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マネーの狐~私に金を払うかリスキルか選べ~

 私が『ノラ』に帰ってみると、クランの入り口に人だかりができていました。話を聞く限り、返金しろと騒いでいるみたいですね。


「使ってないのにぶっ壊れたぞ! どういう事だ! 責任者は出て来て説明しろ!」


「壊れたら取り替えてくれるんじゃねーのかよ!? こっちは金払ってんだ! 約束は守りやがれ!」


「お、落ち着いて……落ち着いて……」


 十名弱の知らないプレイヤーさん達が一人のウジ虫さんを取り囲んでいます。おそらく彼が売人でしょう。……はーい! お待たせしましたぁ!


 私はそんな彼等に対して笑顔で声をかけます。


 売人ウジ虫さんは顔を真っ青にしましたが、他の方々は顔を真っ赤にして私をギロリと睨み付けてきました。


 しかしながら、私が黒籠手から武器を生成して並べていくと、その表情も柔らかくなっていきます。


 すいませんねー、ちょっと私留守にしていましてー。武器を用意しておくの忘れていたんですよー。


 今作ったのはなんでも持っていってもらって構いませんのでー。


「……ああ、作れる人がいなかっただけね。それを早く言ってくれよ。それならまた日をおいて来たのに」


「まぁ……持って帰れるなら問題ないけどさ……」


 そんな事を言いながら彼等は地面に並べられた武器を手にして去って行きます。若干納得していない顔をしているみたいですが大丈夫そうですね。


 さて。


「ひっ!? ぬ、濡れ衣だぁ!」


 私の顔を見た売人ウジ虫さんが悲鳴を漏らしました。逃げようとして後ずさっていますが無駄な話です。


 おやおやおやおや。そんな顔しなくたっていいではありませんかぁ、私が善意で置いていった物を売り払っただけでしょう?


 貴方がどれくらい稼いだのかは知りませんけれどぉ、先ずは私に何か言うことがあるのではないのですかぁ?


 ね?


「す、すいませんでした! お願いですから殺すのは止めてください! 刑務所送りは嫌なんです! あとクランに言って回るのも勘弁してくださいぃ!」


 ウジ虫さんは慌てながらその額を地面に擦り付けました。……違うでしょう? 私が聞きたい言葉はそんなことじゃありません。


 ちょっと詳しくお話がしたいのでクランの中に入りましょうか?


 悪いようにはしませんよ……?


 私はそう言いながらウジ虫さんの肩に手を乗せて、ニヤリと口元を歪ませたのでした。




 話し合いの結果、私の取り分は売り上げの八割ということになりました。壊れたら作り直すという契約らしいので、私の労力が大きいですししょうがないですね。


 ちなみに今まで稼いだお金も徴収しました。懐がポカポカしていて気分がいいです。


 クランにも充分な量の黒籠手武器を補充しましたし、しばらくは足りなくなる事もないでしょう。なにもしなくともお金が手に入るって素晴らしいですね……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 さて、久々にクランに戻ってきましたし、チップちゃんに会いに行きましょうか。


 お金のお話が終わった私はクランの中をフラフラしていました。


 今はイベント中のため、残っているクランメンバーも少ないですね。コルクテッドは子猫先輩を始めとした最強パーティーで守られてますし。


 私達のように他の街に行った方が楽しめるのは明白ですから。


 多分チップちゃんは自室に居ると思うんですけれど……?


「俺は反対です。絶対に許しません」


「何でだよ! せっかく自分のコピーと戦えるんだよ!? 楽しそうじゃんか!」


 と、チップちゃんの部屋前で言い争うツキトさんと子猫先輩の姿がありました。どうやらツキトさんは子猫先輩を邪神化させるのが嫌なようです。


「ツキト、我儘言うなって。みー先輩も困ってるじゃんか、なにがそんなに不満なんだよ?」


「私達が邪神化させられた時には何も言わなかった癖にねぇ。自分の物に手を出されんのがそんなに気に食わないのかい?」


 周りにはチップちゃんやメレーナさん、シバルさんもいらっしゃいます。


 それに加えて知らない人もいらっしゃいますね。誰でしょうか?


「いや……あの……無理ならいいんで……」


 知らない人は申し訳なさそうな顔をしてその場を去ろうとしますが、シバルさんはそんな彼の肩に腕を回して逃がそうとしません。


「ハッハッハ! 遠慮する事は何もありませんとも。わざわざ頭を下げに来た君を邪険にするわけにもいきません、何より本人が良いと言っていますしな」


 ……。


 もしかして、あの人ディリヴァ陣営のプレイヤーなんですかね? もしかして子猫先輩に邪神化させて欲しいと頭を下げに来たのでしょうか?


 いや、させるわけないでしょ? ふざけてるんです?


 そう思った私は武器を構えてフラりと彼等の目の前に姿を現しました。子猫先輩が邪神化したらきっと大変な事になりますからね。


 止めなくてはなりません。


「あ、ポロラ、久しぶ……っていきなり臨戦体制!? どうしたの!?」


 チップちゃん、どうしたもこうしたもありませんよ……目に前に敵がいるなら倒さなくちゃいけないじゃないですかぁ。


 ソイツ、敵でしょう? 生かしておく理由は無いんですよねぇ……。


 私がそういうとディリヴァ陣営のウジ虫さんは怯えた表情を見せてシバルさんに抱きつきました。


「あ、そうか。殺せばいいのか」


「ツキトくん!?」


 ツキトさんも私の考えに同意したのかアイテムボックスから大鎌を取り出して構えました。心強い味方ですね。


「いやいや、話が拗れるから止めなって。魔王様が良いって言ってるんだから好きにさせたらいいじゃないか、口を出す権利はないと思うんだけどねぇ?」


 メレーナさんはシバルさんの肩に腰かけてため息を吐きました。……関係ありませんよ。本来なら戦って無理矢理邪神化させる筈なのに、直接会いに来て頭を下げるなんて何常識的な事しているんですか? ちょっと面白いんですけれど。


 邪神化させたいのならその権利は戦って勝ち取るんですねぇ……!


「それだ、それでいこう。俺と狐さんを倒せたら先輩を邪神化させていい」


 そう言いながらツキトさんは身を翻し、私の隣に立ちました。……さて、戦闘開始です。


 頭を下げれば邪神化させてもらえると思ったら大間違いなんですよぉ! 一昨日来やがれという奴です!


 大人しく帰ることですねぇ! このウジ虫がぁ!


「その首……貰ったぁ!」


 私とツキトさんはほぼ同時にウジ虫に襲いかかりました。

 子猫先輩を守るための戦いが始まったです……。





 一分後。





「それじゃあ明日はよろしくね! 僕達はこのクランに居ると思うから、時間になったら来てくれると助かるな! あ、クランの入り口まで送ってあげるね!」


「は、はい、ありがとうございます……」


 子猫先輩達はウジ虫を出口まで案内するためにこの場を後にしました。ウジ虫についてはまた明日来るそうです。


 そして、私とツキトさんは地面に転がっていました。やっぱり子猫先輩には敵いませんでしたよ……。


 ちなみに二人とも原型を留めているので大分手加減されたみたいです。

 シバルさんとメレーナさんも参戦して来ましたからね。いくらツキトさんが強くても無理ですよ。


「ごばぁ……」


 私の隣で転がっていたツキトさんが吐血しました。彼の周りには彼自身の内臓が多数転がっています。メレーナさんに良いようにやられていたので仕方ないですね。

 ミンチになっていないのが不思議なくらいです。


 私もシバルさんの拳や子猫先輩の魔法で一瞬で片付けられました。子猫先輩の魔法、一撃食らっただけで二割位HP持ってかれたんですけれど? 使ってたの初級魔法だった筈なんですけれどねぇ? もうHPが無くなりそうです。死にそう。


「あー……大丈夫? 回復魔法かけてあげようか?」


 そんな私にチップちゃんが優しく声をかけてくれました。……わーい、チップちゃんだー。

 元気していましたー? 私は元気でしたよー。サアリドの街も大体無事ですー。


「うん、黒子の報告で聞いてる。頑張ってるってね、壊滅しそうになっている街もあるのに凄いと思う」


 わーい、褒められたー……って、他の街ってそうなっているんですか?


 今まで聞いた事の無かった情報に、私は驚いて起き上がりました。基本的にサアリドから出ない生活をしていたので、そんな事を聞いたのは始めてです。


 私の反応を見たチップちゃんは静かに頷きました。


「皆も頑張っているけれど全部の被害を抑えれる訳じゃないから。特に今回の襲撃は一番被害が出たっていうし」


 あ、あー……確かに、普通に戦ったら被害出るでしょうねぇ……。


 私は一瞬ドキッとしてしまいました。

 もしかして、自分が邪神化してしまった事を気にしたりしてないですよね?


 他の街に被害が出たのは別にチップちゃんのせいじゃありませんし、悪いのはディリヴァなんですけれど……。


 う~ん……。


 なんて返せばいいのか迷っていると、チップちゃんに何を考えているのかバレてしまったのか、彼女はクスリと微笑みました。


「大丈夫だよ? これそういうイベントだし。それに、邪神化しなくちゃこのイベント成り立たないし、アタシもわざと邪神化したしね」


 ……そうなんです?


「そうだよ? 邪神と戦えば報酬はでるけど、戦えなかったら何ももらえないから。強い敵と戦えるし、一石二鳥って奴かな?」


 以外に好戦的だったんですね。


 確かに言われてみれば、『ソールドアウト』の皆様が全力を出せる相手というのは、同じ『ソールドアウト』の方々位なものでしょう。


 こうしたイベントで戦える強力な敵は、彼等にとっては貴重な存在だと思います。弱い相手を苛めても楽しくないでしょうし。


「ポロラはどう? アタシから生まれた邪神と戦って楽しかった?」


 ……もちろんです。MVPも貰いましたしね。


 地道に戦おうとしたら痛い目見ましたよ。本体を潰さないと延々と強化されるとか聞いていませんが? ちょっとは教えてくれても良かったのに。


「それはごめん。というか、てっきり怒られるのかとおもった。なんで攻略法を教えてくれなかったんだって」


 チップちゃんはそう言いながら、少し申し訳なさそうに笑います。


 いえいえ、文句なんてあるわけないじゃないですか。

 私としては敵の特性を解明した上で倒すことができましたからね、上々な結果と思っております。


 チップちゃんが邪神化していたとはいえ、私の仲間の前じゃ敵じゃありませんでした。


 明日の邪神も、軽く捻って差し上げますよ。


 私がそうやって強がって見せると、チップちゃんは少しだけ驚いた顔をしました。


 その後、彼女は柔らかく微笑んで……。




「お腹すいた」




 死刑宣告をしてきました。……このタイミングで腹ペコモード!? 嘘でしょう!? くっ……間に合え!


 私は咄嗟に隣で死にかけているツキトさんを引き起こし盾にします。


 すると、彼は驚きの声をあげました。


「ちょ……視点変わったんだけどぉ!?」


 うるさい! 主食としての自覚を持ってください! 貴方が満足させてあげないからこんな事が……って、私も変わった!?


 しかしながら腹ペコ状態のチップちゃんの食欲は異常、ツキトさんだけでは足りなかったみたいです。


 私の視界が第三者視点へと変わり、チップちゃんの口が閉じられたのを確認。


 我々の身体は仲良く消滅しました。


 後に残ったのはお腹一杯になって満足そうな顔をするチップちゃんだけ……まぁ、はい、満足ならそれでいいんですけれどね……。


 私は仕方なく一度ログアウトした後、ログインからの刑務所脱獄というルーティーンを済ませたのでした。


 慣れたもんですよ……こゃ~ん……。

・慣れたもんですよ

 ログインしたらお隣の独房には『浮気者』もいた模様。二人で協力し、速攻で脱獄するその姿に囚人達は恐れおののいたという……。というか、慣れる位刑務所にぶちこまれているのはどうかと思う。

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