絶対私に惚れてると思った。そんなことはなかった byケルティ
『プレイヤー『ケルティ』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迎撃に当たってください。邪神の力が復活します』
いや、なにしてんのあの人?
邪神討伐クエストが始まるまでまったりとお茶をしていた我々の目の前に、邪神化を告げるウィンドウが現れました。……まぁ当然復活するには『色欲』の邪神として、問題はレベルですよ。あの人相当強いでしょ。
あー、表示されましたね。9174レベルの邪神ですか。つっよ。
元のレベルがその倍だとして、そのくらい強かったら邪神化も逃げるなりなんなりして回避できたでしょうに、本当になにしてんですかね?
そして復活するのが『色欲』の邪神となると……。
「おいおいおい……! まずいんじゃねぇか? 前に現れた時よりも更に強化されてるぞ、下手したら前みたいに……」
「消し飛ばされちゃいますよ! ど、どうしましょう……力不足かも知れませんけれど私達も参戦した方が……」
「ポロラさん……あの技を使われる前に邪神を止めましょう。街ごと吹き飛ばされた元も子もありません」
あの時、私と一緒にいた三名は邪神の一撃で街ひとつが吹き飛んだ光景を目の当たりにしています。
警戒するのは当然です、あんなのを使われたら、今の私でも守りきる事は難しいでしょう。
……私も早々に対処するべきだと思います。
犠牲が出るのは少ない方がいいですからね、少し引っかかるところもありますが、今日は私達も邪神の討伐に向かいましょう。
そう言って私達は席を立ちましたが、一人だけ、未だに優雅にお茶を飲んでいる変態がいました。ケモモナです。……いや、空気読みなさいな。
「何故だ? ソールドアウトの中でも上位に入るケルティがいるのならば、俺達がでしゃばる事はない。現段階で、女神側についたプレイヤーにおいてギフトカードを持っていない者はいないからね。彼女が邪神化しても、ギフトカードによって復活した彼女自身が倒すだろう」
くっ……マトモな事をっ……。
落ち着けとでも言いたそうなケモモナの態度にイラッとした私は、自分の尻尾に手を入れて数回手櫛しました。
「それに、彼女のパーティは強い。バランスも良いし、トリッキーな戦術もこなすことができる戦闘のエキスパート達だ。こちらが手出ししなくとも、すぐに邪神を討伐してくれるはずさ」
集まった抜け毛を集め、もふもふと毛玉を作り出します。フッワフワです。
はいポーン。
「自分ができることをする。そのスタンスを変えることは賛同できない。俺は一人でも狼藉を働こうとする輩をころ、わぁい! 毛玉だぁ! これスキィ!!」
私が投げた抜け毛の塊に、ケモモナは涎を垂らしながら飛び付きました。……よかった、一瞬真人間かと思いましたよ。あんまりキャラ崩壊するのはやめてください。
ちょっとした安心感と共に、私の毛玉で遊ぶケモモナにそう言い捨てます。
「ハッ……なんでこういう事をするんだい? 君というモフモフはいつもいつも……なに? 俺の事好きなの?」
嫌いですが?
私は立場をハッキリとさせるべく、強い口調でそう言いました。……言っておきますが、以前の『色欲』の邪神の情報を鑑みるに、本体を直接叩くべきなんですよ。
先ずは相手の姿を見てからでも遅くはありません。それでも貴方が邪神と戦わないと言うのなら引き留めませんよ。
さぁ、行きましょう! 付いてきなさいな!
そう言って、私は尻尾を振りながら駆け出しました。
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容姿が全く同じ銀髪のエルフが、お互いに大剣を振り回しながら戦っていました。
片方はちゃんと服を着込み、冒険者とわかるような格好をしていましたが、相対するエルフは下着姿で、悪魔を思わせるような翼と尻尾が生えています。
「強いな! さすがはこの身体の持ち主といったところだ! この身体で生む子はきっと良い子に育つだろうなぁ!」
「ハァ!? 男に抱かれるなんてまっぴらゴメン! 勝手に私の身体を……汚すなぁ!」
ケルティさんは『色欲』に向かって大きく剣を振りかぶり、思いっきり踏み込みました。
すれ違い様に繰り出された、その神速の一撃を避けることができず、邪神の白い肌から鮮血が噴き出します。……しかし。
「ふん……大したことはないな」
『色欲』の邪神が近くにいたプレイヤーに向かって手を降ると、その姿はたちまち人魂になってしまいます。 ……そうなりますよね。
以前のイベントの様子を見ていたので、こういう感じになることは想像することができました。邪神の味方であるディリヴァ陣営のプレイヤーは『色欲』にとってただの道具でしかありません。
正気を失わせて手駒にしてもよし、スキルを発動するための燃料にしてもよしときました。
そして、今のように傷を負った時には人魂を吸収することで、傷の治療もできるようです。
「どうした? 先程の威勢がどこかに行ってしまったかのような顔をしておるぞ? 技には自信があったようだが……残念だな」
邪神が完全回復し、そう言い終わると彼女の周囲にいたプレイヤー達が一斉に魂へと姿を変えました。
それらは渦を巻くように邪神の元へと集まっていき、巨大なエネルギーの塊を作り出します。……こうなるだろうと予想できたから、ここまで直接来たのですよ!
くらいなさいな! 『七神失落』!
私がスキルを使用したと同時に、邪神を絡み取るように光の鎖が現れました。
それは直ぐに粉々に砕け散ってしまいますが、スキルを使用された邪神は地面に膝を付き、顔色も優れないようです。めっちゃ効いてる。
「これ……は……! あのちんちくりんの……!」
おや?
どうやら前に使われた事を覚えているみたいですね。以前と比べれば私もだいぶレベルが上がっていますし、効果も段違いでしょう。折角集めたエネルギーも維持できずに霧散しちゃいましたし。
「『強欲』のギフト……ポロラちゃん!? ありがとう! 助けに来てくれたんだね! ツンデレ大好き!」
誰がツンデレか。
ここぞとばかりに飛び付いてきたケルティさんを避けつつ、私は苦しんでいる邪神に対して構えを取りました。
弱体化に成功したとはいえ、高性能に高レベルの敵ですからね。油断なんかできるわけが無いのです。
それが許されるのは、隣で私を口説こうとしてくるレズエルフさんくらいなものです。
「素直じゃないな~、ちょっとキスするくらいいいじゃんか~。どう? 私の偽物を倒したあとは、ゆっくりとお話しない?」
しませんが?
そんなことより、どうして大人しく『覚醒降臨』使われているんですか。貴女の速さならスキルが発動する前に逃げられたでしょ?
それに、パーティメンバーはどうしたのですか? 見た感じ他のプレイヤーも来てませんけれど……。
「可愛い女の子だと思ってホイホイ付いていったら邪神化されちゃった。他の娘達に内緒でぶらついていたのが仇になったね! てへ!」
うっわ、この人ブレねぇ。
要するに、自分のハーレムメンバーを放っておいて違う女の子を探しにぶらついていたそうです。
で、まんまとハニートラップに引っ掛かったと……。
てへ、とかいていますけれど、ケルティさんの焦りぶりは隠せていません。まるで滝のように汗をかいています。やらかした自覚があるみたいです。
しかも、しれっと私をアフターに誘おうとしていましたからね。こんなところを昨日の二人に見られたら……。
「おお、ポロラじゃないか。私達のケルティに何か用かな? ……ああ、言わなくてもいい。全てわかっている」
「ケルティお姉さま! ミラアの能力で飛んで来ましたです! 助けにきま……し……た……です?」
「……またですか。反省が足りないみたいですね?」
「邪神……ケルティの姿をしていても無駄だ! 皆を守る為にぼくは戦うぞ! 見ててねケルティ! 格好いいとこ見せるから!」
あー、残りの二人はミラアさんとコボルトアンズちゃんですか。パーティ勢揃いって感じですね。
ミラアさんの移動能力で飛んできたみたいです。ケルティさん取り囲むように、彼女達の姿が現れました。
そのせいでケルティさんの表情は真っ青です。……ミラアさんは全てわかっていると断言しましたからね。もう気が気じゃないでしょう。
「追い付いた! 見てシードン、露出狂がいるよ!」
「『色欲』か! 以前は逃げることしかできなかったが……今は違う! 抵抗位はして見せよう!」
「ギャハハハハ! なんだよ、死にかけじゃねぇか! 俺でも殺せそうだぜ!」
「なんだ、ただのエルフか。つまらん」
私のパーティメンバーも集まって来ました。証言者ができたということです。……ケルティさん、諦めてください。
貴女が私を口説こうとしたのは最早隠す事ができません。大人しく制裁を受けてください。ツキトさんがそうやって死ぬところを何度か見ましたが、多少許されてる感ありましたよ?
「私はツキトとは違う! でも許されるんだ……いいなぁ……」
そう言いながら、ケルティさんは地面に崩れ落ちました。
そんな状況を理解したのか、辺りを見渡した『色欲』の邪神は諦めた様に笑い声を漏らしました。
他のパーティも集まって来ており、知らない方達からも重ねて『七神失落』を受けています。多少は効果があったようで、もう邪神は動くことすら困難に見えました。
「くくっ……毎回上手くいくとは限らないか! ……いいだろう、降参だ。だが少し、こちらの話を聞く気はないか? ここでワタシを殺すのは得策ではないと言っておこう……」
まったく諦めた様子など感じさせずに、邪神はそう言いました。その様子に、私は思わず後ずさります。
……なんですか? 何を考えているのです?
悪いですが、貴女を殺すために皆さんここに集まっているのです。何を言おうとも、貴女が殺されることには変わりません。
大人しく、ミンチに……。
「ディリヴァと名乗る化物の正体、それをお前達に教えてやr」
『色欲』の邪神の首が飛びました。
ラスボスの正体という、中々気になる事を言おうとしていた『色欲』は、急に現れた何者かの攻撃によって死んでしまいます。
地面に広がったミンチの上で、姿を表した白き少女は可愛らしい顔で私達を一瞥しました。
「まったく……私の事を何も知らないくせに……亡霊風情が。誤解されたら悲しいじゃありませんか……」
ディリヴァ……!
白い装束に身を包んだ少女がクスクスと笑っています。
おやおやおや……! 随分と早いお出ましではありませんか、ラスボスが途中で出てきたら、それは負けイベントだって決まっているってしらないんです? 勝ち目のない戦いを挑む訳ないでしょ。
けれども、それがわかっていても止まれるわけがないんですよねぇ……!
私だけではなく、他の皆様も同じようです。
唐突に現れたラスボスに対して。
女神陣営のプレイヤー達は一斉に襲いかかったのでした……。
・邪神の姿を見たケルティの反応
ケルティ(目の前に私……!? 可愛いじゃん、さすが私。私×私かぁ……いけるね。屈服させて身の程を教えちゃうもんねー! 幸せにしてあげちゃう!)
レズエルフは今日も元気でした。




