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ラスボスに挑むときは第二形態までは想定しておけ

 ━━そもそもの話、私ってパーティ戦向いていないんですよね。


 敵の大群に向かって突撃をかましながら、私はそんな事を考えていました。……更に付け加えるのならリーダーなんて論外です。


 やってほしい事をお願いする形で指示を出したりはしますが、そんな事をする暇があったら自分で戦いたい派です。


 言ってしまえば、このパーティのリーダーはケモモナがベストだったんですよ。一応はクランの長ですので、私よりは正確な命令を出せたのではないかと思います。


 しかしながら、ケモモナの命令を素直に私が従うなんて事は間違ってでもありませんし、プライドが許しません。


 妥協点としてワッペさんもリーダー候補でしたが、彼はアホなので駄目でした。ついでに暴走もするので誰かが手綱を取らなければならなかったのです。


 オークさんと金髪ちゃんに任せられる訳もありませんでしたので、仕方がなく私がリーダーのポジションに収まっていましたが……。


 やっぱり私はこうやって前線に出て好き勝手するのが一番合っています━━。




 襲いかかるモンスター達の攻撃を捌きながら、私はディリヴァに向かって前進していました。


 6種いるディリヴァの眷属達は、見た目の通り邪神達と同じような攻撃を繰り出してきています。……増加を防いだのにまだこんだけいるんですか! うざったいんですよぉ!


 私は目の前に出てきた黒騎士に対して槍を突き出しました。


 『傲慢』の眷属らしいのですが、コイツは敵味方関係なく襲いかかる特性を持っており、放っておくと同士討ちをしながら強くなっていくようです。


 ですので、見かけ次第排除しようとするのですが……その隙きを狙った様に人型の怪物が私に襲いかかってきます。『怠惰』の眷属です。


 他の眷属と戦っていると割り込んで来るので、コイツも中々厄介なのですが私には関係ありません。


 周囲に展開させていた大爪を盾にして『怠惰』の攻撃を牽制し、私は黒騎士への攻撃を続行します。


 突き出した槍の激力でもって黒騎士騎士を突き飛ばし、残っている大爪で押しつぶすように処刑。そのまま振り返って『怠惰』に対し連続突きを繰り出しました。


 一撃一撃が相手の肉体を削り取り、一瞬にして目の前の怪物はミンチと化します。……これ『真理の聖槍』の効果が出てますね。異常にダメージの通りが良いです。


 神の要素を持っている敵に対して追加のダメージが入る武器ですからね。邪神の力を持っている彼等にも有効でしょう。


 このまま皆殺しにしてあげますよぉ……これまで全力で戦闘できなくてイライラしてましたからぁ……。


 死ねぇ!


 私は自分が有利に立ち回れる事を確信し、次なる獲物に標的を合わせました。『色欲』の眷属である女悪魔ですね。


 先程ケモモナが吹き飛ばしていましたし、そんなに強くないでしょ。経験値になーれ!


 自分が狙われている事に気付いた女悪魔は私に向かって人差し指を向けてきました。魔法の発動……じゃない! コイツ『色欲』だった!


 すんでのところで私は人差し指の射線から逃れます。


 その直後に先程私の頭があったところを光線が通過しました。それは遥か後方に伸びていった後、地面に着弾して大爆発を引き起こします。


「いぎゃああ! なんか爆発したでござぁ!?」


 ライブを見ていた……もとい、りんりんさんの護衛をしていたタビノスケさんが少し被弾したようです。まぁあれだけ元気なら大丈夫でしょう。


 私は攻撃の威力を確認した後、女悪魔の首を槍の穂先でカッ切ります。……『ソウル・オーバー』まで使って来るなんて聞いていませんよ。厄介な敵が増えました。


 しかし、味方からの支援は途絶えていません。ワッペさんの炎やケモモナの魔法によって眷属達は確実に疲労していっています。


 ソールドアウトの皆様もどんどん敵を減らしていっていますし、このままいけば誰も脱落者無しで全員でディリヴァに挑む事ができるかもしれません。


 そう思っていた矢先に、私に影が落ちました。見上げると厳つい顔が私を見下ろしています。……ハイじゃまぁ!


 『憤怒』の巨人を打ち上げる程の勢いで大爪を射出し、空中でバラバラに引裂き殺しました。なんで『憤怒』って敵だと弱いんですかね? 味方だとかなり強い能力なんですけれども。


 まぁ、そのままの能力だったら色々と不味い敵もいるんですが……。


 巨人のミンチが降り注ぐ中、私の目の前に現れたのはズラリと並んだ食虫植物さん達でした。待ってましたと言わんばかりに皆さん涎を垂らしていますね。


 三メートル位の大きな食虫植物なんですが、ズラッと並ばれると思わず身が竦んでしまいます。というか、なんで私の所に集合しているんですか! そんなに美味しそうに見えるんですかねぇ! 食用じゃありません!


 食虫植物達は一斉に蔦を伸ばして来ました。近くに戦っているヒビキさんやシバルさんもいるのに全部私狙いです。嬉しくないんですけれどー!


 私は雄叫びを上げながら前方に細かい刃を大量に打ち出しました。拘束してから食べようという魂胆なのでしょうが、そう簡単にはいきませんよ!


 と、意気込んでみますがあまりにも蔦の量が多すぎました。あっという間に身体はグルグル巻です。……また私は『暴食』さんのおやつですか。嫌になっちゃいますね。


 これは食べられそうになる直前で刃を大放出してしまいましょう。他の眷属からは狙われていませんしなんとかなるでしょ。


 そう思ってやれやれと首を振っていると、食虫植物達が一斉に消滅しました。


「ポロラ! 大丈夫!?」


 どうやら先に食べられてしまったみたいです。


 両手にハンドガンを持ったチップちゃんが私の側に現れました。集まっていた所をまとめて食べてくれたみたいです。……チップちゃん! ありがとうございます! 私の事は食べないでくださいね!


「今はお腹いっぱいだから食べないよ! それよりも急いで前に行こう! ちょっとマズイかも!」


 え、お腹減ってたら食べるつもりだったんですか……?


 少し背中に寒気が走りましたが、とりあえず今は置いときましょう。


 眷属達の間から前方を見てみると、ディリヴァと戦っているツキトさんが見えました。苦戦している様子は無く、流れるような動作で大鎌を振るっています。


 周りにいる眷属達はその行動を止めようと彼に襲いかかりますが、ツキトさんの肩に乗っている子猫先輩が魔法によって次々と敵を倒していきました。


 ディリヴァはその攻撃をギリギリで避けることしかできず、せっかく整えられた武具は既に傷だらけになっています。……あの二人が揃えばそうなりますか。何がマズイんです?


 身体に絡まった蔦を切り落としながらそう質問すると、目の前にウィンドウが表示されました。そこにはこの場所のマップが表示されていて、この場所にいる全てのプレイヤーと敵性NPCのアイコンがでています。チップちゃんの能力ですね。


「敵の数少なくなって来たからわかったけれど、『嫉妬』の眷属だけ全然数が減っていない! 嫌な予感がする!」


 『嫉妬』というと……エナジードレインですか!


 マップをみると、他の眷属は十体いれば多い方ですのに、『嫉妬』だけはその倍以上が残っていました。


 そして、『嫉妬』の能力といえば広範囲を対象にしたHPとMPのエナジードレインです。一体一体の力が強力でなくとも、この数の敵が一斉にスキルを使用した場合の損害は測りきれません。


 特にMPが持ってかれた場合、魔法職の支援が無くなってしまいますので一気に形勢が逆転するでしょう。……つまり、コイツらを殺せばいいんですね?


 他の眷属の陰になっていて、今迄その姿は確認できなかったようですけれど……チップちゃんの目があれば処理することなんて容易です!


 私は操れる限界まで大爪を展開し、『属性付与』によって攻撃力を高めました。そして、『嫉妬』の眷属が居るであろう方向へ大爪の切っ先を向かせます。


 それじゃ……観測お願いしますね?


 その言葉と共に、私は大爪を撃ち出しました。


 付与された属性のエフェクトが尾を引きながらまっすぐに飛んでいきます。


 そして射線上にいた敵に突き刺さり、確実に仕留めていきました。……どうです? 『嫉妬』は何体位仕留めれましたか?


「全部手前にいるのに当たった! けど姿が見えたならアタシが仕留めれる! そのまま続けて!」


 りょうかい!


 チップちゃんはウィンドウを確認して、私の攻撃の成果を報告してくれました。おかげで攻撃に専念することができますね。


 私はチップちゃんの支持どおりに大爪を操り敵をミンチにしていきました。向かってくるであろう敵は優先して仕留め、少しづつ『嫉妬』の数を減らしていきました。


 彼等も狙われている事に気付いたのか、各方面から黒い波動が私達を襲います。……うっぐ、HP半分以上持ってかれた……チップちゃん!


「効いたけど……大丈夫だ! まだ全然いける! このまま敵を倒して……あれ?」


 おや?


 損害を確認した私達は、とある事に気づいて思わず声を漏らしてしまいました。


 エナジードレインによって持っていかれたHPとMPなのですが、凄まじい速度で回復していっております。わざわざ回復魔法やアイテムを使わなくても十分なほどです。


 一瞬何が起きたのかわかりませんでしたが、すぐにこの現象の正体に気付いた私は後方に振り返りました。


 能力で巨大化したオークさんが、眷属達相手に大暴れしています。肩にはワッペさんと金髪ちゃんを乗せていますね。


 現時点で戦闘が始まってから結構な時間が経っていました。


 オークさんの覚醒した能力は時間経過と共に味方のバフが強化させていくというものです。確認してみると様々なステータスが大幅に強化されていました。


 もちろん再生能力も強化されており、半端な攻撃で倒されることは絶対にないと断言できるでしょう。


 まぁ、それを知らない皆さんは何が起きたのかわからないと思いますが。


「よくわからないけど……このまま周りの奴らも倒そう! このまま続けていれば敵を全滅させられる!」


 チップちゃんはそう言って、遠くにいた『嫉妬』の邪神を撃ち殺しました。……ええ! やってやりましょう!


 私は再び大爪を操作して、確実に敵に攻撃を加えていきました。


 他の方々も自身に絶大なバフがかかっている事を知ったのか、更に攻撃の勢いを強めていきます。


 魔法陣を抑えていた刃が破壊されてしまい、新しい眷属達が召喚されるようになってしまいましたが、最終的には召喚されるよりも倒すスピードの方が早くなりました。


 そして、あと残り数体で皆殺しにできるとなったとき、戦場に変化が現れました。


「眷属が……自壊していく?」


 狙撃銃を構えていたチップちゃんがそう言うと、新たに召喚された眷属達は動きを止め、まるで風化するようにきえていきました。

 彼等を召喚していた魔法陣も光を失い、自然に消えていきます。


 まさかと思いツキトさん達の方を見ると、そこには血だらけで辛うじて立っているディリヴァの姿がありました。


 四肢が切り飛ばされたりはしていませんでしたが、遠くから見てもわかる程に満身創痍です。まさに死にかけと言ったところでしょう。


「その首、もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 しかし、その程度では『死神』は攻撃の手を休めることはありません。


 ツキトさんは迷うことなく大鎌をディリヴァに向かって振り下ろしました。……しかし。




 その瞬間にディリヴァの姿は消え、私の身体はガチリと硬直したのでした。




 ディリヴァの姿は私達の上空に現れます。その表情は屈辱で満ちており、こちらの事を恨めしそうにみていました。


「こんな……! 神でもない存在にここまで追い詰められるなんて……! あってはならない話です! わたくしは全てを統べる力を持っているといるというのに……こんな事、許される訳がないのです!」


 !!


 ディリヴァの叫びと共に、彼女の周りに数え切れないほどの光球が現れました。


 今まで取り込んできたのは最高でも七つでしたが、今回は量が段違いです。その数十倍はあっておかしくないでしょう。……ラスボスだからって第二形態ですか? ふざけるんじゃないですよ。


 力を取り込む前に攻撃をしてしまいたかったのですが……それをさせない為の身体硬直なんでしょうね。おのれ運営。


 しかし、例え全ての力を取り込んだとしても所詮はディリヴァです。


 強化された皆さんの攻撃を受ければ一瞬で決着がつくに決まっています。焦る事はありません。


「限界を超えた力を……この世界を手に入れる力よ……この身に! 『覚醒……降臨』!!」


 二度目の『覚醒降臨』により、ディリヴァの姿は更に変化していきます。


 幼かった容姿は徐々に女性らしい姿へと成長していき、武具もその体型にあった物へと変わります。


 ショートソードだったのがロングソードに、バックラーはタワーシールドに。


 見た目からして以前よりも強そうに感じます。


「さぁ! 覚悟しなさい! あなた達を打倒し、わたくしはこの力をもって再び女神達に挑みましょう! 世界を手に入れる踏み台になるのです!」


 そんなディリヴァの言葉と共に、身体の自由が戻って来ました。戦闘開始です。


 周りにいる皆さんも武器を手にして構えました。子猫先輩なんかは既に魔法陣を展開しています。


 要するに全員がディリヴァよりも先に動いているのです。先手はいただきました!


 私も作っていた大爪を打ち出します。




 が。




 「え……?」




 私達が放った攻撃は、全て弾かれてしまいました。それはディリヴァがしたことではありません。……いえ、彼女の意思でそうしたのだとは思えない光景が私達の目の前で起きていたのです。


 攻撃が当たる、そう思った直前でした。


 ディリヴァの腕がいきなり肥大化し、巨大な肉塊となって大爪を弾き飛ばしたのです。


 明らかにおかしな変化に、皆さんも驚いたような反応を見せています。もちろんディリヴァ自身も予想外と言うような声を漏らしていました。


 そんな中、目の前にウィンドウが現れます。


『邪神の制御に失敗したことを確認。彼等の力は既にディリヴァを上回った。最早彼女に神々の力を制御する事は不可能。邪神の力は解き放たれる』


 邪神化を告げる文章と似たようなものが表示されました。それに合わせて、ディリヴァの身体はどんどん肥大化していきます。


「ぜ、全員距離をとれ! 無駄死にだけはするな!」


 ツキトさんの絶叫が響きます。


 それに合わせて私達はディリヴァから離れるべく、駆け出しました。


 次のウィンドウが表示されます。


『測定中……』


 これだけ見るといつもの通知なのですが、今回は違うようです。


「なんで……! どうしてあなた達が今更力を取り戻すのですか! お願いだから大人しく……い、イヤああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


『判明』


 悲痛な叫びと共に、ディリヴァの身体は一気に、増幅し、異形へと変化してしまいました。


 山の様に大きな肉塊で、太く巨大な触椀が至る所に散見されるという気色の悪い見た目です。


 更には、口や内臓といった器官も体表に出来上がっており、今まで現れた邪神の特徴も見ることができました。


『Lv99999。もうあれは真理の『ディリヴァ』なんて存在ではない。ただ、力ある限り暴走する存在……《ワールドイーター》。世界を喰らう者』


『勝てなければ世界は終わる。……お願い、力のある限り戦って。この世界を守って!』


 その文章が表示されると、目の前からウィンドウが消失します。……ここからが本当の戦いたいなんですね。


 表示されたレベルは限界を突破しており、自然に勝てないのでは無いかという考えが頭を過ります。


 きっと、他の方々も同じことを思っているはずです。


 けれども、その場にいる者は一人として諦めたような顔を見せませんでした。……そうですよ。この場に立っている時点で逃げるなんて選択肢は無いのです。


 私達にできる選択肢は足掻いて死ぬか、戦って勝つかの二つだけ。それなら戦って勝つ事を選ぶに決まってんですよぉ!




 酷たらしく殺してやりますよ! 《ワールドイーター》ぁ!




 こうして。


 このイベントにおけるラスボス……《ワールドイーター》との戦いが、幕を切って下ろされたのでした……。

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