表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

140/172

レッツ、ゴー!

 金髪ちゃんの『バッテン』。


 刃に十字の傷が入った剣の『プレゼント』なのですが、彼女がそれを掲げた瞬間に街に変化が起きました。


 街全体が戦場として設定されていたからなのですかね?


 『暴食』から伸びる食虫植物は勿論のこと、こちらに向かって来るプレイヤーの姿も多数確認できました。……いやぁ屋根の上に陣取って正解でしたね。どこから来るのかまるわかりですよ。


 そんなことを言いながら、私は展開した大爪を丁寧に射出していきました。


「いや速攻で囲まれてんじゃねーか! お前馬謖って知ってる!? ヤバくn」


 いや、知りませんが?


 そうやってワッペさんに文句を言おうと振り向くと、既に彼は食虫植物に捕食されていました。牙の間から彼の腕がはみ出ています。


「わ、ワッペー!?」


 あまりにも早い退場にケモモナも驚きを隠すことができていません。


 戦える後衛というのがウリだと思ったんですけれどね。なんですぐに死んでしまうのでしょう? せめて私達全員に魔法でバフをかけてから死んでほしかったのですが。


 まぁ死んでしまったものは仕方がありません。とりあえず目の前の敵を倒していきましょう……。


 と思ったらワッペさんをモグモグしていた食虫植物から青い炎が上がりました。


「りぃぶぅぅぅぅぅぅぅぅとぉぉぉぉぉぉ!! こっからが本番じゃあ! 燃やし尽くしてやらぁ!」


 一度正体を見せたらこれですか。


 もう骨になることに戸惑いがないみたいです。簡単に退場しなくなったのでいいんですけれど。


 それやるなら最初に自分で死んでおいてくださいな! あと攻撃はいいので魔法で支援してください! オークさん優先でお願いします!


 向かって来る食虫植物の数はどんどん数を増やしていきます。


 それの殆んどがオークさんを狙っており、その身体に牙を食い込ませていました。


 オークさんは叫び声を上げてハルバードを振り回し、自分に噛みついている食虫植物を切り落としていきます。元気いっぱいです。


 『覚醒降臨』によって強化されているので簡単には倒れないとは思います。しかしながら、オークさん一人にかかる負担は大きいです。


 能力によって傷は瞬時に回復していますが、強化しておくのは間違いではないでしょう。


「わかったよ! 『ブースト』! 『パワー』! 『リジェネレーション』!」


 ワッペさんはオークさんに強化魔法を重ねがけしていきます。……ん?


 何故か私の視界のすみに『速度強化』『筋力強化』『再生力強化』の表示が出ました。なんで私に?


「おい、ワッペ! 俺にかけてどうする! いや、助かるが……」


「ちょっと! 私にもかかってますよ! ターゲット指定間違っていますってば!」


 ケモモナと金髪ちゃんも同じようです。


 あー、なるほど。そういう……。


「はぁ!? 知るかんなもん! 俺にもかかってるよ! ブタすけの能力かなんかじゃねーのか!? おりゃ!」


 自身に身に覚えがないことを主張しながら上がってくるプレイヤーに炎を向けながらワッペさんが叫びました。


 多分それでしょうね。


 『憤怒』のギフト自体に魔法効果を他人に広げる効果がありますからね。それが強化されているのかもしれません。


 しかしながら、それだけだと覚醒状態にしては少し物足りないのですが……。


 気にしても仕方ありませんね。ステータスの上昇量も中々ですし、このまま戦いましょう。


「あ、身体が……身体が止まらないぃぃぃぃ!?」


 金髪ちゃんの能力で引き寄せられたプレイヤーも集まって来ましたしね。……ウジ虫ぃ!


 私は屋根をよじ登ってきたプレイヤーに対して槍を振り回しました。身動きが自由にとれないせいで面白いくらい攻撃が当たってくれます。


 わらわらと私達に殺されに来てくれるのはとてもありがたいですね。


「おらぁ! 灰になりやがれ!」


 ワッペさんの炎も調子が良いですね。広範囲に攻撃ができるので敵の殲滅には便利です。


 このまま戦闘を継続することができれば、アイテムも経験値も大量に手に入れる事ができますね。


「更に来るぞ! ……不味くないか?」


 地面を突き破り私達を取り囲むように食虫植物が出現しました。数にして二十以上というところでしょう。


 不味くないです。殲滅します。


 私は周囲に展開していた大爪を引き寄せ、その形を変化させました。


 木が枝を伸ばすように、刃を四方八方に伸ばしてプレイヤーごと串刺しにしていきます。


 仕留めきれなくとも足止めにはなりますから、簡単には私達に攻撃することもできないでs……うそぉ!?


 食虫植物に向かって伸ばした刃が一部消えてしまいました。


 見るとバキボキと音を鳴らして何かを咀嚼しているのがいますね。……た、食べたんです!? そんなの食べてもおいしくないでしょ!?


 食べることができる事に気付いた植物達は私が生成するよりも速いスピードで刃を食い尽くしていきます。


「なにしてんだポロラ! 一撃で仕留めちまえ! 殲滅は俺の炎で……って、食うなぁ! 追加じゃ追加~!」


 ワッペさんの炎は効いているようですが、私の刃と同じように食べられてました。何でも食べられるようです。


 前にチップちゃんが一撃で消し飛ばしていた理由がわかりましたよ。そうじゃないと倒せなかったんです。


 前に私が戦った『暴食』の邪神はもっと小さかったですし、攻撃を食べて回避するなんて芸当はしてきませんでした。この感じだと前に使った毒薬も効くか怪しいです。


 本体を叩きに行くというのが一番手っ取り早いのでしょうけれど、そちらはケルティさんにお任せしています。私達の仕事ではありません。


 それに、彼女にはあれを一撃で吹き飛ばすスキルも保有しておりますしね。


 ですのでどうにかしてこの場を乗り切らなければなりません。……刃を飛ばすだけが脳じゃないということを教えてあげましょう!


 いきますよ……びぃょよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


 私は『咆哮』のスキルを使用し、目の前に近付いて来た敵に音波攻撃をぶつけました。実体が無いものは食べることはできないでしょう。


 それなりに効いているみたいで、直撃した食虫植物やプレイヤーは弾けとんでいきます。


 ですが、この攻撃は目の前にしか打ち出すことができません。全方向を囲まれた今、最善の一手とは言えないでしょう。


 …ケモモナ! なにか召喚して弾除けを作りなさい! 今から打開策を考えます!


「逆効果だ! 餌を召喚してどうする! 敵を強化するだけだ、俺の能力とは相性が悪い!」


 くぅ~、マトモな事を~!


 ケモモナの言うことはもっともです。

 強化させないようにこちらにプレイヤーを惹き付けているのに、食べられるモンスターを用意してしまっては何の意味もありません。


 ……師匠からもらった手榴弾を使ってしまいましょうか?


 いえ、あれは危険すぎます。使った結果こちらまで吹き飛んでしまう可能性さえありますから。


 一度金髪ちゃんに能力を解除して……いえ、ダメです。解除した瞬間にディリヴァ陣営のプレイヤーは食べられてしまうでしょう。


 それなら……。


 金髪ちゃん! プレイヤーの動きを止めることはできますか!?


「はい! できます! 貴方と貴方……くっつけ!」


 金髪ちゃんがそう叫ぶと、登って来ようとしていたプレイヤー二人がまるで磁石がくっつくような動きを見せました。


 そしてそのまま落ちて行ってしまいます。物理的に。


「うわっ、はなれろ! お、おちっ」


「お前が離れ……ぎゃあああ!」


 断末魔を上げながら落ちていく姿は仲良しに見えないこともありません。まぁ強制なんですけれどね。


 それはそれとして、プレイヤーの動きを止めるのならこれで十分です。金髪ちゃん、どんどんくっつけていってください!


「きっかけ作りのお手伝い……! 私頑張りますね!」


 戦闘を頑張ってください。


 やる気があるのは大変嬉しいのですけれど、違う方向に全力で走って行ってしまいそうで心配です。


 ですがこれで戦線を維持することができるようになりました。もう一度大爪を展開して、一体一体を丁寧に打ち落としていきます。


 しかし、食虫植物数は更に数を増やして私達に襲いかかります。


 ワッペさんは炎、私は大爪で食虫植物を。


 ケモモナは近接攻撃で、金髪ちゃんはプレイヤーを処理しています。


 そんな中、オークさんは身体中を食虫植物に噛まれていました。彼一人だけで十数体ほどを相手にしていました。


 ……。


 いや、多くね!?


 流石に多すぎるでしょ!? どれだけオークさんの耐久が素晴らしいとは言え、あれだけの攻撃を受けられるとは……。


 しかし、私の心配とは裏腹にオークさんは怯む様子さえ見せません。


「フン……!!!」


 自分に噛み付いていた食虫植物を無理矢理引き剥がし全て引き継ぎってしまいました。メチャクチャにパワフルです。あれ? そんなに強かったでしたっけ?


「スゲェなあ! 俺も負けてらんねぇよ! 最大火力でぶっ飛ばしてやらぁ!」


 そんな様子を見てワッペさんが燃え上がりました。……熱っ!? こっちにまで熱気来てるんですけれどぉ!?


 私は抗議をしますがワッペさんの勢いは止まりません。


「うるせぇ! なんか調子良いんだよ! MPも全然へんねぇし好き放題やらせてもらうぜぇ!」


 それは良いですけれどコントロールをですね! ……ん? 減らない?


 ワッペさんが食虫植物を焼いている間に私はステータスを確認すべくウィンドウを表示させました。


 ステータスが上がっているのはわかってましたけど……何です、これ……。




 HPとMPの上限が上がっている!?




 私のHPは元々の1.5倍程になっており、今も上がり続けていました。


 しかも、かけてもらったバフの上昇量もガンガン増えていっています。……これが本当のオークさんの能力なのでしょう。


 自身に付いたバフの共有、強化。


 時間をかければかけるほど強くなっていくのでしょう。オークさんが倒れない限りは。


 引きちぎられた代わりとでも言いたいように、新たな食虫植物がオークさんに迫ります。


 今度は出現した全ての敵が彼を狙って食らいつこうとしました。……そこまで好きにはさせませんよ!


 そう叫び私は大爪を打ち出すべく構えましたが……その瞬間です。




 オークさんが青い炎に包まれました。




 ……なにしてんですかワッペさん。


「いぃっ!? ち、違う! 俺じゃねぇ! 流石にそこまでノーコンじゃねぇよ!」


 ワッペさんは全力で否定します。嘘は吐いていないみたいですが、それならあの炎はどこから……。


 オークさんを包んでいる炎は向かってくる食虫植物を燃やしていきます。しかしながら、それだけでは全てを倒すことはできません。


 それを確認したオークさんは腰を落とし、大きく息を吸い込みました。


「スゥゥゥ……ガアアァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 そして大きな雄叫びを上げます。……これって、間違いなく『咆哮』ですよね?


 衝撃波が街を駆け巡っていき、『暴食』の本体である巨大な大木を揺らしました。その間にいた食虫植物達はそれに耐えきれずに破裂していきましたね。


 ワッペさんの炎に私の『咆哮』……味方のスキルを使うことができるみたいです。しかも私達よりも強力に。


 ……試しに覚醒させてみましたけれど、オークさんの能力凄まじいじゃないですか。


 にしても、まだケルティさん倒してくれないんですかね? そろそろとどめ刺してほしいのですけれど? ん~……。


 オークさん、ちょっと大丈夫ですか?


 私がそう聞くと、オークさんは私の事をゆっくりと見下ろしました。


 ……もう囮役はいいと思いませんか? もう敵のプレイヤーはいなくなったでしょう。私達の仕事は終わりでいいのではないかと思います。


 ここにいてもさっきの奴等しか来ませんし、ケルティさん達を待つのも飽きました。もうこっちから動いてしまいましょう。


「え……と、私達が『暴食』を倒しにいくってことですか? いいんでしょうか……」


 金髪ちゃんが困惑したような顔で私に聞いてきました。……大丈夫です、今の私達ならケルティさん達にも負けませんよ。きっと倒せます。


「いいじゃねぇか、そろそろ大元を燃やしたいと思ってたところだぜ」


「構わない。俺もこの場所じゃ本気を出せないからな。もう少し広い場所で戦わせてくれ」


 ワッペさんとケモモナは乗り気みたいですね。……それではいきましょうか。今日は贅沢にいきましょう。



 今日の成果は、全部私達のものです……!









 という事で、オークさんよろしくお願いします。


「……!?」


 私はそう言いながらオークさんに飛び乗りました。多分オークさんに乗って行った方が速いのでお願いしますね。


「あ、んじゃ俺も」


「私もよろしく!」


「これは合法……合法だから……」


「!?!!?」


 私に続いて皆さんもしがみつきましたね。それでは行きましょう。


 オークさん発進です! レッツ、ゴー!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ