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男のサガ

 刑務所に入れられた私はツルハシを駆使して牢屋を破壊。

 道すがら知り合いのしゃれこうべを確保して地上に舞い戻りました。目の前には広い世界が広がっています。


 ……まぁ、私ほどのプレイヤーになれば? 刑務所なんてもう一つの家みたいなものですし?


 ちょっと出掛けて来ますねー、みたいなノリで外に出ることができます。もちろん無許可で。


 途中で師匠の姿を見かけましたが、周りのプレイヤーさん達から持ち上げられて刑務所の王様みたいになっていましたね。アンチェインって感じでした。


 どうやら師匠もイベントを楽しんでいるみたいです。


 いやー、刑務所でイベントに参加すると言い始めた時には何を考えているのかと心配になりましたが、本人が楽しそうなら何も文句はありません。


 私達も全力でイベントを楽しまなければなりませんね……そう思いません? ワッペさん。


「あ、ああ。そうだな……」


 小脇に挟んだワッペさんの反応は微妙なものでした。ノリが悪いです。……なんですか? 脱獄したことに何か不満でもおありで?


 それとも、こうやって雑に運ばれるのに何か問題が? 以外に大きいのでこうやって持った方が楽なんですけれど。


「いや……別に脱獄したことに不満はねぇし、俺もよくやってるから良いんだけどよ……あの……あれだ。当たってるんだが……」


 …………。


 私はその言葉を聞いた瞬間にしゃれこうべを地面に投げ捨てました。


 そして片足をゆっくりと上げてこう問いかけるのです。




 ……遺言は?




 そんな私の様子を見上げているワッペさんは大きく動揺したようで、眼孔に灯る炎が大きく揺らめきました。


「お、俺は悪くねぇ! というか、大してデカクないからそんな柔くもなk」


 ウジ虫ぃ!


 私の胸の感触を堪能していた変態を、容赦なく、粉々になるまで踏み続けました。……誰が感想を言えと言ったのですか!  せめて謝りなさいな! このムッツリが! 勝手になんて事をしてくれたのです!


 あーあ! もう知りません! 折角一緒に連れていってあげようとしたのに!


 勝手に一人で帰ってこい! ばーか!


 私は残骸に向かって、べーっと下を出して見せた後、サアリドに向かって歩き始めます。


 早めに帰って皆さんに報告しなければなりませんからね。私達の中にムッツリがいるということを……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 サアリドの仮拠点である廃墟に戻ってきた私が見たものは、十字架に磔にされ火で焙られていたケモモナでした。うーん……地獄かな?


「ポロラちゃんのパーティーメンバーでも、アンズちゃんに手を出そうとするのは許さない……」


「ふっ……誤解だ、『銀眼』。俺は別におかしな事をしようといたわけではない。ただちょっとブラッシングをさせてほしいとお願いしただけで……あっつい!? や、やめろぉ! 死ぬぅ!」


 ケモモナの足元に設置された焚き火に燃料が追加されました。……け、ケルティさん? うちの変態がまた何かしたのですかね?


 恐る恐るケルティさんに近づくと、彼女はこちらに振り返り、ニッコリとした笑顔を見せました。逆に怖いのですが?


「あ、お帰り、早かったね。ちょっとケモモナくんがおいたをしようとしていたからお仕置きをしようとしてたんだー。リーダーが不在の時に変な事をしようとするなんて……ダメだよねぇ?」


 どうやら殺すことは確定事項のようです。口を動かしながら更に薪をくべていく姿に私は恐怖を覚えました。


 それはそうなんですけれど……ちょっと私もソイツに用事があるんですよ。お願いですので解放してもらってもいいですか?


「本当に俺は何も……って、まじ!? まさか俺を助けてくれるなんて……これがモフ期か!」


 用事が終わったらどんなに酷いことをしても構いませんので。


「違った! まだツンの時期だったか!」


 ツンモフなんて言葉が存在してたまるか。ああ、もう、ツッこんでしまいましたよ。あんまりおかしな事を言うんじゃありません。


 とりあえずこれ見てください、これ。


 さっきの戦闘で尻尾が焦げちゃったんですよ。貴方リアルで資格持ちなんでしょう? 何とかできるでしょ、しろ。


 ワッペさんが出した炎のせいで尻尾の一部が焦げて絞まったんですよねんですよね。多分死ねば元に戻りますけれど、この程度で死ぬのも嫌ですし。


 リアル技能を持っているケモモナなら何とかできるのでは?と思っていたのですが……。


「なるほど……仕事の時間か」


 !?


 ケモモナがそう言うと、どこからともなく巨大なカマキリが現れました。


 それはケモモナを拘束していた縄を引きちぎり、その身体を掴みます。


 そしてゆっくりと地面に下ろすと、建物の外に去って行ってしまいました。……能力を使えば簡単に逃げられますよね、知ってました。


「ふぅ……。すまないね、仕事と言うなら真面目にやりたいタイプなのさ」


 意識を取り戻したケモモナは、アイテムボックスから椅子やハサミ、櫛にブラシを取り出して御手入れの準備を整えます。


 思っていたよりガチな感じです。そういうタイプだったんです?


「えぇ……? ポロラちゃん、コイツ何者? なんか普通の変態と違うんだけど……」


 ケルティさんも異常を察したのか、慌てて私に耳打ちしてきました。お気持ちはわかります。


 もしかしたらケモモナはマトモかもしれないという期待も出てくる気持ちもわかります。そんな事は有り得ないんですが。


 とりあえず私は何も言わずに椅子の上に座りました。さて、ケモモナはどう出るか……。


「幸い、毛の先だけ焼けたみたいだな。これなら先だけを切り落とせばいいが……全体のバランスを考えると少し時間がかかる。俺に任せてもらってもいいだろうか?」


 まっじめ~。


 変な事をしない限り貴方にお任せします。処置をいている間はケルティさんとお話していますので。


「わかった。痛かったら言ってくれ」


 そう言うとケモモナは私の尻尾のカットを始めました。始めたんですけれど……。




 全然不快感がない。むしろ気持ちいい。




 なんなんですかこの感触? ブラッシングされている時はまるでマッサージしてもらっている気分です。


「中途半端な手入れだ。これだから素人に任せるのは嫌いなんだよ」


 しかも普段の様子からは予想できない真面目さでした。


 これならお任せしても問題はないと思います。ちょっと雑談でもしましょうか?


「ホントにいいの!? 大丈夫!?」


 どうやらケルティさんは私がもふもふされてセクハラ被害を受けると思ったみたいですが……大丈夫です。ケモモナはガチ勢ですので。仕事となればそういうことはしませんよ。多分。


 私ケモモナは手を動かしたまま、口を一切開きません。

 その様子には真剣さを感じることができました。……そうそう、気になった事があったんですけれど、質問してもいいですかね?


「えぇ……ま、まぁいいけれど……。ケモモナくん、以外に真面目そうだし……」


 流石のケルティさんも困惑しているみたいです。隠さないタイプの変態であるケモモナが真面目にやっているんですからね、そりゃ困惑もしますよ。


 ……ちょした疑問があるんですけれど、なんでケルティさん達はこの廃墟を拠点にしていらっしゃるんです? お金あるんですから宿屋とかに泊まればいいじゃないですか?


 わざわざこんな場所を使わなくてももっと綺麗な場所があると思うんですけれど?


「あれ? ポロラちゃんって『ペットショップ』が解散してからゲームを始めたプレイヤー? てっきりここがどこか知っていると思ってた」


 ケルティさんはそう言いながら驚いたような顔をしていました。


 そこまで言われれば流石の私も気付きます。そして、それが信じられずに思わず辺りを見回してしまいました。


 恐らくここはロビーだった場所だと思うのですが、埃の積もった机や酒樽があるくらいです。これだけでかつての喧騒を想像することは難しいでしょう。


 もしかして……この場所は……。


「そ、クラン『ペットショップ』がここにあったんだ。私の部屋もあってね、今はそこを綺麗にして使ってるの」


 ━━━━。


 なんでしょう、当時を知っている方の口から直接聞いたからでしょうか? なぜか胸を締め付けられるような感覚がしました。


 当時、『ペットショップ』はこのゲームの中でトップのクランだったそうです。しかしながら、今の現状はこれです。


 盛者必衰とは言いますが、これでは寂しすぎます。


 ジェンマがなにもしなかったら、きっと『ペットショップ』は『ノラ』以上に賑やかで、楽しくて、皆が笑っていられる場所だったはずです。


 そこには子猫先輩もチップちゃんも皆がいて……。


「ちょちょちょ!? そんな顔しないでって! 大丈夫だって、実のところ解散した方が良かった事も沢山あったし!」


 でも……。


 ぶっちゃけちょっと泣きそうになっております。ケルティさんはそう言っていますが、気にしている人も絶対にいたはずでしょうし。タビノスケさんとか超暴走してたそうですし?


 私だって、今『ノラ』が解散するとなったら何をするかわかりませ……あ、考えたら涙出てきた。もう無理。


「わぁー!? 気にしちゃ駄目だって! ここだけの話もしてあげるから! ……実はジェンマが来なくても『ペットショップ』は解散してたと思うんだ。その兆しはあったし」


 ……そうなんですか?


 私が聞き返すとケルティさんはコクコクと頷きます。


「クランの中に派閥ができちゃってさぁ。クランメンバー同士で衝突が増えることが多くなっちゃって、どうにかしようって話をしてたんだよね」


 衝突……?


 なんでそんな事が起きたんですか? 派閥争いが起きるほど皆さん仲悪くないですよね……?


 私がそう言うと、ケルティさんはため息を一つ吐いて口を開きます。




「ほら、ツキトとみーちゃん付き合ってるじゃん? それを認める派と認めない派が出来上がってさ……ちょっと内輪揉めが……」




 …………。


 ………………………。


 え、くっだらな。私の涙を返して。


 まぁ子猫先輩可愛いですし、ツキトさんの様な浮気者に騙されているのではと思うのも仕方ないとは思いますけれど。


 というか、それって百パーセントモテない男達の嫉妬じゃないですか。


 現実を見なさいっての。


「まぁ私は認めない派だったんだけどね、未だに信じたくない」


 現実見てくださいな。


 ケルティさんはガックリと肩を落としました。どうやら子猫先輩を狙っていたみたいです。


 あの二人、大分前にキスしていたそうですし、リアルでは同棲しているそうじゃないですか。きっと今では……。


 私は追い討ちをかけました。


「ぎゃあああああああああああ!!!! 聞きたくない聞きたくない聞きたくない! 知り合いのそういう話はやだー!」


 転がり回るケルティさんの姿は中々に滑稽です。


 ……なんと言いますか、この様子を見ていると解散してもしなくても、この人達にはあんまり関係無かったのではないかと思えますね。どこでも何してても楽しそうにしてますし。


 確かに今悲しんでも『ペットショップ』が復活するわけではありません。大事なのは今なのです。


 頑張りますよ。これ以上奪われるのはゴメンですからね!








「手入れ終わったけれど……どうなっているんだ、これは……。スゴいことになってしまった……」


 ……何したらこうなるんです?


 ケモモナが手入れを施した私の尻尾なのですが、炎で焼ける前よりももふもふとしていました。明らかに毛の量が増えております。


 ええ……? 抱き締めたら腕が回らないじゃないですか……。しかもフッワフワ。これ絶対戦闘で邪魔になりますよ、どうしてくれるんです?


 頑張ろうと思った矢先にこれとか、中々調子狂います。


 そういえば明日はチップちゃんが邪神化するらしいですし、もしかしたら私狙われるかもしれませんね。何回か味見されてますので。


 ……頑張れますかねぇ?


 嫌な予感を感じながら、私は尻尾の感触を楽しんでしたのでした……。


 あ、こら、手入れが終わったなら触るんじゃありませんよ、毛玉は好きにしていいので変な事するんじゃありません。


 私がそういうとケモモナは嬉しそうな顔を見せました。……なんでこの人は性癖が絡むと頭がおかしくなってしまうんですかねぇ?

・ツルハシ

 別に無くとも穴は掘れるし壁も壊せる。しかしながら使った方が速く掘り進める事ができる気がする。恐らく気持ちの問題。

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