表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/172

酒は飲んでも飲まれるな

『最後の七つ目……この世界の力……寄せ集めですがようやく充分な量が集まりました。これも全て貴方が勇者様……いえ、あの愚か者達をわたくしの手駒として使わせてくれたからです。女神リリア』


 光指す美しい教会の中、二人の幼女が向かい合っていました。


 一人は頭の先から足の先まで、服装、装飾までもが純白で飾られた美しい姿をしていました。


 彼女は手の先で光の球を転がして、楽しそうに微笑んでいます。


 それに対するは青く波ががった髪をした、聖女を思わせるような存在。手には錫杖を携えています。


 美しい天使の羽根を生やした、我等が『聖母のリリア』様でした。撮影モードなので標準体型となっています。ほっぺたプニプニ。


『そうですか。冒険者の皆様を楽しませて頂いたようで……感謝いたします。『真理』のディリヴァ。皆さん、貴女が用意した『邪神』との戦いを楽しんでくれたみたいです』


 そんな見た目にも関わらず、リリア様は幼女らしからぬ冷静な反応を見せてくれました。まるでディリヴァのことなんて眼中に無いようです。


 というよりも、本当にそう思っているのでしょう。


 リリア様としてはディリヴァが行ってきた破壊活動なんて些事でしか無いのです。例え街が壊れ、住民が死んでしまったとしても。


 この女神、真の実力というものを見せた事が無いと言っても過言ではありません。戦っている姿を見た人もませんし、自ら何かをしたという話も聞いた事がありませんでした。


 ですので、その余裕の裏に潜むものを感じとったであろうディリヴァの表情は優れません。


『……よくもまぁ、そんな事が言えますね。わたくしの正体も知らないくせにどうしてそこまで余裕ぶれるのか……もう手遅れということがわからないのですね。クスクスクス……』


 ディリヴァがそう言うと、彼女の周りに新たに六つの光球が現れます。邪神達の成れの果てです。


 今まで集めてきた力の塊、あれらを取り込むことでディリヴァは真の実力を取り戻すでしょう。


 しかし。


 そんな危機的状況を前にしてでも、リリア様の態度は変わることはありません。


『貴女の正体? 外宇宙からのお客様だとカルリラからは聞いていましたが……違ったのですか? そういった方は珍しくは無いのですけれど……』


 きょとんとした顔をしています。


 言われて見ればタビノスケさんの種族も『宇宙外生命体』ですしね。外宇宙から来ましたと言われても別におかしな事ではありません。見た目はそれっぽく無いですけれど。


『な、ならば教えてあげましょう。まだ幼き世界の化身よ。……私も以前は貴女と同じ様な存在、別の世界の管理者を務めていたのです』


 ディリヴァはリリア様の態度で、少し調子を崩されたようでしたがなんとか持ちこたえました。


『しかし、私を生み出した世界はとても脆弱で今にも消えそうだったのです。放っておけばその世界に生きる全ての生命、世界そのものが無くなるのは時間の問題でした。それを止めるために私は……』


 そして、満面の笑みを浮かべるのです。




『全てを取り込んで、一つになったんです』




 ディリヴァは自らの腹部を擦りながら続けます。


『そうやってわたくしになった後は、この身を維持する為に様々な世界を訪れ、その管理者の力を世界ごと取り込みました。今は『邪神』と呼ばれている彼等の事です。そういえば、昔一時期開放した彼等を倒したのは貴女達だと聞きました。……どうもありがとう、おかげで更に力を蓄える事ができましたから』


 『世界喰らい』。


 『嫉妬』の邪神がそう言っていたのを思い出しました。


 世界を渡って邪神の力を取り込んでいたというのは想像通りでしたが……まさか世界ごと取り込んで自分の力にしていたとは思いませんでした。スケールが大きなお話です。


『力を……とは、どういう事ですか? よくわかりませんけれども?』


 しかし、リリア様は動じません。


 本当に自分が狙われている自覚があるのでしょうか?


 私の『覚醒降臨』の文面から察するに、リリア様こそこの『リセニング』という世界の化身、またはそのものであるはずなんですけれども。


『むぅぅぅ……でーすかーら! あれは邪神を解き放つ事でこの世界を疲弊させるという目的と! 個々の強さを高めてもらうことによって私の中に戻って来たときに、私を強化してもらうのが目的だったのです! 全部貴女を倒す為です!』


 自分のペースを崩さないリリア様に根負けしたのか、ディリヴァは少し怒った様子でそう叫びます。まるで駄々っ子のようです。


『あ、私を倒そうとしているのは知っていますよ? けれども、私はつい先日まで貴女の事は全く知りませんでしたので。ご説明ありがとうございます』


 ペコリ。


 リリア様は丁寧お辞儀をしました。


 もうここまでいくとわざとですね。完全にディリヴァを弄んでいらっしゃいます。おそらくは、自分が狙われていることも承知の上でしょう。


『も……もう我慢の限界です! 全ての力を取り込んだ私に、貴女が勝てる道理は無いと思いなさい! 貴女を殺してしまえば、この世界も私のものとなるでしょう!』


 その言葉と共に、ディリヴァは全ての光球を取り込みました。


 剣や盾等の装備が現れ、一瞬で戦闘の準備が整ってしまいます。……以前に見たときよりもずっと強そうですね。剣や盾の装飾も綺麗になっていますし、あれが本気の姿で間違いありません。


 ディリヴァも自信に満ち溢れた様に剣を構えています。


『…………』


 そんな様子を、やはりリリア様は黙って見ているだけでした。


『もう何をしようと手遅れです! その命……世界……全てわたくしの物にして差し上げましょう!』


 表情を険しいものに変えたディリヴァは、剣を構えたまま大きく踏み出しました。


 一瞬で二人の感覚は狭まり、お互いの攻撃が当たるであろう間合いになってしまいました。


 その中で、先に武器を振るったのは……ディリヴァです。


 白銀の刃が光の軌跡を描き、リリア様に迫ります。


 私が見た限り、どうやっても避けることができない一撃でした。攻撃の速さがどうのこうのという事では無く、純粋に近すぎたのです。




 美しい教会の床に、数滴の血液が飛び散りました。




『…………え?』


 地面に倒れてしまった彼女は大きく動揺した様子を見せ、口元から流れた血を掬って青ざめた表情を見せました。


『ああ、本当にカルリラの言った通りですね。私が相手にする程ではないみたいです。これならば、冒険者様達にお任せいたしましょう』


 そんなディリヴァの様子を見て、リリア様は優しげな表情を見せました。


 いつの間にか、その手からは錫杖がなくなっています。どこに行ったのかとよく見ると壁に垂直に突き刺さっていましたね。……いや、マジで何があったんです!?


『え? い、今、貴女……杖を投げて……殴り……ました?』


 ディリヴァには何が起きたのか理解できていたようでした。聞いても理解できない内容なんですけれどね。


 嘘でしょ? あの見た目で戦い方がステゴロとかどういう事なんですか? そういえば、狂信者であるシバルさんも拳で戦うグラップラーみたいな感じでしたけれど……まさか……。


『ええ、私の武器はこの拳です。私は貴女が言った様に未熟な管理者ですので、他の武器を上手に使えないのですよ。戦いにおいては攻撃魔法も苦手でして』


 【悲報】グラップラー・リリア【魔法は使わない】。


 確かに格闘スキルは最強と呼び声が高いですけれども。そこは違うでしょう。


 もっと女神的な姿を見せてくれてもいいのですが? なんかこう、パァーっと光を放ったりとか、杖を使ったりとかしてほしいところ……。


 そう思っていると、ディリヴァが再び仕掛けました。低い姿勢から一気に詰め寄り、足元を狙うつもりのようです。


 が、リリア様は空中に飛び上がりその攻撃を回避、頭上からの強襲を仕掛けました。ディリヴァの脳天に鋭い蹴りが入ります。


『!?!!!?』


 メチャクチャ痛いやつです。くらったディリヴァも目を白黒させてフラフラと倒れ込んでしまいました。


 そこにゆっくりとした動作でリリア様が近寄ります。ニコニコとした笑顔を浮かべています。


『この世界の管理者になった後、私達は鍛錬を怠りませんでした。邪神の様な侵略者がまた現れるかもしれないと思っていましたので』


 女神。


 このゲームにおける最強のキャラクター、全ての頂点に君臨する存在です。


『それは残念ながら、現実のものとなってしまいました。対抗する力を蓄えていて本当に良かったと思っていたのですが……どうやら強くなりすぎてしまったみたいですね』


 そんな彼女達を束ねる存在、『聖母のリリア』。


 弱いわけが無いのです。


『私は貴女を討伐を冒険者様にお願いするつもりだったのですが……いいでしょう。そこまで言うのならば私自ら相手になります』


 リリア様がそう言うと、彼女の服装が変わりました。神官のような服装から、きらびやかな白いドレスへと変化します。……どうやら本気モードみたいですね。


『さぁ……かかってきなさい!』


 構えを取るリリア様を最後に映し出し、動画は終了しました。ディリヴァ戦前のイベント用に作られた動画のようです。


 いやー……てっきり可愛そうな目に合うリリア様が見れるんじゃないかと思ったりもしましたけれど、そんな事はありませんでしたね。


 まぁお酒を飲みながら見るにはちょうどいい位の動画でした。殴られた時のディリヴァの顔は中々に見ものでしたし……。


 私はウィンドウを閉じると、手元に持っていたジョッキを一気に飲み干しました。


 そして、カウンターの奥にいるマスターに向かって叫びます。……生おかわりお願いしまーす!


 運営からこういった動画が上がるのはいいんですけれど、結局明日にならないとディリヴァをわからせる事はできませんからね! 今は英気を養うときなのです! あと変に慰められた事も忘れたいですし!


 今日は飲んで飲んで飲み尽くしてあげますよぉ!


 私は酒場にいるプレイヤーさん達に絡みながら、お酒と共に楽しい時間を過ごしたのでした……。








 ちなみに、酔っぱらって拠点に帰ったら盛大に吐いて、ケモモナに普通に怒られたのは別のお話です。


 飲みすぎた……。

・飲酒によるバッドステータス

 アルコールを摂取すると酔っぱらってしまう。少量ならば問題ないが、一定量を超えると『泥酔』状態になり、嘔吐や強制的な睡眠状態に陥る。適量を守ろう……いや、簡単にできれば苦労はしないんだよなぁ……。


・格闘

 母の拳は強い……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ