尻尾スゴイ byツキト
※今回は話の都合によりツキト視点でお送りします。
俺の目を奪ったのは咲き誇った黄色の花だった。
それが狐の尻尾だった事に気付いた俺は思わずくだらない考えを思い浮かべる。……スッゲ、モッフモフじゃん、後でモフらせてもらおう。絶対気持ちいい。
最初は大量のギフトカードをポロラさんが使ったと思っただけで気にしていなかったが、ここまで変化があるとつい目が引き寄せられてしまった。
『覚醒降臨』を使用しなかった事が気になるが、もしかしたら前日に使用してしまったという事は全然ありえる話だ。覚醒したプレイヤーを相手にするのはそれ位厳しいことはわかる。
それを補う為にギフトカードを使用したのだろう。できる事が増えるのはその分強くなる事と同義だ。
しかし、先程のディリヴァを見ていたにも関わらず、ギフトカードを使用したのは無謀すぎるのではないだろうか? 大量の邪神の力を取り込んだ結果が《ワールドイーター》なのだろうし、考えが足りないのでは無いかとも思う。
けれども、わかった上でギフトカードを使ったのだとしたら、これからどうなるのかは非常に気になる。
増えた尻尾にも何かしらの意味があるのだろうし、全てのギフトを使いこなすことが出来れば戦力としては申し分ない。
元々持っている火力もいい感じだし、もしかしたら俺達と同じように戦うことができるんじゃないだろうか━━?
そう思っていた。
『プレイヤー『ポロラ』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迅速に避難してください。『プレゼント』が暴走します』
…………思ってたんだけどなぁ。
俺は目の前に現れたウィンドウを見て頭を抱えた。
あ……あれ? てっきり何か考えがあってギフトカードを使ったもんだと思ってたんだけど違うの? これ普通に邪神化の通知じゃん、暴走しちゃってるじゃん。
「なにしてんのさぁ〜……ポロポロ〜……」
通知を確認したのか、敵前なのにシーデーが地面に倒れ込んでしまった。……そういえばコイツが師匠じゃねぇか! そりゃ考えなしに暴走するわ! コイツも頭のネジぶっ飛んでるし!
おい、シーデー! 敵が増えたじゃねぇか! どんな教育をしたらこんな事をする奴が出来上がるんだよ! 責任をとれ! というか戦え!
俺は襲いかかる《ワールドイーター》の腕に攻撃を加えながらそう叫ぶ。トラブルがあっても敵は攻撃の手を緩めてはくれないのだ。
『七神失落』のおかげでまともに攻撃が入るようにはなっているが、その攻撃力は未だ健在。少しでも油断すれば一気にお陀仏だろう。
そして、敵は攻撃をしてきたプレイヤーをターゲットにする傾向がある。できるなら複数名で攻撃を加えていき、相手の攻撃を分散したかったのだが……こうなってしまったら仕方がない。
動いている腕は二本、『暴食』の腕と戦っているのはシバルさんとヒビキ、もう一本の腕は俺とケルティで戦っていた。
そこにシーデーとポロラさんを加えれば有利になると思っていたんだけどなぁ……作戦変更!
ヒビキ! お前の人形にポロラさんを見張らせておけ! 変な動きを見せたら報告! 同士討ちは避けたい!
「言われなくても見張ってる! 今は薄ら笑いを浮かべて笑い声を漏らしているところ!」
『暴食』の腕を弾きながら、巨大化したヒビキが答える。見ると既にポロラさんの側で人形が待機していた。てか笑ってんの? 怖くない?
ま、まぁ暴走している証拠という事にしておこう。……シバルさんはそのまま警戒しながら攻撃を! ケルティは意識無いからっておかしな事をしようとするな! 返り討ちに合うぞ!
「ハッハッハァ! 了解ですぞ! 何かあったら回復はおまかせを!」
「なんでわかったの!? ……暴走するかもしれないから私が見ていてあげようと思っただけです。いやらしい事は何もないよ」
二人から返事が返ってきた。早めにケルティに釘をさせたのは大きいな、アイツ目を離すとすぐにセクハラしようとするんだから困ったもんだよ。
けれども、それを加味してもケルティの火力とスピードはスゲェ。
覚醒して更に速度が上がっている。俺でさえ目で追うのがやっとだ。パワーはまだこっちが上だがDPSなら向こうの方が高い。
おかげでこっちの腕の動きは大分落ちてきた。おそらくもう少しで倒すことができるだろう。攻めるなら今だ。
俺はスキルを発動させる。
それと同時に左手の指輪が黄色く輝き、大鎌の刃にエネルギーが集約した。……いくぜ? 『キキョウの進軍』!
ケルティを追っていた腕に目掛けて俺は大鎌を振り下ろす。
すると刃から幾重にも斬撃が飛び出していき、腕を細切りにしていった。攻撃したポイントからまるで消滅していくように腕がミンチになっていく。
斬撃は腕一本を消滅させるだけでは飽き足らず、勢いが衰えることなく本体に向かって進んでいった。
「やったじゃん! 残りろっぽーん!」
そう言ってケルティが嬉しそうに声を上げるが……俺はそこまで短絡的には喜ぶ事ができなかった。
飛んでいった斬撃は腕を消滅させて本体に届いたのだが、なぜか着弾する直前に消滅してしまった。いつものような反応じゃない。
『キキョウの進軍』は敵全体に攻撃ができる神技だ。高威力、広範囲使い勝手もいい。
だからこそ、この攻撃で《ワールドイーター》の全身に攻撃が伝わるはずだった。……そういえばイベント始まる前にリリア様がディリヴァについてなんか言ってたな。祝福を打ち消すとかなんとか。
まさか神技を無効化をしてくんのか? え、俺の能力ほとんど使えなくなったんだけど? ふざけんなよ?
俺は舌打ちを一つしたあと、まだ動いていない腕に目を向ける。
どうやらまだ動きは無い様だ、おそらく二本ずつ相手にしていく事になるのだろう。それなら俺達も『暴食』の腕と戦いに……。
「アハ……ハハハハハハハッハハハッハハッハハハハッハハハハッハハハハハハッハハッハハハハッ!!!」
笑い声が響いた。
愉快で愉快で仕方がないと言うような声に、思わず身体が動いてしまった。
咄嗟に振り向いて武器を構える。
視線の先にいたのは、黄金色に輝く尻尾を持った九尾の狐、そして、その足元にはバラバラに散らばったメイド人形があった。
九つの尻尾を優雅に震わせた狐娘は、肘までを隠せるような真っ黒な手袋を付けていた。確かオペラグローブという、女性がパーティで身につけるような手袋だ。
今までは籠手だった筈なのに……なんで邪神化しただけなのに装備の見た目まで変わっているんだ?
いや、そんな事を気にしている場合じゃない。
動きがあった。
ポロラさんの姿をした邪神の周囲に、人と同じ大きさの鉄の楔が大量に現れる。
それは切っ先が鋭く尖っており、見方によっては獣の爪の形にも見えた。
彼女が大きく腕を振ると、楔達は一斉に動き出し、残っていた腕に突き刺さっていく。
腕も楔を振り払おうと動くが、楔の量は多く捌ききれていない。
しかも、一本一本に属性が付与されているようで攻撃が当たる度にエフェクトが発生していた。
突き刺さった楔は常時属性ダメージを発生させており、その動きを鈍重なものにへと変えていく。
そして、そこに追撃を仕掛けるように追加の楔が出現した。先程よりも随分と長い。
動きが鈍った腕に楔が襲いかかり串刺しにしていき、地面に縫い止めていった。
それから少しの間はもがいていたが、やがて動きを止めてしまった腕は灰になって消えていってしまう。……倒した……のか?
今までの動作を行う上で、ポロラさんはその場を一切動くことはなかった。ただただ腕を動かし楔を突き刺していっただけだった。
けれども、それだけで腕の一本は消滅したのは確かだ。
これが味方だったら頼もしい限りだったが、残念ながらヒビキの人形を破壊した時点で正気を保っているとは考えづらい。目の前にいるのは俺達の敵なのだ。
それならやる事は一つ。
殺すしかねぇ。
俺はポロラさんの死角から接近し、大鎌を振り上げる。
どれだけ強化されようが、人の形をしているのならば首を落とせば死ぬだろう。戦力が少なくなるのは惜しいが、こちらに被害が来るのならば排除しなければならない。……できるなら尻尾をモフらせてほしかったんだけどな。
悪く思うn……もっふぁあ!
大鎌を振り下ろした瞬間。
俺の視界は金色に包まれ、全身にモフモフとした幸福度の高い感触が伝わる。
おそらく尻尾全体で叩かれたのだろう。対してダメージはないけれども後方へと大きく弾き飛ばされてしまった。
「……兄弟揃って尻尾狙うんじゃありませんよ。そんなに死にたいんです?」
!?
驚きながら顔を上げると、至極迷惑そうな顔をしてポロラさんが俺を見下ろしていた。いつもの調子と全く変わらない。
まるで邪神化なんてしていないかの様だ。
「ポロポロぉ! 無事だったんだnまふぅん!?」
シーデーが飛び付こうとしたら俺と同じように尻尾で叩き飛ばされた。凄い質量だからただ振り回すだけでかなりの衝撃になるようだ。モフモフだから痛くはないんだけれど。
「当たり前でしょうが! そんななんの考えも無しにギフトカードを使うわけ無いでしょう? ……『プレゼント』を開封しました。今の私には邪神の力は通じません」
そう言ってポロラさんはドヤ顔をして見せた。
なるほど、ギフトカードを使うと尻尾が増えるというのなら、それは『プレゼント』の効果なのだろう。普通のプレイヤーはギフトカードを使っても見た目の変化はない。
そもそも彼女の能力はギフトカードありきの能力なのだ。つまり、全てのギフトカードを使うことが『プレゼント』の開封条件だったのだろう。
……ん?
じゃあなんでヒビキの人形が壊れてるんだ?
「ヒビキさんですか? 尻尾をいきなり触って来たので軽く小突いたんですよ。そしたら一撃で壊れてしまったんですよね。いやぁ一撃で倒せるくらい強くなっていたものですから気分よくなっちゃいましたよ」
要するにヒビキの自業自得である。
巨大化した本体を見上げてみると目を逸らされた。この野郎、煩悩に負けやがって。
俺はため息を一つついて振り返ると、遠くで心配したような顔をした先輩の姿が見えた。腕で○や✕の形を作ってこちらの様子を伺っている。
さっきの通知を見て向こうもパニックになっていたのはチラリと見えていた。事情がわからないとあっちも不安なままだろうしな。仕方ない。……はーい、大丈夫ですよ、っと。
俺も同じように腕で○を作って答えて見せた。すると先程よりは表情が柔らかいものに変化する。よかった。
「なにイチャついているんです? 来ましたよ、追加」
ポロラさんのそんな言葉と共に《ワールドイーター》の唸り声が響く。
その巨体がゆっくりと動き、次の腕が俺達の前に姿を表した。今度はいったいなんの邪神なのやら。
けれども、今のところは順調だ。
予想外の強化をしたポロラさんに、戦闘に復帰したシーデー。ようやく気兼ねなく戦闘をすることができる。
後方は覚醒したタビノスケがサポーターを守っているし、誰の能力かは知らないが、俺達の能力はガンガン上がっていっている。
このままなら負ける要素はないだろう。
……よし、第2ラウンドだ。
今度は俺とシバルさんが『七神失落』を打ち込む、それと同時に攻撃を開始しろ!
全部まとめてぶっ飛ばしちまえ!
そう叫んで俺は光の鎖を出現させて、腕を絡めとった。その鎖が弾け飛ぶと同時に仲間達の攻撃が始まる。
《ワールドイーター》……お前がどれだけレベルが高かろうが関係ない、俺達は俺達ができることをするまでだ! いくぞ!
その腕……もらったァァァァァァァ!!




