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雄叫びをあげろ、その爪で殺せ

 『咆哮』というスキルは、前方向に向け放つ、敵味方を巻き込む衝撃属性の攻撃です。

 このゲームの無差別に攻撃できる技は、味方を巻き込むというリスクを背負っていますが、それ相当の威力を持っておられます。


 魔法が使えない私にも使える、数少ない広範囲属性攻撃です。……という訳で。


 私が生き残る為の、尊い犠牲になってください! ワッペさぁん!


「御断りじゃあ! さっさと助けろぉ!」


 未だにショゴスの触手に縛り上げられているワッペさんは、私のお願いを涙を流しながら断りました。はて……?


 可愛い女の子を守るために犠牲になることは、男性として理想の死に方なのでは?


 まぁ、そうでもない方も居るということでしょう。私は男性の性癖に理解があるウジ虫さんです。もふ魔族以外はできるだけ許容するよう努力はしています。……するだけですが。


 と、アホな話しはここまでです。


 現在の状況について説明しましょう。

 私の攻撃によりショゴスの身体は損害を受けたようで、先程よりも動きが鈍くなっている様に見えます。


 しかしながら、それでも触手の数を増やし続けていて、油断をすれば私もワッペさんの様な醜態を晒してしまうことでしょう……。


 そんな私の考えを肯定するかの様に、私に向かって触手が伸びてきました。太さはそれほどなく、細く鋭い動きをしています。


 動きを見切りサッと避けると、触手達は後方の壁に突き刺さりました。確実に殺意が高くなっていることがわかります。どうやら状況を確認している暇も無いようです。……それでは。



 奥の手、第2弾のお披露目と参りましょうか。



 私は武器を手袋の状態に戻すと、ショゴスの全身が確認できる位置まで走り出しました。


「ちょー!? 逃げんなぁ!? 俺が酷い目にあってもいいってのか、ゴラァ!?」


 置いていかれると勘違いしたワッペさんが悲痛な叫びを上げました。……うっさいですねー! 場所取りが大事なんですよ! 場所取りが!


 私は振り替えり、ショゴスの姿を確認します。この位置からならば、奴から伸びている全ての触手を視認できているので、この場所でいいでしょう。


 発動……『子狐の黒手袋』!


 ショゴスに向かって手を伸ばした私は、能力を発動させました。


 おさらいしておきますと、『子狐の黒手袋』はどんな武器にでも姿を変える黒い手袋です。


 その形状は、私の思った形に変化します。


 手袋は一つの武器にしか変わりません。なので、最高でも二振りの武器しか作り出す事ができないのです。そこが隠れた欠点ですが……。


 その大きさの制限を、私は知りません。


 私は、目の前の怪物よりも巨大な刃を思い浮かべます。それに呼応するように手袋は形を変えました。


 鋭く、薄く、脆く。


 そんな大きな刃が私の手から射出され、ショゴスの蠢く触手を切り落としました。

 同時に、巨大な刃は自らの形を保つ事ができず瓦解します。……これが良いんです。


 壊れてしまった刃は、直ぐ様私の元に手袋となって戻って来ました。所謂、次弾装填という奴ですね。


 二つしか武器を作ることができないのならば、すぐに壊してしまえばいいのです。そうすれば、また新しい武器を改めて作ることができます。


 それが、私が導き出した『子狐の黒手袋』の使い方でした。……と、いうことですので。


 行きますよ?


 私はニコりと笑顔を浮かべて、両方の腕をショゴスに突き出しました。そして、息もつかずに連続して刃を作り射出し続けます。


 打ち出した刃は炭坑を破壊しながら、ショゴスに少しずつ損害を与えています。


「ぎゃああああああ!!? しぬっ!? しぬってぇのぉ!?」


 ワッペさんには当たらないように慎重に打ち出してはいます。しかし、刃が当たった衝撃で、ショゴスはぷるんぷるんと荒ぶった動きをしているためワッペさんは触手ごと振り回されていて、辛そうです。


 早く助けてあげなければ!


 私は射出速度を上げました。悪意は無かったのですが、ショゴスは更にぶるんぶるんと震えています。


「なんでじゃあああああああああ!?」


 っく……。

 物理50%カットのスキルの影響でしょう。触手の攻撃は牽制できていますが、思ったよりも大きな効果を与えられている感じはありません。ワッペさんには効果があったようですが。


 魔法使いじゃないと有効打が与えられないというのは、やはり面倒です。……仕方がありませんねぇ。


 私は魔法戦士のスキル『属性付与』を発動させました。装備に属性を付与し、防御を高めるスキルです。


 バチバチと、元の状態に戻った『子狐の黒手袋』が稲妻を纏い、青い光を撒き散らします。


 い……っけぇ!


 私は再び刃を作りだし、ショゴスに向けて射出しました。それは稲妻を纏ったまま、光の尾をひいて飛んでいきます。


 着弾と同時にショゴスの身体は感電し、叫び声をあげていました。

 そして、先程よりも敵意を丸出しにして、私に触手を伸ばします。


 しかしながら、ここまで手札を見せたのです。後は思いっきり全力を叩きつけてやりましょう!


 私は殴り付けるかのように刃を射出しながら、徐々にショゴスとの距離を詰めていきます。

 稲妻に焼き切られ、その体積は徐々に小さくなっていきました。


「っぶねぇー!? けど、やっとで解放されたわ! 生きてる! 俺! 生きてるぅ!」


 なにか後ろの方で騒がしい声が聞こえますが、気にしないことにします。……そんな余裕も無いので。


「tekiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!」


 触手を地面に突き刺し、ショゴスは叫びながら大きく飛び上がりました。そして、まるで天井を覆うように身体を広げます。


 なるほど。

 恐らく、私達の事を押し潰すつもりなのでしょう。


「って、俺、死んだ、死んだわ。すまねぇポロラぁぁぁぁぁぁぁ!」


 うっさい! まだ死んでいないでしょうが!


 私は叫びながら次の一撃を想像します。


 最高硬度。


 形状は……円錐。


 属性は電撃を継続……。


 ははっ! そのまま天井に縫い付けて差し上げますよ! この化け物めぇ!!


 手袋は形状を変え、巨大な馬上槍(ランス)に姿になり……。


 ショゴスを貫通し、天井へと突き刺さりました。


 その様子を見てワッペさんが驚いたように声を漏らしました。


「すげぇ……。って、ぽ、ポロラ! 今のうちに逃げるぞ! 盗賊は排除した! クエストのクリア条件は満たしてっぞ! ソイツは戦わなくてもいい敵だ!」


 ……はぁ?


 目の前に戦闘中の相手が目に前に居るのに、尻尾を巻いて逃げろと……? 


 アホですか?


 それは私の美学に反します。一度戦闘が始まったのなら、敵前逃亡なんて無様な姿は晒せません。最後までカッコ悪く足掻くんです!


 だから、どちらかが死ぬまで、死力をぶつけるしかないんですよ!


「せ……『戦闘狂』……」


 うっさいです!


 私は天井に打ち付けられたショゴスを睨み付けながら、大きく息を吸い込みました。『咆哮』の前準備です。


 ……これを使えば、疲労によって私は動けなくなるでしょう。ですが、目の前のコイツを殺せるのなら安いものです。



 びょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょ!!!!!



 放たれた衝撃波は、ショゴスの不定形の全身をとらえていました。


 ショゴスの身体、その全体が、激しく沸騰したように蠢きます。


 そして……。



 遂にショゴスの身体が弾けました。



 やった。


 そう思った瞬間、私は自分を支えきれずに膝をついて倒れてしまいました。……スキルの使いすぎによる『疲労』の状態異常ですね。久々にこうなるまで戦いましたよ……。


「ポロラ! マジで倒したのかよ! スッゲェ! これで完全クリアだな!」


 うぅ……。

 ワッペさんのテンションが高くてウザいです……。


 ワッペさん。申し訳ありませんが、私は疲れて身動きが取れません。出口まで運んでいただけませんか?


「あ? ……おうよ! 助けてもらったからな! 今度は俺のばんだぜ!」


 たすかりますぅ……。


 私はワッペさんに担がれました。かなり雑な扱いですが、今回は不問といたしましょう。……時間が無いですしね。


「ん? なんか言ったか? ……って、な、なんだ!?」


 急に、炭坑が震え始めました。

 まるで地震でも起きているかにように、地面や壁が揺れています。

 天井からは落石が始まっているようで、もしかしたらこの炭坑が崩壊してしまうのではないかと思う程の勢いです。


 というか。


 あそこまで暴れたら、こうなっても仕方ないですよね。炭坑破壊する勢いで暴れましたし。


 んじゃ、ワッペさん。

 あとお願いしま~す。生きて脱出してくださいね。


「は? え、何? まだ命が危険なんか? 俺死ぬの? …………うぅおおおおおおおぉぉぉぉ!! 死にたくねぇ~!!」


 ははは、頑張ってくださいな~。


 落石の間を、ワッペさんは泣きながら駆けて行くのでした。



 クエスト『盗賊団の根城』。


 これにてクリアです。

・咆哮

 所謂、シャウト。

 スタミナの消費が激しい大技、魔法を使えない方にオススメ。獣やドラゴンの因子があると使用できる。

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