笑うロリコン
さて、四肢を切り取られた上に首まで飛ばされた私は、クランへとログインし直してきました。……いやー、ひどい目に合いましたね。
でもこうして無事にクランに帰って来ることができましたし、今日は平和に修行でもしましょうか。
修行中毒者の方々に黒籠手武器を売り付けなきゃいけませんしねぇ。まさか、いつまでも無料で使えるとはあちらも思っていないでしょう。
ボロい商売です、ふふふふふ……。
そうやって悪いことを考えながら大講堂に入ります。
すると私の目に入ってきたものは、なにやら怪しい集会をしている自称お兄ちゃん'sと修行中毒者の方々でした。……え、何してるんですかね? 嫌な予感しかしないんですけれど。
「……以上をもって『浮気者去勢作戦』の説明を終了する。何か質問はあるか……って、妹ちゃん!? 帰ってきたの!?」
なにやら物騒な事を説明していた魔術師さんが私を見つけると、一目散にこちらに向かって駆け出してきました。
他の方々も一斉に集まってきます、怖。
「心配したぞ! 大丈夫か!? あのロリコンに変な事をされなかったかい?」
「そんなこといいから武器くれよ、武器」
「よかったぜ……落ち込んでいる顔していたらどうしようかと……」
「ほら、すぐ作れるんだろ? 出せよ」
「無事に戻ってきてくれた記念に……一刺し、していくかい?」
「もうあれじゃなきゃ満足できねーんだ、頼むからよー」
「元気な姿を見ることができた……こんなに嬉しいことはない……」
私の帰還による喜びのせいでカオスな事になってますね。密です。……ええい! 離れなさいな! 用事がある方は一人づつ話を聞いてあげますから! 並べ!
「「「はーい」」」
キレ気味に吠えると皆さん礼儀正しく一列に整列しました。無駄に統率が取れております。
そして自称お兄ちゃん'sは、彼等が問題を起こさないように私の周りで目を光らせておりました。
……じゃあまず先頭の貴方から。何をしてほしいんですか?
おそらく中毒者であろう方が息を切らしながら私の前に立っていました。もう完全にイっている目をしてるんですけど……。
「ぶ、武器を……剣を一本作ってくれ……! 壊れにくいのがいい……!」
凄まじい剣幕です。これでお金を要求したらなにされるかわかんないですね、これ。でも稼ぎ時を見失ってはいけないのです。
え、えっとぉ……、流石にただでってうのは私も厳しいんですが……ちょっとお気持ちを貰えると嬉しいのですが……ね?
ガチャン。
…………。
え。
両手を合わせて、可愛くお願いしていた私の足元に投げられたのは、大きなズタ袋でした。中にはお金が入っているみたいです。
「全財産だ! もってけぇ!」
マジの中毒者です、もう元の生活には戻れないのでしょう……。
と、というかこんなに入りませんよ! 私もそこまでがめつくありませんってば! 他の方達が真似しても困るのでしまってくだs。
ガチャン、ガチャン、ガチャン……。
きゅ、きゅぁぁぁぁぁぁ……。
私が言い終わる前に、他の方達からもお金の入ったズタ袋が投げられてきました。全部が全部、結構いい量入っているみたいです。
ちょっとお小遣いを貰おうとしたら札束を渡された気分です。何とも言えない罪悪感が私の心をつつきました。
「金で買えるなら安いもんだ、オレ大槌ね」
「スパチャを投げるの同じもんだろ? 慣れてる」
「ガチャに突っ込むよりは確実だ、ナイフを二本頼むぜ」
どうやら彼等の金銭感覚は狂っているらしく、私の目の前にはお金がどんどんと積まれていきました。
こ、こんなつもりじゃなかったんです。だ、誰かと助けてください……!
私は助けを求めて自称お兄ちゃん'sに視線を移しました。
「課金していいのか……!」
「今日は妹ちゃんに投げ銭していいと聞いて」
「農場で稼いだ金を出す時がきたな」
「今から臓器を売って来ても間に合うだろうか……?」
「お小遣いです、いつも助かっています」
悲しいかな。
彼等も立派な変態なのです。
自称お兄ちゃん's真面目な顔をしてズタ袋を取り出していました。
さらに積み上がるズタ袋を前に、私はただ立ち尽くすしか無かったのでした……。
どうするんです? これ……。
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「で、結局ポロラ姉ちゃんはお金全部もらったの? 最近は皆姉ちゃんが作った武器で修行してたみたいだけど」
イベントまで残り三日、また会議があるということで私達はクランの大講堂に集まっていました。今日のお隣さんは黒子くんです。……いやいや、貰える訳ないじゃありませんか。全員にただで配りましたよ。
お金を貰おうとすると、皆大金積んでこようとしますからね。お小遣い程度なら悪い話もたちませんが、値が大きくなると変な噂が出るかもしれません。
仕方なく諦めましたよ。
あの時に貰ったお金は全て返却し、私は前みたいに大量に黒籠手武器を生成してクランにばら蒔きました。結局これが一番平和みたいです。
まぁ、私も中毒者の皆さんに混じって修行していましたし、今ではすっかり顔馴染みですよ。何も食べないで修行していたら、勝手に餓死したりする様な方達ですが……。
あれ? そう言えば魔術師さんやガンマンさんはどうしたんです? いつもなら近くにいるのに……。
そう言えば、自称お兄ちゃん'sも一緒に修行していたなぁ、と思って彼等の事を探して見ますが、彼等の姿は見当たりませんでした。どこに行ってしまったのでしょう?
「……あー、兄ちゃん達はツキトさんのところにいったよ。『去勢してやる』って息巻いてたね。勝てるわけないのにねぇ」
そうですねぇ。強いですもんねぇ。
後から色んな人に聞いたんですけれど、私が気が付いたら四肢を刈り取られていたのは、ツキトさんが『パスファの密約』を使用したからとの事でした。時間を止める神技ですね。
何でも彼の『プレゼント』の能力は『全ての女神を信仰することができる』というもので、全ての神技を使うことができるそうです。
しかも、普通は教会等に行って捧げ物をしなければ神技を使えないのですが、彼のパッシブスキルにはその場で捧げ物をすることができるというものがあるらしいのです。つまり、神技の連続発動が可能という事ですね。
正直いうとどう対策を取ればいいのかわかりません。
……あの人に勝つとしたら相当な実力をもったプレイヤーが複数人必要となるでしょう。五人だけでは少し心もとないです。
無事に帰って来てくれるといいんですけれどねぇ……。
「絶対無理だけどね……あ、始まるみたいだ。……うわぁ」
大講堂に現れた大きなウィンドウ、そこに移った光景を見て黒子くんは困惑した表情を見せました。
そこに映し出されていたのは、何者かの返り血を受けて真っ赤に染まったツキトさん━━━━が十字架に拘束されて、人間モードになった子猫先輩に殴られている光景でした。うわぁ。
『どうして! 君は! 僕というものが! ありながら! 女の子に! ちょっかいを! 出すのかなぁ!?』
『ゲボォ!? ち、違うんです! ちょっとお話をしただけなんです! 何もおかしな事は……あ、死ぬ!? 『ブレッシング・ヒール』! 『ブレッシング・ヒール』!』
殴り続ける子猫先輩に、言い訳をしながら自らに回復魔法をかけ続けるツキトさん……。
初手放送事故は二回目ですか。というか、またツキトさんが断罪されていますね。もしかしてこの会議ってその為にやってたりするのでしょうか? ウケる。
『あのー……みー先輩? もう放送始まってるんでそろそろ挨拶の方を……』
『ん? あ、もう時間なんだ、わかった。……ツキトくんはちゃんと反省しててね!』
チップちゃんに止められて、ようやく子猫先輩は殴るのを止めました。ツキトさんは気絶してしまったようで、ガックリと首を落としてピクリともしません。まぁ、どうでもいいですが。
さて、子猫先輩なのですが、彼女は少し不機嫌そうな顔をしながらカメラに目線を合わせました。
『やぁ、皆。ミーさんだよ。変なものを見せてごめんね。僕のツキトくんがまた女の子にちょっかいを出したから、お仕置きをしていたんだ。気にしないでね?』
地味に自分の所有物であることを宣言してきました。もう気になることしかないですね。
『今日集まってもらったのはイベントの確認の為だね。やっとで細かいイベントの内容を運営が発表してくれたみたいだから、皆で意見を出しあって確認していくよ!』
あ、運営のお知らせ更新されてたんですね知りませんでした。
「そこは確認しようよ……。イベントでの情報って大事だよ?」
黒子くんがそう言いながらクスクスと笑いました。……だって、誰かに聞いた方が早いじゃないですか。こうやって会議をしてくれますし大丈夫でしょ?
私がそう言うと、黒子くんはなるほど……、と頷きました。
「なんで運営のお知らせを皆で確認する意味がわかったよ……」
?
どういう意味か良くわかりませんね?
私は黒子くんの言っている意味がよくわからずに首を傾げました。
『でも、その前にワカバくんが話したい事があるみたいなんだよね、先に言っておきたいことがあるみたいなんだ。……いいかな?』
子猫先輩がそう言うと、ウィンドウは金髪のふてぶてしい態度をしている幼女を映し出しました。そのネカマはニヤニヤとした表情をしながら足をテーブルに上げています。
『よぉロリコンども、ワカバだ。元気してたか?』
ロリコンがロリコンを煽っています。ロリコンさんはこう言われてどう思うんですかね……。
『まぁおれもロリコンなんだけどよ。今回はこれからの身の振り方について言っておこうと思うんだわ』
……なんか、嫌な予感がしますね。
これからイベントという全員で力を合わせていかないといけない時に、まさか……。
『おれさー、ああいうわからせたくなる幼女大好きなんだよなぁ。という事で、おれはディリヴァ陣営に付くわ、よろしくなぁ……!』
まさかだった!
このロリコン、自分の性欲を満たすためだけに私達を裏切りましたよ。割りと最低です。
しかも、この人って敵陣営の事を調べていたはずでしょう? なんで懐柔されているんですかねぇ?
周りの方達もあんまりいい反応していませんしね。
ウィンドウの中でも緊張が走っているようです。チャイムさんなんか既に手が腰の武器に伸びていますし。
『あのーちょっと質問いいでござるか?』
そんな中、タビノスケさんが触手を動かしながら口を開きます。
『なんだよ? おれのやることにケチをつけるつもりか?』
『まさか、でござる。……ワカバ殿なら自分の手でわからせようとすると思ったのでござるが……そのところどうなん?』
ロリコンに理解があるタビノスケさんの質問に、ワカバさんは肩を竦めながら答えます。
『はぁ~、わかってねぇな。いっちばん近くで、幼女の破滅する姿が見れるんだぜ? おれが目の前で裏切ったらどんな顔すっかなー……、考えただけでゾクゾクする……!』
うわぁ……。
『うわぁ……』
「うわぁ……」
空気が一気に変わりました。みなさんドン引きしております。
こんな変態が味方にいるとか……ディリヴァとあちらの陣営が可哀想でなりません。
この勝負……やっぱり始まる前から終わっているのでは……?
私はウィンドウに映ったロリコンを見て、ため息を吐くことしかできないのでした。
・裏切り者……?
あ、知ってる。こういうの獅子心中の虫って言うんでしょ? ロリコンに付きまとわれるのって可哀想~。




