3/7の犠牲
「きょ、今日はこのくらいにして差し上げます……まだ私の救済は始まったばかりです。私が全ての力を取り戻したその時、またお会いしましょう……」
ボロボロになったディリヴァの身体が徐々に透けていきます。……またですか? またこちらの身体を動けなくしてからのフェードアウト逃亡ですか? 本当に何しにきたんです?
急に現れて『色欲』の首を切り落とし、私達に襲われたディリヴァでしたが、強大な力を見せつけてプレイヤーを圧倒するというようなことはまったくなく、普通に討伐されてしまいました。
ケルティさん達のパーティが強すぎたんですよね。
アンズちゃんとミラアさんは完全にサポート役のようで『プレゼント』を駆使した戦いをしていました。
アンズちゃんの能力はカウンターみたいな感じでしたね。ディリヴァが使ってきた魔法を跳ね返したり、吸収したりしていました。
ミラアさんの能力は言うまでもなく、あの高性能の移動能力です。近接攻撃を得意とするケルティさん達の間合いにディリヴァを移動させたり、攻撃の間に入って盾役をしたりしてましたね。
そしてケルティさん、フロイラ、クロークの三名はもう虐めなんじゃないかと思うような連激を繰り出していました。
ステータスだけならNPCの方が育ちやすいそうなので、強いんだろうなぁとは思っていましたが……あの動きは破格でしたね。
特にクロークは前のイベントのボスということもあり、『プレゼント』に匹敵する強さのスキルを使っていました。なんか分身とかしていましたよ?
ディリヴァも決して弱い訳はなかったんですけどねー。手柄を横取りしようとしたパーティを壊滅させたりしてましたし。
でも、多分ですが私達のパーティだけでも倒せそうなくらいの強さでした。オークさんが攻撃をくらっていましたけれど、普通に耐えていましたよ。
ワッペさんも最後まで生き残っていたのでそのくらいの実力です。そんな残念な強さしか持っていなかったディリヴァと戦っていたプレイヤー達の御言葉がこれです。
「え……ディリヴァちゃん弱くね? 帰っちゃったんだけど……」
「まだパンチラも拝んでないのだが? セクハラもしていない」
「あ、報酬きた……うん、おいしい」
「きっとあれだな、カルリラ様と戦っていたから消耗してたんだな。女神最強とやりあってたんだし、まだ本気を出してないんだって」
余裕で生き残ってしまった方々はそんな事をガヤガヤと話していました。
あ、私にも討伐報酬来ましたね。『色欲』の分も入っているのですか、これはおいしい。
……んー? 討伐した報酬が『色欲』とディリヴァの二体分あるということは、もしかしてさっきのディリヴァ登場って確定イベントみたいな感じなんですね?
もしかしたら、他の街に出現したはずの『色欲』も降伏してディリヴァに殺されたのでしょうか?
後で他の街の様子も調べてみましょう。もしかしたら、ホントに顔見せの為だけに出てきたのかも知れません。実際に遭遇した人ってほとんどいないでしょうし。
今回の出来事で、きっと皆さんも理解してくれたことでしょう。……そう。
今回のラスボス……残念な子なんですよ……。
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「大変ご迷惑をおかけしました……うねうね……」
サアリドのとある廃墟、現在ケルティさん達が拠点として使っている建物に、私達のパーティはお呼ばれされていました。
大きいテーブルを囲うように我々は席に着いており、それぞれの目の前にはお茶が用意されています。……いえいえ、イベントですので。ところで、なんでケルティさんはカタツムリになっているのですか?
現在のケルティさんはミラアさんの肩の上でうねうねしております。前にクランを消滅させられた時にもカタツムリになっていましたね。
「人の姿だとすぐに女遊びに繰り出すからな、コイツは。私が管理してやることにした」
私の質問に答えたミラアさんはツンツンと指先でケルティさんをつつきます。カタツムリと言っても、デフォルメされた感じのカタツムリですのでマスコットみたいで可愛らしいです。
「ハハハ……苦労しているようだね。ところで、先程のフワフワコボルトちゃんはどこかな? 少し挨拶をしたいのだが……」
ケモモナ、ステイ。
アンズちゃんの存在を認識したケモモナは時たま獲物を見つめるような目付きをしたんですよね。戦闘が終わったらこれですから、困っちゃいます。
「ん? アンズは買い物と情報収集だな。フロイラとクロークが護衛として付いている、手を出すのはオススメしないな。……なんだ、欲求不満か? 私の事を殴ればスッキリするかも知れないぞ? ほら、ハラパンでも何でもするが良い。内蔵が飛び出る位強烈なのを頼んだ。殺してしまってもかまわない」
「あ……すみません、ケモノ以外興味無いので……」
性癖の片鱗を見せつけられたケモモナはミラアさんから視線を外し、オークさんの毛並みを整え始めました。……うちの変態が黙るとは思いませんでした。流石、高レベルプレイヤーは格が違いますね。
にしても、変態が静かにしてくれると話が早くて助かります。オークさんには悪いですが、ケモモナの相手をしばらくしてもらいましょう。
「自分に発言権はありますか? ケモモナが毛皮を編み込み始めたのですが……」
我慢してください。……ほら、金髪ちゃん。男性二人が仲良くしていますよ、よかったですね。
「最初はイヤだイヤだって言ってたくせに……シードンったら素直じゃないんだから……ハァ……」
たった一人で二人の変態を相手にできるオークさんは優秀な盾役です。この光景を見て私は確信しました。
ワッペさんはここに来てから静かですし問題はありません。シリアスモードかな? ……それで、なんで私達をここに呼んだんですか?
お礼を言うためだけに呼んだ訳ではないでしょう? 何か用事があるのだと私は思っていたのですが……違います?
「察しがいいねー。なんと、あっち側に潜入しているワカバから報告が来てね、明日以降邪神化する顔ぶれがわかったんだってさ。事前に『プレゼント』の能力を把握して、対策するようにって」
……。
え、あの人ホントにスパイ活動してたんです?
今日一番の驚きですよ。ワカバさん仕事してました。
今の今まで音信不通だったので、ディリヴァ側のプレイヤーとして普通にイベントに参加しているものとばかり思っていましたよ。
きっと裏でディリヴァに嫌がらせでもしてるんだろうとばかり思っていたのに……裏切られた気分です。
「いや、あの人意外に真面目なところあるぜ? こっち来る前に俺にも連絡来たけどよ、中々ヤバかった」
ああ、だからそういう雰囲気だったんですね。裏切られた気分でしたよ。
「あん? どういう意味だ、コラ」
ワッペさんはギロリと私を睨み付けてきますが放っておきましょう。私はワカバさんの手に入れた情報が気になります。
幸い、クランメンバーのワッペさんも同じ情報を持っているということなので、一つづつ確認していきましょう。もしかしたら、違う情報を流している可能性もありますので。
「あー、それはある。あの人ならやる」
「ワカバだもんねー、うねうね……」
「ヤツは気まぐれなロリコンだからな」
まさかの解釈一致です。
……それでは、確認しましょうか。
先ずは明日以降、邪神化されるプレイヤーの皆さんを教えてください。知っている方や有名な方々なら良いんですけれどね。対策がたてやs
「メレーナにチップ……そして『魔王』様だ。そちらの情報と合っているか?」
おぅふ。
有名というか全員知り合いでした。というか最悪のメンツです。その情報が間違っているとありがたいのですが……。
そう思いながら、私はワッペさんに視線を送ります。
「……合ってんな。マジでどうすんだっていう感じだぜ。明日からが本番って言っても過言じゃねぇだろうな」
女神陣営終了のお知らせ。
即死攻撃が通常攻撃のメレーナさん。
回避不能の一撃を繰り出すことのできるチップちゃん。
残機無限、『魔王』という二つ名を我が物にしている子猫先輩……。
敵に回したくない方達ばかりですよ。メレーナさんは装備で、チップちゃんは時間帯を選ぶことで対処できるかも知れませんがそう簡単にはいかないでしょう。
子猫先輩に至っては対処方法が強くなる事しか思い浮かびません。……で、でも黙って邪神化されるような方々ではありませんね。
考えれば、邪神化される前に返り討ちにしちゃいそうな方々しかいません。子猫先輩は『強欲』のギフト使えますので、邪神化に対抗する事もできますし。
なーんだ、実のところあんまり問題は無さそうですね。
私はホッとして胸を撫で下ろしました。
「確認してみたけど……なんかイベントを盛り上げるために邪神化はするって言ってたよ? ミーちゃんは自分と戦うの楽しみにしてたし……」
きゅ~……。
そうですね、空気位読みますよね。
邪神化しなかったらその日の報酬も無くなってしまうでしょうし、その辺りは仕方ないでしょう。私もギフトカード欲しいですからね。
って……あれ? 邪神化したプレイヤーを討伐するのって後三回で終わりなんですか?
てっきり『強欲』のギフトを持っているプレイヤーも狙われると思っていたんですけれど……。
私がそう聞くと、皆さんは不思議な顔をしました。……あ、多分ですがディリヴァ側のプレイヤーに『覚醒降臨』使われたら、『強欲』持ちのプレイヤーも邪神化すると思いますよ?
前にジェンマに使われた時と、自分で使った時の反応が違ったんですよね。なので『強欲』のプレイヤーで狙われる方いると思ったんですが……。
私の話を聞いたミラアさんは難しい顔をして考える様な仕草をしました。
「……出所がリリアかディリヴァの違いなのか? それとも名前が同じだけのスキル……? 初めて聞いた情報だ……」
意外に考察とか好きなんですかね? イキイキしている様に見えます。
「ワカバの兄貴からはそういう話しは聞いて無かったけどよ……なんか七日目が一番盛り上がるって言っていたぜ? ぜってぇ楽しくなるとよ」
盛り上がる?
ワッペさんの言葉に何やら一抹の不安を感じます。特に、ワカバさんがそう言っていたということが非常に気になるんですよね。
子猫先輩が邪神化するよりも大変な事が起きる気がします。油断はできませんね……。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ? なんて言っても、この街には私が居るからね! ケルティさんにお任せ! 惚れても良いよ!」
そう言いながら、カタツムリさんがピョコンと角を出しました。
確かに戦力としてはとてもありがたいです。ケルティさんはソールドアウトの中でもかなり強いと聞いていましたし。
しかしながら、なにか引っ掛かるところがあるのです。なんでしょう、なにか見落としていることがある気が……。
ま、何も思い付かないということは大した事はないでしょ。どうやったらケルティさんに貞操を奪われないか考えた方がまだ有意義です。
それに、私達の目的は街の守護で、柔軟な対応をしなければならないのは変わりませんから。
出たとこ勝負でいきましょう、アイツらの好きにはさせません。
私はそう思い、明日からの戦いに胸を踊らせたのでした……。
「よし……こんなものでどうだろう?」
「い、いや、こんなにされたら動きづらい……」
「リボン付けよう、リボン! 可愛くなろうね!」
そして気がついたら、少しオシャレになったオークさんがげんなりとした顔をしておりました。
もっとギスギスするものかと思っていましたけれど……意外になんとかなるものですねぇ。
私は目の前の光景に少しほっこりしました。
明日も頑張りましょうね~。
・『覚醒降臨』
リリア様が冒険者に与えた『プレゼント』の込められた力を解放させる事のできるスキル。……役割としては鍵のスキルだね。ディリヴァも同じようなスキルを与えているけれど、違うものとは思えないんだけどなぁ……。




