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勝てると思った。こんな部屋に入れられると思ってなかった。 byワッペ

 今回のイベントの方向性が決まった私は、クランでメンバー探しを再開しました。


 やりたいことは街の住人の守護ですので、感覚が擦れていない方が望ましいでしょう。

 NPCなんてただのデータなんだから、と言ってしまうような方はダメです。……そういう人ってゲームのセーブデータが消えてしまったりした経験って無いんですかね?


 そんな訳で、私の知り合いの中でも比較的純粋だと思われる二人を捕まえました。オークさんに金髪ちゃんですね。


 それでは、前に宴会をした記憶もありますが、改めて自己紹介をお願いします。まずはゴロツキのワッペさんから。


「おう、誰がゴロツキだ、コラ。……っち、『紳士隊』のワッペだ。基本は近接がメインだが魔法の支援もイケる」


 おや?


 貴方魔法は使えないと言っていませんでした? キャラメイクの方向性でも変えたんです?


「……シバルのじーさんに仕込まれた。『クラブ・ケルティ』での修行はほとんどそれだったからな。回復と支援魔法だけしか使えねぇけど、無いよりマシだろ」


 そう言うとワッペさんはプイッとそっぽを向いてしまいました。……そうですね、正直言ってしまうと大変助かります。私達近接職しかいませんし。


 それでは、オークさんに金髪ちゃんもよろしく。


「……あの時の修行以来ですか。シードンです、よろしくお願いします、ワッペさん」


 オークさんは礼儀正しくペコリとお辞儀をしました。おそらくこの中で最もマトモなのが彼です。今後の活躍が期待できます。


「シーラです。私の事はともかく、あの老神父と貴方の関係を知りたいのですがよろしいですか? できれば受け、攻め、リバアリ、ナシまで詳しくお願いします」


 金髪ちゃんはまっすぐな瞳をしながらそう言いました。全くブレを見せません。


「……おい、ポロラ、それとブタすけ、ちょっと集合」


 そんな彼女の態度に臆したのか、ワッペさんは青い顔しながら私達を集めます。……なんですか?


「いやいやいやいや……なんですかじゃねぇよ。言っている事がよくわかんねぇけど、コイツヤベェヤツじゃねぇか。自分の性癖を隠しもしてねぇじゃん。ブタすけ、お前の相方どうなってんだよ……」


「そんな事を言われても……彼女の趣味に口を挟む訳にもいかないでしょう……。これでも抑えている方ですから、適当にあしらってくだされば……」


 え、まだこれで全力じゃないんです? 凄いですね、底が見えないんですけれど。


 私達は金髪ちゃんに聞こえないようにこそこそと話していました。


 そんな様子を彼女は不思議そうに眺めておりますね。……ワッペさん、適当に俺はノーマルだと宣言してください。そうすれば彼女の興味も薄れるかもしれません。


「そ、そうなのか? ……うし、わかった。おい、チビッ子。俺とシバルのじーさんはただの師弟関係だ。それ以上でも以下でもねぇ」


「つまりこれからって事ですか。今後発展していったら是非教えてくださいね?」


「…………」


 自信満々に返答したワッペさんでしたが、すぐにこちらに振り返り助けを求めて来ました。目がそう訴えかけてきます。


 えーと……オークさん、お願いします。


「はい。シーラ、あんまりそうやって決めつけるのは良くない。それに、これから暫くはパーティとしてイベントに参加するのだ。……結論は後からでも自然にわかるだろう」


「……っ! 確かに、すぐに答えてもらったら想像の余地がなくなるもんね。解釈違いが怖いけど、楽しみは最後まで取っておかなきゃ」


 金髪ちゃんはオークさんの説得を受け入れたらしく、なるほどと言いながら頷いていました。……これでいいですか? もう自分がそう言う目で見られているという事は、諦めて受け入れてください。


 私はガックリと肩を落とすワッペさんに励ましの言葉を送りました。


「うっせぇ! というかお前らどんだけ強いんだよ? ポロラはこの前の戦争の映像を見たから大体わかるけどよ、ブタすけとチビッ子はどうなんだ」


 都合が悪くなったので話を逸らしましたね。……あー、正直私もよくわかってないんですよねぇ。二人とも最近修行頑張っていますし、少なくとも戦えなくはないと思いますけれど……その辺りどうなんです?


「……前に稽古を付けてもらったときよりはマシになりました。ポロラさんの黒武器を使わせてもらい、数日間修行部屋に籠っていましたので」


 修行部屋というと……ゴキ部屋に!?


 え、あそこに数日間? 皆さんもって数時間だというのに?


「そうなんですよー、私も頑張りましたっ! シードンにマッサージをしてあげて、成長値を維持しながら修行したのでスッゴク強くなったんですよ!」


 え……金髪ちゃんもあの部屋に?


「虫は平気な方です!」


 金髪ちゃんはエヘンと胸を張りました。こ、この二人、メンタルが強すぎる……。


 どうやら思った以上に強くなっているみたいですね。声をかけてみて正解だったかもしれません。


「修行部屋? 黒武器? ……お前らなんの話してんだ? 『ノラ』で新しい修行方法でも確立されたか?」


 ワッペさんはよくわからないというような顔をして首を傾げています。……知らぬが仏とはこの事ですねぇ。


 そんな感じです。どうせだったら手合わせでもしてみては? そっちの方が実感できると思いますよ。


「ぁん? いいのかよ、たしか同門って話じゃなかったか? ギッタギタにしちまうぜ?」


 そう言ってワッペさんはニヤリと笑いました。まるで秘策があるとでも言いたいかのようです。


「確かに。これからは共に行動するのですから実力は知っておいた方がよさそうですね。ならば大講堂へ行きましょう。あそこなら全力で戦える」


「そうだね! 強くなった姿をポロラさんに見せてあげます!」


 二人もやる気のようです。……じゃ、行きましょうか。負けた方は黒籠手武器を持って修行部屋耐久ということで。


 さて、一体誰がゴキブリの餌食になるんでしょうねぇ……。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 黒籠手武器と数日間の食料を持たせ、私は修行部屋にワッペさんをぶちこみました。……ストレートで負けましたからね。鍛え直してもらうことになったのです。


 扉を開けた瞬間に逃げ出そうとしていたので、今は修行中毒者の皆さんに面倒を見てもらっています。


 きっと次に会ったときは別人みたいになっているんだろうなぁ……。カワイソー。


 っと、負け犬のお話はここまで。


 彼が修行に励んでいる間、私達は五人目のパーティメンバーを探していました。四人でも悪くはないですけれど、できるならちゃんと五人揃えたいところです。


 『ノラ』のメンバーの方々はパーティを作り終わってしまったようだったので、違うクランにお誘いをしに行かなければならなかったのですが……。


 やっぱり私の知り合いって少ないんですよねぇ。


 残っている候補は『シリウス』の方達くらいです。なので、私達は武器の調達も兼ねてザガードに訪れていたのでした。彼等の拠点のある首都ですね。


「本当に『帰還』の魔法だけで来れちゃった……。これがミラアさんの能力なんですね」


 そうですね。性癖に目を瞑ればとても優秀な方です。


 『クラブ・ケルティ』のドMことミラアさん。彼女の能力は登録したポイントに移動することのできるものです。


 クランにいたので頼んでみたら二つ返事で飛ばしてくれました。意外にいい人でしたねぇ……。


「ここがザガードの首都ですか……。人がいないことが気になりますが、建物が現代に近いのが特徴なのですね」


 そういいながらオークさんは辺りをキョロキョロと見回しておりました。……あ、オークさんはここ来るのは初めてですか? そうそう、ちょっと現代的なのが雰囲気出てますよね……って、人が少ない?


 私達が今いるのは前も訪れた事のある広場です。前にあの変態ケモナーが演説をしていた場所ですね。


 ……確かに、あの時と比べて人がいません。前はプレイヤーもNPCも沢山いたはずなのに。

 今はガラガラです、周りを見渡しても十人程くらいしか人がいません。


 何が起きたのかは私にはわかりませんが……とりあえず『シリウス』へ向かいましょう。


 そこにいけば何かわかるかもしれませんし、早く行かないと変な奴に見つかる危険があります。


 案内しますのでこちらに……。




「おや、もふもふにゴワゴワに女の子。久しぶりじゃあないか。会いに来てくれたのかな?」




 ……もう嗅ぎ付けて来ましたか。


 ため息を吐きながら声のした方に振り替えると、そこには神父というよりは教祖のような格好をした変態が立っていました。


 クラン『ケダモノダイスキ』リーダー、ケモモナです。


 貴方に会う前に『シリウス』に行きたかったんですけれどねぇ。お願いですから見逃してくれませんか? ほら、オークさんはトラウマからガッチガチに固まってしまっています。


「      」


「シードン!? 起きて! 起きないとエッチなことされちゃうよ! 貞操を奪われちゃう! 私には見守ることしかできない……! くっ……!」


 いや、そこは助けなさいよ。


 そんなやり取りをしていると、ケモモナはクックッと笑い声を漏らしました。


「いやいや、少し忙しくてね。人を探しているのさ、ちょっと無視できる相手じゃなかったからね。君達を見逃すのがとても心苦しい……」


 人探し?


 この変態が私達を見逃すほど放っておけない程の人物? そんなにモフモフなプレイヤーが?


 なんか負けた気分ですね、どんな方ですか?


 少し気になってしまった私は足を止めてしまいます。


「今のところ君よりもふもふなプレイヤーとは会ったことがない。最近は尻尾を増やすことができたらしいじゃないか……いくらほしい?」


 金銭を出して触れると思うな。


 あーもう、こんな奴に質問した私がバカでした。見逃してくれるというのならさっさと行きましょう。


 ほら、オークさんも気をしっかりして。もうあんな奴に負ける貴方じゃ無いんですから……。




「ジェンマだ」




 ……!


 急に声色を変えて、ケモモナはとある人物の名前を言いました。


「ジェンマが現れてね。『シリウス』も対処に当たっているところだ。俺もクランリーダーとして被害が出る前に動こうと思っていたのさ」


 『ペットショップ』を壊滅させ、ディリヴァに寝返った中でも重要人物であるプレイヤー、ジェンマ。


 ……何を考えているのかはわかりませんが、良からぬ事をしようとしているのは明白ですね。


 まったく、今のタイミングで出てきてもどうなるかなんてわかるでしょうに。


 もう一回殺してあげますよ。私を邪神化させようとした恨みも忘れていませんからね。


 ということで……。




 イベントの前哨戦と参りましょうか!


・その頃……

ワッペ「く、くんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 這ってくんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ……ぎゃあああああああ!? 潰したら汁が、顔に! 顔にぃぃぃぃぃ!!?」


中毒者「うるせぇぞ、新入り! 黙ってゴキブリ処理を続けろぉ!」


 修行継続中……。

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