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『嫉妬』の邪神と女神の世界

 『嫉妬』の邪神が復活する当日。


 私達のパーティーはいつもの通りに街中で邪神の出現を待っていました。……なんか皆さん殺気立っていますねー。何かあったんでしょうか?


 いつもとは違う雰囲気を感じた私はボソリとそんな事を呟きます。


「当たり前だろう。先日からトッププレイヤー達が邪神化されていたからな。今日邪神化するのが『魔王』様ということも知れ渡っている情報だ。倒して名を上げようとする奴が居ないわけがない」


 辺りを警戒しながらケモモナがそう言いました。……貴方も随分と気が立っていますね。ジェンマが姿を現すのはまだだと思いますよ? 彼等的には明日がメインらしいですし。


 ワカバさんの情報により、ディリヴァ陣営が楽しみにしているのは七日目……明日だということがわかっています。何かやらかすつもりなのでしょう。


 ですので、今日についてはもうちょっと肩の力を抜いて、邪神戦に臨むつもりだったのですが……。


「あ~、ポロラいなかったもんな。お前が姿を消してから一悶着あったんだよ。ブタすけが頭のおかしい奴らに目ぇ付けられてさぁ。また来るんじゃねぇかって警戒してんのよ」


 ?


 どういう事ですか? ワッペさん。


 私がそう聞き返すと、ワッペさんはニヤニヤとした笑みを浮かべました。


「ほら、オークっていったらあれじゃん? そういうキャラじゃん? 変にめだっちまったからよ~、そういうのが好きな奴とか、勘違いした奴等に襲われそうなっててよぉ」


 あら、それはお疲れ様です。


 何処と無くオークさんが元気ないのはそのせいですか。昨日はあんなに元気だったのに今日はゲッソリしてますし。金髪ちゃんは何も言わずに寄り添っています。


 ……で、オークだからどうしたんですか? まぁ敵キャラってイメージ強いですけれど。そういうのってなんです?


 私がそういうとワッペさんは戸惑ったような表情を見せました。予想外とでも言いたそうな顔をしています。


「え? ん? んん!? そ、そういうのはそういうのだよ。ファンタジーのオークって言えば……わかるっしょ?」


 いえ、そう言われましても……私の中のオークって完全にド◯クエの槍を持ったアレなんですよね。


 所謂目立たない敵キャラってイメージなんですけど……ちょっと待ちなさいな、なんですかその反応。


 ワッペさんとケモモナが信じられないという顔で私を見てきました。ワッペさんはまだ良いとして、ケモモナにそういう顔をされるのは大変心外です。


「ケモモナ……どう思う?」


「俺にふるな。まぁ今の世代にはそっちの方がメジャーだという話だろう。むしろお前が言っているイメージって完全にエr」


 ケモモナが何かを言い切る前にワッペさんは大きく咳き込み、ケモモナの言葉を遮りました。この露骨な態度はどんな内容かわかりますね。……このムッツリ。


「うるせい! オークって言ったらそういうもんだろ! 凌辱物の定番だろうが! そんな感じの絡み方されたたし!」


 いきなり性癖暴露するの止めてくれません? 純粋にキモいです。


 でもオークさんの様子を見た感じ中々大変だったんでしょうね。いったいどんな事をされたんですか? なんかケモモナに吸われた時みたいになって……。


 と、私がオークさんに目を向けると、知らない女騎士に絡まれていました。

 彼女は鼻息を荒くして嫌がるオークさんに迫っています。


「どうだ……この完璧な女騎士の姿は! 汚したくなってくるだろう! 汚せ! そしてそのスクショを撮らせてくれ……!」


「あの……ホント……無理ですので……」


 ネカマの方ですね。間違いありません。


 もう言っている事が理解できませんもの。いったい何がしたいんですかね? というか本当に人間ですか?


「なんか姫騎士が汚される性癖持ちらしくてな。昨日邪神を討伐した後にブタすけのズボンを脱がそうとしてたぜ? 襲ってほしいんだとさ。目立ったのが裏目に出たな」


 説明するんじゃありませんよ。私に狂人の考えを教えるじゃありません。


 そういえば金髪ちゃんは何をしているんですか。オークさんに悪い虫がつきそうになっているんですよ? 男以外は駄目なんじゃ無いんです?


 私は絡まれているオークさんの隣で狼狽えている金髪ちゃんに声をかけました。


 すると彼女は難しい顔をしながらゆっくりと口を開きます。


「見た目はあれでも中身は男性……どうしましょう……私はどうするのが最善なんですか? まずはあれくらいから慣れてもらった方がいいんですか?」


 なんか良からぬ事を閃いてしまったようです。


 つまり先ずは中身が男性のところから始めていって、徐々に見た目が女性、女性っぽい男性、純粋な男性と慣らしていくつもりなのでしょう。性癖を歪ませようとしちゃ駄目でしょうに。


 もう~、貴女が助けなくてどうするんですか~。もしかして好きな男性が男性に取られるのが好きだったりするんです~?


「っ!?」


 呆れてしまった私がそんなふうに茶化すと、金髪ちゃんは顔を真っ赤にして腰にぶら下げていた剣を引き抜きました。


 そして、そのまま大きく踏み出して、オークさんのズボンに手を伸ばそうとしていたネカマ姫騎士の首をはねてしまいます。……え、金髪……ちゃん?


 私達が驚いていると、彼女はふうふうと息を切らしながらゆっくりとこちらに振り向きました。


「変態は殺してでも止めなきゃいけない。そうですよね?」


 ひぇ……。


 金髪ちゃんは修羅を思わせるような気迫を放っていました。それを見てしまった私達はもう何も言うことができません。……も、もしかして図星?


 ちょっとぉ……闇が深い性癖しているじゃないですかぁ……。寝取られが好みとか聞いていませんよ。しかも男性に彼氏を取られるなんて再起不能レベルのトラウマだと思うんですけれど。


 これは掘り下げてはいけない領域です。ハッキリしてしまうとこれから先、オークさんが可哀想すぎます。


「シーラ……目を覚ましてくれたのか?」


 ほら、金髪ちゃんがまともになったと思ったオークさんが喜びの涙を流しています。今までの苦労が報われている気分なんでしょうね。


「何を言ってるの? 私は私だよ?」


 その笑顔の裏に隠された事実を知ってか知らずか、オークさんは何処と無く安心したような顔をしていました。


 ああ、願わくばこれからも何も知らないままであってくださいな……。


 そんな事を思いながら私は天を仰いだのでした。






 ……。


 ちょっと私達緊張感無さすぎじゃないです?




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 そんな緊張感のない時間は過ぎ去り、もう少しで邪神が出現する時間になろうとしていました。


「うっし! そろそろだな! 気合い入れていくぜ!」


 そう言ってワッペさんは自らを鼓舞しています。……気合いがあるのは良いですけれど、最初は私の作戦通りに動いてくださいよ?


「おう! 先ずは待機だったな! ぶっ飛ばしていくぜ!」


 ホントにわかってます? まぁ貴方は一度死んでからが本番なので良いんでしょうけれど……。


 今日の相手は『嫉妬』の邪神です。


 ギフトと同じ能力を使えるとしたら、広範囲のエナジードレインの攻撃をしてくると予想できます。それと前に見た高威力の魔法攻撃。


 街全体にエナジードレインを使われ、広範囲の魔法を使われてしまったらそれだけでおしまいです。

 ですので、私が考えたのは黒籠手と『リリアの祝福』を合わせた広範囲防御です。以前に『色欲』の攻撃を防いだあの技ですね。


 邪神姿を現した瞬間に『リリアの祝福』を使用し、エナジードレインを使用したのを確認して居場所を把握。


 『祝福』の効果が終わる前に黒籠手の刃で包み込み、無力化してしまうという内容です。


 これならば私が防いでいる間に他のプレイヤー達は回復ができますし、私達はそのまま戦う事ができるはず。悪い作戦ではないと思いました。


「しかし、邪神がどこに現れるのかが問題だ。こちらの近くに現れればいいのだが……」


 ケモモナ、それは大丈夫ですよ。


 おそらくですけれど、『嫉妬』は以前のイベントと同じように、真の姿になって襲って来ると思います。なんて言ったって元になったのは子猫先輩ですからね。最初っから全力でかかって来ると考えていいでしょう。


 ……『嫉妬』の邪神はこのゲームの第一部のラスボスでした。師匠から聞いたことがあります。


 その際には、巨大な骸骨の姿になり襲いかかって来たそうです。きっと今回も同じようになるでしょう。


 そうでなくても、いきなり現れるので相当目立ちますしね。そんなに心配する必要は無いと思います。……ほぉら! きましたよぉ!


『プレイヤー『ミーさん』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迎撃に当たってください。邪神の力が復活します』


『測定中……』


『判明』


『種族『こねこ』。職業『魔術師』。Lv10000……嫉妬の《ミーさん》』


『クエストを開始します』


 プレイヤーの邪神化を告げるメッセージウィンドウが私達の目の前に現れると共に、街に影が落ちました。


 見上げると、そこには不気味な骨だけの獣がいました。『暴食』と負けず劣らずの大きさに思わずたじろいでしまいます。


 しかしながら、やることは変わりません。作戦どおり『リリアの祝福』を……!?


「あ、あれ? なんで?」


「これは……ディリヴァのときと同じ……ポロラさん!」


 金髪ちゃんが驚きの声を上げ、オークさんが私の名前を呼びましたが、残念ながら私も同じ状況です。




 身体が……動かない!?




 ディリヴァが逃げるときと同じように、私達の身体はピクリとも動かすことができません。


 ですが、邪神はゆっくりとではありますがその巨体を動かし、辺りを一瞥したような動作を見せました。


 そして……。


『まだ滅んでは……いないか。女神達の世界は未だに存在しているのか』


 頭の中になにかの声が聞こえて来ました。『嫉妬』の邪神でしょう。


『忌々しい程に美しい世界だ。私が居た死後の世界とは全く違う。私が欲しかった物だ……私の物になるはずだった世界だ……全て……全て……』


 邪神はそう言いながら、周囲に魔法陣を展開します。

 続けて、空中に大きな魔力の槍が現れたました。……な、なんなんですか、あれ。


 その大槍を見ただけで私の身体中から汗が吹き出しました。同時に何らかのスリップダメージが発生し始めHPが減少を始めます。


 アレが原因なのは間違いありません。


 もしもアレが直撃してしまったら、私達は灰も残さず消滅するでしょうそんな予感がありました。


 どうにかして防御に転じようとしますが、やはり身体は動いてくれませんでした。


『欲しい……何度冥府に落とされようとその願いを変える事はやはりできん……。私はこの世界に愛されたいのだ……』


 ま、まずい……。


 槍が動き出しました。それはゆっくりと照準を合わせるように動き、今にでも射出されそうです。


 そして、槍がピタリと動きを止めた瞬間に私達の身体の自由は戻ります。……『リリアの祝福』!


 スキルを使用したと同時に、私は飛び出しました。今ならまだ間に合うかもしれません。あの攻撃を、私の刃で防ぐことができるかも。


 間に合え!


「『戦闘狂』じゃねぇか! 遊んでくれよぉ!」


 誰ですか貴方!? じゃまぁ!


 そう思って刃を伸ばそうとすると、急に飛び出して来たプレイヤーが襲いかかって来ました。


 ダメージは通りませんが、数が多く行く手を邪魔されてしまいます。……ああもう! 邪魔するんじゃないですよ! これではまにあわな……。


 私は必死に腕を伸ばしますが、無情にも槍は射出され、同時に『嫉妬』の邪神の叫びが頭の中に響きます。







『だから! この世界を滅ぼさせはしない! お前の思うようにはならんぞ! ディリヴァァァァァァァァァァァ!!!』







 え?


 その光景を、陣営関係無く全てのプレイヤーが見上げていました。


 射出された槍は正確に邪神自身の身体を貫いており、突き刺さった場所から身体の消滅が始まっていたのです。


 これは……どういう……いったい何が起きたのですか?


 困惑している私の頭の中に、再び声が聞こえます。


『女神の尖兵よ……世界を守れ……あの『世界喰らい』の好きにはさせるな……今からでも遅くはない……協力を……を……』


 最後はノイズ混じりの音声になり、その声は消えてしまいます。


 気がつけば、街に現れていた巨大な骨の獣も居なくなっていて、目の前にはクエストを終了するという内容のウィンドウがあるだけでした。


 訳が……訳がわかりません。


 邪神はディリヴァの力を分けられた存在ではなかったのですか? 何故わざわざこちらを心配するような事を言って消えて行ったのです?


 それに『世界喰らい』とは? それがディリヴァの正体なのですか?


「マジかよ! 自殺しやがった! ずらかれ!」


 なんで全ての邪神を退けたのに、ディリヴァからなんのアクションもないんですか? クエストが終わった瞬間、敵プレイヤーが一気に逃げ出しているのです? 一人くらいこちらに立ち向かって来たっていいのに……。


 様々な疑問に対し、何も明確な情報がないこの状況にちょっとした恐怖を感じながら、私はただただ立ち尽くしかできなかったのでした。




 明日が奴等が楽しみにしているという七日目……一体何を企んでいるのでしょう……?


・『嫉妬』

 カルリラの前任者であり、死後の世界を管理していた死神。以前復活した際には世界を死後の世界の一部に変えようと暗躍していたが、冒険者とカルリラによって倒された。愛していたカルリラに最後を見送られ、なにかの変化があったのかもしれないし、自分の欲しかった物を他人に取られるのが嫌だったのかもしれない。

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