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柴床 弥由実

※前作最終話のネタバレがあります。前作を未読で読む予定がある方は注意してください。

 四肢を切り落とされた私は、ツキトさんに担がれて運ばれていました。


 どうやらクランの空き部屋に向かっているみたいですね。なにされちゃうんでしょ? 拷問かな?


 ……それにしても、よくもまぁこんな状態で堂々と歩けますねぇ、人の目もあるというのに。事情を知らない人から見たらただのサイコパスにしか見えませんよ? もしくは性癖が拗れた人。


「黙れ。その状態で軽口叩けるお前の方がどうかしている」


 ワァオ、ド正論。


 無力化されてしまったので私は反抗心を捨てました。しかし、話をするということは殺さないという意味ですので、軽口を叩いて嫌がらせをすることにしたのです。


 えー? 女の子の四肢を刈り取って拉致連行するなんて、どう考えても異常者にしか思えませんよー。


 せめて縛り上げたり、説得するなりして連れていった方がよかったんじゃないですかねぇ?


「腕が付いていたら反撃するし、足が付いてたら逃げるだろ。本当その口も塞ぎたいんだけどな」


 ……言われてみれば確かに、絶対にじっとしていないでしょうね。


 それじゃあこうやって連行するしかありませんか。このまま何も起きなきゃいいんですけどね?


「それはお前が言う事じゃ……おっと」


 もう少しで空き部屋に着くという所で、進行方向から銃弾が飛んできました。


 最小限の動きでツキトさんは攻撃を避けようとしますが、銃弾は目前で増幅し弾丸の壁を作り上げました。


 しかしながら、ステータスの差を埋めることは難しいようで、当たった場所の服が破けた程度です。若干肌が赤くなっています。


「『死神』ぃ……まさか妹ちゃんに手を出そうとするなんてなぁ……! この浮気者がぁ……!」


 銃弾が飛んできた先には、五人の不審者が待ち構えておりました。自称お兄ちゃん'sです。マジギレしているようでした。


 どうやら私が捕獲されたと聞いて飛んできたみたいです。


「は? 妹……?」


 不審者の発言にツキトさんは若干困惑していました。……あ、彼等は私の事を妹だと思い込んでいる愉快な方々です。思ったよりも良い人達ですよ?


「要するに頭のおかしい他人じゃねーか! なんでそんな奴等と仲良くしてんだよ!? ……って、ツッコミさせんな!」


 基本的にノリ良いですよね、貴方。


 別に変なことをしてくるわけでは無いので気にしてませんでしたが、大分おかしな関係です。

 でもセクハラもふ魔族とかに比べたらかなり大人しいですからね、お菓子を与えれば良いだけですし。


「なんで頭のおかしいやつしかいないんだ……。おい、お前ら、見逃してやるからどいてくれ。用が済んだらお前らの妹は返してやr」


「用!? 用とはなんだ! いったい何をするつもりだ!」

「ふざけんなよ……彼女持ちのくせに……」

「寝取られは嫌いだ、殺してやる」

「……そういうこった。妹ちゃんを置いていったら見逃してやる」


 そう言って、リーダーの魔術師さんは持っていた杖で床をコンコンと叩きました。

 すると、ツキトさんの足元に魔方陣が現れます。


 このゲームの魔法は威力が控えめの代わりに必中という特性があります。予想外の場所からの攻撃が直撃したことにより、ツキトさんの体勢が崩れました。


 そこに他の方達が一斉に襲いかかります。


「クッソ……! めんどくせぇなぁ!」


 しかし、文字通りお荷物を抱えている身とは言え、相手は最強と呼ばれるプレイヤーです。


 アイテムボックスから瞬時に大鎌を取り出すと、最小限の動きをもって接近戦を仕掛けた三名を切り裂いて殺しました。

 先程のように弾丸も飛んできますが、これも簡単に避けてしまいます。


「簡単にはいかないよな……!」


 魔術師さんは苦い顔をしながら先程と同じように杖を打ち鳴らしました。


 すると、彼の近くに複数の魔方陣が展開され、ツキトさんに殺されたはずの三名の姿が現れます。蘇生の魔法を使ったようですが……変な魔法の使い方ですね、『プレゼント』でしょうか?


「あらかじめ魔法を仕込んでおける能力……既に準備を終わらせてたのか? ……やっぱりここじゃ落ち着いて話もできないみたいだな、場所を変えるぞ」


 ツキトさんは舌打ちをすると、大鎌をしまい、何かのアイテムを取り出しました。一見ただのペンのように見えますが……。


 彼はペンのキャップを外し、自分自身と私にチェックを付けました。


「テメェ! 何してやがる!」


 熱血漢さんが大斧を振り下ろし、ツキトさんを襲撃を仕掛けますが、残念ながらその大振りな攻撃は軽々と避けられてしまいました。


「お前らの相手はまた今度だ、イベント前に遊んでやるよ」


 そう言ってツキトさんは『帰還』の魔法を使用しました。


 本来ならば『帰還』の魔法はパーティを組んでいなければ、他のプレイヤーには影響がない魔法のはずです。はずなんですけれど……。




 気がついたら私の目の前には、全く知らない景色が広がっていました。




 今立っているのは農場の入り口のようでした。目の前には大きめの畑があり、近くには素朴な外観の大きなお家が建っています。


 のどかな風景ですが、空を見ると夜みたいに真っ黒なんですよね。でも辺りは暗くないという……不思議空間です。


 というか別世界じゃないですか、ここ? こんなところ見たことも聞いたことも無いんですけれど?


「俺と先輩の拠点だ。ここなら誰の邪魔も入らない、先輩も今日はログインするの遅れるだろうしな」


 そう言いながらツキトさんは私を地面に下ろしました。仰向けの状態で地面に寝かされます。


 で、私に聞きたい事とは? さっきは貴方達の事をどこまで知っているか、って話でしたっけ?


「……マジでどんな神経してんの? 今絶体絶命の状態だと思うんだけど、もう少し驚くなり怯えたりしないのかよ……?」


 しませんけど?


 諦めを知った私に恐いものなどありませんでした。


「マジか……。じゃあ遠慮なく質問するが、なんで俺が先輩と一緒にいて通報された事を知っている? 誰かから聞いた……っていう言い訳は通じないぞ。誰にも話していないからな」


 ツキトさんはそう言うと、厳しそうな顔をして私を睨み付けてきました。……まぁ自分のリアルに関わるお話ですからね。


 誰にも話したことのない自分の話題を、顔も知らない相手から言われるなんて、自分の立場に置き換えたら寒気が走るような話ですし。


 もしかしたらリアルの情報が漏れてしまい!危険な目に合うのではないかと思えばそういう態度になるのも当然です。ここは正直に話して差し上げた方が良いのでしょう。


 ……ここからの話、私のリアルも出てくるんですけれど、他言無用でお願いしますね?


「ああ、その心配はしなくていい。別にお前の日常生活に興味なんてない」


 そうですか。


 それじゃあ、ちゃんとお話ししますね。


 貴方達が来店したのは……一年とちょっと位前でしたか。コーヒーは美味しかったですか?


 私の言葉に、ツキトさんは驚いたように目を見開きました。どうやら覚えていたようです。


 ……いやぁ、叔父の経営している喫茶店で姉がバイトをしているんですけれどね、働いている時にふと席に目を向けたら、どう見ても中学生にしか見えない女の子を成人男性が抱き締めていたそうです。


 しかも二人ともボロボロと涙を流していたそうじゃないですか? ただ事じゃないと思ったらしいですよ?


 それで警察に通報したら女の子のほうが全力で男性を庇っていたそうです。身分証を提示してもらって一応は納得したみたいなんですけれど。


 隠れて話を聞いていたら、このゲームの話をしていて、帰り際にはこっそりキスまでしていたって話を姉から聞いてましてねぇ。なかなかやるじゃないですかぁ。


 それとぉ……。


「オッケー! わかった! もういいから! 要するにあの時の店員さんの妹さんなのね! 軽くトラウマだから! やめてね!?」


 ……おやおや? もういいんですか? ここから私がこのゲーム始めた理由とかも絡んでくるんですけれど?


 ツキトさんはまるで思い出したくないことを言われたかのような反応を見せました。顔も真っ赤になっています。


「だからお前の事は興味ねぇよ! ……それと、あん時は仕方がなかったんだ。あんなの放っておけなかったんだよ。真摯に向き合った結果、通報されたんだ。俺は悪くない」


 あははは……姉さんも勘違いだったって言っていましたよ。出ていく二人はとても幸せそうな顔をしていたと言っていましたから。


 実のところ、柴床さんのお話を知った姉さんが貴方達の事を心配していまして。今でも幸せにしているか気になってたみたいなんです。


 私もお二人が幸せみたいでよかったですよー。ええ、ホントホント……。


「待て待て待て待て待て待て待て待て!!」


 ……。


 なんです?


 急に慌て始めたツキトさんを見て、私は首を傾げました。なにかおかしな事言いましたかね?


「な、なんでその名前を知ってんだよ!? それは……」


 慌てているツキトさんに対し、私はニコリと笑顔を作って口を開きました。


 柴床しばとこ弥由実やゆみさん。子猫先輩のお名前ですよね? ……それほど広くない町で、珍しい名字ですから知っている人もいましたよ?




 家の前を通ると、たまに怒鳴り声が聞こえていたって話もあったそうですからねぇ。




 私は知っている事実を正直に口にしました。喫茶店に来る常連客の情報網は中々広いのです。


「そこまで……知っているのか? じゃあ、先輩が父親に何をされてたのかも……」


 私の言葉でツキトさんの表情は緊張しているものに変わっていました。……ええ。ま、詳しくは知りませんけれどね。


 けれども、貴方が子猫先輩を助け出してから、少し柴床さんのお家にも変化があったと聞いています。

 もしかしたら、これからの貴方達の生活に影響があるかもしれません。


 ……どうです? 気になりませんか?


 私の言葉をツキトさんは真剣に聞いていました。


 少し迷っているように顔を手で隠し、ゆっくりと彼は地面に座ります。そして、覚悟を決めたように口を開いたのでした。


「先輩の父親とは……一度話をしなきゃならないと思っていた。ポロラさんが良ければ……是非教えてほしい」


 ……そうですか。わかりました、それではお教えしましょう。


 今子猫先輩のご実家がどうなっているのか、貴方にどんな影響があるのかも。


 私の知っていることを、全部ね。








 ……ところで、ここまで来たら治してもらってもいいですかね? 私ずっと転がったまんまなんですけれど?


「あ、ごめん……というか、今そういう空気じゃ無かったじゃん、空気読も? 後で治してあげるから」


 え~……。


 結局、私は知っていることを全部話し終わるまで、地面に寝転がされていたのでした……。こゃ~ん……。

・欠損

 身体の一部がなくなっている状態。この状態で回復魔法をかけるとそのまま傷が塞がってしまい元に戻せなくなる。『リジェネレーション』の魔法を使うことで、時間をかけて治療するしかない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 頭のおかしい人が自分のこと棚に上げて、周りの奴の頭おかしいって主張する流れ狂おしいほど好き。 [気になる点]  前話の予想的中してて嬉しい。偶然事案をみて通報しただけだと思ってたら、予想以…
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