炎上系プレイヤー
突如として真の姿を見せつけたワッペさんは、自身の身体から吹き出した青い炎で捕まえた『傲慢』の邪神と共に燃えていました。
その炎は辺りにも拡散して……あっつ! 滅茶苦茶熱いんですけれど! しかもダメージも入ってる!
ワッペさんの炎がスキルなのか魔法なのか、それとも『プレゼント』によるものなのかは定かではありませんが、どうやら敵味方関係なく燃焼によるダメージが入るようです。なにしてくれてるんですかね、あの骸骨。
この分だと『傲慢』の邪神にもそれなりのダメージが入っているとは思います。私こう見えてもそれなりに火炎耐性が……!?
やけに熱いと思った私が見たものは、燃えている狐さんの尻尾でした。先っちょに炎がついていて、静かに煙を上げています。……ぎゃああああああ!? 嘘でしょ! 燃えてるし!
本当になにしてんですかあの人! 周りの人達も被害を受けて逃げ惑っているじゃないですか! ど、どこか、どこか火の手から免れる所に……!
「ポロラさーん! こっちこっち!」
金髪ちゃん!?
その声に反応して振り替えると、そこにはオークさんの陰に隠れる金髪ちゃんの姿がありました。
オークさんの体毛は耐火性が高いようで、火に当たってもすぐに消えているみたいです。
私はすぐさまオークさんの背中に隠れ、自分の尻尾に付いた炎の消化を行いました。ありったけの回復ポーションで火を消していきます。……うぅぅ、ちょっと焦げたぁ……ちょっと~ケモモナ~、見てくださいよこれ、酷いと思いません? 絶対わざとですよ~。
……。
ケモモナ?
てっきりアイツもここに隠れていると思ったのですが、ケモモナが取り憑いた小鳥の姿はありませんでした。反応もありません。
こんな時は一目散に毛皮の中に隠れそうなのに……いったいどこへ行ったんですか?
「ポロラさん……残念ですがケモモナはもう……」
オークさんはゆっくりと首を振りながらそう言いました。
顔だけを出して前方を見てみると、地面に焼けた鶏肉が落ちているではありませんか。ご丁寧に串まで付いています。……え、あれってケモモナなんですか?
このゲーム、食材を炎の中に投げ入れると勝手に調理されてしまいます。可愛い演出ですね。
ゲーム的な演出でわりと好きなんですが……知り合いが焼き鳥になってしまうとは思いませんでした。後で美味しく食べて供養してあげましょう……。南無……。
私がそう思いながら手を合わせていると、ワッペさんを包んでいた火柱から何かが飛び出して来ました。『傲慢』の邪神です。
先程と比べると、妖精の羽が焦げていて鎧もボロボロになっていました。確実にダメージが入っている事がわかります。
「ギャハハハハハ! 一発じゃ死なねぇか! ……オーケェ! 何度でもやってやるよ! こうなった俺は強いからぜ?」
逃げられた事に気付いたようで、ワッペさんは炎を散らしながら私達の目の前に姿を現しました。
……まんま骸骨ですね、人の装備を身につけたスケルトンって感じです。
あんなに燃えていたのに全然ダメージを受けてる感じしませんね、自分にはダメージが入らない仕様とみました。マジで迷惑です。
「おぅら! かかってk、あんぎゃ!?」
私は調子にのっているワッペさんの頭蓋骨をもぎ取りました。頭がとれた程度では死なないようで、身体の方が頭を探してコミカルな動きをしています。目障り。
「……なにしてんだよ? いまから強化された俺が華麗にアイツを火炙りにしてやるのに」
こっちも火炙りにされそうになっていたんですがどういう事ですかねぇ!? ちょっとは周りも見てくれませんかぁ!?
私はそう叫んでワッペさんの頭を持ってグルリと辺りの様子を見せつけました。あちこちに火がついて酷い状況です。邪神が街を破壊しなくとも、火の手が街を包んでいくことでしょう……。どうすんですか、マジで。
「あん? ……え? できるから使ってみたけどこんなに広範囲に被害出んの? スッゲぇな」
試した事もない技を実戦で使うんじゃありませんよ!
自分のやった事の重大さをまったく理解していないようで、ワッペさんは歯をカタカタと打ち鳴らしながら笑っています。
あぁもう、知りませんからね。この戦いが終わったら事後処理は自分で何とかしてくださいな。
私はワッペさんを反省させることを諦めて、彼の胴体に頭を投げ返します。
「おっと……ナイスコントロール」
わりと適当に投げたにも関わらず、ワッペさんは頭を綺麗にキャッチして身体にくっつけました。便利な身体ですね。
さて……オークさん、金髪ちゃん!
「は、はい!」
「なんでしょう!」
後方にいる二人は戦いには参加させることはできません。残念ながら、臓器を抜き取られて死んでしまうでしょう。……あなた達は火の消化とケモモナの回収向かってください! ケルティさんを見つけたら呼んできてくださいな! それまでは私達で対処します!
「わかりました! 御武運を……!」
オークさんがそう答えると、後ろから走り去る音が聞こえました。ちゃんということを聞いてくれて助かりますよ。
あの二人は窃盗を無効にできる装備を持っていません。ここで戦わせてもすぐに倒されてしまうのはわかっています。
だからこそ、戦える人員で目の前の化物を倒さなければならないのです。……行きますよ!
「おうよ! やってやるぜ!」
目の前で浮かんでいる『傲慢』の邪神に向かい、私達は飛び出しました。
私達騒いでいる間に、知らないプレイヤーさん達が戦っていたのですが、まともに戦えたのは数名で、後は全員ミンチになってしまっていました。
メレーナさんの能力に対処できる者のみがこの場に残ることを許されているのです。
『傲慢』の邪神は私達が飛び出してきた事を確認すると、こちらに向かって腕を突きだしました。しかしながら、その手の先には何も出現しません。
「……!」
それには邪神も驚いたようで、一瞬動きが止まりました。……隙アリ!
私は黒籠手から刃を伸ばし、『傲慢』を包み込むように刃を展開しました。檻状に形を組み上げたので逃げることは難しいでしょ……はぁ!?
「ハァァァァァァ!!」
逃げれる訳がない。
そう思っていたにも関わらず『傲慢』邪神は檻を拳で破壊して出てきました。そういえば、メレーナさん『格闘』のスキルを鍛えていると言っていましたね。
でも、そこまで強くなるってあります? いや、強くなったからこんな事ができるのでしょうが。
「今度は逃がさねぇ! 燃えちまえぇ!」
しかし、逃げた邪神をワッペさんの炎が襲います。
これも避けられてしまいますが、その熱さによって邪神の表情は曇り、先程よりも余裕はなくなっているみたいです。
……なるほど、メレーナさんは『プレゼント』の能力をメインにして戦ってきたプレイヤーです。
前の戦いをみた限り、アイテムを使いこなして戦うプレイスタイルであり、メインで使っているのは杖の魔道具でした。レベルは高くとも、戦闘スキルが高いということでは無かったのでしょう。
その弱点を補うために、近接戦闘のスキルも鍛えだしたんだと思います。
つまり、防御が弱すぎるんです。HPも低いに決まっています。
どれだけ『傲慢』の能力でステータスを上げていてもHPは変わっていないはずです。つまり、どんなに弱い攻撃でも当て続ければ勝てるということです。だからこそ、ワッペさんの炎は効果的だったのでしょう。
惜しくも殺すことはできませんでしたが、私なら倒すことができる自信があります。
そのためにはもう一度、動きを止めなければなりません。……ワッペさん、さっきのように捕まえる事はできますか?
「あたりめぇだろ? 一度できたことができない道理があってたまるか!」
ホントですかぁ?
そう言いたかったんですけれどね、わざわざ炎を操作して笑表情を見せる彼を信用してみてもいいのではないかという気持ちになりました。
これで失敗したら笑ってやりますよ。
「見てろや! 『アンデット・プロミネンス』!」
ワッペさんの叫びと共に、勢いを増した青き業火が彼を包み込みました。
そして、その炎は生きているように邪神にに襲いかかりその動きを鈍らせます。
先程の攻撃が余程効いていたのでしょう。
炎の勢いから逃れようと、『傲慢』の邪神は必死にボロボロの翼をはためかせて逃げようとしていました。
そんな可愛そうな妖精さんを、炎の中から飛び出してきた骨の手が包みます。
「そうだよなぁ! そこしか逃げ道ねぇよなぁ!」
どうやら炎によって動きを制限していたみたいですね。
邪神は完全に拘束されて身動きがとれなくなってしまいました。これならば、私の能力が有効に使えるはずです。
私はできる最大限の数の大爪を展開、狙いをワッペさんとその手に握られている邪神に定めます。
「え? これ、俺も潰されるんじゃ……」
あたりまえじゃないですか。
当然の事を口にしたワッペさんに、私は笑顔を向けました。
弱い貴方は強い私の踏み台になるべきなのです。そうでなければ勝利という栄光まで貴方を連れていくことができませんから。
さぁ、粉々にミンチになってしまいなさいな!
私は大爪を一斉に射出、ワッペさんのいた場所へ向い集中して攻撃を仕掛けました。
やはり防御力は大した事はなかったようで、出現した邪神は一撃一撃を食らうことにボロボロになっていきます。
ついでにワッペさんもバラバラになっていきますね。
それでも、邪神を掴む手をワッペさんは緩めることはありません。
バラバラになったとしてもすぐさま骨同士を繋ぎ合わせ、邪神の動きを止める為に拘束を続けます。
邪神がもがいて暴れても同じことです。
「コンナ……コンナザコドモ二ィ……!!」
黙れ、死ね。
最後の大爪が着弾した瞬間。
ウィンドウにクエスト終了の文字が出たことにより、完全に邪神を攻略したことがわかりました。ワッペさんという尊……くもない犠牲のおかげです。
ありがとう、貴方の事は忘れません。
「あ、あぶねぇ! 生きてた!」
チッ。
感謝しながら討伐報酬を確認していた私の足元に骸骨の頭が転がってきました。どうやら胴体がバラバラになっていても、頭が砕けていなかったら生存することができるみたいです。
……本当にしぶといですねぇ。
そんな事ができるなら最初に説明してくださいな。パーティーを組んだときに能力を説明しろと言ったと思いましたが?
「仕方ねぇだろ。こうなったら一度死ぬまで他の能力使えなくなるし元に戻れねぇんだよ。復活地点も更新できなくなるしな。……ところでよ、これじゃあ歩けないから持ってくんね?」
確かに一時的な強化よりも、普段の能力の方が便利で使い勝手もいいでしょう。だから今まで使わなかったということはわかります。
しかしながら……。
残念ですが、貴方を運ぶのは私の仕事ではないのです。ほら、お迎えが来ましたよ?
「は? それはどういう……」
「大人しくしろ! 犯罪者め!」
気がつけば。
私達を取り囲むように街の衛兵さん達が集まっていました。私の足元に転がっている放火魔を捕まえるためです。
このゲームでも放火は普通に犯罪ですからね、仕方がありません。ワッペさんには刑務所に入ってもらいましょう……。
「ちょ!? 離せや! ぽ、ポロラ! 助けろ!」
「抵抗するな! このまま牢にぶちこんでやる!」
衛兵さんに捕まり運ばれて行くワッペさんを、私は手を振って見送ったのでした。尻尾を焦がしたこと、しっかり反省してくださいね~。
ガチャン。
……。
おや?
「お前もだ。多数の犯罪容疑により逮捕する。ついてこい」
私の手首には手錠がかけられており、周りには絶対に逃がさないと言いたいかのように衛兵さんが武器を構えて立っていました。
暴れようとしても不思議と力が入りません。ゲームの仕様ですね。衛兵さんの特殊スキルなんですよ。
こうなってしまったらもうどうする事もできません……。
ぬ、濡れ衣だぁ!
私は最後まで異議を唱えましたがまったく相手にされず、ワッペさんと共に刑務所に入れられてしまったのでした……。
・衛兵
街にいる犯罪者を取り締まる者達。犯罪者になってしまった者を問答無用で刑務所に送る事ができるスキルを持っており、逃げるためには先に殺すしかない。だが、強化されて復活するので一時しのぎにしかならない。真面目に働いて、どうぞ。




