手の込んだ自殺
衛兵さん達の監視の目を掻い潜り、私とワッペさんはコルクテッドの国営ギルドに辿り着きました。
今はクエストを報告するために、ロビーで呼び出されるのを待っているところです。
いやぁ、中々大冒険でしたね。
ワッペさんには刺激が強すぎたのでは?
「おう、主にお前の攻撃のせいでな……。ちゃんと何ができるか位説明はして欲しかったぜ……」
あれですかー。
あれは私の奥の手みたいな物ですからねー。少しは驚いてもらわないと寂しいです。
『プレゼント』を最大限に使った攻撃で、見た目も派手ですから。
私は胸を張りました。
どんな武器にでも姿を変える手袋。そんなシンプルな物ですが、本当は凄いんですよ?
「まぁな。武器や防具の『プレゼント』は純粋につえぇ事も特徴だしな。……けどよぉ」
ワッペさんはニタリと口元を歪ませ、何か言いたそうな顔をしています。……なんです? 言いたいことがあるのなら、ハッキリと言いなさいな。
さもないと、今度は本当に当てますよ?
「ひゃあ、おっかねぇ。一緒に遊んだ仲だろ? もうちょっと可愛げを見せてくれたって、いいんじゃねぇの?」
余裕そうな態度に少しイラッとしましたが、ここは我慢です。殺しても対して旨味が少ないということもありますが、先程のクエストはワッペさんが受注した依頼。
ここで殺してしまえば、クエストの終了報告ができないのです。
……わかりました。
この場では殺さないでおいてあげましょう。感謝するのですよ?
私は手の中に隠してしたナイフを手袋に戻しました。報告が終わったら後ろからグサリしようとしたんですがね。
「そういうとこが可愛くねぇんだよ……。ま、それはそれとして。……一緒にクエストやってくれた仲のお前に、親切心で、いいことを教えておいてやる」
はい? いいこと?
かなり上から目線なのが気になりますが……なんですか? つまらないことだったら、容赦なく切り捨てますよ。
私がそう言うと、ワッペさんは私の手を指差して、無表情で口を開きました。
「それ、使い方間違ってるぞ?」
…………?
え、なに言ってるんです? これは私の『プレゼント』ですよ? 持ち主が一番使い方を知っているのが当然……。
「じゃあ……もう開封は終わってるんだな?」
開封……?
聞き覚えのない単語に、私は首を傾げました。
確かに『プレゼント』というのですから、ゲーム開始当初のイメージは、リボンが巻いてあるプレゼントボックスを考えていましたが……。
「その様子だと、まだみてぇだな。いいか? 俺達プレイヤーが最初に貰った『プレゼント』は、全部の機能が解放されていない、まだラッピングを剥がしていない状態だ。つまりは未開封って事よ」
へー、つまり開封すると、能力が強化されるのですね。初めて聞きました。……で、いいことというのは?
「……今のをいい情報と思えない、お前に問題があると声を大にして言いたいとこだけどよ……。じゃあもう一つ、開封条件はある程度決まっている。これを満たせば誰でも新しい能力を手にいれることができるはずだ」
ふむふむ……。
どうやら、ワッペさんは私の能力に伸び代がある、ということを言いたいそうです。
確かに、強いことには強いですが、少し物足りない部分があることも事実。この話を聞くことには価値があるのでしょう。
それで、その条件とは?
「お! 乗ってきたな! まー、開封条件は大きく分けて3種類だな! 一つめは……レベルだ。大体100レベルになると、開封するかしないか、ってメッセージウィンドウがでんだけどよ……出たか?」
ワッペさんは指を一本立ててそう言いました。
100レベルですかー……。
当時の事は覚えていませんが、そういうメッセージは無かったはずですね。
そう言うと、ワッペさんは数回頷き、2本目の指を立てます。
「じゃあ2つ目。開封する環境が整っていない」
環境?
どういうことですか?
「例えるなら、パーティーを組んでいないと駄目とか、開封に必要なスキルを持っていないとか……。ああ、『ギフト』がないといけないって例もあったな」
んー……、よくわかりませんが、『プレゼント』の能力を最大限に発揮できる状態を作ればいい、ということですかね?
「おう、ということだな。……で、俺が思うに、ポロラはこの二つの条件は満たしていると思う。レベルは当然として、あの使い方を見る限り、現状でできる使い方はできていると見た」
じゃあ、私は残った条件を満たすことができたのなら、更に新しい能力を使うことができるのですね? それで、その条件とは?
そう質問をすると、ワッペさんは少し気まずい顔をして、目を逸らしました。……おや?
「あー……、最後の一つはな、結構陥りやすい奴が多いんだが……『これしかできない』、そう思い込んでいるパターンだな。本当の使い方を理解していないってことだ」
これしかできない。
その言葉に、耳が痛くなるのを感じました。
私が常々思っていた事です。魔法が使えず、武器を持って戦うことしかできないと、皮肉のように思っていました。
錬金術で火炎瓶やポーションを作ったり、スキルで武器に属性を付与させることは、魔法が使えない為の代用処置でしかありません。
『子狐の黒手袋』でできない事を、他の事で補おうとしたのです。
もしかして、持ち主である私自身が、知らないうちに『プレゼント』の可能性を捨てていたのでしょうか……?
私が頭を抱えていると、ギルドのカウンターからワッペさんを呼ぶ声がありました。それを聞いたワッペさんは、ニヤっとしながら立ち上がります。
「ま、精々悩むこったな。本当なら『プレゼント』を開封するのはもっと早い時期なんだぜ? 強くなるなら、プレイヤー殺しするよりずっと効率がいいからな!」
……ハッ!
貴方、まだ殺された事根に持っていたんですか!? 私が悩む姿を見て楽しんでいましたね!? くぅ~! 馬鹿にしてぇ!
「ハッハッハ! なんの事かわかんねぇな!」
そう言い残し、ワッペさんはギルドの受付さんに案内されて、建物の奥に姿を消しました。……今後は夜道に気を付けることですねぇ!
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クエストの報告が終了し、報酬が支払われました。
よって善行値が回復し、私は犯罪者予備軍から卒業、ワッペさんは無事に足を洗うことができました。わーい。
「よっしゃあ! これで自由の身だぁ!」
ワッペさんも嬉しそうです。
……。
さて、どうやって殺して差し上げましょうか。できることなら、ピタゴラチックな感じに殺したいんですよね。
激的というか、計画的な殺人って感じに。
「ポロラ! 世話になったな! それじゃあ俺は帰るからよ! 開封頑張れよな!」
ええ、今度会うときには……、って、何をしているのですか?
私はワッペさんに振り返り、思わずぎょっとしてしまいました。
彼は腰から剣を抜いていたのです。
いえ、それが私に向いていたのなら、それほど驚くこともなく、返り討ちにしてあげるのですが……。
その刃は、自らの首もとに当てられているんですよねぇ。軽く引きます。
「え? クランに帰ろうかなって」
……死に戻りするつもりですか?
あぁ、そういえばこの人、死んだときのデメリット無いんでしたっけ。いつでも死に戻りできるとか便利な能力ですね……。
「犯罪者だとよ、死ぬと刑務所だから、今までできなかったんだよなぁ。不便で仕方がなかったぜ」
えぇ……。つまり今回クエストをやったのは、死に戻りを解禁する為って事ですか?
「あん? そうだが?」
な、なんて手の込んだ自殺を……。
私は呆れてしまいました。
「んじゃな! また遊ぼうぜ! ごふっ……」
そう言い残し、ワッペさんは自らの首を剣で切り裂きました。
そして、ミンチとなって地面に散らばります。残された私はそれを黙って見ていました。
ん~……。私もクランに帰りますかね……。
路地裏修行をしていた気がしますが、結果的には儲かったので良いことにしましょう。
あ、ついでにチップ様にお土産も持っていきましょうか。
開封の話も聞きたいですしね~。
・プレゼントの開封
プレイヤーに与えられた『プレゼント』の真の能力は、当初は隠された状態になっている。この能力を使うためには、条件を満たし『プレゼント』を開封しなければならない。




