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ショゴス

 ぺぷしっ!?


 謎の触手に引きずられていった結果、私は壁に叩きつけられました。……いたーい。


「のんぎゃ!?」


 同じようにワッペさんも壁に激突しています。


 私はよろよろと立ち上がり、辺りを見渡しました。

 どうやら、この場所は広い空間になっているようです。部屋の奥の壁が暗くてまったく見えません。……物理的にも。


 部屋の中央には気味の悪い色をした、巨大なスライムの怪物が鎮座していました。

 それは止めることなく身体を脈動させ、新しい触手や、口に似た何かの器官を作り続けていました。


 身体の表面にできたあぶくが弾ける度に、てぃきちち、とおぞけの走る様な音を空間に響かせます。


 簡単に言うと生理的に無理なビジュアルです。キモすぎます。


「いって~……。うわ、やっぱコイツかよ。最初から居たわけじゃねぇな。ランダムで湧いた敵か?」


 ワッペさんも起き上がり、目の前のスライムを確認したようです。……あー、自然湧きしたモンスターって事ですか、厄介ですね。


 敵NPCが自然に発生する場合、私達のレベルを参照にして出現します。クエスト中の場合は、その内容に合ったものが現れるものなのですが……。


 何事にも例外はあるということです。……困りましたね。結構レベルの高い相手なんじゃないですか?


 ワッペさんはコクりと頷き……え、何ですかね? そんな顔してどうしたんです? うっっわコイツ、みたいな顔していますけど?


「……おう、ポロラ。テメー、今何レベルだ?」


 はい? レベルですか?


 ……。


 それ、今の状況で聞かなきゃならないことなんですかね? 普通に考えて私達はピンチです。強大なモンスターを目に前にして、無駄話なんてしている暇などないはずですよ?


「良いから言えよ。ちなみに俺のレベル帯でコイツは出現しないからな? レベル600オーバー、『ショゴス』……普通に強敵だぞ? しかもあんまり見ないレアな奴」


 へー、コイツがショゴスなんですねぇ。確か……元はなんとか神話のモンスターでしたっけ? そんなのもいるんですか。そうですか。


 ……それでは、パパっと倒しちゃいましょ? 今のところ私達を引きずりこんだ以外は攻撃してこないみたいですし?


 私は手袋を2本の短槍に変化させると、ショゴスに向かい構えを取りました。しかし、ワッペさんは険しい表情のまま動きません。


「いいから」


 こゃ~ん……。


 あのーワッペさん? あの時、無駄にレベルが高いとか言ってすいませんでした。

 だって仕方ないじゃないですか。私に負けたくせに、レベルはとても立派だったのですもの。そういうことも言いたくなるというものです。ですので、私のレベルは貴方よりも高いですよ? まぁ、勝ったから当然ですよね? はい、このお話はおしまい。さっさと戦いますよ? コイツを倒せばこのクエストも終わりじゃないですか? 他に敵もいないようですしね? ね?


「……で、レベルは? すげぇ焦っているみたいだが?」


 ガッと肩を掴まれました。どうやら私のレベルを聞くまでは戦闘をしないつもりらしいです。……あーもー、言いたくないんですけどねぇ。


 覚悟を決めて、私は口を開きました。


 ……7レベルです。


「あー? 下一桁しか聞こえなかったぜ? ハッキリ言えや」


 ……。


 637レベルですね! 何か文句でも!?


 私は逆ギレしました。レベルが高くて悪いか!


「無駄にたけぇな!? ってか、コイツが出てきたのやっぱりお前が原因じゃねぇか! くっそ、最初に確認しとくんだった!」


 そうです、私が原因です!


 だって仕方ないでしょ!? プレイヤーさんは大量の経験値をくれるんですよ!

 検証してみてください!

 同じレベルのNPC倒すより、遥かに効率いいですから! こゃ~ん!


「こゃ~ん……じゃねぇよ! どうすんだよ!? コイツ、物理攻撃50%カットっていうクッソめんどくさいスキルもってんぞ!? お前が魔法使ってんの見てねぇんだけど!」


 は? なんですかそれ?


 私はワッペさんの話を聞き、思考を巡らせました。


 物理50%カット?


 そのような条件を出されると、『プレゼント』の効果で魔法の使えない私のようなプレイヤーは苦戦する未来しか見えません。


 そして口ぶりからワッペさんも魔法は使わない人のようですので、このままでは目の前のショゴスに有効な手はないでしょう。


「俺も魔法は使えねぇし……って、ヤベェ!」


 !?


 悩んでいると、ショゴスに動きがありました。


 作り上げた幾つもの触手を私達に向かい伸ばしてきます。

 私は短槍でこちらに向かってきたそれを切り刻み、活路を見いだそうと前進しますが、ワッペさんはあっという間に縛り上げられ、亀甲縛りに拘束されました。……器用な化け物さんですね!? なんでそうなるのですか!? おかしいでしょ!?


「こうなったんだよ! 助けろぉ!」


 偉そうな事を言える姿ではないことは確かなのですが、ワッペさんは無様に縛り上げられながらそんな事を言いました。


 ここで笑って馬鹿にしても良いのですが……このままでは私にも被害が出ることは明確でしょう。


 ハァぁぁぁ~………。


 ここで、私は思考を止めて深いため息をつきました。


 ……ワッペさん、ここから先は他言無用で。


「わ、わかったぁ! 早くなんとかしろ! この触手、動きが……変態くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 仕方がありません。ここで死んだら来た意味が無くなってしまいますから。


 私は大きく息を吸い込み、とあるスキルを発動しました。


 そして、思いっきり



 びぃょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょょ!!!



 狐の咆哮を上げました。


 敵味方関係の無い、広範囲の衝撃攻撃です。


 地面に落ちている岩が砕け、天井からは落石が落ちてきます。

 ショゴスの身体もただでは済んでいないようで、まるで沸騰している様に表皮が弾けていました。


 それでも向かって来る化物の触手を、私は息の続く限り、咆哮をあげながら切り落としていきます。


 先程。

 ワッペさんは私のレベルが無駄に高いとか言っていましたが……そんな事はありません。



 レベルが高いことには意味がある。



 貴方と私は違うということを、教えて差し上げますよ……!

・なんとか神話

 クトゥルフ神話。ラヴ・クラフト御大が産み出した創作神話。様々なメディアで取り上げられている、厨二病には堪らない作品群。実際興味深い作品が多く、数多くの作家によって様々な作品が世に解き放たれている。TRPGにもなっているが、難易度は高め。

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