表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/172

神殺しの武器

 ゴーゴーゴー!


 全部全部蹴散らして行くのですよー!


「ブオォォォォォォォォォォォォォォ!!」


 巨大化したオークさんに乗って、私達パーティーはサアリドの街を前進していました。目標は街の中央に現れた『暴食』の邪神です。


 道中でもこれでもかというほどに『暴食』の食虫植物が襲いかかって来ますが……今のオークさんの敵ではありません。


 その手に握った二つのハルバードを振り回しながら、ガンガン前進していきます。


 その様子を肩の上から見下ろすのは楽しいですね。無駄に「焼き払え!」とか言いたくなりますけれど我慢です。いえ、言ったらやってくれそうではあるんですけれどね?


 私達に驚いて道を譲ってくれる他のプレイヤーさん達の迷惑になりますので。


「いいねぇ! ここまでくれば爽快だ! 無双ゲーやってる気分だぜ!」


「俺もうここに住む」


「あともうちょっとで大木につくよ! 頑張って! シードン!」


 皆さんの士気も高まっています。一人おかしい気がしますが通常運転です。気にしないことにします。


 にしても妙なんですよね。なんで未だに『暴食』の邪神の攻撃続いているのでしょう。本来の予定ではケルティさん達が既に仕留めているはずだったのですが。


 この攻撃の勢いを考えて倒されてしまったわけではないと思えません。金髪ちゃんの能力でこっちに攻撃を引き付けていましたし。


 それでは何故?


 ケルティさんには『色欲』のギフトによるスキル、『ソウル・オーバー』があります。


 威力は折り紙付きで、使えばあの大木を消し飛ばすことも容易でしょう。……なにか理由があるはずです、前にチップちゃんが戦った時と違う何かが。


 そして、その理由は大木の目の前にたどり着き、ようやくわかりました。


「『ソウル……オーバー』ぁぁぁぁぁぁ!」


 私達が到着する直前にケルティさんの物と思われる叫び声が上がりました。

 それと同時に大木に向かって白い閃光が放たれます。


 打ち出された力の奔流は一瞬にして大木を包み込み、その表面を焦がしていきます……が。


 攻撃が通じたように見えたのは一瞬で、焦げた表面もすぐに再生してしまいました。


「……どうしよ。今の割と全力だったんだけどなぁ」


 ケルティさんはガックリと肩を落とし、大木を見上げました。どうやら、強い再生力のせいでどうやっても倒しきる事ができないようですね。


 やはりこちらに来てみて正解だったというところでしょう。……ケルティさん!  増援に来ましたよ!


「え、ポロラちゃ……ってでっかーい!? あ、そっか! さっき覚醒してたもんね! ビックリしちゃった!」


 オークさんの姿を見てケルティさんが飛び上がりました。嫌いじゃない反応です。


 私は飛びのいた彼女の近くに降り武器を構えました。


 それで、今はどういう状況なんですか? いまいち理解ができないんですけれど、どうして攻撃が通用していないんです?


 私がそう質問すると、ケルティさんは真面目な顔をしながら口を開きました。


「ごめん、私にもわからない。『暴食』の邪神は捕食で回復と強化ができるんだけど……ポロラちゃん達が敵を誘き寄せていたのに回復と強化は発生していたの」


 なぁ……!?


「そ、そんな! 『バッテン』の能力で全部こっちに引き寄せたはずなのに……」


 私と金髪ちゃんは驚きを隠す事ができませんでした。


 それはそのはずです。捕食をさせないために必死に戦っていたにも関わらず、その成果は全くなかったのですから。


 けれども、いったいどこで捕食行為をしていたのかが全くわかりません。この街に出現した食虫植物は全て私達のところに引き寄せられたと思っていたのですが……。


「いや、ミラア達が街を確認したけれどそういった跡は全くなかったって。だから何かが仕掛けが……っ!」


 ケルティさんが私達に説明をしている途中、あの食虫植物達が地面を突き破り姿を現しました。

 しかし、私が戦おうと思った瞬間にケルティさんは動きだし、現れた敵を全てバラバラにしてしまいます。はっや。


「仕掛けがあると思う。それさえわかってしまえばなんとかなると思うんだけど……」


 そして何事もなかったかのように続けます。……仕掛けですか。私達が戦っていた限りそんなものはなかったはず……ん?


 私はそう言いながら、ふと奴等が姿を表した地面に目を向けました。


 さっき戦っていたときも同じように出現していましたし、別におかしなことはありません。


 そう、おかなしな事ではないのです。


「お、おい……ポロラ……。もしかしてこれ……」


 オークさんから降りてきたワッペさんが驚きの声を漏らします。


 先程は目の前に出現する敵に夢中でこの事に気付く事ができませんでした。しかしながら、少し冷静になればわかることだったはずです。




 なぜ、あの食虫植物の様な器官が地面から現れたのかを。




「これ……地面の下に……根っ子!?」


 割れた地面を見ていた私達に気付き、同じようにそれを確認したケルティさんが目を丸くしました。


 割れ目から見えた木の根っ子にはコブがボコボコと付いていて、それらには全て牙の生えた口があったのです。


 そして、先程倒した食虫植物が流した体液を取り込み、その大きさを増していくのでした。……まさか、倒した生物の体液を地面から吸収していたと? そんな馬鹿なこと、あってたまりますか!


 徐々に成長し、あの食虫植物の姿へと変化するコブを睨みながら私は悪態をつきました。


 けれども、現実は現実です。


 私達が倒した敵達の血肉は地面を通じて『暴食』の栄養となり、その強さを増していたのでした。


 その結果は変えることができないのです。


「わ、私が、能力を使っちゃったから……?」


 金髪ちゃんが震える声を漏らしました。……いえ、貴女のせいではありませんよ。


 全ては私の責任です。少しでも楽をしようと小細工をした私のせいです。貴女は私に従っただけ、それだけの話です。


 私はそう言いながら、成長しきった食虫植物植物を斬り倒しました。


 最初からこうするのがベストだったみたいですね。敵のプレイヤー達も邪神を倒してから殺しにいけば良かったんです。……『七神失落』!


 目に前に見える根っ子に対してスキルを使用すると、大木全体に光の鎖が出現し、直ぐに砕け散りました。

 それと同時に根っ子に付いているコブの動きが鈍ります。……さぁ始めますよ。伐採作業の開始です。


「おうよ! 何も考えず燃やしゃいいんだな! 『アンデット・プロミネンス』!」


 ワッペさんは大木に向かって走り出すと、その身から溢れる炎を激しく爆発させながら突っ込みました。


 全体を燃やし尽くすには全く火力が足りませんが、次々と現れる食虫植物の的になってくれています。最低限の仕事はしてくれるみたいです。


「全く、人がゴワゴワに包まれているというのに……少しは頭を使ってくれ……『ワイルド・ラヴァー』!」


 オークさんの毛皮の中からケモモナの声が聞こえると、すぐそばに大きなドラゴンの姿が出現しました。


 そして、すぐに大木に向かって飛び立つと、食虫植物を相手にして戦い始めました。殺さず生かさずを意識して戦っている辺り中身はケモモナでしょう。新しい栄養を用意しないつもりのようです。


「わ、私も……!」


 金髪ちゃんも二人に負けじとオークさんから飛び降りましたが、その身柄は私に拘束されてしまいました。……貴女は攻撃を私達に集中させるお仕事と、邪神を弱らせる仕事をしてもらいます。はい、これ根っ子にかけてください。


 そう言って私は金髪ちゃんに毒薬が入った瓶を手渡しました。


「え……? なんで毒なんて持っているんですか……?」


 常備薬です。


 私は即答しながら地面に持っていた毒薬を並べました。これを根っ子に全部かければ少しは効くと思いますので、能力を使うついでにお願いしますね?


「は、はい……」


 私は戸惑いながら根っ子に毒薬をかける金髪ちゃんにから視線を外して、オークさんを見上げました。……さて、オークさん、貴方にも暴れてもらいますよ?


 おそらく、覚醒状態になった貴方がこの中では一番強いはずです。普段は盾役として働いてもらっていますが、今回は前線に出てもらいます。


 貴方がアイツを斬り倒すのです。


 武器は私が用意します。


 私はオークさんの目の前に向かって黒籠手を向けると、そこに大量の刃を伸ばしました。


 そして、彼が使うに十分な大きさの巨大な武器を作り上げていきます。……元々用意していたハルバードも既に手斧程度の大きさです。それであの大木を斬り倒すのは難しいでしょう。


 ならば作るものは一つです。


「ぶっ! ちょっ!? ポロラちゃん!? これって……」


 出来上がっていく形を見たケルティさんは、なにか思うところがあったのか思わず吹き出していました。


 それが出来上がると、全てを察したのか、オークさんは両手に握っていたハルバードを投げ捨てました。


 そして、そのレバーをおもいっきり引き、そのエンジンを駆動させます。爆音と共に刃が高速回転を始めたのです。……木の伐採、及び神殺しならこれでしょう?




 皆大好きチェーンソーです……!




「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


 自分と同じ位の大きさの巨大チェーンソーを振りかざし、オークさんは『暴食』の邪神に斬りかかりました。


 その刃は一撃で大木を両断……なんて事はできませんでした。そもそもそんな事ができない位大木は巨大ですし、チェーンソーはそういう事はできませんからね。


 あれは、木を削り切る道具ですので。


 『暴食』の邪神の再生は刃の回転に追い付くことができません。


 再生したところで、刃がその部分を削り取ってしまうのです。あっという間にその身に一線の切れ込みが入ります。


 そして、オークさんはそれが再生されてしまう前に、もう一線の切れ込みを入れて木の一部分を切り取ってしまいました。地面に大きな木の塊が落ちます。


「よくやったぁ! 燃えろぉ!」


 落ちた大木の欠片、削り取った木片にワッペさんが火を放ちました。


 それは一瞬で燃え上がり、先程よりも強い火柱が上がります。……今のオークさんはワッペさんと同じスキルを使えます。あの炎も全く効きません。完全に再生を上回る速度でダメージを与えれています。


 他のパーティーも参戦してきて、多少ではありますが邪神に損害を与えてくれているようです。これなら……。


 私の期待に答えるように、オークさんは伐採を続けます。


 毒に犯され、炎に焼かれる『暴食』の邪神の身を、オークさんはチェーンソーを振り回して少しずつ切り落とし、バラバラに削り取っていきます。


 彼は木の幹にトンネルを作るように穴を作っていき、大木の中央部に辿り着きました。……前に黒子君が邪神化した時と同じです。弱点は根元にあったのですよ。


 削り取って行ったその先には、身体中に木を纏わせているチップちゃんの姿がありました。それが、この大木の力の源に違いありません。


 それを見つけたオークさんはチラリとこちらに振り向いて、私の事を見てきました。


 ……別に構いません。姿形が同じであっても、それはチップちゃんでは無いのですから。


 せっかく主役を譲ってあげたのです、ここまできて躊躇するなんて許しませんよ?


 やってしまいなさいな! 貴方の力で斬り倒すのです!


 私の声を聞いたオークさんはコクりと頷き、邪神の弱点に向かってチェーンソーを真っ直ぐに突き刺しました。


 チェーンソーの上げる爆音はまるで、生き物の叫び声のようです。力の源を削り取られていく『暴食』の邪神の最後の足掻きのようにも感じました。




 しかし、それも一瞬のこと。




 チェーンソーはすぐにそれを貫通し、目の前にあった大木はバラバラに砕け散ってしまったのです。


 それにワッペさんの炎が付いていき、欠片さえも消滅していきます。


 全ての欠片が燃え尽きた時、私の目に前にはウィンドウが現れました。


『邪神が討伐されました。クエストを終了します。


 MVP 『シードン』『ポロラ』』


 おや? 私もですか? ふふふ……悪い気はしませんね。


 オークさんも同じみたいで、邪神が消え去った後の広場の中央に立ち、片腕を上げて雄叫びを上げていました。


 まさに勝者の風格です。


 周りのプレイヤーさん達も少し変わった目で彼の事を見ていました。彼の勇姿はこの場にいる全員が知ったことでしょう。


 ……最初に会った時は、こんな事になるなんて思ってなかったんですけれどねぇ。頼もしくなったものです。


 私はふとそんな事を思い、懐かしさを噛み締めながら微笑んだのでした…。








「ああ、ちょうどいいところにいたな」


 ……なんでいい雰囲気で終わらせてくれないんですか?


 気が付けば。


 私はどこか狭い空間に移動しており、目に前には椅子に腰掛けたOLさんがいました。ミラアさんです、能力で拉致されたみたいですね。


「さっきのウィンドウを見てあることに気が付いた。面白い能力じゃないか、流石は魔王様に目を付けられた事はある」


 ……何が言いたいんです?


 私は惚けたように小首を傾げると、ミラアさんは意地が悪い笑顔をこちらに向けました。




「お前の作った黒籠手武器……それは本当に武器なのか? 本当は『防具の一部』なのでは?」




 彼女の様子は、全てを知っているとぞと私に言ってくるかのように自信が満ちており……。


 私は思わず目を逸らすことしかできなかったのでした。……なぜバレたんですかね?

・なぜバレないと思っていたのか

 既に結構なプレイヤーが気付いている模様、悪用している面子もボチボチ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ