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勢いに身を任せて

※申し訳ありません。次の更新は金曜日になります

 オークさんと金髪ちゃんが帰って来たのは、ワッペさんの能力の効果が終わってからしばらく経ってからの事でした。


 お二人共、ミンチだらけの凄惨な現場に出くわして目を丸くしていましたね。ちなみに私達も血塗れです。これは酷い。


「これは……一体何が!? それにその化け物は……!」


「や、ヤバいですよ! 明らかに強いじゃないですか! 逃げなきゃ……」


 それと姿が変わってしまっているケモモナを見て驚いております。まぁなにも知らないで出くわしたらそんな反応にもなるでしょう。


 そんな彼等に対して、ケモモナは優しい声色でこう言いました。


「フフフ……俺だよ、俺。ほら、この触手でゴワッてあげるからこっちおいで」


 おいコラ。


 ケモモナは触手をうねらせてオークさんを手招きしています。


 ちょっと強くなったからって調子乗るんじゃないですよ。というか貴方何時になったら元の姿に戻るんです? 触手が気に入ったんです?


 そう言いながら私は蠢く触手を引っ張りました。中々の伸縮率でみょいんみょいんと伸びますね。


「ケモモナ……なのか? 先程覚醒していたのは確認したから、ジェンマと戦っているとは思ったが……そうか、勝ったんだな」


 オークさんは察しがいいですねぇ。


 そうそう、貴方達が耳長ウジ虫を追い掛けて行った後にジェンマとその仲間達に襲われまして。


 そこで戦闘になったんですよ。この周辺が焼け落ちたり破壊されているのはソイツらのせいです。私達のせいではありません。ね、ワッペさん?


 私は主犯格のワッペさんに同意を求めました。


「えっ? ……ああ〜、そうそう。全部アイツ等が悪い」


 空気を読んだ骸骨さんはカラカラと笑いながら私に同意しました。……まぁ結局は全員懲らしめてあげたんですけれどね! あのジェンマでさえ、ちゃんと改心していましたから!


 もうあんな酷い事はできないでしょう。その位反省してもらいましたので、心配しなくても大丈夫です!


 私がそう言って胸を張ると、お二人は「おぉ〜」と、感嘆の声を漏らしました。……実際には、絶対に見せられない光景だったんですけれどね。


 泣いて許しを乞うていたいたのは最初だけ、後半は声を出す前に殺していました。つまりジェンマの訴えはその表情からしか伺えなかったということです。

 途中自力でログアウトできないか試す様子もありましたけれど、全く無意味だったようでその表情が死ぬのには時間はかかりませんでした。


 最終的には少し突っついただけで死んでいましたので、本当にステータスを1桁台まで持っていけたのではないかと思います。


 レベルが高いのにステータスは初期以下……実質的なゲームオーバーです。出現するモンスターはプレイヤーのレベルに比例して強くなるので、もうまともな方法ではゲームを続けていくことはできないでしょう。


 理由はあれど、さっき行ったのは一人の人間の楽しみを一つ奪うという行為です。そんな犯罪まがいな事をお二人にさせる訳にはいきませんし、見せたくもありませんんでした。


 そんな事をするのは私達だけで充分なんですよ。


「それでは、ケモモナの目標も達成されたのですね。……良かったな、これで子供達も浮かばれるだろう」


 オークさんはそう言ってケモモナに労いの言葉をかけますが、ケモモナはゆっくりと首を横に振りました。


「……いや、浮かばれるものか。アイツが残した傷は消えないよ。ロストした命は戻っては来ないからね。これは俺の気を紛らわす為にやったにすぎない」


 変態には変態なりに色々と思うところがあったそうで、その声は重々しく感じました。


 自分の気を紛らわす為、と言うのはその通りなんでしょうね。ジェンマをどうこうしたところでロストしたNPCが戻って来る訳ではありませんし、終わった事をやり直す事も出来ません。


 それをわかった上で戦闘に参加していたケモモナの心境は複雑なものだったでしょう。なんて声をかけるのが正確なのか、私にはわかりませんでした。


 が。


「オイオイオイ。勝ったんだからよー、そんな暗い雰囲気出すなって! 第一NPCを助けてぇなら方法はあるだろうに、なぁ? ポロラ?」


 そんな事は知らんと言わんばかりにワッペさんが横槍を入れてきました。……って、私ですか? 私は何も知りませんけれど?


 何の事を言っているのかわからなかった私は、思わずそう聞き返してしまいます。


 するとワッペさんは首を捻り、は?という様なジェスチャーをしてみせました。あ、ちょっとイラッとする。


「知らねぇのか? イベントの報酬だよ、何でも願いを叶えてくれるっていう『願望の杖』。あれがディリヴァ討伐の報酬だって運営のお知らせが来てたぜ? 見てねぇの?」


 見てませんね。そういうのは他人から聞くタイプですので……ん? 『願望の杖』!?


 思った以上に豪華な報酬に私は目を丸くしました。ケモモナも大きく反応します。


「本当か! 本当に報酬で『願望の杖』が貰えるというのか!?」


 そう言ってケモモナは触手でワッペさんを絡め取りました。本人的には肩を揺さぶる位のノリなんでしょうけれど、あまりのステータス差でワッペさんの身体はパキポキと音を立てて折れていきます。


「ぎゃああああああ! 死ぬ! 止め……だぁああああああ! 緊急脱出!」


 しかし、ただで死ぬワッペさんではありません。


 ギリギリのところで頭だけ分離し触手の拘束から逃れました。便利な身体ですねー。


「殺す気かぁ!? というかお前もインフォメーション見てねぇのかよ! 手に入るよ! 『願望の杖』! それで全部元通りにすれば良いだろうが!」


 『願望の杖』というのはどんな願いでも叶えてくれるという超レアアイテムです。


 プレイヤーはゲームを始めると必ず一本もらえるのですが、その使用用途はほぼ確実に『プレゼント』の獲得に使われます。


 取得難度もあって、使用法はその位しか無いのですが……。


 実のところ、本当に何でも願いを叶えてくれるアイテムの様で結構無理なお願いでも聞いてくれるそうです。


 例えば、女神様の降臨。


 自分の好きな場所に女神様を降臨させることができます。ビギニスートのリリア様もそうやって呼び出されたそうです。


 また、街の再生成。


 街の状態を初期の状態にリセットすることができます。壊れてしまった建物や、死んでしまったNPCを復活させる事ができるそうですが……。


「あれはマジ何でもできるぜ? ロストしたNPCでも何でも元通りだ、前例がある。……お前が助けたかった子供達もなんとかできるんじゃねぇか? やったな、おい」


 そう言いながら、ワッペさんはカラカラと音を立てて笑います。


 その前例というのが私は聞いた事はありませんでしたが、その話が本当ならばどれほど救われる話でしょうか。


 このイベントで破壊された街や住民、全てを元に戻すことが出来るのですから。


 ……それは頑張るしかありませんねぇ。ディリヴァを懲らしめれば手に入るとかメチャクチャ簡単ですし、運営も太っ腹じゃないですか。


 それなら明日はチャチャッとあの生意気幼女をわからせてやりましょう。ケモモナもその状態だったら難しい話ではないと思いますし?


「……勿論だ。せっかく手に入れた力、仮初の物だとしても有効に使わせてもらおう。それに、ここまで付き合ってもらっておいて、目標を達成したらさようなら、とはいかないだろう?」


 ケモモナはフードの下の口をニヤリと歪ませてそう答えました。見た目が見た目なので中々おっかないです。


 それを見ていたオークさんはコクリと小さく頷いてこちらに視線を向けました。


「『願望の杖』ですか……自分には特に叶えたい願いはありませんが、ここまで来たのなら最後まで共に戦わせてください。おかげでコルシェとも決着をつけることができましたので」


 決着って……そういえばアイツとの戦いはどうなったんですか?


 お二人がこうやって、多少の怪我はあっても、無事に戻って来たのですから結果はわかっています。聞くまでも無い話だとは思いましたが……。


「覚醒状態のコルシェ相手に正攻法で挑んで倒して来ました! もう私達の前には出てこれないと思います!」


 金髪ちゃんが何かを言いたそうにしていましたからね。よっぽど二人だけで倒すことができたのが嬉しかったのでしょう。……それは良かったです。それでは明日もよろしくお願いしますね。


 この一週間、色々とありましたが私としてはとても充実していたように感じます。


 このパーティで戦うというのは最後かもしれませんが、最後まで楽しんでいきましょう。


 なんてったって……明日はラスボス戦なんですからね! 最後まで全力を出し切って行きますよ!


 私はそう言いながら、グッとガッツポーズを決めました。


「ああ、やってやろう」


「任せてください」


「役に立って見せます!」


 皆さん私の気持ちを理解してくれたらしく、それぞれがやる気のこもった返事をしてくれました。


 一人を除いて。


「そんなに熱くなんなくてもよー……余裕だろ? こっちには『覚醒降臨』の力があるんだぜ? 今日みたいにぶっ放して終わらせてやろーや!」


 頭だけになった骸骨は、顎の骨を動かしてピョンピョンと跳ねていました。


 あまりにもウザったかったので、また踏み潰してあげようと思った瞬間、私はあることに気づいてしまったのです。……あれ? 私、『覚醒降臨』のデメリット言っていませんでしたっけ?


 私がそう質問した瞬間、その場の空気が凍りつきました。


 え、そんなものあるの?とでも言いたい様な目で皆さんが私の事を見詰めてきます。


 ……えーっとですね、ケモモナは明日までその姿なので問題はないんですよ。影響があるのは私とワッペさん位です。


 実はですね、この『覚醒降臨』というスキルなんですが……。




 一日間を空けないと、再発動できないんですよねぇ……。




 「……え?」


 素っ頓狂な声を漏らしたワッペさんは動きを止めて固まってしまいました。きっと、明日もギフトカード使って覚醒できると思っていたんでしょうね。すいません、無理なんですよ。


 今日使ってしまったので、次使えるのは明後日になります。毎日使えたら強すぎますもんね。


「ちょ、ちょっと待ってほしい。……俺達はともかく、なんで君まで今日覚醒状態になったんだ? わざわざ覚醒しなくとも良かったんじゃあ……?」


 ケモモナも困惑したような声でそう質問してきました。……な、なんでですかね? 多分雰囲気的にやんなきゃ駄目かなって……つまりはノリってやつだと思います。


 私は正直に答えました。だってあの時は本当にそう思ったんですもの、ここでやらなきゃいつやるの?って感じでしたし。


 ですので、私が覚醒したのは自然の流れで……ハッ!


 気がつくと、オークさんと金髪ちゃんが残念な物を見る目でこちらを見ていました。若干憐れんでいるようにも思います。


「勢いは……大事ですよね?」


「明日は自分が頑張りますので、心配しないでください」


 止めて!


 完全に慰められてしまいました。


 だってしょうがないじゃないですか! 皆覚醒していくんですもの! それじゃあ私も……ってなりません!? え、ならない? ……うるさい、バーカ!


 いても立ってもいられなくなった私は、そのまま街を駆けて行きました。


 後ろから呼び止められる声が聞こえていましたが、こんなに恥ずかしい思いをして一緒に居られる訳がありません。


 もう今日は酒場に入り浸ってヤケ酒してやります。


 私だって……私だって勢いに身を任せる事くらいあるんですよー!


 そう叫びながら、私は昼の酒場に突撃していったのでした……。

・悲しいことにスルーされてしまった男の覚醒


無限夜行リブート・アンデッド『ワッペ』。女神『カルリラ』の名において、あなたの輪廻を回しましょう。愛する者を、守るのです!』


 追加された能力は『他人に対する復活地点の設置』。いちいち魔法陣を書く必要が無くなった。さらに、設置した復活地点で誰かが復活するたびにその身は強化されていく。また、自分の攻撃で相手を倒した場合、殺さずにHP0の状態にしておく事も可能。現世に対象の命を留めることができる能力。

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