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『バッテン』

 『暴食』の討伐クエストが始まる当日。


 私達のパーティーは『ペットショップ』跡地の屋根の上にいました。今日はここで敵に立ち向かう予定です。


 理由は多々ありますが、主な理由はワカバさんによってもたらされたディリヴァ陣営のプレイヤーについての情報からでした。


 彼が言うには、ディリヴァ側のプレイヤー達は出現した邪神達に手向ける生け贄であり、戦力ではないのだとか。


 言われてみれば邪神……もといギフトの能力には、他者を犠牲にすることによって真の力を発揮するものが多いです。『傲慢』なんてそのまんまですし。


 『暴食』に関してもそうです。食べれば食べるほどパワーアップする能力ですからね。

 今日のディリヴァ陣営の皆様のお仕事は、邪神のご飯ということになるでしょう。


 以上の事を前提にして私達はケルティさんと話し合い、今日の配置を決めました。


 『暴食』の邪神は大きな大木の植物の姿をしており、その枝から食虫植物のような器官を伸ばして攻撃及び捕食をしてきます。


 以前に見た動画では、街を覆い尽くす程の大きさでした。攻撃も街のすみずみまで届くことでしょうね。

 そして、ディリヴァ側のプレイヤーを食べ尽くした後は街のNPCにその牙が向くことは確実です。


 そうなってしまった場合、本当に手が付けられなくなってしまうかもしれません。NPCがロストしてしまうのも気分が悪いです。


 そこで考えたのが邪神の攻撃を誰か一人に集中させてしまおうという作戦でした。


 つまり、盾役タンクの出番という事ですね。……さて、頼みますよ?


「任せてください。……と言いたいところなのですが、自分は攻撃を惹き付けるスキルを持っていません。攻撃を引き受けるのはなんの問題もありませんが……」


 オークさんは申し訳なさそうにそう言いました。


 おやおやおや? 何を言っているのですか? 別に私は貴方だけにお願いしたい訳じゃないんですよー?


 ねぇ、金髪ちゃん?


 私がニッコリと微笑むと、彼女は苦笑いをしながら目を逸らしました。……ねぇ? 金髪ちゃん?


「ちょ、ポロラこえぇって、なにキレてんの? そういう圧力どうかと思うぜ?」


「レベル差を考えたまえ。しかもその笑顔『殺人鬼の微笑み』だろ。一部のプレイヤーがキャラメイクで手に入れる事ができるレアスキルのはずでは?」


 人の姿に戻ったワッペさんと、あることないこと言い始めたケモモナは金髪ちゃんを庇いますが、私には関係ありません。


 貴女、前に自分の能力をなんて言いました? 男性同士を強制的にくっ付けて身動きを取れなくする能力って言っていましたよね? 私達の記憶が正しければ。


「そ……そうですねー……あははは……」


 金髪ちゃんは目を合わせてくれません。


 私に詰め寄られてとても焦っているみたいですね。何か都合の悪いことでもあるのですか? ん?


「あー……シーラ、悪いことは言わないから正直に言ってしまったら良いのではないか? この人達なら悪いようにはしないだろう」


「ちょ、ちょっと……」


 自分で言う前にオークさんが吐いてしまいました。金髪ちゃんの制止を気にも止めず、オークさんは続けます。


「シーラの『プレゼント』はターゲット操作の能力です。自分以外に敵の攻撃を誘導することができるのです」


 随分と便利な能力ですね。別に隠すような事もないように感じます。

 ターゲットを操作できるのは普通に強いと思うのですが?


「ハァ? なんだそりゃ? めっちゃいいじゃねーか? うらやましいぜ」


「パーティー戦には必須の能力だと思うが? むしろなんで隠してした、俺はそっちの方が腹立たしいのだが」


 ワッペさんもケモモナも不思議そうです。


 そうなんですよね。それだけ聞けばとても便利で、頼りになる能力だと思います。しかし……。


「違うんです……私以外のパーティーメンバーが狙われるようになるのが、私の『バッテン』の能力なんです。パーティー全体が狙われるようになるんですけれど、私だけ狙われないんです……」


 要するに。


 パーティーとして考えるのなら最悪の能力というわけです。自分だけ以外に敵を押し付けることができるのですから。


 潜り込んだパーティーをMPKするのに便利そうですね。私としては一番最初にその使い方が思いつきましたし。


「結局周りの方の迷惑にしかならないゴミ能力なんですぅ……。だから男の人同士をくっ付ける事ができることだけ話したのにぃ……」


 あ、それはホントにできるんですね。そこは嘘であってほしかったです。


 金髪ちゃんはガックリと落ち込んでおります。まぁ、個人的にパーティーには知られたくない内容だったのかもしれません。


 普通に考えたらそうですもんね、自分のパーティーにだけ敵が集まって来るんですから。きっと、能力を使ったら邪神の攻撃も私達だけに集中するのでしょうねぇ……。


「へぇ~、俺達だけにねぇ……いいじゃねぇか」


「ふむ。それはプレイヤーにも有効なのかい? 具体的にはディリヴァ陣営にも、という話だが?」


 落ち込んでいる金髪ちゃんと対照的に、ワッペさんとケモモナは楽しそうです。……あぁ、気づきましたか。というか普通に気付きますよね。


「えっ、えっ、えっ? なんでそんなにニヤニヤしてるんですか……? エッチな事ならお二人でしてください……」


 しれっとセクハラをかました金髪ちゃん自身、自分の能力の有用さに気付いていません。……できることならば、初日から使って欲しかったんですけれどね。いつまでも使わないのでシビレを切らしてしまいました。


 まだわからないんですか? 考えてみればわかることだと思いますが?


 この街にいる敵全てが私達を狙って来るのです。全て、全員が、私達の前にやって来るのですよ? わざわざこちらが足を運ぶ必要もなく……。




 貯金箱が歩いてくるんですよ?




 私は笑いを抑える事ができませんでした。


 ぶっちゃけ最高の能力です。狩場で使ったら全部のモンスターが私達のパーティーに向かってくるんですよ? 稼ぎ放題じゃないですか。


 ディリヴァ側のプレイヤーもこっちに来てくれればドロップアイテムも私達だけで独占することもできますし、レベルアップもし放題です。


 むしろ戦いに参加しづらいのは金髪ちゃんですし、申し訳ないのはこちらの方です。……という訳で、思う存分敵をこっちに寄越してくださいな。私達ならば皆殺しにしてあげれますので。


 もちろん、盾役のオークさんにも働いてもらいますよ? 師匠からお二人の能力を聞いたときに私が思い付いたのは、そういう形ですから。


「えっ……? もしかして、最初から……」


 金髪ちゃんは驚いたように目を丸くしました。……当然ですが? ちゃんと確認くらいはしますとも、できることを把握していれば選択肢はいくらでも増やす事はできますし?


 そうやって私がニヤリと笑って見せると、目の前に邪神化を告げるウィンドウが出現しました。


 ワカバさんの告知通り、チップちゃんが邪神化し、『暴食』の邪神が復活するという文章が流れていきます。


 ……さて、オークさん。ここから少しお願いしたい事があるのですが構いませんかね?


「……! もちろんです! 自分ができることならばなんでm」


 ホントですか! じゃあ遠慮なく検証させてもらいますね!


 私は食いぎみにそう言うと、オークさんのお腹に手を当てました。……いやぁ、一回やってみたかったんですよねぇ。この前ハッキリと違うとわかっちゃいましたし。思った通りになってくれるといいんですけれど。


 ……それじゃ、いきますね?




 『覚醒降臨』!




「……ハァ?」


「んん!?」


「ぽ、ポロラさん!?」


「こ……これは……! う、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


 三名の困惑した声と、オークさんの叫びが同時に上がります。


 そして、私が『覚醒降臨』を使ったウィンドウが目の前に現れたのです。


『プレイヤー『シードン』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迅速に避難してください。『プレゼント』が暴走します』


『測定中……』


『判明』


『種族『オーク』。職業『戦士』。Lv4679……覚醒します。覚醒します。覚醒します』


 よっしゃ、やりました!


 もしかしたら『強欲』の『覚醒降臨』は他プレイヤーも覚醒させられると思ってたんですよねー!


 やっぱりディリヴァのギフトとは別物みたいです! さぁ、オークさん、やってしまいなさい! 貴方の全力を見せるんですよぉ!


 スキルを使われたオークさんは徐々にその身体を巨大化させていきます。


 それとほぼ同じタイミングで、街の中心部に巨大な大木が出現して、私達に影を落としました。


『ニャックに愛された邪神の子。彼女は幸運と共に生まれた』


『あまりにも弱すぎる身体は母親に愛されることはなく、その才能だけをもて余した彼女はいつもニャックと遊んでいた』


『……そう、彼女には才能がありすぎた』


『強靭な肉体は無くとも、彼女はこの世界を統べる能力があった。幸運の力だ。だから逃げ出した。気付かれる前に。自分と同じような才能を秘める姉妹達を連れて』


『そして運命は彼女に跪き、女神リリアとの邂逅を果たした』


『全ては彼女の理想通り、この世の全ては彼女の手の平の上』


『覚醒完了……。ニャハハハハハハハハハハハ!! ミャアの力、お前程度に扱えるかニャア?』


『決して倒れぬ獣の王『シードン』。女神『フェルシー』の名において、テメェに力を貸してやるのニャ! 面白おかしく……守ってみせろ! ニャー!』


 そんなウィンドウが全て消え去った後。


 私達の目の前には、巨人と見間違えるほどの大きさになったオークさんの姿がありました。


 目を爛々と輝かせ、人語を忘れた姿はいつもの彼とは全くの別物です。……いいですね、とても強そうじゃないですか。私達のこと、守ってくださいね?


 私の要求に、オークさんは大きな頭をコクりと頷かせます。


 そして、そんな巨体になったオークさんに目を付けたのか、『暴食』から伸びてきた食虫植物のような器官が私達を取り囲みます。鋭い牙が私達を食い殺そうとカチカチと音を鳴らしていますね。




 さぁ、戦闘開始です。




 今日は私達のパーティーが主役ですよ、思う存分暴れてやりましょう!


 向かってくるウジ虫全員……皆殺しだぁー!


・天運の『フェルシー』

 『色欲』の邪神から生まれた獣人。幼い頃からニャックに守られてきた半神でもある。彼女は強大な力は持たないが、世界を滅ぼす事できるほどの幸運を持って生まれてきた。幼い姉妹と共に『色欲』の邪神から逃げ、女神『リリア』に拾われた過去がある。いつもはアホだが、決めるときは決めるアホである。どうあがいてもアホ。


・殺人鬼の微笑み

 キャラメイク時の質問を答える過程で手に入れる事ができるスキル。プレイヤーの殺害数に応じて、相手を恐怖させる事ができる。殆んど効果は無いがレベル差があれば一瞬怯ませることができるだろう。『プレイヤーキラー』と呼ばれる者は大抵持っている。元々そういう人間だということである。

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