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ワッペ、死す(確定事項)

 それで……対策はあるのですか? 貴方一応『紳士隊』ですよね、メレーナさんへの対策も知っているのではないでは?


 ケルティさんとのお話を終えた私達パーティは、廃墟の別の部屋へと移動し明日に向けての対策会議をしていました。部屋には全員分のベットが用意されており、冷蔵庫までありました。……メレーナさんの能力を邪神が使うことができるとなると、無視する事はできませんからね。


 気が付いたらミンチになって、地面のシミと化していたということもありえます。


 そこで、役に立ってくれそうなのが彼女と同じクランのプレイヤーであるワッペさんです。もしかしたら、同じクランメンバーしか知らない情報があったり……。


「あぁん? 知らねーよ。メレーナの姉御の能力が相手の臓器を盗み取ること位しか知らねぇって。重たい物が持てないっていう話もあるけどな。お前らは盗み無効の装備を着ければ勝負にはなると思うぜ?」


 ……知っている情報だけですか。微妙に役にたちませんねぇ。


「『紳士隊』、『裏切り者』のメレーナ。有名なプレイヤーだ。部外者で彼女の能力を知っている者も少なくない……もう少し有益な情報を言いたまえ」


「ソールドアウトのメンバーである以上、それだけの情報で自分達が対処できるとは考えられません。……自分の能力でも心臓を取られたら死んでします」


「はい! 一筋縄ではいかないということはわかりました!」


 パーティメンバーのコメントが役に立たないということを物語っています。金髪ちゃんはフォローしていた気もありますけれど。


 正直言ってしまえば、私は対策ができているのでどうとでもできるのです。メレーナさんの能力だけならば負ける気はしません。


 しかしながら、実際に戦うのはメレーナさんの能力を持った『傲慢』の邪神です。……味方が死ねば死ぬほど強くなる『傲慢』のギフト。このイベントでそれを使われたら驚異でしかありません。


 おそらく『傲慢』の邪神はディリヴァ側のプレイヤーを殺して自らを強化するでしょう。そうされたとき、私達が勝てるかどうかはまったくわかりません。……さて、どうするべきでしょうか。


「……たっくよー、お前ら俺の事なめすぎじゃね? 俺だって『傲慢』持ちのプレイヤーだ。何も考えていないわけじゃねぇ。メレーナの姉御の力を理解した上で、できることも考えているんだぜ? ……なぁ!」


 そう言いながら、ワッペさんはケモモナの隣に座り彼の肩に腕を回しました。


「え、そういう趣味? 四足歩行になってから出直して欲しい……」


「解釈違い……」


 ケモモナと金髪ちゃんの顔は優れないようでしたが、ワッペさんの顔は笑顔です。何か企んでいるのがわかるようなギラギラとした笑顔をしています。


 えぇ……なんなんですかその自信、そういうことができる奥の手でも持っているんです?


 じゃあお任せしますけれど……頼みますから気が付いたら死んでいたとかだけはやめてくださいね?




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 次の日。


「おっ、狐じゃん。頑張ってっか?」


 イベントの開始を街中で待っていた私達の目の前に現れたのは、ニヤニヤとした表情を浮かべた金髪の幼女……ワカバさんでした。


 今は敵同士というのによくもまぁ顔を出せたものです。いったい何を考えているのやら。


「ワカバの兄貴! もしかして兄貴も女神側に移るつもりですかぁ!? 歓迎しますぜ!」


 ワッペさんが何も考えていないような声でそう言いました。……なにテンション上げてんですか。ほら、行きますよ。


 イベントが始まった瞬間に襲いかかって来られたら、たまったものじゃありません。どれだけよく知っている仲だとしても油断しないでくださいな。


 私はそう言ってため息をつきました。


 ワカバさんは先程と同じ顔をしながら肩を竦めて見せました。


「ひでぇなぁ、一緒に戦った事もあるってのに。これでも情報を持ってきてやったのになー、聞いていくだけタダだと思うが?」


 ……情報ですか?


 邪神化されるプレイヤーの情報なら知っていますが? 更に新しい情報があるなんて、随分と情報管理がおざなりですねぇ。


 こんな直前に言われるのも迷惑なんですが……まぁ聞いてあげましょう。いったい何が……!?


「ぽ、ポロラさん! ウィンドウが!」


 私が振り向いた瞬間、目の前に邪神化を告げるウィンドウが現れました。


 ワカバさんが調べてきたという情報通り、復活するのは『傲慢』の邪神で、対象のプレイヤーはメレーナさんでした。


「あっちゃあ、思ったより早いな。……いいか、ケルティにも伝えろ。ディリヴァ側のプレイヤーは戦力として扱われていない。おれ達は利用される為だけに集められたようだ」


 そう説明している間にも、ウィンドウは次々と現れていき、直ぐに邪神化を告げる最後のウィンドウが表示されてしまいます。


『種族『妖精』。職業『盗賊』。Lv7345……傲慢の《メレーナ》』


『クエストを開始します』


 その表示が消える直前に、ワカバさんは若干焦った様子を見せながら口を開きました。




「生け贄なんだよ。邪神本来の性能を取り戻す為のな、『ギフト』は他人を生け贄にしてこそ真の力を……がっ……ぐぅっ……!?」




 ワカバさん!?


 説明をしていたワカバさんは急に苦しみだし、その場に膝をついてしまいます。そして苦しむようにえずいたと思うと……。


 自らの舌を噛みきり、絶命してしまいました。


「あ、兄貴ぃ!?」


 そこまで重症の様には見えませんでしたが、ワカバさんの身体はバラバラに飛び散りミンチになってしまいます。……『傲慢』の能力だという強制自殺のスキルでしょう。前にメレーナさんがそういうことをできると言っていました。


 そして、ワカバさんが言っていた事が確かなら、この街にいたディリヴァ側のプレイヤー全員がそのスキルの効果を受けてしまっているでしょう。辺りを見渡すと、既にあちこちに血溜まりが複数出来上がっていました。


 無差別に殺されたということは無いでしょう。……もしかしなくてもかなり強化されてるんじゃないですか? こちらのプレイヤーが残っている内に本体を見つけなければ……。


「先ずはケルティ達と合流するべきだろう。この周囲に居ないのならばここに留まる理由は無い。それと、俺は別行動をとる」


 ケモモナはそういうと小鳥を召喚し、その場に倒れました。どうやら敵の探索をしてくれるようです。


 ワカバさんの言っていた事を伝えなくてはならないので、別行動になるのは仕方ないでしょう。邪神を放っておくこともできませんしね。


 わかりました、それでは何かあったのならすぐに知らせてください。私達もケルティさん達と合流したらすぐに捜索しに……。


 その時でした。


 地面に転がっていたケモモナの身体が弾け、地面に血溜まりが出来上がります。


「な、に?」


 小鳥に取り憑いたケモモナが驚きの声を上げました。それもその筈です、攻撃されたようには見えませんでしたし、外傷も無かったはずですから。……散開! 周囲を警戒してください!


 私がそう叫ぶと同時に、私達はバラバラに散らばりました。


 近くにいた知らないプレイヤーさん達も辺りをキョロキョロと見渡しています。


 この場にいた全員が次の攻撃に備えていました。


 今の攻撃は間違いなくメレーナさんの攻撃です。大方、能力で心臓でも掠め取ったのでしょう。見た相手の物を盗む事ができる能力だったはずです。


 ですので、既に邪神の攻撃範囲内に入っているはず……いったいどこに……。


 私が視線を移していくと、先程まで私達がいた場所、ケモモナだったものが散らばった血溜まりの中に何かがいるのを確認しました。


 ドロップした残骸を、黒い鎧を着た妖精がゴソゴソと漁っています。……いったい何をしているんですか?


「あ、あれは……死体……漁り……?」


 近くにいた知らないプレイヤーさんがボソリと呟きました。


 いや、そんな事は見たらわかるんですよ。私が疑問なのはなんでそんなことをしているのか、という話です。


 もしかして、なにかメレーナさんの能力で明かされていないものがあったり……。


「アッタ……」


 ニタリとした笑顔を張り付かせ、『傲慢』の邪神は一本のナイフを取り出した。ドロップしたケモモナの装備のようです。


 『傲慢』が手にしたナイフは、まるでプレイヤーがアイテムを収納したときの様に消滅します。


『……ツギィ』


 あ。これメレーナさんの習性が反映されているだけですね。


 どうやら本当にアイテム漁りをしているだけのようです。あの人私を殺した後もちゃっかり死体漁りしてましたし。


 恐らく狙いやすく、それなりに価値のあるアイテムを持っているプレイヤーが狙われるのでしょう。さっきのケモモナは身動きが取れない状態でしたしね。


 しかし、こうやって姿が見えたのならこちらのものです。……行きなさい、ワッペさん!


「おうよ! 死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 何やら作戦があるというワッペさんが『傲慢』の邪神に特攻しました。雄々しく叫び声を上げながら、高く剣を振り上げます。


 あれほどの自信があったのです、少しは期待してもいいんじゃないですかね?


「……ザコガ」


 片腕をワッペさんに向けた邪神がそういうと、その手の先に赤黒い肉塊が現れました。多分だと思いますが多分心臓でしょうね、はい。


 それが現れたと同時にワッペさんの動きが鈍りましたからね。身体のどこかをとられたのは明白でした。もう少しで彼も土に還るでしょう。


 ……。


 いや、まぁ、はい。




 わかってましたよ、ええ(白目)。




「ぎゃ……ギャハハハハハ! いってぇ!」




 ……おや?


 悪い意味で、私の期待を裏切らなかったワッペさんは至極楽しそうな声を上げました。


 その様子に『傲慢』の邪神は首を傾げ、今度は白い球体をその手元に引き寄せました……って眼球ですか、グロ。


 しかし……。


「いてぇっつってんだろ! 止めてくれよなぁ! ホントによぉ!」


 ワッペさんは止まりませんでした。


 自らの身体の臓器を抜かれて死にかけている……いえ、死んでいてもおかしくない状態にも関わらず、彼は『傲慢』との距離を詰めていきます。


 予想外の状況に驚いたのでしょうか? 邪神はこちらの目線くらいにまで立ち上がると、能力を連発してワッペさんから臓器を盗みとっていきました。


 それでも、ワッペさんはミンチになるどころか、更に笑い声を上げて前進します。


「どうしたぁ! さっさと殺してみろよぉ! そのぐらいじゃあ俺はとまんねぇぜぇ! ギャハハハハハ!」


 空洞になったはずの両の目には青い炎が灯り、その表皮は徐々に腐り落ちていきます。その様子に周りのプレイヤーさん達もドン引きです。


 遂には身体の肉まで全て削げ落ちて、ワッペさんの見た目は、鎧を着た骸骨のようになってしまいました。……もうここまで来たら誰にでもわかりますね。


 ワッペさんの『プレゼント』、『再起動者リブーター』、その能力の真髄はデスペナルティを回避する事では無かったということが。


 姿を変えたワッペさんは骨の手で黒い妖精を鷲掴みにして、カタカタと骨を震わせて叫びます。




「さぁて! 今度はこっちの番だ、殺された怨みを受けてもらおうかぁ! くらえやぁ!」




 ワッペさんの眼光の炎が一気に勢いを上げました。


 それは爆発するように燃え上がり……。


 私達を青く青く染め上げたのでした……。

・種族『スケルトン』

 不死性をもつ動く骨の魔物。プレイヤーも選択可能の種族であり、魔物にしては装備ができる部位が多い。

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