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もう一人の浮気者

「ただいま帰り……ワッペさん!? いったいどうしたというのですか!? これはひどい……身体が原型を留めているのも不思議な位だ……」


 調子にのった結果、蹂躙されたワッペさんを発見したオークさんと金髪ちゃんは慌てて地面に倒れている彼に駆け寄りました。


 先程までドラゴンの姿をしていたケモモナは、自身の身体を蘇生させて勝ち誇った顔をしています。いや、そんな顔をしても触らせませんが?


「ふふ……まさか勝てるとは思わなかった。『ノラ』の教育設備は優秀だな、短期間でここまで強くなれるとは」


 良かったですね。まぁそれくらいできてもらわないと困りますが。


 ……にしても、正直いうと戦闘要員としてカウントしていなかったので嬉しい誤算です。戦えなければ弾除けとして使おうと思っていましたし。


 これならば、思ったよりも良い戦果を期待できそうできそうです。その能力を存分に発揮してもらいましょう。


 と、ケモモナは良いとして……。


「だ、誰にやられたんですか!? 無理矢理、無理矢理なんですね! ちょっと詳しくお願いします!」


「これは……回復魔法を使ったら障害が残るな。ワッペさん、『リジェネレーション』の魔法を……え? 良いのですか? それでは失礼します」


 ワッペさんになにやら耳打ちされたオークさんはスッと立ち上がり、その手に武器を持ちました。


 前は両手に小斧を装備していましたが、最近は両手にハルバードです。ギフトを使用した後の戦闘を想定した装備だそうで。


 そのハルバードを大きく振りかぶり、オークさんはワッペさんの首を切断しました。戸惑いの無い攻撃、良いですね。


 ゴロリと首を転がしたワッペさんは瞬時にミンチに変わり、その場に姿を現しました。復活地点を作る事のできる能力はやっぱり便利ですね。邪神が現れる前に作ってもらわないと。


「っぅし、完全復活。……てんめぇ! 何しやがる! 本当に殺すやつがあるかぁ! あぁん!?」


 うわー逆ギレですよ、逆ギレ。


 ワッペさん、ワッペさん。貴方もノリノリで戦っていたじゃないですか。普通に負けたんだからそうカッカしないでくださいな。……というか、もう貴方の立ち位置は決まってしまっているのですよ。


 私は喚くワッペさんの肩に手を乗せて諭すように言いました。


 残念ですけれど……貴方は支援に徹してください。実際のところ『プレゼント』も支援向きなんですから。多少のデメリットがあっても、即時復活とか中々珍しい能力ですし。


 私達の中でも唯一の魔法使いなんですから、期待していますよ?


「戦士だっつーの! っていうか、なんで俺以外まともに魔法使える奴いねーんだよ!? おかしいだろうがぁ!」


「む、失礼な。俺は回復魔法位なら使えるぞ。支援は無理だが」


「お前は黙ってろやぁ!!」


 このパーティで最弱であることが決定してしまったワッペさんは頭をかきむしりながら叫び声を上げました。


 日々の努力がいかに大事か、良くわかります。


 いやー、師匠に拾ってもらって本当に良かったですね。私達。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 さて、イベント二日目です。


 現れたのは『怠惰』の邪神でした。知らないプレイヤーが邪神化されていましたね。


 戦術に関する能力を持っていたのかはわかりませんが、現れた怪物達は全員が武器と鎧を装着しており、統率された軍隊のような動きをしていました。


 敵味方入り雑じる戦場において、そのような能力を持っていた『怠惰』の邪神は驚異的なものであり、泣く泣く倒れるプレイヤーも散見された程です。


 まぁ……ディリヴァ陣営である『モブ』の方々がその動きを邪魔してくれたので、楽に対処できたんですけれど。


 アイツらマジでなんなんですかねー。


 ディリヴァの加護によって結構手強くなっていましたけれどワッペさんでも倒せていましたし、所詮そんなものです。


 アイツら協調性がまるで無いんですもの、協力するという事を知りません。互いに足を引っ張り合ったせいで、『怠惰』の邪神が出現させた怪物達に襲われていましたし。アンタら一応味方の筈だったでしょ。


 そんな中、私達は当初の予定通り『モブ』のプレイヤー達の対処をしていました。


 いやぁ、本当にいましたよ。火事場泥棒みたいな事をしようとする奴ら。


 無理矢理家の中に入り込もうとする輩もいましたし、商店から品物を盗もうとしている輩もいましたね。


 もちろん全員で協力し、彼等にはミンチになってもらいました。ドロップしたアイテムは皆で仲良く山分けです。おいしいおいしい。


 そんな事を繰り返しているうちに誰かが邪神を討伐してくれたみたいで、ウィンドウに討伐したプレイヤーの名前が表示されました。


『邪神が討伐されました。クエストを終了します。


 MVP 『ケルティ』』


 ……。


 え? あのレズエルフも来てるんですか?




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「やっほー! ポロラちゃーん! 元気してたー? ケルティさんだよ!」


 うわでた。


 白銀のポニーテールと瞳が特徴的なレズエルフ、ケルティさんが現れました。


 イベント邪神戦が終わった後は、自由時間と思って街の探索や被害状況の確認をしていたのですが……。


 一人でぶらついていたのが裏目に出ましたね、ケルティさんとそのパーティメンバーと思われる二人の女性とエンカウントしてしまいました。


 エプロンを着けた大人しそうな女性と、ドラ◯エの女勇者みたいな格好をした子です。……NPCですか?


 勇者ちゃんの方は見覚えがあるようでありませんが、エプロンの方は覚えています。


 パン屋の『フロイラ』という、『暴食』のサブクエストを受ける際に重要になってくるNPCです。彼女からクエストを受注することで『暴食』の邪神に挑む事ができます。


 けれども、私の記憶が確かならフロイラには夫に先立たれた未亡人のはず。クエストが終わったら後追い自殺でロストすると思っていたのですが……まさか……。


「待って待って待って、違うから。純愛だから。……始まりはともかく」


 私が疑いの目を向けると、ケルティさんはボソボソと呟きながら顔を逸らしました。疑いが確信に変わった瞬間です。NTR。


 ケルティさん……人としてどうかしていると思います。


 私は軽蔑の眼差しを贈りました。


「やめて! マトモな反応をしないで! ほら、今ではこんなに仲良しだから! ね! フロイラちゃん!」


 そう言いながらケルティさんはフロイラを抱き寄せます。すると、パン屋の奥さんはほんのりと顔を紅くしました。


「お姉さま……そんな、こんな人前で……恥ずかしいです……」


 お姉さまと呼ばせている辺り救いようがありません。


 プレイヤーに手を出そうとするくらいなんですから、NPCさんに手を出さない理由は無いですからね。


 きっと、この勇者かぶれの格好をしている子も被害者なのでしょう。


 何か思うことがあったのか、その子はケルティさんにすりより、彼女に抱きつきました。


「ぼくは……ぼくはどうすればいいんですか……? お願い……捨てないで……すてないで……もっと頑張るから……」


 い、依存させている……!?


 どんな事をすればこんな事になるのか。私にはさっぱり理解ができません。


「く、クロークちゃん、大丈夫だから! 充分助かっているって! ただ、知り合いがいたから声をかけただけだよ? クロークちゃんを捨てるわけないじゃん~」


 聞き覚えのある名前が出てきて、私はギョッとしました。


 『クローク』というのはこの世界における『勇者』の役割を与えられたNPCです。

 邪神の力にのみ込まれてしまい、第一部のラスボスポジションになっていました。


 正式なストーリーではプレイヤーに倒された後、廃人になってしまい街をさまよっていると聞いていました。ちなみに男の子だったはずです。


 まさかTSさせられて、依存するまで落とされているなんて……。


 闇が……闇が深すぎる……。


 私はあまりの恐怖に耐えきれなくなり、その場から逃げ出しました。しかし回り込まれてしまった。……速すぎるぅ!?


「待ってって、今日は何にもしないってば。……ポロラちゃん達さ、ジェンマって奴探してるんでしょう? 私もそうだからさ」


 きょ……今日は……?


 真面目な話をしようとしているのはわかるのですが、不穏なワードが見え隠れしているせいで安心して話を聞くことができません。


 ケルティさんも自分のクランを潰されているので、ジェンマの被害者なのは確かなのです。やり返したくなる気持ちは良くわかります。


「ポロラちゃんもジェンマに目を付けられているって聞いたからさ、一緒に居れば会えると思ったんだよね。だからさ、お互いに協力していこう!」


 裏があるようにしか思えない……。


 けれども、見た感じそういう雰囲気はしません。この前のカタツムリになってうねうねしていた時とは真逆です。ふっ切れた感じがします。


 ……そ、そうですね。


 私は普段はディリヴァ陣営のプレイヤー達を倒していますので、ケルティさん達は邪神を相手にしてくださると嬉しいです。実力的にもその方が合っているでしょうし……。


 私がそういうとケルティさんはがっしりと私の手を握って来ます。


 しまったと思ったのも束の間、彼女は私の背後に回り込み、当然の如く腰に手を回してきました。なんという無駄のない変態の動き……!


 そう驚いていると、耳に囁きが聞こえます。




「協力するならお互いの事をよく知らなきゃダメだよね? ……ちょっとお茶でも飲んで休憩しようか。大丈夫、ただの休憩だから……」




 こしょばしゅい!?


 耳に口が付くんじゃないかと思うほどの距離で囁かれ、私の背筋にゾクゾクとした感覚が走りました。寒気です。


 というか、これただのナンパじゃないですか。ちょっと油断したらこれですもの、たまったものではありません。


 しかしどうしましょう。以外に力が強いので振り払える事ができないんですよね。


 もうこうなったら、大人しくお茶でも飲んで、ある程度満足してもらったら逃げさせてもらいましょう。もしも変なところに連れ込まれそうになったら速効で自害してやります。


 そうやって私が決意したその時です。


 こちらの様子をじっと見ていたフロイラが、どこからともなく人よりも大きな大槌を取り出しました。


 その瞬間、ケルティさんが私から離れました。あ、解放された。


「また……新しい女の子に手を出そうとしましたね、お姉さま。私の目の前ではやめてって言っているのに……」


 やはり浮気者という存在は許されないみたいです。いつぞやのツキトさんを思い出します。


「ぼくをこんな風にした責任をまだとってもらっていないのに……酷いよ……」


 クロークも剣を引き抜き構えました。……で、どうするんですか? ケルティさん。このままでは浮気者として処刑されてしまうみたいですが?


 そんな私の質問に対し、ケルティさんは諦めた様に笑顔を作り、一言。


「……私とイチャイチャしたいならそう言えば良かったのに。素直じゃないなー、もう。……じゃ、ポロラちゃん。また次の日機会に遊ぼうね! バイバイ!」


 そう言い残し、ケルティさんは二人の攻撃をかわしながら、どこかに去っていったのでした。


 強い味方がいることがわかったので良かったんですけれど……結局あの人何がしたかったんですかねぇ……。


 私は自分が解放された安心感に包まれながら、街の探索に戻ることにしたのでした。……まぁ変に関わらなければ絡まれる事も無いでしょうし、私は何も見なかった事にしますか。それがいいですね、はい。


 知らないことがいいことなんて、いっぱいあるのですから……。





 と、そんな事を考えながら迎えた次の日……。





 ウィンドウに表示された邪神化したプレイヤーの名前が『ケルティ』だった事に、私は驚きを隠すことができなかったのでした。


 そういう絡み方って……アリなんです?

・性転換

 願いを叶える魔法か魔道具を使うことにより性別を変えることができる。他人にかけたりして遊ぶ事もできるがそんな事に使うくらいならもっと有意義な使い方があるので、あまりオススメできない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 堂々と浮気してていっそ清々しいっすね [気になる点] もしかしてデスペナ無視できる再起動者強い? [一言] TS+依存とかケルティさん良い趣味してらっしゃる!師匠と呼ばせてください!
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