イベント開催!(参加できるとは言っていない)
『さぁ、この世界の修復を始めましょう』
見たこともない景色。
何もない虚空の空間で白い少女はそう言いました。
少し楽しそうに微笑みながら、彼女は手を伸ばしてなにかを掴むような動作をしました。
『偽りの女神、《強欲》のリリア……そして、彼女に遣える愚かな者達よ。この世界を貴方達の好きにはさせません。私が正しい世界に戻して差し上げましょう……』
そう言い終わると、彼女の周りに六つの光る球体が現れました。
それらは少女を中心にゆっくりとした速度で回転しており、一つづつ彼女に取り込まれていきます。
取り込まれる度に少女の姿は変わっていきました。
剣……盾……ネックレス……。
髪飾りにピアス、指輪……。
全ての装備が揃った様で、少女は剣を構えて高らかに声を上げました。
『だからこそ、私は戦います! 貴女達の求める世界など間違っていると教えて差し上げましょう! 『勇者』様達と共に!』
真理の『ディリヴァ』。
イベントの開始をクランで待ってた私達の目の前に現れたのは、今回のイベントのボスであるディリヴァを映すウィンドウでした。……なにやら、おめかしする動画を見せられたんですけれど、それする必要ありました?
まぁ少しずつ力を取り戻していくタイプのボスみたいですし、イベントでは自分も戦いますよー、みたいな宣言だったんですかね?
もしかしたらランダムに街に出現するのかもしれません。倒せたら追加報酬……みたいな感じだと嬉しいですね。
さて、ウィンドウに目を戻すと白い少女は剣を構えてドヤ顔をしていました。むふー、って感じです。あざとい。
と、彼女の後方に何者かの影が現れました。
漆黒の外套で身を包み、大鎌を携えたその姿はまさに死神の様でした。……もちろんツキトさんではありません。その小柄なシルエットは女性のものです。
『っ!?』
大鎌が振るわれる直前に、ディリヴァはその存在に気付いたみたいでした。
大きく前に飛び出して、自分の命を狙う攻撃を避けます。
『まぁ……そんなに大袈裟に避けなくとも良かったのに。その手に持っている盾は飾りですか?』
そう言ってクスクスと笑いを漏らしながら、その人物は笑っていました。……輪廻の『カルリラ』、この世界における死神さんですね。
いきなり現れた死神に、ディリヴァは驚きを隠せないようで慌てて臨戦体勢に移りました。対するカルリラは全身から力を抜いたように構えます。
『あ、貴女は!? 何故ここにいるのですか! この場所は私が許可しなければ入れないはず……』
『関係ありませんね。命ある限り、死から逃げる事はできないこと同じです。……お迎えに上がりました。輪廻の理から取り除いてあげましょう』
カルリラの姿が一瞬消えると、彼女はディリヴァのすぐ目の前に移動していました。その時、既に大鎌の刃はディリヴァの喉元に届いましたので、少しでも動かせばその首を落とすことができるでしょう。
しかし、ディリヴァもそこまで愚鈍ではありません。
テレポートの魔法を使い、カルリラの攻撃範囲から逃れていました。先程現れた光球を取り込んで多少は戦えるようになっているみたいです。
『悪くない反応ですね。真理の『ディリヴァ』……外宇宙からの侵略者がどこまでできるのか。『神殺し』の名において貴女を試させてもらいます』
カルリラはそう言うと、再びディリヴァに向かって斬りかかりました。
ディリヴァも覚悟を決めたのか、剣と盾を構えて応戦します。
そこで動画は暗転し、今回のイベントである『Bessing of World』のタイトルが表示されてウィンドウは閉じられました。
すると、どこからか悲鳴が聞こえて来ました。
慌てて外に出てみると、街の中でゆっくりと立ち上がる巨人の姿を見つけることができました。……『憤怒』の邪神ですか。良いですね、欲しいと思っていたギフトです。
さぁ、イベントの開始です。
楽しませていただきましょうか!
私達はそれぞれの武器を構え、出現した邪神に向かって駆け出したのでした……。
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はい……反省会しまーす……。
「はーい……」
「そう……ですね……」
「おう……」
「どうしたんだ? 君達、さっきから元気ないな?」
先程のイベント開始からの邪神出現。
それから十数分後、私達はクランに戻ってきていました。前のように食堂に集まっている感じですね。
なんでそんなに早く戻って来ることができたのか?
戻って来ることしかできなかったんですよ。私達が到着した時には邪神は討伐されていたんですから。
誰に、と聞かれると困ります。
ちなみにツキトさんや子猫先輩ではありません。彼等が到着したときにはもう死んでいたらしいので。その場で聞きました。
では、いったい誰が邪神を倒したのかというと……。
この街、コルクテッドのNPCさん達です。
流石は魔境コルクテッドですね。
レベルが高い一般市民の手によって、邪神は秒で討伐されました。チップちゃんの能力を使って移動するより早く倒されたらしいので、本当に一撃で倒されてしまったのでしょう。私達プレイヤーは何もしておりません。
一応報酬は貰えましたが……どうします? これ?
「どうも何も……良いことじゃないか。NPCが頑張ってくれたことで俺達が何をしなくとも街の平和は守られた。別に不満などないが?」
そう言ってケモモナは不思議そうな顔をします。……そうですよね、貴方はそういう目的で戦ってますからそうなりますよね。
「そりゃそうだけどよー……。違うじゃん、これイベントじゃん。もっと俺達の見せ場欲しかったって言うかさー…………な?」
ワッペさんも同じ気持ちのようです。
要するに、不完全燃焼なんですよ。何もしていないのに報酬だけもらっても、嬉しいかも知れませんが楽しくはないですからね。
ちゃんと参加できてこそのイベントだと思います。
「えと、掲示板を確認したんですけれど、今日現れた『憤怒』の邪神は弱い設定になってたみたいです。明日からはもっと強い邪神が現れると思うんですけれど……」
金髪ちゃん……。
そうやって肝心なところはふざけないの、とても良いと思いますよ? 救われる気分です。
普段は自分の性癖な正直な癖に、こういうときは真面目に話を聞いてくれるんですものね、嬉しいです。
……でも、弱い設定と言いましてもこの街にはチップちゃんを初めとした『ソールドアウト』の実力者が揃っています。もしかしたら、私達が駆け付ける前に邪神が討伐されてしまうという事態はこれからもあると考えてよいでしょう。
本格的に私達の力はいらないかも知れません。
「それは同意です。このままでは何をしなくとも報酬を受けとることができてしまいます。彼等にとって、邪神の相手などただの遊びでしかないでしょう。……活動地域を変える事を進言します。我々は戦力が足りない街に移動しましょう」
オークさん、貴方の言うとおりですよ。
あちらのプレイヤーさん達も邪神が倒されたら速攻で逃げますからね。街の住民を守るにしても役に立つことができません。
要するに、楽しくないんですよねぇ……。
私は……おもいっきり暴れたいんですよ!
「いや、君はプレイヤーのドロップアイテムが欲しいのだろう? 逃げようとしていた敵プレイヤーを襲っていたのは君と『魔王』様位だと思ったけどね?」
ケモモナ、貴方疲れてるんですよ。幻覚見えてますが?
私はケモモナの戯れ言を訂正しました。……っち、良く見ているじゃないですか。いつも尻尾を見つめているだけはあります。
ま、それは置いときまして……。
これからの活動拠点を変えるべきだと私は考えています。
コルクテッドはNPCだけでもなんとかなる戦力がいます。ですので、これから強い邪神が出てくる事も考え、違う場所に活動拠点を移すべきでしょう。
念のため、皆さんにも了承を得たいのですが?
私がそうやって聞くと、皆さんは静かに頷きました。
……良かったです、皆さんこのままではつまらないと思っていたのでしょう。
「どうせならプレイヤーが少ねぇとこがいいなぁ。俺も本気出して戦いたいぜ……何処に行くよ?」
ワッペさんは妙に私の言うことを聞いてくれます。ありがたい事ですが、その態度に裏がありそうで怖いですね。
けれども、今はそれで十分です。こうやって集まっているとき問題を起こさないだけ、私達はパーティとして完成しています。……それで次の拠点の候補なのですが、私はサアリドが良いのではないかと思っています。
その街の名前を出したとき、皆さんの表情が変わりました。
特にケモモナは待っていましたと言わんばかりに目を輝かせています。……そう、『ペットショップ』があった街、サアリドです。ジェンマとも因縁がある場所ですからね。目立っていれば、きっと目を付けられるでしょう。
街自体も広い所ですから、人は多い方が良いと思うので新たにやって来た私達を邪険にはしないはずです。皆さんも反対する人はいないみたいですし。
……それでは、移動しましょう。私達の戦場はここではありません。
楽しまないと意味ないですからね、これイベントですし?
という事で、私達はクランを後にしたのでした。
まだ見ぬレアドロップ(プレイヤー産)を求めて……。
・その後のディリヴァ
出方を見ていたら逃げられた模様。
カルリラ「あれは放っておいて大丈夫です、私達が出るまでもありません。冒険者様にお任せしましょう……」
しかしながら実力はわかったらしい。……カル姉より強い相手なんていないからそう言えるだけだとと思うんだけど……違うのかな?




