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パーティ確認(バランスが良いとは言っていない)

 さて、イベント前日でございます。


 ちょうどお休みと重なり、クランの皆さんは最終調整と言わんばかりに修行に精を出しておりました。ゴキ部屋に行列ができていましたね。


 あそこは精神衛生上長居はできないので、皆さん30分位したら退出してきますからね。回転が良くて助かります。


 中には脅威の精神力でゴキ汁を浴びながら戦っている方もいますが……そういう方々は少数ですので気にしないことにしましょう。


 まぁ中には強制的に戦わされている方もいたんですけれどね。で、どこまで強くなれました? せめて私達の足を引っ張らない位にはなっていてほしいのですが?


 私は隣にいたワッペさんに対し、修行の成果を確認しました。


「なったよ! このクソ狐、無理矢理あんな部屋に押し込みやがって! しかも逃げようとしてもお前の知り合いっていう頭のおかしい奴等に捕まるしよ! お陰でレベルが4000越えましたぁ! どうもぉ!」


 あ、ホントに真面目に修行に取り組んでいたんですね、ちょっと安心しました。


 やはり廃人と呼ばれる修行中毒者の皆さんに預けていって正解でしたね。パーティ内部で力の差が大きいのはいただけませんから……。


 修行を一段落させた我がパーティは修行部屋を後にし、クランの食堂を訪れていました。


 他の席から椅子を拝借して、五人で小さなテーブルを囲んでいます。


「まともに全員で顔を合わせるのは初めてですか。……まだ修行していたかったのですが、何かありましたか? ポロラさん」


 いえいえ、特に問題があったわけではありませんよ、オークさん。


 私は集まった皆さんの顔を見渡します。


 右隣からオークさん、金髪ちゃん、ケモモナ、ワッペさん……。


 こうやって集まってもらったのは、イベントを迎えるに当たって確認したかった事があったからです。


 私もすっかり忘れていましたけれど、私達は全員別々のクランから集まった集団。言ってしまえばあんまり知らない仲ということですね……。


「俺は知っているがね、ふふっ」


 ケモモナはドヤ顔をしながら鼻で笑いました。……いや、そんな事は聞いてないんですよ。というか、自分のクランに戻らなくてもいいんですか? 一応リーダーなんじゃないんですか?


「部下達には子供達を守らせている。『シリウス』の支援も受けているから問題はないだろう。俺はジェンマを倒す事に専念する」


 うわっ、真面目な返答だ。


 この人、性癖はねじまがっていますが、戦う理由がシリアスですからね。

 前のように馬鹿にできないのが悔しいですが、心を入れ換えたと思いましょう……。


 って、あれ? もしかしてワッペさんの事も知ってるんですか? この人そんなに目立つ様な方じゃありませんよ?


「俺が立ち上げた教団は各街に支部がある。全てのモフゴワなプレイヤー達の情報が集まっているからね。誰と会っていたとか、戦っていたとかの情報も聞こえてくるのさ」


 これは心を入れ換えていませんね。集団ストーカーという余罪が増えました。


「全ての……? もしかしてシードンにお似合いの相手がいたりしますか?」


「!?」


 金髪ちゃんの発言にオークさんが驚きの表情を見せました。この子ちょくちょく暴走するんですよね。


「お似合い……。残念だがメスオークのプレイヤーは居ないんだ。野生のオークを捕まえれば繁殖も望めるだろうが……」


「いえ、雄の逞しいオークの話をしてるんですが?」


「……?」


 ケモモナが眉を潜めて私に視線を向けました。え、なに言ってんのコイツ?とでも言いたそうな目をしています、私もわかりませんってば。


 と、とにかくです!


 私が言いたいのはお互いの事を知っているかどうかという事ではありません! どんなことができるかどうかを確認したいのです!


 オークさん! ワッペさんの『プレゼント』の能力は!?


 私はそう叫びながらオークさんを指差します。すると彼は慌てた様子を見せながら「あ……う……」と声を漏らしています。……そういうことです!


 私達はパーティを組んでいるのにお互いの『プレゼント』やプレイスタイルすら知りません。


 ワッペさんなんか鎧を着こんでいるくせに魔法での支援がメインなんですよ? 予想できませんって。


 それに、『プレゼント』のメリットとデメリット、ギフトまで覚えていないと他人のミスをカバーすることができないかもしれません。


 ですので、こうやって集まり、確認する時間を作った方が良いと思ったんですよ。

 という訳で、自分の能力の説明をお願いしてもよろしいでしょうか?


 私は皆さんにお願いするようにそう言いました。


 自分の能力を説明することは自殺行為です。弱点を話せと言っている事と同じですからね。


 このパーティもこのイベントの一時的なものですし、教えてもらえなくても仕方がないでしょう。


 そう思っていたのですが……。


「ポロラちゃんの言う通りだな。……『ワイルド・ラヴァー』、自分の指定した敵性NPCを召喚する能力だ。君達が殺して遊んでいたゴキブリも私の能力で召喚したものさ。デメリットは……俺が敵対状態になると消えてしまうということだな。経験値稼ぎが一人だとできない」


 意外にもすんなりと教えてくださいました。……真面目な時と性癖に正直な時の差が激しいので混乱しそうです。いつもそんな感じなら助かるんですけれどねぇ。


「テメェか! テメェがあんなおかしな部屋を作ったのか!? て、テメェのせいで俺は~……!」


 能力を知ったワッペさんがぐぬぬ……と涙を流しながらケモモナを睨み付けました。トラウマになったみたいです。


「ん? レベルアップできたんだろ? 良かったじゃあないか、ワッペくん。今までのサボりを帳消しにできたんだ、俺とポロラちゃんに感謝しなければいけないのでは? ……そうそう、俺のギフトは『怠惰』だ。戦闘では支援に回ろうと思う。武器はナイフだ」


 ありがとうございます。私達は近接戦闘メインなので支援をしてくれるのは助かりますよ。


 じゃ、次はワッペさん。


「……ぁん? 俺? 『再起動者リブーター』だよ、前に話したろうが? 物忘れ激しくね?」


 私がワッペさんを指定すると、彼は恨めしそうな目をしながら悪態をついてきました。……ウジ虫ぃ。


 私は素直に従わないウジ虫に対し、黒籠手から裁縫針を生成しました。それで彼の眉間を突き刺します。


「いっっったぁ!?」


 突然の攻撃に反応できなかったワッペさんは予想外の痛みに驚き、床を転げ回りました。


 まったく、私しか知らないでしょ? それと、ギフトだって何か言っていないでしょ。根掘り葉掘り説明しろって言ってるんですよ。アホ。


「だ、誰がアホだ! 前にも話したとおり、俺の能力は復活できるポイントを作ることだ! 俺はデメリット無く復活できるが、他人が生き返る時はデスペナが加算される! あとギフトは『傲慢』! パーティ戦だとなんの役にも立たねぇ! 近接メイン、魔法支援可能!」


 最初からそうやって説明すればよかったんですよ。


 あ、そうだ。


 実はワッペさんの申し出でこのパーティを組んだんですよ。NPCの皆さんを殺させない、守り抜く、と熱い事を言っていました。


 メッチャ真剣な目をしていましたね。この世界を守るって意気込んでましたよ?


「そこまで言ってねぇ!? というか恥ずかしいから言うなし!? それじゃあまるでNPCが本当に生きているって思っているみたいだろ! 俺はただ、黙って見殺しにしたくねぇっていうか、罪のない奴が死ぬ理由なんてないだろっていうか……」


 そう言いながらワッペさんは顔を赤く染めております。素直じゃありませんねぇ。


 まぁ中々恥ずかしい事を言っていましたからね。後で弄ってやろうと思っていたので目標達成です。やりましたね。


「そうか……君もそうなのだな。俺達は同志だ、ワッペくん。共に戦い、ジェンマに地獄を見せてやろうじゃないか」


 そう言ってケモモナはワッペさんに手を差し述べました。


「いや、俺ケモナーじゃないし……」


「わかっている。……ロリコンなんだろう? 君が『紳士隊』だと言うことは聞いているよ。君には守りたい幼女がいるんだね?」


「いやロリコンでもねぇし」


 なにやらケモモナは通じる物を感じ取ったらしいです。可哀想なワッペさん、変態に目を付けられるなんて……。


 まぁドンマイって感じです。次にいきましょう。


 じゃあ次はオークさんよろしくお願いします。


「は、はい。『不屈の獣鎧』、自身の治癒能力を大きく強化される能力です。魔法やポーションでの回復が無効になりますが、それに勝る速度で傷を治癒させる事ができます。ギフトは『憤怒』、拡大の能力を使う事ができるので皆さんにも治癒の恩恵を差し上げる事をできるでしょう」


 おお!?


 回復が早いということと、『憤怒』の能力で身体が大きくなるのでタンクの役割をお願いしようと思っていましたが……回復もしてくれるとは助かります。


 オークさんの生存が私達の生存に繋がりそうです。


 ……で、最後は金髪ちゃんですか。


「はい! 私の能力も支援タイプです! 男性限定にしか使えませんが、行動を阻害させる事ができます! 『バッテン』って名前です!」


 そう言いながら、金髪ちゃんは剣を見せてくれました。刀身に十字の切れ込みが入っていますね。これが『プレゼント』なんですか?


 ……実際に使うとどうなるんです?


 嫌な予感しかしませんが、一応聞いて見ることにします。


「この剣で殿方達を指し示すと、お互いが引き合ってくっつくんです! 一時的に動きを止めて、慌てる姿を見ることができます! あと、ギフトは『色欲』です」


 ……oh。


 キラキラとした笑顔を見せる金髪ちゃんに私は頭を抱えました。……もう何も言えません。この子を制御することは私には無理みたいです。


 しかしながら、相手の動きを止めることができると言うことは大きいです。強制的に隙を作る事ができますからね。


 ……にしても、皆さんどちらかというと支援向きな能力ばかりですねぇ。悪いことではないんですけれど、火力不足かもしれません。


 少し戦いかたを考えた方がいいですね……。


「パーティでの連携の話か? 俺には難しすぎんな、纏まったら教えてくれや。……にしても、お前らの師匠やべぇな。上げられた動画見てぶるっちまったよ」


 ……なんの話です?


 遂にアホなことを隠さなくなったワッペさんが気になることを言い始めました。


 ジェンマを地獄に叩き落とすと宣言し、クランを去っていった師匠は音信不通になっていました。どれだけチャットをしても返してくれないのです。


「ああ、あれかい? 流石は『正体不明』だというとこだろう。……だが、まだ足りない。ジェンマには更なる地獄を味合わせてやる」


 え、ケモモナも知っているんですか?


 あの……うちの師匠が何かしましたかね? あの人が動くと嫌な予感しかしないんですけれど……。


「確かに……」


「今度は何を壊したのかな?」


 オークさんと金髪ちゃんも同じ事を考えていたみたいです。


「あー……お前ら見てないのな。なら一回見てみるか、ディリヴァ陣営の本拠地の動画なんだけどよ……」


 え。


 あ、あの人ホントに殴り込んだんですか!?


 私がそう言って身を乗り出すと、ケモモナはゆっくりと頷き口をひらきました。




「ああ。全員皆殺しにする『正体不明』の姿が映っていたよ。街ごと奴等の拠点を吹き飛ばしていた。『覚醒降臨』まで使っていたようだな……」




 や、やっちゃった……。


 どうやら、私達の師匠はイベントが始まるまで我慢できなかったみたいです。……まだ何も始まっていないのに、そんな事をしてしまうなんて……。


 イベントを楽しみにしていた方達にとっては良い迷惑です。なんの理由も無く惨殺されてしまったのですから……。


 し、しかし、もしかしたら師匠にも深い理由があったのかもしれません。ジェンマ以外にも許すことができないプレイヤーがいたのかもしれません。


 僅かな望みを込めて、動画を確認するしかないでしょう。


 お願いします、師匠。


 貴女は常識人だと私は信じています。


 もしもなんの考えも無しにそんな事をしていたとしたら……。




 貴女もジェンマと大差無いですからね?


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