貰ったとっておきです。


 本当ならツキトさんとの決戦で使いたかったのですが……こんな奴に負けるのはごめんですので。


 手榴弾を刃で包み込みつつ、私は大爪を作り出しました。突き刺してから爆破して内側から吹き飛ばしてやるのです。いけぇ!


 撃ち出した大爪は狙い通りに飛んでいき、正確に奴の背骨の周囲に突き刺さりました。……よし、このまま刃を操作して手榴弾のピンを引き抜けば、一気に爆発させる事ができます。


 大爪は細かい刃の集合体です。その構成している刃をうまいこと動かして……吹き飛べ!


 私が刃を操作をした瞬間、炸裂音と共に大爪が爆発しました。


 さすがは師匠といったところです。発生した衝撃波はこちらまで届いており、吹き飛ばされた刃が私に襲いかかります。って、ちょっ!? それは不味いですよ!


 大慌てで展開していた大爪を盾にしたので事なきを得ましたが、もろにくらっていたら死んでましたね。届いてはいませんけれど、刃の破片が大爪に食い込んでいました。


 けれども、直接爆発をくらった《ワールドイーター》もただでは済まなかったはずです。爆発で飛び散った刃がいい感じに身体を破壊したことでしょう。


 さて、どうななりましたかね…………っ!?


 盾にした大爪を左右に除け、目に入ったのは背中にクレーターのような損傷を受けた《ワールドイーター》と……。




 私に向けられた四つの魔法陣でした。




 しまったと思った瞬間に魔法陣が発動し、そこから魔力の塊が飛び出します。


 このゲームの魔法は威力は抑えめの必中攻撃、つまり確実にダメージを蓄積できる攻撃という事です。


 更に相手のレベルから考えると、一発貰っても相当なダメージになることは明白でしょう。……間に合えっ!


 私は再び大爪を操作して魔法にぶつけました。


 そして、弾ける魔法と砕け散った刃を確認しながら新しい大爪を作り出します。刃を生成する速度は次の魔法が射出されるよりも若干速い位でした。


 ジリ貧にはならないでしょうが、攻撃に転ずるには少し掛かりそうです。一発でも相手に届けば致命傷を与えられるというのに、苛立たしいですねぇ。


 しかも、魔法陣の奥にある傷は徐々に修復が始まっていました。


 もう手榴弾は残っていません。今攻撃をしなければ、トドメを刺す事はできなくなってしまいます。


 なんとかここで決めてしまいたいのですが……。


 もう少しで魔法を相殺しながら攻撃ができると思ったとき、新たな魔法陣が四つ現れました。完全にこちらにターゲットが向いたようですね。


 生成スピードよりも魔法が射出される速度が勝り、私にも数発の魔法弾が当たります。


 一発だけなら大した事はありませんが、連続して当たると無視できないHPの削り方になってきます。


 もうこうなって来ると攻撃する場合ではありません。


 一旦逃げますか、こうなったら一度姿を隠してターゲットを切るしか……うっそ。


 私が逃げようとしたそのとき、更に魔法陣が増殖し、こちらに魔法が放たれました。全てくらえばただではすみません、もしかしたらここでリタイアという事もありえます。


 大爪を周囲に作り出しますが、作った途端に魔法で無くなっていきました。


 とにかく今は逃げましょう。逃げながら大爪を作って攻撃をこちらに向けさせるので……す?


 私が逃げ出そうとすると、私と魔法弾の間に入るように何かが現れました。


 それは見覚えがある機械で、私に当たるはずだった魔法を全て受け止めてしまいます。……あ、アーマーズ?


「ゴメン、ポロラ。ちょっと装着するのに戸惑った。ここからはアタシも前線で戦う」


 私の目の前に現れたのは、新型のアーマーズを装着したチップちゃんでした。魔法に対して耐性があるらしく、魔法弾を受けきったのに全く損傷がありません。


 そういえば、前に武器を作ってもらいに『シリウス』に行った際、一人だけ別行動をしていましたね。その時に作ってもらっていたのでしょう。


「驚いたでしょ? 実は左目も機械化してもらっているんだ」


 そう言ってチップちゃんが眼帯をめくると、そこには赤く光る義眼が収められていました。そこまでしていたなんて……。


 私が驚いてチップちゃんを見つめていると、魔法陣が消え去り攻撃が止まりました。他の方にターゲットが移ったのでしょう。


 それを確認したチップちゃんは銃のリロードをしながら口を開きます。


「ポロラにはここからの戦闘でやってもらいたい事がある。だから絶対に死んじゃだめだよ」


 やってもらいたいこと?


 いったい何をすれば……。


 私がそう質問すると、彼女はニヤリと笑みを浮かべ説明を始めました。


「大丈夫、簡単な仕事だから……」


 私はチップちゃんがする説明を聞いて思わず目を丸くします。……い、いや確かにそういう事もしていましたけれども、本当に私もそれできるんですか?


 でも、それができるのなら……。




 どんな攻撃でも……『ソウル・オーバー』でも無効化できるという事ですよね?




 その問いかけにチップちゃんはコクリと頷きます。


 それを見て、私はこの戦いにおける勝ち筋をハッキリと感じ取ったのでした

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