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後悔して苦しんでってね?

『な、なにをする気かは知らねぇが、そこに居る限り俺の手のひらの上なんだよ! 閉じろ! 『鳥籠ハッピーバード』!』


 覚醒状態となった師匠は未だ鳥籠にとらわれたままです。


 ジェンマの声と共に鳥籠は収縮を初め、徐々にその大きさを縮めていきました。そのまま師匠の事を押し潰すつもりなのでしょう。


 檻を破壊できない以上、その攻撃は有効なものだと私も思います。……しかし、ジェンマは大きな勘違いをしているみたいですね。


 覚醒状態になったことがわかるから言えるのですが……。


 もう通じませんよ、そんな浅知恵。


 師匠は構えたドリルを回転させながら地面に突き刺しました。すると、突き刺した場所から亀裂が入り、あっという間に大きな穴が空いたのです。


 師匠はそのまま空いた穴に飛び込みました。……採掘する速度は格段に速くなっているみたいですね。地中での行動も更に速くなっていることでしょう。


『バカが! 地中に逃げ道なんてねぇんだよ! 『鳥籠』は地中にまで届いている! そのまま潰れちまえぇ! ギャハハハ!』


 ジェンマはそう叫びますが、やはり師匠に焦った様子はありません。それに、あの亀裂の入り方、どう考えてもおかしいんですよ。


 固いものを掘るときはああやって広範囲に亀裂が入るのですが、よく見ると地面というよりはまるで空間に亀裂が入っていたように見えました。……まさか。


『ジェンマ、そのくらいじゃ私を止められない』


 その言葉はジェンマの後方から聞こえて来ました。


 ジェンマは慌てて振り返った様で画面が大きく揺れ動きました。


 そこには何事も無かったかのように師匠が立っていて、頭上には空間に穴が開いてありました。


 ちらりと見えた穴の中には城下町の景色とジェンマの後ろ姿がありました。……空間と空間を繋げて逃げた? 空間を破壊したということなのでしょうか?


『もう私を捕まえる事なんてできない。ほら、もう一度能力を使ってみたら? また同じように逃げるけれどね』


『ぐっ……シーデー風情がぁ! クソ雑魚のお前が調子に乗るんじゃねぇ! くらえや!』


 地面から杭が生え、師匠に迫ります。……この間私が食らった攻撃と同じものですね。移動を阻害する破壊不能の杭というのは本来なら厄介なものなのでしょうが……。


 今の師匠にはまったくの無駄でしょう。


『そんなの壊す必要ない! 次元ごと貫いてやる!』


 師匠はドリルを回転させ、ジェンマに向かって突き刺しました。


 すると、すぐ目の前の空間に亀裂が走り、回転するドリルの切っ先が現れたのです。


 ボロボロと崩れ落ちる空間の隙間から師匠が顔を覗かせていました。ゾッとするような光景です。


 決して逃げることはできない。


 そう思わせるような姿でした。


『クッ……! ふざけやがって、相手してられるか……!』


 そう言うと、ジェンマの目の前にウィンドウが現れました。そこには『ログアウトしますか?』という文章が書かれています。……うっわ! コイツ最低だ! 戦闘中に逃げる方法として一番最低な事をしようとしてますよ! 潔さの一欠片もありません!


 さすがの師匠もリアルに逃げられたら追いかけることはできませんからね。コイツがログインするまで待つ訳にも……。




 パリン。




 おや?


『は……? 嘘……だろ?』


 なにかが割れるような音と共に、出現していたウィンドウにドリルが突き刺さっていました。


 ドリルの回転は止まること無く、ログアウトの承認を求めるウィンドウを粉々に砕いていきます。……し、システムに干渉してきた!? こ、こわ! ログアウトすらさせないとか恐ろし過ぎますよ師匠!


 フルダイブVRのこのゲームで、絶対であるはずのログアウトという逃げ道を潰すなんてやられた側からは恐怖でしかありません。


 もしかして、ウィンドウを使った操作全部封殺できるんじゃないですか? 要するにアイテム使用とかスキルや魔法の使用に制限をかけれるということですね。


 ……。


 さ、流石師匠です。私よりプレイヤーを殺す事に特化していますね。


 カエルの子はカエルと言いますし、私がプレイヤーを襲うようになったのもきっと師匠の影響です。無意識にそうやって育てられたに違いありません。


 この覚醒状態を見て私はそう確信したのでした。


『そんな逃げ道が許されると思わないでね? じゃあ、これからちょっと酷いことするから』


 空間の壁を破壊し姿を表した師匠はそう言いながら不可避の速度でドリルで攻撃を繰り出しました。


 私達が見ているウィンドウには深々とドリルが突き刺さっている光景が映し出されます。確実に致命傷でしょう。




『ぎぃ……!? あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』




 うっさ。


 ウィンドウからジェンマの叫びが響き渡りました。


 本当に激痛が走っているかの様な叫びです。


 これはゲームですから実際に痛みがあるわけじゃありません。まぁ、設定で多少は弄れるみたいですけれど。


 私も少しは痛み感じる設定にしていますから、攻撃されたら多少痛かったりしますが。


 まさか……。


『痛覚設定を弄らせてもらったよ。今までの行いを後悔して苦しんでってね?』


 この人マジヤバイ。


 完全にジェンマのゲーム設定を掌握しています。もう生かすも殺すも師匠次第です。というか、ジェンマがリアルに支障が出るんじゃないか、というレベルで叫び続けているんですけれど?


 ウィンドウに映っているジェンマの腹部を見ると、突き刺さったドリルが血肉を辺りに撒き散らしていました。もう一度言いますが、どう見ても致命傷なのは明らかです。


 にもかかわらず、ジェンマの身体はミンチになることはありません。


 どうやら同時に身体の回復もしているようです。つまり死にたくても死ねない、ログアウトもできない永遠の苦痛がジェンマを襲っているみたいですね。


 師匠の言っていた地獄というのは例えではありませんね、そのまんまです。


『や……やめで……ぐれ……いだい……たずげで……』


 叫びが途切れ途切れの呻き声に代わり、ジェンマは命乞いを始めました。……惨めですねぇ。それでも許す気にはなれませんが。


『アホか。お前が今までやって来た事のツケが回ってきたんや。……『ペットショップ』が解散するきっかけを作ったお前を許すつもりはあらへん。徹底的にその根性叩き直たるわ』


 肩の上でアークさんもご立腹です。


 もうここまで来たらジェンマには絶望しか残っていませんね。ここからはきっとジェンマが拷問される映像が延々と流されるのでしょう。トラウマになるのは間違いありません。


 それを悟ったのか、それとも、全てを諦めたのかはわかりませんが、ジェンマは力無く笑い始めました。


 余程驚くような表情をしていたのか、師匠は動揺したような様子を見せます。


『カハハ……お前ら……いいこと教えて……やる……俺が……確保しているゴミどもは……がぁ……全員……親なんだよ……子供がいる……んだ』


 その声は反省しているようには微塵も聞こえず、むしろ楽しんでいるようにも聞こえます。聞いているだけで気分が悪くなるようです。


『その方が簡単だからだ……。親の……前で……ぐぅ……子供で遊んでんのを……みせんだよ……。最後は……食ってやってな……生き返したら……もっかい……これで誰でも言うことを聞くように……が……なる……カカカ……!』


 苦しみながらジェンマが口にした内容は、信じがたいものです。私が思っていたよりももっと酷いことをしていたみたいでした。考えたくもない話です。


 師匠もそう感じたのか、マスクの下の表情が怒りで染まります。


 その瞬間、ドリルの回転は急激に加速し、肉体が再生するよりも速くジェンマの身体を粉々に吹き飛ばしてしまいました。


 それと同時に、ウィンドウが真っ暗になってしまいます。……師匠を怒らせて自分を殺させたのですか。逃げる時だけは知恵が回るのですね。


 黒いウィンドウを見つめながら、私はなんとも言えない気分になっていました。


 ジェンマに囚われた無理矢理成長させられたNPCとその子供達。


 聞いた限り、子供達もろくな目にあっていないでしょう。……本当に胸糞悪い話です。許せるものですか。


 きっと師匠もあんな形で逃げられて悔しい思いをしていることでしょう……?


 そう思っていた時です。


 誰の視点かはわかりませんが、ウィンドウに師匠とアークさんの姿が映し出されました。


 どうやら先程からそれほど時間が経っていない映像のようです。


『……ごめん、アーくん。我慢、できなかったよ』


『ええんやで。あれで我慢できなかったら嘘や。……ま、次や次。次顔を合わせたときにでも続きを……な、なんや!?』


 地面が揺れているのに気付き、アークさんが驚きの声を上げました。


 すると、見える範囲の様々な場所から檻が生えてきました。中には当然のように人が詰められております。……まさかジェンマが戻ってきた? いや、それにしては早すぎる気が……。


『死亡時に発生するスキル……!? 数が多い! ……アーくん!』


『いや、そう言われてもなにすりゃええねん! これ街中に出現しとるやん! 姿消して逃げるにしても……』


 真夜中にも関わらず、街のあちこちから悲鳴が聞こえて来ました。


 極限まで餓えている彼等が正気を保っているとも考えにくいです。もしかしたら通行人や関係無いプレイヤーに襲いかかっているのかもしれません。


『厄介な置き土産を……! どうするシーデーはん、このまま逃げるのも手やけれど、放っても……』


『おけないね。……この数を全員ロストさせるのも難しいし、放っておくと被害が広がるかも知れないから……』


 あ。


 この流れは不味いですよ。


 そしてこれ見る前に落ち聞いてましたもん。まさかこの人……。




『……うん、もうめんどくさいから一度吹き飛ばして全部リセットしよう。ちょっと街の中央に爆弾仕掛けてくr』




 プツン。


 私はもうこれ以上見ていられる事ができなくなり、静かにウィンドウを閉じました。


 ふと横を見るとオークさんと金髪ちゃんが頭を抱えておりました。ええ、気持ちはわかります。

 あれ私達の師匠なんですよ、現実って厳しいですよね。


 ちなみにあの人、今どこにいるかわかります? え? 動画の最後で衛兵に捕まって刑務所入り? しばらく出所できない? なにしてんの師匠?


 あー……はい……。


 ちょっと私、出所手続きしてきますね。


 どうあがいてもテロリストの師匠を迎えに、私は刑務所に向かったのでした……。


 出れるかな……あの人……?


・出所

 余罪多過ぎて無理。自由が過ぎたかな?

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